《剣心》は猛く咆える 作:ノノノ
『何でだ……何で俺をここで見逃す』
ピクリと動きを止め。両目を閉じた赤髪の男がベルクーリへ体を傾ける。
数秒、数分──数時間経ったかと思われた、その時。おぼろげになる意識が、最後に言葉を掴んだ。
『……貴様もまた、我らが愛しき人界を守る者故』
そして、微かに聞こえたその言葉を最後に、ベルクーリの意識は闇へ呑まれた。
◆◇
何故、遙か昔の光景が今頭に浮かんだのだろう。疑問が鎌首をもたげる。
目の前で構えるのは、一人の小柄な体躯の少女。
「──お初お目にかかります。
そして、まるでかつての焼き直しのように。瞳を閉じた、白銀の少女は。
またしてもベルクーリを──一刀の下、打ち倒した。
◆◇
「つまらなかったわ」
「貴女には、そうでしょうね」
ふわぁ、と艶やかなあくびをすると、アドミストレータは床へ座る少女へと流し目を向ける。
桜色の唇から響くのは、ベルクーリを打ち倒したことを欠片も誇らぬその口弁。そこに居たのは、未だ瞳を固く閉じた一人の少女であった。
アドミニストレータは、その余りにも変哲もない様相に微かに苛立ちを露わにする。
「確か……名をレガリア、と言ったかしら。
兎も角、久方ぶりの幼い少女が《頭領》と言うことで……ベルクーリには多少期待していたのだけど」
「私に負けはあり得ませんので」
堂々と、まるで自然の理を言うかのごとくレガリアは言い切る。閉じられた瞳は、だが剣呑にアドミストレータを下から威圧する。瞳がなくとも確かに強い意思を感じたアドミニストレータは、思わず体を後ろに下げる。
その事実に咄嗟に頭に血が昇りそうになるが、一息。少女を鋭い瞳で睨み返すと、アドミニストレータはゆっくりと口を開いた。
「まあいいわ。目通しは済んだでしょう……下がりなさい」
「──精々、貴女はお元気で」
そう言い放ち。次の瞬間少女は。
──跡形もなく、消えていた。
これが、最初。
最初にして、最後の、公理教会最高司祭アドミストレータと、『剣心』六代目頭領レガリアの会遇だった。
◆◇
かつて、アドミニストレータが公理教会を作り上げた際、呼応するように現れた集団があった。剣を掲げ、声高々に叫ぶは、名を《剣心》。
その集団は最初は目につく様なものではなかった。ただ彼らが人界を守る事を使命とするのもあったし、小さな小さな集まり程度でしかなかったから、寧ろアドミニストレータの耳に入ってくる方が奇跡であっただっただろう。
だが、ある一人の男が『頭領』になったことにより《剣心》は表舞台に立つ。圧倒的な力を持って集団を纏め、大きくして行くその存在をアドミニストレータは一度殺そうと画策したが、それは成せず。寧ろ、一度情けをかけられた。
憤怒に燃えたアドミニストレータだったが、一つ大きな弱点を分かっていることが彼女の怒りをギリギリで抑えていた。
その事実とは、《剣心》がその男のみの力で成り立っているということだ。それ以外は歯牙にもかける必要のない雑兵の集まり。男の寿命を境に終わるだろうと思われた《剣心》は、だが。
──新たな頭領を掲げ、存続した。
そしてアドミニストレータにとってなによりも悪夢だったのは、その《頭領》が先代と遜色ない程の力を有していた点である。
それは決して偶然などではなかった。次も、その次も。代替わりはすれど、決して揺らがぬその強さ。
最早その集団をどうこうすることなど考えるだけ無駄であった。内側からの崩壊を狙う事が最善だが、しかし《剣心》は先程の言葉通りほぼ《頭領》だけで成り立っている。
手の出しようなど、在るはずもなかった。ただ統治し、存在するだけであるならば害はないと割り切り、そして。
アドミニストレータですらその結論に至ったその時、《剣心》と言う集団は完成したのだ。
設定どころか名前すら怪しいのでその際はコメントでお教え下さい!