この話は、原作の台本を解読した上で、心理描写やオリジナルのセリフなどを加え、作者が解釈した小説に書き直してあります。なので、本来の原作とは微妙に内容や場面転換などが違います(前後の状況が合わなかったり、状況がわかりずらいシーンもあったため)。
なので、ざっくりこんな話なんだーくらいの感じで見て頂けると助かります。実際、制作の段階で台本に書いてあるシーンとアニメの絵が違うとかも全然あるので、あくまでこの話は台本から読み取ったのを解釈したものです(大事なことなので二度言う)。
また、アニメ本編でも何度か出てきたフリントですが、ニューサトシには全く登場しません。ですが、この小説はアニメ本編軸なので普通に登場します。※この話はアニメ軸で、ニューサトシ軸ではありません(大事なことなので以下略)。
フリントって誰やって人は、ざっくりいうとロケット団のエリート助っ人(この話以降出てこない)。後、ついでにゼーゲル博士って言う博士役もいるけど、こいつは割と出番があるので知っている人も多いはず。
後、三人称なのでもしかしたら読みにくいかもしれませんが、そこは優しい目で見て頂けると幸いです。後、最後に軽いあらすじをば。
ロケット団はリゾートデザートに眠るメテオナイトと呼ばれる巨大なエネルギーを持つ隕石を狙って、イッシュ地方へと侵略を進めていた――
ロケット団の首領であるサカキが所有しているVTOL機がリゾートデザートを飛来する。
リゾートデザートと言えば聞こえはいいが、その実はただの砂漠だった。しかし、その砂漠の真ん中には大きな穴が穿たれ、巨大な採掘現場が作られている。
その傍に、ロケット団の動く研究室こと特殊ヘリが着陸しており、ムサシ、コジロウ、ニャース、フリント、ゼーゲル博士の5人が、近くからVTOL機の接近を待っていた。
対するVTOL機の内部は、黒い制服のパイロットが2名。後部座席にはサカキが座っており、後部のキャビンにも数名のロケット団員達が待機している。
サカキの前には、付近の状況を示すモニターがあり、地脈のエネルギーがうねっている様子が映し出されていた。いくつものエネルギーの流れが、砂漠の一点に集中している。その一点が件の採掘現場であり、サカキは黙ってモニターを見つめていた。
しばらくすると、VTOL機がその採掘現場に到着――機体が降下し、砂塵を舞い上げて着陸する。ハッチが開くと、サカキが悠然と姿を現した。
ムサシ・コジロウ・ニャースの3人は、緊張した面持ちで佇まいを直す。フリントは不敵な表情で会釈をし、ゼーグル博士は不気味な様子で佇んでいる。サカキの後ろからは、数人のロケット団員も出てきた。
「ご苦労。準備は整っているな?」
サカキがそう声をかけると、ムサシ・コジロウ・ニャースの3人が「はっ」と、短く返事をする。また、それを補足するようにフリントも声を上げた。
「作業は順調です。目標のメテオナイトは、この地下に」
「うむ。ミッションはこれからが本番と言える。気を抜くな」
「了解」
フリントの言葉を聞いて満足そうに頷くサカキを、ムサシ・コジロウ・ニャースの3人が先導していく。
「では早速、メテオナイトを」
「こちらです、ボス」
「足元にお気をつけくださいニャ」
採掘現場には地下へと続く階段のようなものがあり、サカキとロケット団一行が地下に降りて行った。
殿にはフリントがおり、降りている途中では、ゼーゲル博士がサカキを始めとした他のメンバーにもこの場所について詳しい説明をしようとしている。
「イッシュ地方の地脈に大きな影響を与えていたのはこの地下にあるものだ。我々は地下レーダーで探査を行い、この砂の下に巨大な建造物があることを知った」
ゼーゲル博士の説明を受けながら、一行はどんどん地下深くへと降りていく。
ある程度降りると広い空間があり、そこは異様な神殿跡の最上階部分までが掘り出されている状態で、その下はまだ砂に埋まったままになっていた。階段は最上階テラス部分まで設置され、建物の大窓がそのまま内部への入り口として機能している。
「本部から急遽取り寄せた採掘装置によって、建造物の全容が明らかになった。それによって、これらが超古代の文明のものであることも判明したのだ」
そのまま一行は、入り口を抜けて内部へと進んでいく。あちこちに設置された証明で照らし出された内部は途方もなく広大だった。
サカキ達は、眼下の巨大な祭壇上の遺跡を見下ろすギャラリー(バルコニー)部分に立っている。
円形の内部は、中央に丸い台座――その台座を囲むように、円形劇場風の階段があり、それらを見下ろすようにギャラリーが囲んである。
「この建造物を見る限り、どうやら超古代人は、メテオナイトをエネルギーに使っていた可能性がある。我々の時代では計り知ることのできない、失われた古代文明の技術だがな」
――全員が内部を見渡した。
照明に照らし出された石積みの壁。その隙間からは、砂が零れ落ちていく。
眼下の円形のフロアも、細かく石が組まれており、ゼーゲル博士のいう古代文明には高い技術があったことを伺わせる。
「失われた技術は、我がロケット団の手によって蘇る」
サカキが自信満々にそう呟くと、ムサシ・コジロウ・ニャースだけでなく、フリントやゼーゲル博士もまた、深く頷いていた。
◇◆
一方で、ヒウンシティを訪れていたサトシ達は、街中にムカデポケモン・フシデが大量発生するという異常事態に遭遇していた。
ヒウンシティのジムリーダー、アーティと共に事態の収束に当たるサトシ達だったが、その手伝いをしていたアララギ博士が、この事件の原因が砂漠地帯のリゾートデザートにあると突き止める。サトシ達は、その謎を探るためにアララギ博士と共にジュンサーが操縦するヘリに乗ってリゾートデザートに向かっていた。
そのまま、ある程度砂漠を進んでいくと、ヘリを操縦しているジュンサーが遠くの方に見憶えのない採掘現場があることに気付いて声を上げる。
「みんな、あれを見て!」
ジュンサーの声に反応して、サトシ達もまた身を乗り出すようにしてそちらを見た。
「何かの採掘……? そんな話は学会でも聞いていないけど……」
アララギ博士が首を傾げる。しかし、怪しいものは感じるようで、すぐに手持ちの携帯端末で何やら調べ始めた。
そんな中、子供特有の直接的な意見として、デントが「もしかして、フシデが逃げてきた原因はあれじゃないですか!?」と言い始める。アイリスもまた「有り得るかも」と、同調するように頷いていた。
「そうね……例のエネルギーの発生ポイントは、まさにあそこよ!」
「えっ!? まさか、そんな簡単に――」
携帯端末に移る情報を見せながらアララギも頷く。サトシも一瞬驚いた様子を見せたが、原因がわかりやすいに越したことはなかった。
アララギが携帯端末でいろいろな情報を調べる中、ジュンサーが双眼鏡のようなもので採掘現場の状況を見ようと視線を合わせていく。
「あれは、ロケット団!?」
ジュンサーの視界には、黒い制服を着た数名のロケット団員の姿があった。
「ええっ!? オレにも見せて下さい!」
サトシもまた驚いたようにジュンサーから双眼鏡を借りると、団員達の胸元にある『R』マークを確認する。アイリスとデントも、サトシに続いて双眼鏡で状況を確認した。
「本当に、ロケット団だ……」
「実は、前々からロケット団がイッシュで暗躍しているという情報はあったの。でも、こんな所で一体何を……?」
ジュンサーが不思議そうにそう呟くのを聞いて、サトシは毎回襲ってくるムサシ・コジロウ・ニャースの3人組の姿を思い出す。以前に比べて遭遇機会は減ったものの、彼らもまたこのイッシュで何やら不穏な動きをしていた。
一応、そのことについてもジュンサーに報告しておく。話を聞いたジュンサーは3人に覚えがあるようで、もしかしたらロケット団がイッシュに踏み込むための先遣隊だったのではないかと推測していた。だとすると、敵はこちらの予想よりも大規模な可能性がある。
「本部に連絡を――」
――と、ジュンサーが無線機を取り上げた瞬間、発掘現場から何やら放射状に波紋のようなものが砂漠へと広がっていった。
◇◆
「ミッションの最終段階に入るぞ」
地下ではロケット団員がせわしなく動いていた。ゼーゲル博士が声を上げると、ムサシが隕石を組み込んだ探査装置を抱え、コジロウが反応を見るためにノートPCを開く。
「シッポウ博物館の隕石だな」
サカキは一目見ただけで、ムサシの探査装置に組み込まれた隕石の種類を言い当てた。
「ご明察です、ボス。これを探査装置に組み込み、エネルギーを増幅照射するのです」
と、言いながら、ムサシがライフルのボルトアクションのように装置を起動する。同時に、隕石が発光し始めた。
「メテオナイトの位置測定のためには、隕石のエネルギーで地脈を活性化させる必要があったのだ」
ゼーゲル博士が捕捉するようにそう説明をすると、ムサシの方に頷いて合図を送る。
「照射開始」
ムサシは、探査装置を突撃銃のように構え、眼下の広いフロアに撃ち出した。
コジロウはディスプレイに映る反応を見ながら、画面をサカキの方へと向ける。
「ボス、ご覧ください。これがメテオナイトの存在を示す反応です」
ガラスケース内部の隕石が発光すると、装置先端部から同色のエネルギーが放射され、フロアに命中した。ドクン――と、まるで鼓動のように、エネルギーの波紋が照射個所を中心に幾筋にも広がっていく。
「おお……!」
サカキもまたその美しい光景に感動した様子を見せる。
しかし、ただ美しいだけでは終わらなかった。採掘現場から、地脈を通じて放射状にエネルギーの波紋が拡散していく。
◇◆
「本部に連絡を――」
――と、ジュンサーが無線機を取り上げた瞬間、発掘現場から何やら放射状に波紋のようなものが砂漠へと広がっていった。
「なんだ!?」
サトシが驚いた声を上げると同時に、砂漠を走る地脈が一瞬輝いて見える。アララギ博士の端末でもエネルギー反応のゲージが振り切れていた。
「凄い反応よ! フシデを苦しめていたエネルギーがここから検出されているわ!」
「やっぱり!」
「ピカ!」
サトシが頷く中、ピカチュウの耳がピンと立って、後ろを振り返る。
「ピカピ!」
ポケモン特有の感覚で何かの危険を感じたピカチュウがサトシに注意喚起の声をかけるが、その声に反応する前に、鉱脈の方とは別の方向――地上から放たれたであろう何かが、警察ヘリのテールローターに命中し、機体が破壊された。
「「「「うわあああぁっ!?」」」」
「不時着するわ!」
衝撃を受け、機内はアラートが鳴り響く。サトシ達も咄嗟に体を支えた。
ジュンサーもまた何とか墜落を逃れようと必死にヘリを操縦してバランスを整えていく。
◇◆
一方、砂漠の別のエリアでは警察ヘリが落ちていくのを、フードを頭から被った黒衣の3名の人物が見ていた。
彼らの前には一体のレパルダスがおり、3人の胸には『P』のマークが入った小さなエンブレムが着けられている。
「レパルダス、よくやった」
と、その内の一人がレパルダスの頭を撫でる。褒められたことで、レパルダスも機嫌よく尻尾をうねらせていた。
「英雄が持つべき力。誰にも渡さぬ」
◇◆
周囲は、砂地と、所々に突き出た岩場があるという状況。警察ヘリは不時着し、ジュンサーは無線で通信をしていた。
「こちらジュンサー、本部へ救助要請!」
無事に機体から降りたサトシ達も、壊れたヘリのローターに視線を向ける。明らかにポケモンの技による攻撃だった。おそらくは『はかいこうせん』だろう。
「うわぁ、めちゃくちゃだ!」
「これもロケット団の仕業なの!?」
「でも、変な方向から来た攻撃だったような気が……」
と、サトシ、アイリス、デントの3人が話していると、警察本部との通信を終えたジュンサーがサトシ達の元に戻って来る。
「別動隊の可能性は十分あるわ。ここは見晴らしもいいし、不用意には近づけないわね」
一方、アララギ博士は、携帯端末を操作して何かを調べていた。
「変だわ……」
「どうしたんですか?」
デントが首を傾げるアララギ博士へ声をかける。
「リゾートデザート一帯に、ポケモンの反応がないのよ」
「そういえば……この辺りは、じめんタイプのポケモンが多く生息しているはずだけど……」
ジュンサーがそう声を上げるが、ピカチュウとキバゴが辺りを見渡すも、確かにポケモンの姿らしきものは見えなかった。
「なーんにもいないね」
「みんな、フシデ達みたいに逃げちゃったんだな」
アイリスとサトシも同じように周囲を見渡したが、見えるのは広大な砂漠のみ――と、思っていると、再び地脈のエネルギー放射の波動が広がって行くのが見える。
「わっ……まただ! こうなったら行ってみるしかない! ポケモン達がいなくなったのも気になるけど、まずはあそこでロケット団が何をしているか確かめなくちゃ!」
「あたしも行く!」
「よし、僕も!」
今にも駆けだそうとするサトシ達だが、ジュンサーとアララギがすぐにそれを止めた。
「みんな、待って!」
「不用意に近づけないって、さっきジュンサーさんも――」
と、サトシ達の後を追おうとした瞬間、ジュンサーとアララギがズボッと砂地に沈む。
「「ああっ!?」」
と、いう悲鳴のような声が聞こえ、ハッと振り返るサトシ達。すぐに駆け付けるも、地面に空いた穴の縁で滑り落ちそうになり、慌てて踏み留まった。
「アララギ博士! ジュンサーさん!」
「ピカ! ピーカ!」
「何これ、どうなってんの!?」
「わからない。まさか、砂漠に穴が開くなんて……」
突発的に起きた異常事態にサトシ達が慌てる中、ジュンサーとアララギは大量の砂と共に流れるように滑り落ちていた。
「かなり深く落ちましたよ……」
そう言って、ジュンサーが天井部を見上げると、崩れて穴が開いた部分から空が見える。
対するアララギ博士は周囲を見渡していた。ただの穴倉ではなく、文明の跡――遺跡のようなものがそこいら中に広がっている。
「ここは……? 遺跡みたいだけど……」
アララギが不思議そうに周囲の様子を調べようとすると、穴の上からサトシが再び声をかけてきた。
「ジュンサーさーん! アララギ博士ー!」
「こっちは無事よー!」
ジュンサーも返事をする。一応、二人の無事を確認できてほっとした様子を見せるサトシ達だが、改めて恐る恐る下を覗き込んだ。深い穴の底で、遺跡の一部が崩れ、穴が開いて砂が流れ込んでいるのが見える。
ジュンサーもアララギの姿も見えるが、砂が流れ込み続けていて、このままでは穴の崩れる範囲もすぐ広がりかねなかった。
「何だか遺跡の中みたいなの!」
「遺跡……?」
アララギの声を聞いてデントが首を傾げる。何故、こんな場所に遺跡があるのか考えているのだろう。
「今助けます! ツタージャの『つるのむち』を使えば!」
とはいえ、このままではまたいつサトシ達まで地下に落ちるかわからないし、逆に穴が塞がってしまえば救出も怪しくなる。サトシがモンスターボールに手をかける――と、またも隕石照射の波動が襲い掛かって来た。
「また来たーっ!」
アイリスの悲鳴のような声が聞こえる中、遺跡内部も波動による光で振動していた。益々、砂が零れ落ちてくる。
「待って、サトシ君!」
「この穴、今のエネルギーの影響かもしれないわ。あなた達も砂が崩れない内に、早く行きなさい!」
地下に落ちた二人を助けようとするサトシを停止する声を出す。今の振動で、穴周辺もまたすぐに崩れ出す可能性が高かった。
いくらポケモンの力とはいえ、大人二人を助けるにはどうしたって時間がかかる。その間に、全員が地下に落ちてしまえば被害は大きくなるだけだった。
「でも、ジュンサーさん達は!?」
「いつまた砂が崩れてくるかわからないわ! わたしたちは救援を待つから、ロケット団が何をしているか確かめて! くれぐれも見つからないようにね!」
サトシはその声に頷くと、穴の中へと返事をする。
「わかりました! 行ってきます!」
「ピカ!」
「すんごいことになってきた!」
「キバ!」
「サトシ、夢の跡地のような企みがあるかもしれない。なるべく安全優先で行こう!」
デントの意見に頷き、サトシ達がこの場を離れていく。同時に、穴が広がってさらに砂が地下へと落ちていった。
◇◆
サトシ達が砂漠で大騒ぎを起こしている中、ロケット団は発掘作業を続けていた。
床の下では、エネルギーの胎動が続いている。コジロウは自分のノートPCを見ながら、現在の状況を他のメンバーにも報告していく。
「隕石のエネルギーと共鳴しています。相当に巨大なものと思われます」
その言葉を聞いて、サカキも頷いた。
そんなコジロウの背後の柱の陰から、そっと様子を伺っているデスマスがいるが、誰も気づいていない。そのまま作業が終了すると、ムサシが探査装置を仕舞い込む。
「では。引き上げ開始だ」
そう言ってゼーゲルは、祭壇に数本立つ幅5センチ程の石柱を、順番に床に押し込んでいく。
「古代人の叡智は未だに活きている。所謂、ロストテクノロジーというやつだな」
そのまま、最後の石柱を押し込む。同時に、ゴゴゴン――と、どこかで重々しい物体が動く音が鈍く聞こえてきた。
ロケット団が耳を澄ますと、ガゴン――と、一際大きな音が聞こえ、全員身を乗り出して眼下に視線を向ける。
床を構成した岩が四分割され床が開いた。
地中深くより、強烈な光が零れ出てくる。
ゼーゲルはさらに祭壇の別の石柱を押した。今度は天井が開き、砂が零れ落ちてくる。
同時に地下からの光がさらに強烈になり、遂に台座に乗ったメテオナイトが出現した。
「おお……!」
目的のメテオナイトは下からどんどんせり上がって来る。天井から降り注ぐ太陽光線を浴びて、益々強烈な光を発していた。
それを見て、思わずコジロウも呟く。
「まるで、太陽だ……」
「そうとも。我々が手に入れるものとは、まさに太陽だ!」
その莫大なエネルギーは、その目で見ただけでも十分に感じ取れるものだった。
太陽というのはあくまで比喩表現だが、その莫大なエネルギーを他の言葉で表現できないくらいに、メテオナイトはとてつもないパワーを持っている。
目的のモノがようやく手に入り、サカキもまた満足そうな表情を浮かべていた。
◇◆
小高い丘のような形状になっている場所で、サトシ、アイリス、デント、ピカチュウは発掘現場の様子を見ていた。
VTOL機と特殊ヘリの外に、見張りのロケット団員が3名――ここまでは見つからないよう慎重に接近できたが、周囲に身を隠せる場所はもう何もない。
「この辺りが限界だ。近づいたらすぐ見つかっちゃうよ」
デントがこれ以上は無理だと首を横に振る。実際、ここから一歩でも前に出てれば即気付かれてアウトだろう。
「見えなきゃいいんでしょ? ヤナップの『あなをほる』でいけないかな?」
「その手があったか! よし、地下から行こう!」
「うーん……でも、ヤナップだけじゃ、僕達全員が通るような大きな穴は難しいよ」
仮に作れたとしても、一人だけではすぐに体力が尽きてしまうのは目に見えていた。
デントが静かに首を横に振る中、他に手はないか――と、サトシ達がまた頭を悩ませる。そんな中、ピカチュウの背中を誰かがつんつんと突いた。
「ピカ?」
振り返ると、そこにはサングラスのワルビルが立っていた。サトシ達も遅れてワルビルの存在に気づき、驚いた様子を見せる。
「ワルビル!?」
「ええっ!?」
「なんで、ここに!?」
ワルビルは、サトシ達の驚いた顔を見てニヤリと笑みを浮かべた。
「まさか、手伝ってくれるのか?」
と、サトシが聞くと、ワルビルは返事をせずにサングラスをキラン――と、輝かせて地面を掘り始める。
「デント!」
「ああ、二体ならいける!」
デントもモンスターボールからヤナップを出すと、ワルビルと一緒に穴を掘るように指示を飛ばした。二体が穴を掘り進めると、サトシ達もまたその後を付いていく。
「速いなぁ、流石ダブル『あなをほる』の威力!」
「ヤナップ! ワルビルにペースを合わせるんだ!」
デントの指示を聞いてヤナップはワルビルにペースを合わせていった。ワルビルもそれを聞いて、下手にペースを合わせようとするのではなく、逆にヤナップがペースを合わせやすいように益々自分のペースで穴を掘り進める。
「ワルビル、手伝ってくれるなんて結構いい子ね!」
「確かに、不思議なヤツなんだよなぁ……ワルビル! 本当にありがとな!」
「ピカ!」
サトシの感謝の声を聞いて、ワルビルは肩越しにニヤリと笑みを浮かべた。そんな二人のやり取りを見て、デントもうんうんと頷いている。
「この出会いと組み合わせは、意外とマッチしてるかもね」
◇◆
サトシ達を見送ってから、ジュンサーとアララギは遺跡の中を調べていた。すぐに上に戻れない以上、今自分達にできることはこの場所は何かを判明させることだけ――そう言いながらアララギが組まれた壁を叩くと、衝撃で上の穴からさらさらと砂が落ちてきた。
「こんな所に遺跡があったなんて……大発見ですよ!」
「喜んでいる場合じゃありませんよ、博士!」
ジュンサーがアララギを窘める。子供達のことも心配なので、ジュンサーとしては速くこの場所から脱出したかった。
とはいえ、すぐさま脱出できないので出来ることをするというアララギの意見もわかる。不幸中の幸いだったのは、二人が地面に落ちたのは本部へ救助要請を出した後だったということだ。
ヘリの近くに落ちた穴が塞がる前に助けが来てくれればいいが――と、考えていると、突如として二人の前にロープが垂れてくる。
「あらら……?」
アララギが思わずロープを掴んで上を見上げると、逆光で顔は見えないが、男性と思われる誰かがこちらを覗き込んでいた。
「レディ、お手をどうぞ」
「あなたは?」
「失礼。こういう者です」
男性がアララギの疑問に答えようと身分証のようなものを出すが、逆光であることや距離が離れているせいで何も見えない。
「見えません……」
とりあえず、敵ではなさそうなので、ジュンサーもまずは助けて貰ってから考えることにした。
「改めて、私はこういう者です」
二人が地下から引き上げて貰うと、ハンサム――と、名乗る男性が国際警察の身分証を見せてきた。
近くには、彼のモノと思わしきサンドバギーが止まっており、ジュンサーとアララギは、ハンサムの身分証をしげしげと見ている。
「改めて、助けて頂いてありがとうございます。ですが驚きました……国際警察はロケット団を追っていたんですか?」
「いえ、私が追っているのは別の組織でしてね。ロケット団がこのリゾートデザートでしていることが大きく関わってきそうなんですよ」
ジュンサーが伺うようにハンサムの目的を訪ねると、ハンサムもまた特に隠す素振りもなく素直に答えを返す。その返事を聞いて、アララギもまた首を傾げた。
「組織……とは?」
「詳しくお話しましょう。こうなれば、お二人にも協力を仰ぎたい」
サンドバギーのドアを開きながら、ハンサムも二人に乗るように促す。ヘリが壊れている以上、徒歩以外の択がない二人は素直にその提案に頷いた。
◇◆
サトシ達が『あなをほる』で地下からロケット団のいる採掘現場に接近しようとしていると、突如としてゴキン――と、ワルビルとヤナップは、人口の『壁』のようなものにぶつかった。目の前の砂を崩すと、そこは石積みの壁が見える。
「いくらヤナップとワルビルでも、これ以上は掘り進めないよ」
「よし、上に出よう」
サトシの意見に頷き、ボコッ――と、砂の中から顔を出すヤナップとワルビル。出た場所はロケット団の特殊ヘリの真下だった。
近くに敵がいないことを確認すると、二体はさささっと地上に出て、機体の車輪の陰に隠れて再び周囲の警戒に当たる。サトシ、アイリス、ピカチュウ、デントも、穴から顔を出し、機体の腹を見上げた。
「ぷはーっ、やっと出られた!」
と、大きな声を出すアイリスの口をサトシが慌てて塞ぐ。
「しっ。見つかるとまずいって」
「おっと、そうだった。ごめんごめん……」
アイリスも小声で謝罪すると、デントは上の機体を見ながら――
「さっき見た大型ヘリだ」
――と、今居る場所を把握する。近くには、サカキのVTOL機も見えた。
「何とか、あっちの大きな穴に行けないかな?」
そうサトシが採掘現場の方に顔を向ける。しかし、そちらの方には見張りと思われるロケット団員の足も見えた。
「そのためには、あの見張りを何とかしないと……」
「ピカ!」
「ヤナ!」
ピカチュウとヤナップが見張りを倒そうと動き出す――と、ワルビルがズイっと前に出てくる。
そのままワルビルがピカチュウを抑えてずんずん外に出ていくと、ロケット団の見張りの後ろに立った。
「なんだ、こいつ……?」
突然のワルビルの登場に見張りのロケット団員が驚く中、ワルビルが「んがっ!」と口を開けて見張りの足をかぶりと齧りつく。
「んぎゃあああああ! 痛ぇ!!」
大きな悲鳴が響き、もう一人の見張りが飛んでくる。
「どうした!?」
「いててて! こいつをどうにかしてくれ!」
「なんだこいつ! 離れろ!」
ワルビルに噛まれてのたうつ見張りと、剥がそうとするもう一人を尻目に、サトシ達は「今だ!」と言って、機体の下から這い出て穴に向かって走ろうとする。
しかし、そのタイミングで、さらに三人目――もう一人のロケット団員までもが駆け付けてきてしまった。
「おい! 何を遊んでる!? 早く持ち場に戻れ!」
「まずい! 見つかる!」
サトシ達は慌てて開いていた昇降ハッチを駆け上がり、特殊ヘリ内部に入り込んだ。
◇◆
地下では、メテオナイトが完全に姿を現すと、ムサシとコジロウが銃型の装置を構え、合図と同時に引き金を引いた。装置から放たれたドリル状のビットがメテオナイトに突き刺さり、バシ――と、鉤爪を展開して固定される。
「よし。エネルギーの測定に入る」
それを見て、ゼーゲル博士がPCのキーを叩く。すると、打ち込まれたビットの間に電流が走った。ディスプレイ上のゲージや数値が上昇していく。
しばらくすると、ゲージが最高値を示していた。
「おお、これは予想以上……メテオナイトは強力なエネルギーを秘めている!」
サカキはそれを見て、通信機を手に取る。
「撤収だ」
「おっと、メテオナイトは丁寧に扱ってくれ。長時間、大気に触れさせてはいかん。地下と同じ状態を維持しなければな」
◇◆
パイロットがサカキの通信を受けると、すぐに機体の操作を始めた。特殊ヘリのローターが回転を始め、ヘリの稼働と共に昇降ハッチが閉まっていく。
「わわわ、閉まる!」
「ピカ!」
サトシ達も慌てて駆け寄るが、ハッチが完全にロックされて出られなくなってしまった。
「駄目だ、ロックされてる!」
「もしかして、これって!」
デントやアイリスが嫌な予感を感じ取ると同時に、ヘリが浮上してサトシ達がよろめく。
下でロケット団の注意を引いていたワルビルも、流石に分が悪いと判断して砂の中へと逃げていった。
さらに足元部分が展開し、折りたたまれた巨大マニピュレーターがサトシ達の目の前で伸びていく。
特殊ヘリは下部大型ハッチを開きつつ、採掘現場上空に滑空しながら、巨大マニピュレーターを遺跡の上から差し入れてメテオナイトを掴み上げた。
そのままマニピュレーターでメテオナイトを収容していく。しかし、今のサトシ達は囚われの鳥状態であり、コンテナ内の壁際に立って収容の様子を見ることしか出来なかった。
「なんだろうこれ……」
「岩みたいだけど……」
「ただの岩には見えないね……」
床のハッチが閉まり、ロックされる。
同時に、収容されたメテオナイトに、コンテナ内部の上下左右からビームが照射され、光のゲージとなって包み込んだ。
メテオナイトは光のケージ内で浮遊していた。ケージは、時折パチパチとあちこちで火花が爆ぜるような現象が起きている。
「ピカ……」
すると、それまで元気一杯だったピカチュウが急に具合悪そうに倒れた。頬からは電気が漏電しており、メテオナイトに反応するかのようにバチバチ言っている。
「ピカチュウ、大丈夫か!?」
慌ててピカチュウを抱き上げるサトシだが、ピカチュウは息苦しそうに小さく鳴くだけだった。
◇◆
サカキとロケット団一行が地上に戻ると、コジロウがサカキにノートPCのデータを見せている。その後からゼーゲルが地下から上がってきた。
「メテオナイトの固定完了。エネルギーフィールドを展開して、地下に埋まっていた時と同じ環境を維持している」
ゼーゲルの報告を受け、サカキも不敵な笑みを浮かべる。これで必要なものは全て揃った――と、言いたげだった。
事実、この場所にはもう用はないようで、ムサシ、コジロウ、ニャースの操縦するVTOL機にはサカキとフリントが乗り、特殊ヘリにはゼーゲルと見張りだった三人を乗せて飛び立っていく。
地面から顔を出したサングラスのワルビルは、黙ってそれを見送るしか出来なかった。
◇◆
砂の上をサンドバギーが爆走していく。
運転席にはハンサム、助手席にジュンサー、後部座席にはアララギが座り、アララギが携帯端末で何かを調べている。そんな中、もうすぐ採掘現場に着く――と、いうタイミングで、空中へと上昇を始めるVTOL機と特殊ヘリが三人の目に入ってきた。
「あれは……ロケット団!」
「移動したか!?」
事前に様子を見ていたジュンサーが、あの機体をロケット団のモノだと断定すると、ハンサムは急遽ハンドルを回転させてそのままロケット団を追撃する姿勢を見せる。
また、ずっと携帯端末を弄っていたアララギも、そのタイミングで顔を上げた。
「少し前に、あのエネルギーが消えたわ!」
それはつまり、あのエネルギーはロケット団によって引き起こされた可能性が高いということだ。しかし、エネルギーが消えたというのは、それはそれで有難いことでもある。
「ではもう、ポケモン達には影響はないということですね?」
ジュンサーの問いに、アララギは頷きを返す。だが、このまま放置していれば、ロケット団がまた先程のエネルギーを使うであろうことは容易に想像がついた。
「とりあえず、ヒウンジムのアーティさんに連絡をお願いします」
ハンサムはリゾートデザートの一番近くの街であり、そこのジムリーダーであるアーティに連絡を取るように声をかける。
今の状況を伝え、万が一の時は街の人々やポケモン達をいち早く避難させる為だった。それだけ、ロケット団が手に入れたとされるエネルギーは危ないものだと考えられている。何とか未然に防げればいいが、万が一の事態は十分に有り得た。
「みんな、大丈夫かしら……」
ジュンサーも、送り出したサトシ達のことが心配ではあったが、ここでロケット団を見失う訳にもいかなかった。心を鬼にして、今はロケット団の後を追っていく。
◇◆
一方、メテオナイトが収容されたロケット団の特殊ヘリの中では、光のケージ内でメテオナイトがバチバチと爆ぜている。打ち付けられた二つのビットの間にも、時折火花が走り、サトシ達は見入ってしまっていた。
「なんかおっかないよ、これ!」
「強いエネルギーを発してる……ってことかな。このバリアみたいなもので抑え込んではいるけどね……」
「……やっぱり、危険なものなのかな?」
サトシが心配そうに声を上げる。先程メテオナイトが収納されてから、ピカチュウの頬袋もまた、メテオナイトと同調して放電していた。
「ピカチュウのこのバチバチも、これのせいなんじゃない?」
アイリスもまたサトシが抱くピカチュウを心配そうに見つめる。メテオナイト表面でバチバチ爆ぜるスパークと、ピカチュウの頬袋の放電は、完全に同じパターンだった。
「あっ……!」
サトシがピカチュウに意識を向けている間に、メテオナイトとピカチュウの放電が何度も同じように弾けると、突然光のケージを飛び出して外に伸びたスパークがピカチュウにぶつかる。
「ピガガガガ!」
「ピカチュウ!?」
スパークを受けたピカチュウは、強力な衝撃波に見舞われ、バチ――と、サトシの腕からも弾け飛んで天井に叩きつけられ、反動で床に落ちた。
ピカチュウは、全身をバチバチ放電させつつ、何とか立ち上がるが意識が朦朧としている。また、全身が淡く発光し、メテオナイトのスパークに合わせて点滅していた。
「ピカチュウ!」
「ピ、ガ……!」
ますます心配そうな声を上げるサトシ――だが、不運は続いた。この出来事のせいで、メテオナイトを管理しているコックピットにいるゼーゲルのPCがアラートを鳴らしてしまったのだ。
当然、傍にいたゼーゲルは確認のために、ロケット団員を一人コンテナ内部へと向かわせようとする。
「ピカチュウ! しっかりするんだ!」
そんな危険が迫っているとはつゆ知らず、サトシはピカチュウを抱き上げた。
ピカチュウもうっすらと目を開け、少しずつではあるが、体の点滅や頬袋から次第に放電も収まっていく。
「今の、何!?」
「ピカチュウの電気エネルギーと、この岩のエネルギーが同調した……ってことかな……」
メテオナイトを見ながらそうデントが推測すると同時に、ガコン――と、壁のドアロックが解除される。サトシ達は慌てて物陰に隠れた。
サトシ達が身を隠すと、ロケット団員と思われる男が一人入って来る。靴音が残響し、ゆっくりとメテオナイトの周囲を見て回っている。
ここでサトシ達も、先程の騒ぎで勘付かれたのだと気付き、何とか見つからないように――と、息を潜めて隠れていたが、サトシに抱かれたピカチュウの放電はまだ完全には収まっていなかったようで、またもバチバチと音を立てて放電し始めてしまった。
その音を聞いて、見回りに来たロケット団員も、警戒したようにその場に止まって辺りを見渡している。
「誰だ。出てこい」
まだ見つかっていないが、このままでは見つかるのは時間の問題だった。サトシは、苦しそうなピカチュウを見て覚悟を決める。
「ピカチュウを頼む。オレ、あいつらをひきつけるから」
アイリスにピカチュウを預け小声でそう言うと、ロケット団員の後ろに回り込んで、サトシが一人で立ちあがった。
「あのー……」
声を聴き、ロケット団員が驚いたようにサトシの方に振り返る。
「なんだあ、お前は!?」
ロケット団員はドアを背にして、メテオナイトとドアを視界から覆い隠すような体勢になった。対するサトシは、ニッ――と、悪びれない笑顔を浮かべた。
「すみませーん。なんかオレ、ポケモン探してうっかり入っちゃってー」
「うっかりぃ!?」
場違いなほど明るく振舞うサトシにロケット団員の意識が向く中、ピカチュウを抱いたアイリスとデントは、サトシが相手の気を引いている間にこっそりとコンテナの奧に隠れた。
そんな中、サトシはダメ元で何かしらの情報収集が出来ないかとメテオナイトを指さす。
「これ、なんですかー?」
「いいから来い!」
当然、懇切丁寧に説明などしてくれるはずがなく、ロケット団員はサトシを力任せに連れて行った。
アイリスとデントは、コンテナ奥にある資材が置かれた区画から、連行されていくサトシを見ている。
「大丈夫かな、サトシ……」
「大丈夫だよ、きっと。子供……それも、ただのポケモントレーナーなら、そこまで怪しまれはしないはずさ。多分……」
アイリスとデントがサトシのことを心配する中、サトシは倉庫のような場所に閉じ込められた。ロケット団員が外からロックをかけており、自力での脱出は難しいように見える。
ゼーゲル博士も様子を見に来たようで、ドアの小窓から奥で俯いているサトシを見ていた。
「旅のポケモントレーナーのようです。迷い込んだと言っていました」
「……騒がれては面倒だ。コトが終わるまでは閉じ込めておけ」
流石のゼーゲルも子供のイタズラ程度にしか思わなかったようで、呆れたようにコクピットに戻っていく。もし、ここにムサシ・コジロウ・ニャースの三人がいたら、サトシはもっと危ないことになっていただろう。
――運命は、サトシに味方していた。
◇◆
砂漠に忽然と出現する煌びやかな歓楽街。
VTOL機はリゾートホテル屋上のヘリポートへ向かい、特殊ヘリは地上の敷地へ高度を下げていく。
地上では、荷台の空いたコンテナ車が待機していた。降りてきた特殊ヘリのコンテナがコンテナ車の荷台に降りて固定される。
コンテナの外れた特殊ヘリのボディは、キャビンの部分がむき出しになっていた。
アイリスとデントは、コンテナがはめ込まれていたキャビン後方の資材の陰から固定されたコンテナの上に飛び降りる。
コンテナ車は二人に気付かず、ホテル内へと走り出した。
同時に、特殊ヘリはホテル屋上のヘリポートへと浮上していく。走るコンテナ車の上で、アイリスとデントは「げっ!」と特殊ヘリを見上げる。
「サトシ、あっちだよね!?」
「どうする!?」
二人してあたふたする中、アイリスが上部で釣り下がっている電飾のコードに目を付ける。
「ついてきて!」
アイリスは、ピカチュウを片手に抱いたままジャンプし、電飾のコードを掴んでコンテナ上からさらにジャンプした。
「ええっ!? そんな無茶な!」
無理だ――と、デントもわかってはいるが、このまま置いていかれる訳にも行かない。
デントもアイリスと同じように遮二無二ジャンプして電飾に掴まろうとするが、危うく手が届かない所だった。しかし、何とか電飾を掴むも、ターザンのようにぶら下がって旋回してしまう。手を離すと、そのまま庭園の茂みに突っ込んだ。
「ちょっ、デント!?」
アイリスが驚いたように、上から降りていく。
デントはボロボロな姿で茂みから顔を出した。
当然ながらアイリスは傷もなく、ピカチュウやキバゴと共に苦笑いでデントに駆け寄っている。
「今日はよく落ちるよね~……」
「……あのね。みんながみんな、君のようには跳べないんだよ」
デントから恨みがましい視線を向けられ、アイリスが「ごめんごめん」と謝罪した。
とはいえ、いつまでもこうしている訳にもいかなかった。サトシを乗せたヘリは、間違いなくこのホテルの中に入っていったのだ。助けるためには何とか中に入るしかない。
茂みに隠れているデントと、ピカチュウを抱いたアイリスが何とか中の様子を探ろうとしている。
「……このままここに居ても仕方ない。僕、ちょっと中に入って探ってみる。サトシを見つけるには、それしかないと思うんだ」
「えーっ!?」
「アイリスはここにいてくれ。何かわかればヤナップを使いに出す。じゃ、行ってくる!」
デントが中へと忍び込んでいく。アイリスもピカチュウも心配そうにしているが、ピカチュウはまだ完全に体調が整っていないようで顔色が悪かった。
◇◆
リゾートホテルのホール内には、仮面をつけた紳士淑女が集まっていた。パッと見ただけだと正体はわからないが、身なりからかなりの重要人物であろうことはわかる。
席に着いた彼らが注目するのは、壇上のサカキだった。
数人いる平のロケット団員は仮面を付けておらず、ムサシ、コジロウ、ニャース、フリントは仮面を付けてはいるが、何やら警戒するように鋭い視線を周囲に向けている。
「諸君。お待たせした」
サカキの一声と同時に、周囲の声が引いて静寂に包まれた。
仮面の人々の中で、砂漠でサトシ達を襲ったプラズマ団の3人もまた最後列にひっそりと座っている。黒いスーツで没個性にしているものの、襟には『P』というマークが入ったプラズマ団のバッジを付けていた。
「イッシュ地方を闇から支配する者達よ。代理人の方々とはいえ、これほどの数のお歴々に興味を持って貰えるとは、実に光栄なことだ」
ロケット団の名は、裏の世界ではかなり大きなものだった。ホウエン地方のマグマ団・アクア団、シンオウ地方のギンガ団なども名は聞いたことがあるが、やはりロケット団に比べるとネームバリューは一枚も二枚も落ちる。
だからこそ、イッシュ地方を陰から支配している面々は、自分達を当たり前のように呼びだしたロケット団――いや、サカキが何を考えているのか、何をしようとしているのか、とても強い興味を持っていた。それはプラズマ団も同じである。
「お見せしよう。これが我らの太陽だ」
ゼーゲル博士が壇上の側に立ち、手元のスイッチを押す。同時に、ステージが左右に開き、光のケージに包まれたメテオナイトが下からせり上がってきた。
見ただけでもわかるそのエネルギーの塊を見て、観客達もまた「おおっ!」と驚いたような声を漏らす。ゼーゲル博士が端末を操作すると、打ち込まれた2本のビットの間にスパークが走り、メテオナイト全体も反応して光り始めた。
そんなメテオナイトを見ながら、プラズマ団の一人がポツリと言葉を呟く――
「英雄への……力だ……」
強い興味――否、それ以上の視線が、改めてメテオナイトに向けられる。
しかし、ここに隠れて侵入していたのはプラズマ団だけではなかった。新たに会場に現れた、着飾った仮面のカップル――一人はハンサムで、一人はアララギだった。
砂漠からロケット団を追って、ここまで侵入してきたのである。中央に視線を向けると、サカキと傍にいるゼーゲル博士が空間スクリーンを展開し、光るメテオナイトと様々なエネルギーの数値がグラフ化されているのが目に入ってきた。
「……このように、メテオナイトに含まれるエネルギー量は計り知れないのだ!」
サカキのデモンストレーションを背景に、ハンサムとアララギは小さく言葉を交わす。
「あなたの追っている組織というのは、本当にこの中にいるんですか?」
「ええ、必ず現れるでしょう。なかなか実態を掴ませないやつらですが、ロケット団のこの一件が、奴らの興味を引かないはずがないと私は読んでいます」
「何だかワクワクして来ましたわ。スパイみたいですね!」
ハンサムは、一人ウキウキしているアララギを見て少し脱力する。自分が少し気を負い過ぎていたことに気付けたのだ。そういう意味でも、やはりアララギを連れてきたのは正解だったと思うが、あまり緊張感がないのもどうかとも改めて気合を入れ直した。
その時、アララギがトレイを小脇に抱えたマスクのウェイターとぶつかってしまう。
「きゃっ」!
「おっと、これは失礼!」
と、互いに謝罪すると目が合い、「あっ!」と、アララギが声を上げる。
エプロンを付けたウェイターは、マスクをしているがデントにとてもよく似ていた。
「もしかして……」
デントもまた、アララギ博士のことに気付いたようで首を傾げる。それを見て、アララギはマスクをずらして素顔を見せた。
「もしかするわね」
「やっぱり!」
デントもマスクをずらして自分の正体をばらす。
まさかの再会に喜ぶデントだが、アララギが「しーっ」と、指を口に当てる。それに頷いてデントも声のボリュームを落とした。
「でも、どうして博士がここに?」
「この人のおかげよ。凄いのよ、何にでも変装できるようにいっぱい衣装を持っているんだから……勿論、この服もね」
と、自分が今着ているドレスを自慢気に見せてくる。男性の衣装でドレスが必要な場面などあるのか疑問ではあるが、現実として役に立っている以上、文句など言えるはずもなく、デントもただただ感心するしかなかった。
「君がデント君か。状況はジュンサーさんから聞いているよ。私のことはハンサムと呼んで欲しい」
「わかりました、ハンサムさん。それで、ジュンサーさんは?」
「外で待機して貰っている」
いきなり警察が突入してしまうと、ロケット団は捕まえられてもハンサムが追っている組織は逃げてしまう可能性が高い。故に、その組織が動くまで待機をお願いしているのだ。
と、デントに詳しい事情を説明ながら、ハンサムは周囲に鋭い視線を向ける。
「所で……サトシ君は?」
「サトシを知っているんですか?」
デントの疑問に頷くハンサム――サトシとは、こことは別の場所で一緒に巨悪に向かって戦った仲である。なかなか頼りになる少年ということもあって、ハンサムはサトシのことをよく覚えており、アララギから話を聞いて再会するのを少し期待していた。
しかし、デントからここに来るまでの一通りの事情を説明され、ハンサムやアララギも流石に驚いてしまう。サトシがロケット団に掴まっており、デントはそれを探すためにこの場に侵入してきたというのだ。
子供が捕まっている――自分の任務も大切だが、子供の安全には変えられないとハンサムが外のジュンサーに連絡を取って突入をお願いしようとした瞬間、サカキはテンション高く歌い上げるかのように、
「では、さらにエネルギーを高めよう!」
――と、ゼーゲル博士に指示を出した。
ゼーゲルがコンソールを操作すると、さらにメテオナイトの光が強くなっていく。
招待客達が、自ずとメテオナイトに注目した。
「さあ諸君、この力欲しくば、ロケット団と手を組むことだ!」
それを聞いてプラズマ団が呟く。
「愚かしい……あの力は、正しき者によって導かれねばならない。お前達のような邪な者ではないのだ。今こそ、英雄が求められている」
・台本解読で困った点。
場面転換が多すぎて、アニメだと問題ないのだろうが小説だと飛び飛びで読みにくくなるのである程度場面を纏めて書いている。
ハンサムの見えませんのくだりは絵がないと面白くない。
ロケット団の特殊ヘリに入った時、ピカ様がいつどうやって具合悪くなったのかの記載がなく、いつのまにかぐったりしていたので、そこも独自解釈&追加加筆。
ハンサムがアーティに連絡を取るようなセリフを言うが、何故連絡を取るのかの説明が何もないため独自解釈&追加加筆。
ワルビルが助けてくれるが、リゾートデザートで別れた後は出てこないので扱いに困った。結局、後半には出てこない。ごめんね。
※今日の8時と明日の8時にロケット団VSプラズマ団の更新をする旨を書くのを忘れていました。すみません。
この話は、前書きでも書いた通り、アニメの台本を解読して書いたアニメ版の小説です。なので、サトシ君はアニメサトシ君で、ニューサトシではありません。