ニューサトシのアニポケ冒険記   作:おこむね

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#093 『ぶっちゃけ、深い考えなどない』

 12歳 μ月φ日 『決勝リーグ 準決勝 VSシンゴ 後編』

 

 インターバルを挟んだことで、フィールドの砂嵐も収まっていた。

 何だかんだあったが、ポケモンの数的には四対三で俺が有利だ。おまけに、向こうはカイリューとバンギラスがいることがわかっている。

 この情報を鑑みて、ドサイドンをフィールドに送り出す。シンゴはスターミーを出してきた。姿を見せていない最後の一体だが、惜しげもなく出してくる辺り、俺のエントリーしているポケモンをある程度読んでいたのだろう。

 

 俺が今回エントリーしたポケモンは、トゲ様、ドサイドン、ケンタロス、オコリザル、ジバコイル、ミュウツーだ。

 

 本来、相性的なことを考えれば、みずタイプに不利なドサイドンをジバコイルに交代する場面だが、おそらくジバコイルを出せば向こうもバンギラスに交代してくるだろう。

 そうなった場合、相性的には悪くなくても、特性で特防が1.5倍になるバンギラスをジバコイルで相手をするのは厳しい。特にバンギはこちらに四倍弱点の『じしん』を覚えるので、できれば対面させたくはなかった。

 

 かといって、こちらがドサイドンからジバコイル、ジバコイルからオコリザルへと変えれば、向こうもスターミーからバンギラス、バンギラスからスターミーへと変えてくるだろう。

 向こうは残りポケモンの数が少ないのもあって有利対面を崩したくないはずだ。ポケモンリーグのルールでは、交代合戦になるのを防ぐために交代は連続で五回までと決まっている。向こうが後出しで有利を作った以上、最終的にはこの対面は避けられないと判断し、ここはドサイドンでスターミーを倒すことを決めた。

 

「交換しないか。ならば、先手は貰うぞ、『ハイドロポンプ』だ」

 

 こちらもドサイドンを突っ込ませる。スターミーの『ハイドロポンプ』に合わせて『ドリルライナー』を使い、ドリルの勢いで水を拡散させて技を受け流した。

 それでも多少のダメージを受けるが、直撃よりも大分少なく済んでいる。シンゴも、まさかこんな手で対応してくるとは思わなかったようで、驚きの表情を浮かべていた。

 

 そのままスターミーへの距離を詰めようとすると、させないとばかりに『サイコキネシス』を撃ってくる。

 タイプ一致の『サイコキネシス』を受けてドサイドンの動きが止まった。だが、流石のスターミーもドサイドンのパワーが強すぎるせいで動きを止めるのが限界のようだ。

 

 動けないなら遠距離攻撃だとばかりに、『じしん』を指示する。『サイコキネシス』を受けながら、ドサイドンが無理矢理に『じしん』を放つ。衝撃が振動となってスターミーを襲った。

 しかし、それも読んでいたようで、『こうそくスピン』でスターミーが上空へ逃げていく。そのままカスミさんが良くやる『ハイドロポンプ』とのユナイトコンボで再び攻撃してくる。

 

 流石に回転しながら撃たれるドロポンは、『ドリルライナー』でも受けきれないので、そのまま直撃を受けてしまった。

 しかし、ドサイドンは倒れず、地面に降りてきたスターミーをガシッと両手で掴む。そのユナイトコンボは技の終わりに隙が出来るんだよ。

 

 まさかスターミーのドロポン直撃を受けて立っているとは思わなかったのか、シンゴがまたも驚いている。

 いくら特性の『ハードロック』があるとはいえ、事前にかなりのダメージを受けていたドサイドンにドロポンを耐える体力は残っていないと読んでいたのだろう。

 

 だが、ポケモンの技の中には体力を一だけ残して攻撃を耐える技がある。

 

「チッ、『こらえる』か」

 

 ご名答。ドサイドンには事前に、自身の判断で『こらえる』を使う許可を与えていた。全ての体力を使い切ったふりをしなければ、こいつは欺けない。そう判断した。

 スターミーが逃げようとするのを抑えながら、『メガホーン』を指示する。シンゴも『サイコキネシス』を指示したが、距離が近い分こちらの攻撃が当たる方が早かった。

 

 流石に一撃では戦闘不能にならなかったようで、『サイコキネシス』でドサイドンが戦闘不能になる。だが、かなりのダメージを与えたはずだ。

 

 ドサイドンをボールに戻すと、次はオコリザルを出した。これには流石のシンゴも不意を突かれたらしく、どういうつもりだという気持ちが表情に出ている。

 それは後ろの仲間達も同様なようで、タケシも、「スターミーはエスパータイプも合わせ持っている。かくとうタイプは不利だぞ!」と驚きの声を出していた。

 

 当然、そんなことは百も承知だ。

 本来、オコリザルはバンギを突破するために連れてきたのである。こんな所でスターミーに向かわせるなんて、誰もが無謀だと思うだろう。

 

 現に、シンゴも厳しい表情を崩さない。

 ここでオコリザルのような相性不利なポケモンを出すとは読めなかったのだろう。普段の俺なら、相性を無視した選出は絶対にしない。最低でも五分の状況に持ち込めるようにポケモンを選出する。

 だからこそ、俺がオコリザルで何かを狙っていると思っているようで、いつでも動けるようにスターミーをスタンバイさせていた。

 

 ぶっちゃけ、思いつきで行動しているだけなので深い考えなど何もない。マニュアル通りの動きをすれば動きを読まれるだけなので、読んでも先が詰みの状況を敢えて作っただけだ。ここを無理矢理攻略して、シンゴの予測の先を行く。

 

 俺の頭の中には、苦境を戦うアニメのサトシ君の姿があった。今必要なのは、ニューサトシのバトルではなく、逆境に抗うサトシ君のバトルだ。

 

 とりあえず、オコリザルに『ちょうはつ』を指示する。これで、スターミーの『じこさいせい』による回復を封じた。

 シンゴも回復は視野に入れていたようだが、まだスターミーは十分戦えるのでそこまでの痛手とは感じていないようだ。そのまま『サイコキネシス』を指示してきたので、『みきり』で回避していく。

 

 こういう戦い方はどちらかといえばエビワラーの方が得意なのだが、今いるのがオコリザルな以上、対応してもらう以外に手はない。

 そのまま走ってスターミーとの距離を詰めていく。今回は格闘バトルではないこともあって、オコリザル本来の奔放な動きを発揮させていた。

 

 しかし、連続の『みきり』は失敗しやすいということもあり、完全に距離を詰める前に『サイコキネシス』が直撃する。

 シンゴがオコリザルを吹き飛ばすように指示を出すが、『じだんだ』を使って何とかその場に留まらせた。『じだんだ』は前のターンで技が失敗していた時に威力が二倍になるじめん技だ。

 オコリザルは『みきり』を連続使用したせいで失敗していたので、『じだんだ』の威力は二倍になり、オコリザルはサイキネを堪えながらその場で盛大な地団太を踏んでいた。

 

 ドサイドンの『ドリルライナー』によるドロポン防御に続く、予想外の技の使い方パート2である。

 

 だが、動かないならば追撃でとどめだと、再度シンゴが『サイコキネシス』を指示した。しかし、『じだんだ』を挟んだことで、『みきり』が間に合っている。

 オコリザルがこんな避けの動きをするデータはなかったようで、シンゴも何とかしようとしているようだが、初っ端で『ちょうはつ』が出来たのが大きく、変化技を使えなくて対応に苦戦していた。

 

 仕方ないとばかりに、シンゴも四つ目の技として『れいとうビーム』を指示している。おそらく、後ろにいる最後の一体がわからないので、大体の相手に通る技をチョイスしたのだろう。

 しかし、『れいとうビーム』によって、スターミーまでの道が凍らされ、オコリザルの動きが止まりそうになる。しかし、ここで止まれば終わりだ。「滑って突っ込め!」と無理矢理な指示を飛ばす。

 

 オコリザルも一瞬躊躇しそうになったが、俺を信じて真っすぐ進んでくれた。ドサイドンの時と同様、ボロボロになりながらも何とか距離を詰めると、スターミーが『こうそくスピン』で逃げようとする。

 流石にここで逃げられては困るので一気に勝負をかけた。「『あばれる』で捕まえろ!」という指示を出すと、オコリザルが飛びかかり、逃げるスターミーをタコ殴りにしている。格闘対決の時とはかけ離れた野生を体現した攻撃だった。

 

「チッ、データにない動きばかり!」

 

 とはいえ、向こうもやられるままではいない。殴られながら何とかオコリザルを照準に収めて、『ハイドロポンプ』でオコリザルを吹き飛ばそうとしてくる。

 水圧に抗いながら全力で暴れまくっていたオコリザルだが、タイプ一致の火力には勝てなかったようで、そのまま吹き飛ばされて戦闘不能になってしまった。

 

 だが、がむしゃらに戦ったのは無駄ではなかったようで、スターミーもまた倒れたまま起き上がれず、戦闘不能と宣告されている。

 シンゴもここでスターミーを失う予定ではなかったようで、ようやく奴の予測を上回ることが出来たようだ。とはいえ、スターミー一体に二体倒されているので自慢できる状況ではない。

 

 しかし、俺の脳内にあるアニメのサトシ君のとんでもバトルに、少しずつだが近づいてきたような気がした。

 

「指示や動きが滅茶苦茶だ。お前のこれまでのデータと違う動きをして混乱させるつもりのようだが、付け焼刃の動きではボロが出る。結局、自滅するだけだ!」

 

 ――付け焼刃なんかじゃない。

 

 このジョウトでの旅は、間違いなく俺を一段階上のレベルに押し上げてくれた。

 カントーを旅していた時は、技の使用方法についての工夫はしていたが、ポケモン自身をトリッキーに使う動きや、フィールドを駆使した動きについては素人だった。

 アニポケで例えるなら、サトシ君がやっていた、ポケモン自身を回転させて使うカウンターシールドだったり、『かえんほうしゃ』でフィールドを熱したりするような動きだ。

 

 だが、セキエイ大会決勝戦のブルーとの敗戦と、オレンジリーグで培った経験が、俺の中でしっかりと根付いていた。

 

 ジョウトに来てから少しずつ、俺はバトルでポケモン達の動きを工夫したり、フィールドを使った動きをしたりするようになっていた。

 それは、これまでのバトルでは限界があると悟ったからこそ生まれた動きだ。そして、それこそが、ずっと俺の頭の中に残っているアニメのサトシ君の姿でもあった。今見せたオコリザルの相性を無視したバトルもまたその中の一つである。

 

 俺は基本的に素直なバトルをするが、その素直さが今は相手に読まれ、窮地に追い詰められていた。だからこそ、今俺は次のステージに進まなくてはならない。

 読まれるなら、読まれても意味のない動き――いや、読めない動きをする。それこそが、このバトルで俺が奴に勝つ方法であり、俺がアニメのサトシ君に負けていた部分を克服することでもあった。

 

 次のポケモンとしてジバコイルを出す。シンゴの残りはバンギラスとカイリューしかいないので、必然的にバンギラスを出すしかなかった。

 何せ、カイリューは既に技を全て使いきっている。おまけに、使っている技が、『かみなりパンチ』、『しんそく』、『しんぴのまもり』、『アイアンテール』なので、ジバコイルへの有効打が何もない。倒すにはまだ余裕のあるバンギラスしかいないのだ。

 

 バンギラスが出てきたことで、特性によってフィールドが砂で包まれていく。しかし、はがねタイプであるジバコイルは砂の継続ダメージは受けないので、いわタイプのバンギラスの特防が1.5倍になるというだけだった。

 とはいえ、特防が1.5倍になるのは地味に辛い。少し前にもちょっと書いたが、俺のジバコイルは特殊型なので相性的に強くてもワンキルは難しくなった。おまけに、俺のジバコイルは特性が『がんじょう』ではないので、下手をすると一撃で勝負が着く可能性がある。

 

 だが、ここで逃げる訳にはいかなかった。開幕、『でんじふゆう』を指示する。じめん技を受ければ一撃でアウトだ。当然の選択である。

 しかし、それは向こうも読んでいたようで、先に『ちょうはつ』を打ってきた。これでしばらくの間、こちらは変化技を全て封じられたことになる。

 

 だが、そこまでは予想していた。これで向こうは最初に使った『てっぺき』を含めて技を二つ使い、攻撃に使用できる技は後二つだけである。

 次にシンゴは『じしん』を指示してきた。タイプ不一致だが、こちらには威力四倍である以上、選択しない理由はないだろう。

 当然、当たる訳にはいかないので、こちらは地面に『ラスターカノン』を撃たせ、その威力で無理矢理体を地面から押し上げさせた。『じしん』による衝撃はギリギリ当たらず、地面を駆け抜けていく。

 

 こうした技を利用した回避も、ジョウトに来てから習得したものだ。それまでは漠然と使っていた技の使い方を理解し、応用することで俺は強くなってきた。

 勿論、基本は真っすぐ行くのが俺のバトルだ。

 本質はそう変わらない。だからこそ、最初のトゲ様やケンタロスは向こうの良いようにやられてしまった。俺がニューサトシである以上、どうしても完全にサトシ君のようにはならないだろう。それこそ、セキエイ大会を戦っていた頃の俺ならボロ負けしていたかもしれない。

 

 それでも、人は成長する。

 

 それはニューサトシであっても同じだ。俺は前世の記憶を手に入れて、自分が強いと思っていたが、その天狗の鼻もポッキリ折ってくれる奴らがいた。

 だからこそ、俺は日々強くなろうと思えたのだ。時には負けたショックから、戦うのが楽しくなくなったこともあったが、それを乗り越えて前に進んでいる。

 

 アニメのサトシ君はアニメのサトシ君、ニューサトシはニューサトシだ。同じサトシだったとしても、同じようなバトルをすることは出来ない。

 でも、リスペクトは出来る。

 アニメのサトシ君だってとんでも戦法が全員に通用する訳ではないのだ。あくまでいい所だけ真似させてもらい、ニューサトシの型として落とし込む。難しいことだが、それが出来なければ俺の負けだ。

 

 三つ目の技として、『ミラーショット』を指示した。威力は65しかないが、当たると三割の確率で相手の命中率を下げるはがねの特殊技だ。『ラスターカノン』のような大きなビーム攻撃と違って、小さなビームを周囲に展開した鏡に反射させるタイプの技なので避けづらい。

 

 バンギラスは重量タイプのポケモンなので、こうした技を避ける俊敏さはなかった。『ミラーショット』が命中し、追加効果も発動したようでバンギラスが目をこすっている。命中率が下がった証拠だ。

 弱点のはがね技ということもあって、ダメージもそこそこある。特防が1.5倍になっているので数発程度で倒れるようなことはないだろうが、それでも小さなダメージも積み重なれば厳しくなるはずだ。

 

 しかし、多少の傷や命中率の低下は関係ないとばかりに、シンゴは最後の技として『グロウパンチ』を打ってきた。

 はがねタイプが苦手なかくとうタイプの物理技だ。威力は40と低いが、使うごとに確定で自分の攻撃が一段階上昇する。

 つまり六回使うだけで、攻撃は最大まで強化されるということだ。本来、バンギラスは『グロウパンチ』をレベルで覚えないので、覚えさせるのはかなり大変だっただろう。情報を集めつつ、自身のポケモンの強化も欠かさなかったシンゴは本当に以前とは別人である。

 

 バンギラスの猛攻がジバコイルを襲う。『じしん』のようにモーションが大きな技ならまだ回避も出来るが、接近戦に持ち込まれるとそれも難しい。

 特にジバコイルも重量タイプのポケモンなので動きは鈍重だ。とはいえ、グロパンを全部くらえば戦闘不能にされるのは間違いないので何とかするしかない。『ほうでん』を指示し、全方位に電流を流してけん制する。当たれば、三割の確率で麻痺もあるので迂闊には動けないはずだ。

 

 だが、シンゴは止まらなかった。タイプ一致で火力も上がっている『ほうでん』を突っ切らせ、バンギラスがジバコイルを捉える。

 いくら特殊に強いとはいえ、ダメージは大きいはずだ。おまけに、追加効果の三割を引いてバンギラスも麻痺していた。それでも、攻撃を当てさえすれば問題ないとばかりに拳を振り抜く。

 

 一撃目はまだ最小のダメージだったこともあって耐えられた。しかし、二度、三度と続けばそれも難しいだろう。『ミラーショット』を顔面に当てて、命中率を少しでも下げる。

 だが、二度目も外れず、ジバコイルを捉えた。

 二倍弱点の二回目だ。戦闘不能になってもおかしくないが、ジバコイルも負けたくない一心で耐えている。トゲ様の時もそうだが、精神論で耐えるのはデータでも推測不可能だったようで、「無駄なあがきを」と舌打ちしながら、シンゴが三回目の『グロウパンチ』を指示した。

 

 しかし、時として、その根性が幸運を呼び込むこともある。

 

 バンギラスの三度目の『グロウパンチ』が、僅かに狙いが逸れた。それは、『ミラーショット』による命中率の低下が起こした偶然の結果である。

 攻撃を外したことで隙の出来たバンギラスに『ラスターカノン』を撃つ。このチャンスに全て賭けると言わんばかりに、ジバコイルも全力でバンギラスを吹っ飛ばしていく。

 

 これまでの小さなダメージの積み重ねもあって、この一撃で戦闘不能になっても良いくらいダメージを与えたはずだが、それでもバンギラスは倒れなかった。

 シンゴも流石に肝を冷やしたようで、「今度こそ決めろ!」と、悲鳴のような声で『じしん』を指示する。『ラスターカノン』による回避を指示しようとしたが、こちらのジバコイルもダメージが大きいせいもあってすぐに攻撃態勢に移れなかった。

 

 バンギラスの『じしん』が放たれる。無理か――と、いう気持ちが一瞬頭によぎった。

 

 だが、ジバコイルは倒れていない。その身を宙に浮かせて『じしん』の衝撃波を回避している。

 それは間違いなく『でんじふゆう』だった。

 俺もシンゴもすっかり頭から抜けていたが、ギリギリで『ちょうはつ』の効果が切れたらしく、ジバコイルが咄嗟に自分で技を使ったのだ。

 

「サトシのポケモンが、自分の判断で勝手に技を使うなんて……そんなデータは……」

 

 なかったんだろうな。

 ドサイドンが『こらえる』を使った時とは状況が違う。あの時は事前に使うように指示していたし、シンゴも俺達の様子からそれを察していた。しかし、今回は俺が何の指示も出していないのはシンゴもわかっている。ジバコイルは、俺を勝たせたいという一心で勝手に技を使ったのだ。

 それは、ポケモンが反抗して勝手に技を使うのとは違う。互いに互いを思っている信頼関係から起きた奇跡だった。

 

 奇跡は、データでも予測できない。

 

 麻痺して動きが鈍っていたこともあり、追撃の『ラスターカノン』でバンギラスが戦闘不能になる。だが、シンゴはまだ諦めないとカイリューを出してきた。

 先程も書いたが、向こうの技は『かみなりパンチ』、『しんそく』、『しんぴのまもり』、『アイアンテール』という技構成だ。でんき・はがねタイプであるジバコイルへの有効打はないが、こちらもダメージが限界なので一度ジバコイルをボールに戻す。

 

 こちらもケンタロスを送り出した。『いかく』が発動するが、カイリューの『せいしんりょく』で無効にされる。

 ケンタロスも既に『じしん』は使っているが、まだ三つの技が残されているし、カイリューはこちらへの有効打がない。おまけにトゲ様が与えたダメージもまだ残っている。有利なのはこちらだ。

 

「まだだ! 確かに、お前はデータを攻略する動きを見せた。だが、カイリューならお前のポケモンを全滅させるパワーがある!」

「さて、それはどうかな?」

 

 ここに来て、シンゴに焦りが出てきた。

 おそらく、絶対的な信頼を置いていたデータ戦術に陰りが出てきたことで、不安が隠せないのだろう。だからこそ、こちらは敢えて余裕を見せていく。

 今、こちらが一番されて困るのが、相手が冷静になることでトゲ様の時のように動きを読まれることだ。

 いくらカイリューの体力がトゲ様とのバトルで減っているとはいえ、種族値を考えるとまだどうとでもなる状況である。相手の頭に血が上っている今、落ち着かせずに追撃をかけていきたかった。

 

「どうした? 見せてみろよ、俺のポケモンを全滅させるパワーって奴をよ!」

「なら、見せてやる! カイリュー、『しんそく』だ!!」

 

 釣れた――カイリューが指示に従い、姿が見えないくらいの速さで距離を詰めてくる。

 だが、それを待っていたとばかりに、『どくどく』をお見舞いした。攻撃に合わせて使ったこともあって、向こうは『しんぴのまもり』が間に合わない。

 冷静になっていれば、先に『しんぴのまもり』を使っていたのだろうが、こちらの挑発に乗ったせいで相手を倒すという気持ちがから回った形である。

 

 シンゴが「しまった!」と声を上げた。

 

 だが、もう遅い。確かに、お前のデータは凄いよ。こちらの動きを先読みするのは神業だ。だが、それを扱うのは機械じゃなくて人間である。当然、焦ればミスが出るし、何でもかんでも完璧に出来る訳ではない。

 このバトルだって同じだ。

 確かに、カイリューは強い。ステータスではケンタロスをも上回っているだろう。それは認める。だが、単純な力だけで勝敗が決まらないのがポケモンバトルだ。トレーナーのミスや、戦い方一つで状況は簡単にひっくり返る。

 

 こちらも『しんそく』でダメージは受けたが、まだまだ体力には余裕があった。失敗したという表情を浮かべるシンゴだが、すぐに気を取り直してカイリューを突撃させてくる。

 

 いいさ、ぶつかり合いは望む所だ。迎撃に『げきりん』を指示して、弱点の一撃をお見舞いしてやる。

 しかし、シンゴも猛毒状態で弱点の攻撃を受けるのはまずいと判断したようで、咄嗟に『しんそく』を回避に使ってカイリューを宙に逃がす。

 攻撃の対象を失ったケンタロスが『げきりん』を外した。ゲームだと技が失敗するとデメリットの混乱は発生しないが、この世界だと技を外しても技のデメリットはしっかり発生する。だが、ポケモンの混乱は交代すれば治るのでジバコイルに交代した。

 

 それを見たシンゴが、ここでジバコイルを戦闘不能にさせようと追撃をしかけてくる。タイプ不一致で相性的に半減の攻撃でも、ミリのジバコイルなら持って行けると踏んだのだろう。

 まさしくその通りで、ジバコイルは『しんそく』の追撃で戦闘不能になった。だが、これで向こうの『しんそく』はPPを使い切った上、猛毒のダメージも徐々に加算されてきているはずだ。

 

 再びケンタロスを出すと、シンゴも奇跡を信じて、『かみなりパンチ』を指示してきた。麻痺が入ればまだ可能性があると、防御を捨てて殴り掛かってくる。

 しかし、厄介な『しんそく』が使えなくなった以上、もうこちらは真正面からバトルをする気はない。『かげぶんしん』で攻撃を回避して時間を稼いでいく。

 

 それを見て、シンゴももうバトルの結果が見えてしまったようで、再び膝から崩れ落ちた。

 

 シンゴのデータなら、そう時間がかからず本物のケンタロスを見つけられるだろう。

 だが、僅かでも本体を見失う上、探すという工程は、猛毒の時間が深まるということでもある。また『しんそく』がPP切れになった今、早い攻撃はなくなった。

 おそらく誰よりもデータを持っており、誰よりも先を見ることが出来るが故に、間に合わないのがわかってしまったのだ。

 

 ポケモンへの指示が止まり、審判が立ち上がるように声をかけるもシンゴは全く動かない。

 ポケモンリーグのルールでは、審判からの声掛けから30秒の間に、トレーナーやポケモンが戦う意思を見せない場合失格となる。原作のセキエイ大会でリザードンが戦わなかったせいで負けたのと一緒だ。

 

 結局、シンゴは失格ということで、審判から俺の勝利が宣告される。同時にカイリューが猛毒で戦闘不能になった。

 

 何とか勝ちを拾ったが、かなりギリギリなバトルだったな。最後はシンゴが動揺せずに冷静さを貫いていれば、あそこまで上手くバトルを進めることは出来なかっただろう。いくら相手の体力がトゲ様との戦闘で減っていたとはいえ、真正面からのガチバトルでカイリューに勝てたかどうかはわからなかったしな。

 

 しかし、ジバコイルが自分の判断で技を使ったことにシンゴは驚いていたが、実はこれまでのバトルでも、俺のポケモンが自分の判断で技を使うことは何回かあったりする。

 それこそ、ハヤト戦ではピジョットがとどめに『ギガインパクト』を指示なしで使っているし、ツクシ戦ではヒノアラシが戦闘不能前に『かえんぐるま』を咄嗟に使っていた。シジマ戦ではエビワラーが自身の判断で『カウンター』を『カウンター』したし、他にも探せばいろいろあるはずだ。今回のジバコイルがやったこともそれらと同じだった。

 

 だが、実際に試合を見ていないシンゴに、それらの出来事を確認するすべはなかったのだろう。

 いくらジムにバトルの記録が残るとはいえ、今の時代ではバトルの映像が残っている訳ではない。使ったポケモンや、技などの試合運びが文章で記されているだけだ。それだけで、ポケモンが勝手に技を使うなんて情報は手に入るはずがないのである。今回はたまたまそれが、奴のデータ予測の上を行った。勝因はそれだ。

 

 と、偉そうなことを書いたものの、ぶっちゃけ勝てたのは運が良かったからに過ぎない。結局、俺は自分の中にいるサトシ君を超えることは出来なかった。まだまだ未熟である。

 ただ、それでも勝ったことには変わりはなく、ラティが後ろから大喜びで突撃し、タケシとカスミさんも、「勝ったな」、「もうダメかと思ったけどね」と軽口を開いていた。

 

 そんな中、シンゴは崩れ落ちたまま動いていない。一言だけ伝えたかったので、反対側のトレーナーゾーンにいるシンゴの所まで行き、「今回の勝ちは運が俺にあっただけだ。次はそのデータに完璧な形で勝たせてもらうぞ」とだけ伝える。

 シンゴがゆっくりと顔を上げると、信じられないというような顔をしていた。何だ? カントー時代と違って、今のニューサトシは強かった相手を称賛できないほど器量の小さな男ではないぞ。

 

「……俺のデータは間違ってなかったんだよな?」

「そうだな。危うく負けそうになった」

「俺は、強くなったよな……?」

「これで強くなってないって言っても負け惜しみにしかなんねーよ」

 

 追い詰められた。

 

 負けそうになった。

 

 それは事実だ。

 

 こいつは、最強のミュウツーを行動不能にして、俺を敗北寸前まで追いつめた。それは、この試合を見た誰もが認めるだろう。

 

 何故か、シンゴは涙を流していた。

 

 それは負けたことが悔しいのか、それとも違う意味があるのかは俺にはわからない。ただ、こいつの中にあった危うさのようなものが、その涙と一緒に流れ落ちて行っているような気がした。

 どうやらそう感じたのは俺だけではないようで、試合前にあれだけシンゴを怖がっていたラティも、「なかない」と心配そうにシンゴのことを見ている。

 

 結果は失格になったが、それまでの圧巻のバトルに、観客からもシンゴへ盛大な声援が送られていた。

 普段、他人への声援が嫌いなニューサトシだが、今回は称賛されるべき相手がシンゴだということも理解しているので甘んじてそれを受け入れる。「胸を張って声援に応えてやれ」というと、泣き笑いの顔でシンゴが手を上げた。

 

 歓声がさらに大きなものになっていく。

 

 だが、何だか悔しいので、勝者であるニューサトシも一緒になって手を上げた。それを見たラティも、何故か一緒になって手を上げている。

 後ろのタケシがやれやれというような顔し、カスミさんが「何してんのよ全くもう」と呟いていたが、勝者であるニューサトシも称賛されていいだろうということで、そのまましばらくシンゴと一緒になって歓声を浴びていた。

 

 

 

 




 原作との変化点。

・ニューサトシがアニメサトシ君のとんでもバトルをリスペクトし始めた。
 前々から兆しは見せていたが、ここで新たなスタイルを明確に示した。が、最終的にはものに出来なかった。

・データは完璧でも、使う人間は完ぺきではない。
 これが機械なら大丈夫だったかもしれないが、人間である以上、予想外のことが起きれば動揺するし、挑発に乗れば隙も晒す。バンギラスを倒した段階で、ニューサトシはそれに気づいて逆転した。もし、相手が挑発に乗らずに初手しんぴのまもりを使ってきた場合は、真っ向勝負しかなかったのでどうなるかはまだわからなかった。


 現在ゲットしたポケモン

 ピカチュウ Lv.56

 ピジョット Lv.52

 バタフリー Lv.52

 ドサイドン Lv.54→55

 フシギダネ Lv.52

 リザードン Lv.57

 ゼニガメ  Lv.52

 キングラー Lv.52

 カモネギ  Lv.52

 エビワラー Lv.52

 ゲンガー  Lv.53

 オコリザル Lv.52→53

 イーブイ  Lv.51

 ベトベトン Lv.51

 ジバコイル Lv.51→52

 ケンタロス Lv.51→52

 ヤドラン  Lv.51

 ハッサム  Lv.51

 トゲキッス Lv.47

 プテラ   Lv.52

 ラプラス  Lv.51

 ミュウツー Lv.71

 バリヤード Lv.52

 イワーク(オレンジ諸島の姿) Lv.48

 カビゴン  Lv.46

 ニョロトノ Lv.46

 ヘラクロス Lv.44

 メガニウム Lv.44

 マグマラシ Lv.43

 ラティアス Lv.30

 ヘルガー  Lv.44

 ワニノコ  Lv.43

 ヨルノズク(色違い) Lv.43

 カイロス(部分色違い) Lv.44

 ウソッキー Lv.43

 バンギラス Lv.55

 ゴマゾウ  Lv.30

 ギャラドス(色違い) Lv.34


 いつもたくさんの感想ありがとうございます。時間がなかなか取れず、まだ全部を返信出来ていませんが、運対で消えてしまったもの以外は全部に目を通させて頂いています。
 そこでですね。今回の準決勝で、少し補足をさせて頂きたいことがあったのでここで書かせていただきます。

 まず、一つ目として、シンゴがマサラタウンまでニューサトシのポケモンを調べにいった件ですが、博士がやたら叩かれていますが博士は悪くありません。
 オーキド博士からみれば、シンゴはただの子供で、純粋に研究所のポケモンを見学しにきただけだと思っているので受け入れを拒否する理由がありません。
 実際、研究所という場所である以上、見学者は普通のことですしね。博士も孫とそう変わらない年の子供が、ニューサトシのポケモンのデータすっぱ抜きに来たとは思わないでしょう。
 危機意識が低いという意見もありましたが、アニポケの研究所なんてどこもこんなもんですよ。放送されていたのが今より20年くらい前ですから。時代を考えれば普通です。
 場所を借りている側であるニューサトシもそれは理解しています。なので、怒りこそしましたが、それを理由に何かをせびることはしません。

 二つ目として、ミュウツーが伝説として紹介されている件。
 これは単純に執筆不足です。ミュウツーをエントリーする際に、当然ですが大会運営側にはミュウツーについてのデータがありませんでした。なので、ニューサトシが伝説のポケモンであると話して、そう紹介するようにお願いしています。理由は当然いつもの目立ちたがりですw
 これについては時間が出来たら加筆します。違和感を感じさせてしまいすみませんでした。

 三つ目に、シンゴについて直接的に意見が来ました。
 半年でデータを集めて、ポケモンを育てて、バッジを集めるのは物理的におかしいということですね。これはちゃんと理由があります。ご都合主義でも、ミスでもありません。
 今後のネタバレにもなるので詳しくは書きませんが、犯罪行為はギリギリしていません。ズルをして勝っても、自身のデータが優れている証明にはなりませんから。基本的にルールは守っています。

 他にも、いくらデータがあっても現実的に相手の選出や動きを読むのは無理だろという感想もありましたが、それ言ったらニューサトシが人間辞めてるのも現実的におかしいだろってことになるので、そこはニューサトシ(そういう作品)だからという寛大な気持ちで受け入れて頂けると有り難いです。


 長くなりましたが、残り4話でジョウト編も終わります。(そこから後日談が7話ありますが)そこまで、よろしくお願いします。


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