・・・一言もしゃべらず、黙々と問題集を解いていく。・・・回答が出てこない。シャーペンの後ろの部分でお茶を濁すかのように頭を書き始め、問題文を睨みつける。
・・・気分転換と称して、お気に入りのCDプレイヤーを机からひったくる・・・も、なんとか自重して再び問題へと向かう。
そんな感じの光景が、わたしの目の前で永遠と繰り返されている。その時間およそ30分。・・・そりゃしょうがないよな。圭は今年受験生だからね・・・。
彼女が今年受験であることを知った際に『じゃぁ勉強会とかやろうよ』と提案し、わたしはそれをうっきうきで待っていたわけだ。・・・そこまではよかった。
・・・静か!!ものすっごい静か!!
会話という会話はここ数十分しておらず、部屋内には永遠と紙のこすれる音とシャーペンを走らせる音だけが反響している。
「・・・・・。」
・・・何回でも言おう。静かである。そして暇である・・・。
やることを失い、わたしはポーチからCDプレイヤーとイヤホンを取り出す。・・・やっぱりあの時の圭の持ってるCDプレイヤーと同型機だな、これ。・・・まぁ同型機どころか同個体なんだけど。
「・・・あれ、美紀さんもそれ持ってたんですか?」
「うん?・・・あぁ、昔、友達からプレゼントされてね?」
まぁその友達が圭なんだけどね・・・。
「なんかわからないところとかある?教えてあげるけど。」
「あっ、あ~、じゃぁこの・・・積乱雲?ってなんでしたっけ・・・?」
「あぁ~、それは・・・」
そういや、わたしも中3の頃は猛勉強したよなとかそんなことを思いつつ、わたしはちらっと彼女の問題集を見る。・・・うっわ、懐かしいな、これ。温暖前線とか久々に聞いた気がする。
(・・・って!!なんか違うじゃんこんなの!!)
受験勉強とは本来こんな感じのものだが、なんだか物足りない。
・・・恋人と勉強会って言うシチュエーションだというのに、・・・全然そんな恋人チックな雰囲気がしない。
(・・・勉強の邪魔をするのはちょっと気が引けるけど・・・こっちから仕掛けちゃうか・・・)
ちょんちょんと彼女の肩をつつく。・・・彼女のワインレッドの瞳にわたしの姿が映った。受験への不安に揺れる、血のようなワインレッドの中に。
そんなワインレッドの受験生は、わたしの次のアクションを待っているように見えた。・・・本当に、何気のないアクションを。
彼女の頬にそっと手をかけて・・・そのまま口づけした。
「――――っ!?」
突然のことに驚いたのか、事態を確認するや否や、ばっと顔を離されてしまう。
「ちょっ・・・美紀さんっ!?」
「全然かまってくれなかったから、つい・・・」
「ついじゃないですよっ!!」
もう熱でも出してるんじゃないかと言わんばかりに顔を紅潮させて、圭がそう批判してくる。・・・対するわたしの顔は、きっといつも通りの涼しい表情なんだろうな、きっと。
「・・・私のファーストキスだったのに・・・」
圭がそうつぶやいたのを、わたしは聞き逃さなかった。
「・・・じゃぁ、もっかいやり直す?ファーストキス。」
「ふぇっ!?そっそれは・・・っ!!
・・・はい」
ちなみにそれ以降は結局勉強を再開することは無かった。・・・許せ、圭・・・。