過去と未来、CDに記録した想い。   作:アメざいく

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#19 過去と未来、終わらない終わり

家のチャイムが鳴った。

 

「・・・うん?」

 

珍しいこともあるもんだな、と私はなんとなく思った。何かの巡り合わせか、今まで宅配便や来客の類は親が家にいる時にしかやってこなかった。・・・つまり、これは私のそれなりに長くも短い人生の中で初となる『自宅にひとりでお留守番中に来客が来た』というシチュエーションなのである。

 

さて、どうするか。インターホンが鳴ったことは確かだが、別にそれは来客の対応をするということとイコールではない。別に居留守を決め込んで無視し続けるのもひとつの選択肢である。

 

(・・・まぁとりあえず、誰が来たのかだけ確認しよ・・・)

 

宅配便か回覧板か、はたまた怪しげな宗教勧誘か。そういえばこの前宗教勧誘に引っかかったななんてことを思い出した。その時になんか変なパワーストーンを押し付けられたのだが、あれはどうやって処分すればいいんだろうか。

 

そんなことを思いながらインターホンの画面をのぞき込む。そこに映っていたのは宅配便でも全自動宗教勧誘マシーンでもなく、私のよく知った人物であった。

 

「美紀・・・・・さん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

いかんせんインターホンの画面の画質があらすぎるので、美紀(タメ)か美紀さん(年上)のどちらなのかの判別はつかなかったが、どのみち私と関係の深い相手たる直樹美紀であることには変わりない。

 

なんの連絡もなく向こうから突撃してくるとは、珍しいこともあるもんだ・・・明日は雪が降るんじゃなかろうか。もう3月だけど。

 

そんな呑気なことを考えながら玄関の方へと向かう。・・・だがそんな呑気なことの裏で、何か重要な話でもあるんじゃないかなんて思考がちらつく。

 

 

少々乱雑に玄関のドアを開ける。少し困ったような顔をした美紀さんが、目の前には立っていた。

 

「・・・どうしたんですか?」

「色々と大事な話がある。できれば急ぎの」

「はぁ?」

 

前触れもなしに彼女が自宅に突撃してくる時点で相当珍しいのだが、そこにさらに急ぎの大事な話までついてくるとなると、もう珍しいなんて言葉では形容しきれなくなる。・・・大丈夫かな。明日世界が滅びたりなんてことはないよな。いやしてもおかしくはないが・・・

 

「まぁ・・・暇だから、いいけど・・・」

 

若干の軽いノリと警戒心を混ぜて、美紀さんを自宅へとあげる。・・・早急な大事な話?なんじゃそりゃ。なんか嫌な予感しかしないぞ美紀さんよ。

 

 

リビングにするか自室にするか頭の中でぐるぐる意見を回しまくったあげく、結局自室へと通した。別に親がいないのでどの部屋を選んでも大した影響はないのだが、とりあえず私のテリトリーに引きずり込んでおいた方が何が来ても安心だろうという判断である。

 

「ごめんね急に押しかけたりなんかして・・・」

「いやいや、大丈夫ですよ~?

 

・・・それで、大事な話って・・・なんですか?」

 

向かい合わせになって座って、彼女の蒼い瞳をじっと見つめる。・・・最初に会ったときから何も変わっていないような、そんな瞳だった。

 

「・・・ごめん」

 

それなりに長い静寂の後に、彼女が発したのはそんな言葉だった。・・・ごめん。

 

「・・・どうして美紀さんが謝るんですか?」

「単刀直入に言う。・・・わたしはついさっきまで、圭を・・・あなたを捨てるつもりだった」

 

・・・え?

 

「捨てる、って・・・どういうことですか?」

「言葉通りの意味。・・・あなたに何も言わないまま、この時代を去ろうと思ってた」

 

いつかはこんな日が来るとは思っていた。私は現代人であって、彼女は未来人である。生きている時空も時間も、何もかもが違う。

 

でも・・・それを何も言わずに実行しようとしていたのは、それは・・・

 

「どうしてなのか、理由は・・・聞いてもいいですか」

「・・・わたしの時代の圭は、もう・・・高校生の時に死んでいる」

 

・・・え?

 

「私が・・・死んだ?高校生の時に?」

「そう。・・・わたしのせいだった。わたしがもっとしっかり考えて動いていれば、圭は・・・死ななかったはずなのに」

 

・・・じゃぁ、美紀さんがこの時代に来たのは・・・

 

「認めたくなかった。自分のせいで、親友を殺してしまったのだと、・・・圭はもう、いないのだと・・・」

 

だから美紀さんは、それを否定するために『生きている祠堂圭と会う』という事を願い、結果としてこの時代に飛ばされた・・・。

 

「でも、そんな理由でこの時代に来たはずなのに・・・いつ頃からか、このままでいいんだろうかって、そう思うようになって・・・」

 

―――『祠堂圭』という死人にいつまでも固執して、過去の『祠堂圭』を変えようとしている――。

 

そんな感情が、彼女の中に芽生え始めたのだ。

 

「・・・だから、未来に・・・?」

 

彼女は何も言わなかった。ただただ長い沈黙の後、彼女は一回だけ首を縦に振った。

 

「・・・だけど、ようやく気付いた。『過去』っていうのは、死んだわけじゃないっていう事にね」

 

過去があって未来がある。過去というものは、未来というものの下にひかれた土台に過ぎないのかもしれないが・・・過去というものは、完全に終わり切ったものではないのだと。

 

「確かに、わたしは未来に戻る。でも、それは『過去』っていうものを終わらせたかったからじゃない。

『過去』を生き返らせるために、『未来』を生きるから」

 

そう言い切った彼女の瞳には、さっきまでの気弱さはないように見えた。

 

過去に固執しているわけでも過去を殺したわけでもなく、『現在』を生きる直樹美紀が、そこにはいた。

 

「そ、っか・・・」

 

だがそれは、彼女との永遠の別れを意味するものでもあった。雪の降るころからの付き合いで、サクラの散るころにはいなくなってしまうらしい、彼女との。

 

「だったら私はもう、応援するしかないね!!

美紀さんの恋人として・・・そして、いまを生きる現代人代表として!!ね!!」

「ふっ・・・なにそれ」

「あっ笑わないでくださいよ!?代表ですよ代表!!この時代のすべてのひとたちの!!」

「それ、圭には荷が重すぎじゃない?」

「ぐぐっ・・・そう言われると何も言い返せない・・・」

 

「・・・ありがとう。なんかちょっと、元気出たかも」

「おう!!えいえいむんっ!!だからねっ!!

 

 

 

・・・あっそうだ、美紀・・・この時代の美紀には、なんて説明すれば?」

「あぁ―・・・彼女には悪いことしちゃったなぁ、わたしの身勝手でたくさん振り回しちゃったし・・・」

「・・・許してくれないかもですか?」

「許してくれないかも。割とマジで」

 

案外気難しいひとだからな、あのひと。・・・いや見た目通りなのか?

 

「その辺は・・・まぁ心配しないでください。私が何とかしておくんで」

「え?・・・いやいや悪いよ~、もとはといえば全部私のせいなのに・・・」

「まぁまぁまぁ・・・最後くらいは、役に立たせてよ」

 

ずっと・・・美紀さんの役に立てるようなこと、出来てなかったから。

 

「というわけで、安心していってらっしゃいませ?ご主人サマ☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なにそれ」

 

なんだよ。じゃぁつまるところつまり、わたしがこうやってぐだぐだ悩んだ時間は、すべて無駄だったとでもいうのか。

 

わたしの手の届くところですべてがはじまって、わたしの目の届かないところですべてが終わった。その様子はなんというか、何かしらの本で読んだ、戦争が終わったことに気づかないでずっとなにかと戦い続けた兵士のそれに似ていた。

 

知らないところで、すべてが終わっている。

 

「なんで・・・ずっと黙ってたの」

「黙ってたって言うか、そもそもこのやり取りをしたのが昨日だからと言うか・・・本当は早めに言っておきたかったんだけどさ、ほら、なんか今日ずっと美紀なにか悩んでそうだったじゃん。

だから・・・タイミングを失ったといいますか・・・まさか同じことで悩んでるとは思わなくてね」

 

・・・まったく、この似た者コンビめ。いつもいつもわたしばかり振り回されて嫌になる。おのれ祠堂圭、おのれ・・・『わたし』。

 

 

 

 

 

「・・・ところで、さ。なんか・・・今朝からずっと、美紀さんとの思い出がもやもやしてて思い出せないんだけど・・・これなんかの病気かな?若年性記憶障害?」

「いやまさかそんな・・・ただ圭が忘れっぽいだけだっt」

 

思い出にもやがかかったような感覚。それも1部分だけの。

 

・・・思えば、最後にわたしと会話した日以前の彼女との絡みが、まったくと言っていいほど思い出せない。意図的に記憶を消去しているわけでもなければ、悩み事にまみれてどこかへ行ってしまったわけでもないはずなのだが・・・・・・・記憶?

 

 

・・・・・まさか、彼女が未来に変えるという動作がある種のトリガーとなっていて、その引き金を引き終わった今、彼女にまつわる記憶はすべて消されてしまうのだろうか。

 

この時代にもうひとり存在した、ちょっぴり大人で身勝手な『直樹美紀』の。

 

 

このままふたり寝て起きて朝日を見たら、もう彼女に関する記憶はすべてなくなっているのかもしれない。だが別に寂しいわけじゃない。過去というものは心の中で生き続けるものなのだと、圭は言っていた。・・・厳密には、圭の話に中に出てきたもうひとりのわたしが、だが。・・・まぁ実質わたしが言った台詞と言っても過言ではないだろう。

 

 

“彼女”は、わたしだから。

 

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