ラムフォリンクスの二週間   作:転々々

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最終話 ラムフォリンクスの二週間

「もう、酔いは醒めました。改めて……」

 

「すまない、その前に俺もシャワーだ」

 

 クロエのあずかり知らぬところだが、盛大に咳き込んだときに、服が酒に濡れてしまっていた。

 

 

 

 タクヤは頭からお湯をかぶりながら考える。

 

 この時代の女性は、中身がある程度大人でも、見た目と心は『恋に恋する少女』なんだな。

 

 それに思い当たると、自分の気持ちに罪悪感が浮かんでくる。

 それに対する考えもまとまらず、パジャマ代わりの肌着を着けてシャワールームを出た。

 

 

 

「さ、今度こそ聞いてもらいますよ。酔いも醒めていますから」

 

 クロエが待ち構えていたかのように言う。が、その出で立ちは素肌にバスタオルを巻いただけだ。

 

「いや、その前に、なんで裸なんだ」

 

「服は洗浄中ですから。

 それに、私は始めからそのつもりでここに来ています。

 私は、クロエは、タクヤさんをお慕いしております」

 

 クロエは、過去に同じような想いを向けられたことをタクヤに話している。それが彼女の望むかたちでなかったことも。

 タクヤは、クロエがそれをわざわざ話した理由を考える。

 

「君の気持ちはとても嬉しい、けど……、俺が、君の気持ちに応えられるのか分からない」

 

「別に、今すぐパートナーシップをとは言わないわ。

 でも、貴方にも、その気持ちはあるんでしょう?

 私とぶつかったときのあの変化は、そういうことでしょ?」

 

「そりゃ、まぁ、そういうことだけど。

 その、あれは、抑えられる種類のことじゃなくて」

 

「だったら! 私にその気持ちを向けて欲しい」

 

 バスタオルが床に落ちる。

 

 美しい。

 確かに、女性として少しもの足りないと言う人もいるだろう。しかし、その鍛えられ引き締まった躯は美しかった。

 

 

 

「貴方はきっと、他の女性の姿も知っているのでしょうけど、私は男性を見たことがありません。

 よろしければ、貴方も……」

 

 もう、ここまで来たらどうしようもない。ハニートラップだろうと関係ない。そもそも、この時代に全く縁も無い俺に、そんなことをする意味も価値も無い。

 

 そう考えると、タクヤはまずシャツを脱いだ。その鍛え上げられた上半身に、クロエはうっとりと見入る。そして、視線は徐々に降りてゆき、一点で止まる。

 

「交接器もこんなに……」

 

 クロエが最後の一枚を取り去ろうとして停まる。

 

「毛が生えているのですね」

 

 この時代の人類は、体毛、特に首から下のそれは、宇宙生活での衛生面を優先した『調整』をされている。クロエもまた、それが無いことに疑問を持っていなかった。

 

 タクヤは未だ、いくらかの罪悪感や危惧を覚えていたが、ここまできて停まれない。いや、停まれる男なら、そもそも停まらなくてはならない状況自体を避けるだろう。

 

 

 

 翌日も、二人で過ごした。

 この時代に生きる人類の中では、最も人間的な時間かもしれない。

 クロエが貨物室を辞したのは、シフト開始まで一時間足らずという時刻だった。

 

           ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ブリッジ勤務を終えた後、クロエは船長室に呼ばれた。

 

「確認ですが、オフだった昨日も第三貨物室にいましたね」

 

 クロエは無言だった。

 

「恋をしたのですか?」

 

「……」

 

「それは……、辛いですよ」

 

「……」

 

 

 

 クロエは自室に戻った。あの後、船長と二言三言交わした気がするが、何を話したか憶えていない。

 

 昨日までの甘美な、しかし爛れた時間を思い出す。

 

「コンピュータ、私は妊娠出来るでしょうか?」

 

「クロエさんは骨格も大きく、内性器も十分に成熟していますから、妊娠出産には問題ありません。しかし、今回は出来ません」

 

「どうしてですか?」

 

「一昨日、既に卵細胞を採取しています。あと三週間程度は妊娠できない期間が続きます」

 

「どうすれば、妊娠できますか?」

 

「子宮内膜の排出後、十日ほど間をおいて生殖行動をとるのが、最も妊娠確率が高いものと思われます。

 しかし、自然分娩はリスクも大きく、妊娠期間中のパフォーマンス低下も避けられません。受精卵を採取、調整後に人工子宮にて、というのが最も安全です」

 

「……そう。私はあの人との間に、子どもを持てないのね」

 

           ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「それは、どういうことですか?」

 

 船長室でマイムーナはスクリーンに向かって声を荒げた。

 科学コロニーへの寄港と補給は定まっていたが、タクヤの扱いについては一昨日まで決定が出ていなかった。

 責任者が戦前の男性を受け入れることに慎重で、判断を中央に投げていたのだ。

 

 中央への移送が決まっても、その任を負う船は見つからなかった。どの船長も、遺伝子資源の重要性を認識しているがゆえに、それに伴う責任にたいしても及び腰だった。

 結果として、中央への移送は、深宇宙探査任務を負う『ラムフォリンクス』が、装備や能力の点で適任であろうという、責任の譲り合いが起こった。

 

「中央まで二ヶ月半」

 

 その期間、タクヤ氏を隔離できるだろうか?

 

 考えるまでもなく、非現実的だ。

 

 現に、たった二日間でクロエは独特の色気を纏うようになった。その原因を隠すことは出来ないだろう。

 

 それだけの期間があれば、クロエはパートナーシップを結ぼうとするかも知れない。あるいは、他のクルーも同様の行動をとるかも知れない。

 

 もし、クロエに続くものが出てしまったら……。

 

 それを止める法的な根拠は無い。

 あえて、情報を開示してしまった方が、良いのではないか?

 しかし、クロエが立場を利用して『抜け駆け』したと考えるものも出るだろう。

 クルーの対立につながりはしまいか……。

 

 マイムーナは思考を巡らせるが、答えは見つからない。

 

 

 

「そうか! 私も心のどこかでそれを望んでいたのか。

 ははは。だからこんなにも心配になるのだ!」

 

 マイムーナは船長として、クルーに事情を説明することと決めた。これが、どのような結果をもたらすかは分からないが、開示しない方がリスクは確実に高まる。

 

 明後日は寄港だ。その前にクルーを展望デッキに集めよう。だがその前に、二人に話を通しておく必要がある。

 

「コンピュータ、船務長(クロエ)は今どこにいる?」

 

「第三貨物室です」

 

「タクヤ氏もだな」

 

「はい」

 

「十五分後に行くから『身支度しておくように』と伝えてくれ」

 

「はい」

 

 

 

 マイムーナは貨物室で二人と対面し、今後の予定を簡単に伝えた。

 

 タクヤを一目見た瞬間、マイムーナには予感するものがあった。

 貨物室から船長室に向かうマイムーナは、肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべる。

 

「今は、まだだ。

 全クルーが同じスタートラインに立ってからだ。

 クロエは先行しているが、私が追いつけないなどと思うなよ」




 お読みいただいた方には、ありがとうございます。

 翌朝、タクヤはクルーに紹介されます。その結果、ラムフォリンクスⅢがどうなるのか?

 クロエとの間に子どもが出来るのか?
 マイムーナも含めた三角関係になるのか?
 それともタクヤがハーレムを築くのか?
 あるいは、タクヤがクルーにシェアされるのか?
 タクヤを巡ってクルーに諍いがおこるのか?
 バトルロワイヤルになる可能性も……。
 どちらにも向かう可能性があります。

 本来なら、ここからが本番、というところでお終いになりました。二週間後と書きながら、二週間。『後』はそれぞれの想像で。

 読了、ありがとうございました。
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