夢のサイレンススズカ産駒 ウマ娘世界でターフを駆ける。 作:うどんそば
ついに始まる皐月賞。
前回の弥生賞と警戒すべき子は変わらない。強いて言うなら、スカイちゃんが気になるかな。
他のみんなは結構弥生の時より仕上がってそうな子が多い。
もちろん、スカイちゃんや、スペちゃん、キングちゃんも一緒で、やる気も相当なものと推測できた。
「今度こそ、差し切ってやるわ!」
そう言って啖呵を切ってくるキングちゃん。
私だってまけないからね?と言って、私は体を翻して、いつものように控え室へ向かった。
「ゴアちゃんおかえり。服とか準備しといたわ。」
「ほんとですか?ありがとうございます。」
私が控え室に入ると、珍しく私が着替える前からスズカさんが入っていた。
まあ、スズカさんなので特に気にすることなく着替え、いつものようにカチューシャをつけようとして、
「待って」
と、スズカさんに手に持ったカチューシャを取られた。
そしてスズカさんは少し私の顔を見つめた後、
「勝ってきてね」
と、優しく、スズカさんの手で私の頭にカチューシャとピンをつけました。
「もちろん!」
私が答えると、そうよね。と、スズカさんは少し笑った。
すると、コンコンとノック音が響き、
「入っていいか?」
と、トレーナーさんの声。若干緊張しているようにも思えるその声は、いつもの頼もしいものとは別で、なんならかわいいくらいのものだった。
「どうしたんですか…!ふふっ!」
スズカさんもなんだか面白いみたい。
「仕方ないだろ……何気に初クラシックだぞ……」
「あっ……スズカさん……」
「そ、その話は……」
途端に顔を赤らめるスズカさん。かわいいなぁ。
「まあまあ!私がトレーナーさんにクラシックの冠をプレゼントしますよ!」
「そうだな!期待してるぞ?」
和やかな雰囲気の控室。
「ゴア。この前と同じ作戦で行く」
私は大逃げ。作戦なんてない。ただ自分の走りたい走りをするだけ。
「うん。」
短く答えて、気合を入れた。
「さあ、そろそろだ。」
「うん。じゃあ行ってくるよ。」
扉を開けて、歩み出す。私のクラシックロードを踏みしめながら歩く。
地下バ道。
「さっきも言ったけど、負けないわ。」
目からは轟々と闘志をたぎらせるキングちゃん。
「にゃはは〜お手柔らかに〜」
態度は飄々としているが、勝ちだけを見つめる目をしたスカイちゃん。
「けっぱるべー!」
なにやらけっぱる?らしいスペちゃん。
「みんなすごく調子良さそう。でも、負けないよ?」
私はそう言って圧をかけた。
激しい苦しみのため思わず背中が曲がってしまう三人。
私はすぐにそれを取り払うと、一緒に頑張ろうね!と、握手を差し出した。
全員と握手をしたけれど、何か怯えた目で見られた。解せぬ。
外に出ると、あまりの熱気に、クラッとしそうなくらいの歓声に出迎えられた。
あまりに賑やかなその様子にびっくりして、やっぱりクラシックは別格なんだなと実感する。
私は応援してくれるファンに手を振りながら、返しウマを行った。特に気になることはないし、他の子も特に変わりはないようでかなり落ち着いた子たちが揃ったのだろうと思う。
「さあ!この中山の舞台!クラシックロードの入り口、皐月賞!注目の子のクワイエットゴア!連戦連勝レコードブレイカーすでにつけた着差は40以上の『魔王』です!」
私そんな異名ついてたの?ていうか、やっぱりクラシックだからか実況がすごくいいな。情報がすんなり入ってくる。
「2番人気はスペシャルウィーク!仕上がり万全!脅威の末脚で魔王を捉えられるか?」
あ……スペちゃんか……そういえばこの前前走は、太って負けだったし、しっかり落としとけばすごいんだよなぁ。今日は仕上がってるみたいだし、やばいかも。
「3番人気はセイウンスカイ!前走弥生賞を鮮やかな逃げ!魔王こそ捉えられませんでしたが、初めて掲示板に着差を表示させました!トリッキーな逃げに持ち込めれば絶対に前に行かせないスタミナが武器ですね!」
スカイちゃん、怖いんだよなぁ。すっごく調子が良さそうだもんなぁ。やばいなぁ。正直ハナ取られたら差すしかないからなぁ。
「さあさあ!今日は4番人気まで期待の新星が!キングヘイロー!世代最強の末脚と根性で撫で切る!今日こそ雪辱を晴らせるか?」
キングちゃんもキレある末脚が爆発すれば、私も危ういかもしれない。
「そろそろゲートに入っていきます。」
やばいなぁ。負けるかもなぁ。でも、楽しいな……!
私は思いっきりゲートの中に圧をかけ、他の子たちが落ち着かないようにする。
するとスカイちゃんが、ゲートに入るのをかなり嫌がった。そこまで嫌がる?と思ったけど
他の子はあまりのその圧のキツさに負けて、ただ義務的にゲートに入るだけだったことを考えると、それに屈しなかった三人はやはりそれだけ仕上げているいう証左だろう。
残念ながらハナを取らせる気はないけどね。
「さあ!ゲートに収まって……スタート。」
「よし!いいスタート。」
隣を見れば、少しキツそうにしながらもハナをとろうとするスカイちゃんが。
私はそれを交わして、ハナをとって差をつけていく。
大逃げはどれだけ差をつけられるかの勝負。正直逃げの子にハナを取られるようじゃどうしようもない。
だからこそ、序盤の加速と、スピードをひたすら伸ばすのだ。そこで勝負しようとした、いや、そこでしか勝機がなかった時点で、もうスカイちゃんに勝機はない。
悠々と先頭を走る。こうなれば私の勝ちだ。もう坂も終盤の、コーナーに差し掛かる。
「最初に競りかけたセイウンスカイ!少し位置を下げて、先頭をいないものとしてレースを形成しています。」
……まあそうなるだろうね。私は単独で向正面を走る。もはや集中を乱す足音は聞こえない。
ひたすら走る。
「何と!もう第三コーナーに差し掛かるクワイエットゴア!圧倒的なハイスピード!」
いつもよりもハイスピードで逃げる。そろそろかな?
差し切るつもりの子はもう動くだろうと思った。なぜなら今はそれだけ離れていて、もう仕掛けないと間に合わないことが客観的に見て明らかであるからだ。
だからそうならないように、思いっきり圧をかけた。
少しずつ聞こえてきた足音はまた遠くへ離れた。
「最終コーナーを抜けて最後の直線!坂を登るのクワイエットゴアだ!まず一冠!セーフティーリード!」
そうか……セーフティーリードか……それでも!
直線に入り、数歩足を踏み出すと、太陽のもと、原っぱと一つの道。その先の三人のウマ娘がいる。
今日はその三人の顔をしっかり見て、力強く踏み出した。徐々になっていくスピードにどこまでもいけそうな錯覚を覚える。
さあ次の足を!
踏み出せば踏み出すほどそれだけなっていくスピード。
ゴールイン!そんな声で現実に引き戻される。二番手にはスカイちゃんが粘り、三番手にはキングちゃんが。そして四番手にスペちゃんがと、一団で突っ込んだ。私はと言うと、大差という掲示板の表示に満足していた。
大きく息を切らして、こちらに寄ってきて、
「にゃはは〜負けちゃいましたね〜」
というスカイちゃん。しかし、その目には明らかな悔しい気持ちが滲んでいた。
「本当にどれだけ強いのかしら……でも!いつか必ず勝ってみせるわ!」
いつものように私に勝つという宣言をするキングちゃん。
「うまくスパート出来なかった……」
私が圧をかけたせいでうまくスパートがかけられなかったスペちゃん。
「次はダービーで!」
私はこれ以上の言葉は無粋だと思い、ただ、それだけを言った。
━━━━━━━━━━
控え室に戻り、ライブの時間を待っていると、トレーナーさんが入ってきて突然抱きしめられた。
「やったな……!」
噛み締めるようにいうトレーナーさんに、
「大袈裟だなぁ」
とは言いつつも、生涯一度きりのレースに勝利したんだという感覚が強く起きた。
ライブでも、大好きなファンのみんなの大声援をもらえて、それだけ大きいことをしたんだなと、強い自覚ができた。