ラムフォリンクスの二週間   作:転々々

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第四話 恋愛事情

「どうにも退屈なんだ。

 娯楽には映像作品もあるそうだが、何か視ることは出来るかな? 昔風に映画鑑賞とかは出来るかい?」

 

「そちらの端末に転送可能です。

 ジャンルはどのようなものにしましょうか」

 

「これと言って注文は無いが……。

 そうだな、何も考えずに楽しめる、アクションものとかで頼む」

 

「それでは、最近の映画からいくつかを選定します。あるいは、視たいジャンルがありましたら、都度お知らせ下さい」

 

 映画があるのは好都合だった。

 どんなジャンルの映画でも、子ども向けでない限り、感情移入させるには人物の掘り下げが不可欠だ。そして、二時間足らずの間で誰もが理解できる安易な方法として、家族や恋人との関係が用いられる。

 アクションの添え物だからこそ、ステレオタイプな描写があるに違いない。

 

 タクヤはそう考えて、端末を操作し始めた。

 

 

           ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 船務長日誌を記録しながら、クロエは考え込んでいた。

 

 救難信号を受けた場合、救援に向かうことは義務だ。生存者がいれば救助することも同様だ。船長の判断に誤りは無い。

 しかし今回、救助した相手は戦前の男性だ。

 

「コンピュータ。タクヤ氏に船内行動を許した場合、どのような問題が想定される?」

 

「当時の倫理観は現在の我々と大きくは違いません。これまでの言動からも、犯罪行為を行う可能性は低いものと予測します。

 しかし、自分の知らない時代にとばされたことに孤独感を覚え、それを埋めるために、船内クルーとの生殖行動を求める可能性があります」

 

「せ、生殖行動?

 ちっ、知識としては、ししし、知ってますけど……」

 

「タクヤ氏は、その分野への興味や機微において、現代の人間より勝るものと推測されます。

 一つの証左として、私がAIであることも簡単に見抜かれたことが挙げられます。タクヤ氏によると、この声は人間の女性に比べて、性的魅力に欠けるそうです。

 また、この時代の家族関係についての質問も受け、制度上の変更がほとんど無いことのみ伝えました」

 

「そ、そう……」 性的魅力! って……。

 

「ただし、パートナーシップ制度が、三人以上においても認められることについては伝えておりません。

 タクヤ氏の時代では、それは男女一人ずつという形態が一般的でした。女性のみはともかく、三人以上という関係は、タクヤ氏の倫理観に反する可能性が高いものと推測しました」

 

「で、今は何をしているの?」

 

「現在、映画を観ています。

『エマの翼』を見終え、今は『赤い屋根』を観始めたところです」

 

「アクションものの次は学園ものね。そろそろ食事が必要なんじゃないかしら。蘇生してから六時間は経ってるわね」

 

「水は飲んでいましたが、それ以上は要求されませんでした。

 一応、勧めてみます」

 

           ◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 タクヤの映画鑑賞は二本目に突入していた。

 

 まず、出演者が女性ばかりであることの違和感は尋常なものではない。

 そして、皆、一様に若い。ピーク手前の身体能力を得るため、遺伝的に調整されているとのことだが、身長こそ高く見えるが、外見はせいぜい十五歳ぐらいだろうか。

 極めつけが、男性不在の恋愛だ。

 今観ているものもそうだ。学園に転校してきた少女が、同級生の憧れを集めるボーイッシュな少女と出会ったところだ。本来なら、ハンサムな少年がこの役どころなのだろう……。

 

「タクヤさん。そろそろ食事にしてはいかがでしょうか?」

 

 コンピュータの呼びかけで、タクヤは思考を現実に戻した。

 

「そう言えば、何も食べてないな。

 アイちゃん、この船のクルーが食べている、一般的なメニューを頼む」

 

 出てきたのは、バターとメイプルシロップたっぷりのパンケーキ、フルーツヨーグルト、ミルクたっぷりのホットココア……。

 

 甘い。そして量が少ない。

 食べきるのに三分とかからない。

 フードレプリケータで造られたのだろう、味はまずまずだ。しかし、量が足りない。

 

「お気に召しませんでしたか? 朝食として本船のクルーに好まれるメニューでしたが」

 

「俺には少し物足りないな。追加をお願いしても?」

 

「お好みのメニューがあれば、データベースにあるものなら問題なく提供できます」

 

「そうだな。まずはマルゲリータピザ、生地はカリッカリのクリスピーで、飲み物はピルスナー、ラガーにしとこう。つまみにはローストビーフ、胡椒とマスタードはたっぷりで」

 

「平時は、船内クルーへの酒類提供は禁じられております」

 

「クルーとしての仕事を貰えるならともかく、どうせ隔離中だろ。酒ぐらいで堅いこと言うなよ。

 俺は捕虜でも囚人でもないんだろ?」

 

「分かりました。ただし、味は酒に似せられたもので、酔いもほとんどありませんが、それで宜しいですか?」

 

「無いよりマシだ。隠し味にエチルアルコールを少々」

 

「メチルにしておきましょうか?」

 

「ほう? アイちゃんがそんな冗談を言えるとはね」

 

「データベースに、そのような受け答えが在りました。お気に召しましたか?」

 

「召した、召した。と言うわけで、メシの追加だ。ただし、メチルは抜きで」

 

「食品への毒物添加は、倫理プロトコルおよび安全プロトコルに反しております。私にはそれを行う権限はありません」

 

「今のは、ジョークとしては面白くないな」

 

「事実を申し上げただけです。食品をどうぞ」

 

 残念ながら、飲み物にエチルアルコールは添加されなかった。

 

 

 

 タクヤは、ポップコーンとコーラを片手に、二本目を見終えた。やはり、そういう映画だった。特殊な趣味の持ち主なら、こういうのもアリかも知れないと考えながら、コンピュータに三本目を注文する。

 

「今度は、大人向けの恋愛もので頼む。

 二人が『パートナーシップ』を結ぶまでを描くような作品はあるかい?」

 

 

 

 三本目を観始めるが、やや退屈だ。

 序盤で、タクヤが期待していたシーンに入りそうになったものの、さすがに『成人向け』ではない。そこから先は『そういうこと』があったと匂わせるだけで、次のカットは翌朝のシーンだった。

 

 ただし、ベッドの上で朝日の中、裸の少女――下半身はシーツで隠されていた――が口づけを交わすシーンは、恋人もいないタクヤにとっては背徳的で、かつ、十二分に官能的だった。

 

 

 

 やや退屈なストーリーの続きは明日観ることとし、その日は眠ることとした。賢者になってから。

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