―――最近、美紀の様子がおかしい。
「・・・・・・。」
今日もまたいつものように春休みの宿題を消費するべく、恒例と化した勉強会をふたりで開いていた・・・わけだが。
どうにも彼女の様子がおかしい。なんというか・・・心ここにあらずというか、何と言うかそんな感じである。
こういった課題は集中してぱぱぱっと進めるタイプであるはずの彼女は、かれこれ20分以上前からずっとペンが止まっている。それも問題の解き方を考えているという訳ではなく、さっきも言った通り意識が別の世界に飛んで行ってしまったかのようだ。
「・・・お~い、もしも~し?」
そう声をかけて彼女の両目の前で手をふるも、彼女は一切反応を示さない。・・・大丈夫かな、これ。まさか死んでないよな。死んだ目をしているし。
(・・・そういえば最近、美紀さんを見かけない・・・)
数日前くらいからだろうか、彼女への連絡が一切つかなくなってしまったのだ。LINEは既読すらつかず、電話はつながらない。お掛けになった電話番号は現在使われておりません、なんてアナウンスが流れたが、なにも聞かなかったことにしてスルーした。
・・・携帯買い換えたんだろうか。それで私たちの連絡先を紛失して、会おうにも会えない状況になっているとかなのかもしれない。・・・いやでも美紀(現在)の自宅を知っている時点で来ないと怪しいか。
(こっちには来れない理由がなんかあるんだろうなぁ・・・)
まぁそれが終われば、向こうから連絡も来るだろう。最悪向こうのマンションに突撃してしまえばいい。何号室だったっけな・・・。
そんな思考を張り巡らせている間にも、いまだ美紀の思考回路は現実に戻ってきそうもない。・・・大丈夫かほんとに。
「美紀~?」
もう一度声をかけてみるが、スルー。というか気付いていないっぽい。
・・・彼女の目の前にいるのは確かに私のはずなのに、美紀は私の事なんか見てはいない。彼女が今見ているのは、美紀自身の脳内のどこかだ。
(む~むむむ・・・なんというか、この感覚は・・・)
隣にいる友達がずっとスマホをいじっているような・・・なんというか、そんな感覚だ・・・。
(・・・・・)
なんというかちょいとばかし悔しい。そしてわずかながら寂しい。そーですかそーですか、あんたは私と一緒にいるよりもぼーっとするほうが好きなんですね、ぱーぷりん。
(・・・こうなったらしょうがない、なるべくこの手は使いたくなかったけど・・・)
今なお現実世界に帰還しそうもない彼女の目の前に座り、そっと彼女の頬をなぞる。
こつんとおでことおでこを重ねて、そして―――
「・・・うわぁあぁっ!?圭っ!?」
「お~、おかえり~。すごい勢いで後ろに跳んで行ったね」
「いっ・・・いや、なっ・・・いまなにをしようとして・・・」
「蘇生術。」
「はぁ!?」
だいたいあってる。
「だいじょぶ~?なんかおかしいよ、寝不足?」
「う、う~ん・・・そうなの・・・かなぁ・・・」
11時には寝てるんだけどね・・・なんて言葉を返すと、ばつが悪そうに頭を掻く。だがその間も、意識の半分くらいは完全に覚醒していないようで・・・。
「・・・悩み事?私でよかったら聞くよ~?」
「いや、大丈夫・・・大した話じゃないから・・・というか悩んでないから!!」
「そう・・・?」
「そう!!」
・・・いや絶対なんか悩んでるでしょあんた。
「悩みなんてのは、ば―――っと誰かに吐き出したほうが、楽になるよ~?・・・ま、その誰かは私に限らないけども・・・」
「でも・・・これは・・・」
「別に私に言えって言ってるわけじゃなくてさ。他の誰かでもいい。打ち明けられそうなひとに打ち明けてみるってのも、一個の解決方法だよ?」
「・・・打ち明けられそうなひと、って?」
「それは・・・う~ん・・・。
例えば、美紀さんとかどう?」
いや~でもあのひといま忙しいみたいだし・・・なんて言葉を言おうとしたが、その言葉は口から出かかって止まった。
美紀が固まった。・・・いや物理的に固まったわけじゃない。フリーズしたのだ。驚いているような、または怯えているような、もしくはいろいろな感情がごちゃ混ぜになったかのような・・・そんな表情で、目を見開いたままフリーズしている。
・・・さては。
「あのさ、
・・・美紀さんと、なんかあった?」