11歳 β月κ日 『四天王カンナ 忘れてしまった大切なこと 後編』
やはり四天王カンナは強かった。
ぶっちゃけ、講演会で話していた演説の内容は良く分からなかったが、後半のデモンストレーションバトルは別である。他人が戦っていたバトルだったが、見ただけでカンナがトレーナーとして俺よりも一つ上の次元にいるのがわかった。
講演会が終了した後、そのままカンナの別荘に招待され、「私のバトルを見てどうだった?」と聞かれたので、先程書いたものと同じ内容を答える。
凄いバトルだった。
少なくとも、今の俺のレベルでは四天王に勝つのが難しいのは見ただけでわかったと答える。
「でも、全く勝てないとは思わなかったんじゃない?」
カンナの問いに、思わず言葉に詰まった。確かにそうだ。全く勝てないとは思わなかった。
フルバトルや3対3なら、おそらく勝てはしないだろう。だが、1対1なら話は別だ。
いくら、トレーナーのレベルに差があるとしても、1対1なら今の俺達の実力でもワンチャン勝てる。そう思ったのは確かだった。
「たいした自信だわ。流石はポケモンリーグセキエイ大会の準優勝者ね。マサラタウンのサトシ君」
その言葉を聞いて、俺はこの人に会ってからまだ自己紹介をしていなかったということを思い出した。
そうだ、俺は今さっきまでずっとこの人を避けていたのだ。カスミさんやケンジと違って名乗る暇なんかなかった。それなのに、何故カンナは俺のことを知っている?
この人は最初から知っていたのだ。
カンナは、俺がポケモンリーグセキエイ大会で準優勝したマサラタウンのサトシだとわかった上で話しかけてきた。そうでなければ、俺の名前や戦績が口から出てくるはずがない。
「別に隠していた訳じゃ無いのよ。君の試合は全国放送されていたし、私も四天王である以上は各リーグの優勝者には興味があったから決勝戦は見ていたの」
「……無様な試合をお見せしました」
「そんなことないわよ。エースのリザードンが不在の中でよく戦ったと思うわ。シバも、面白いトレーナーにあったと君のことを話していたしね」
この、狸女。
決勝戦だけじゃねぇ、この人ある程度俺の試合を見てやがる。俺がリザードンを使ったのは準決勝のシゲルとのバトルだけだ。それに他のポケモンの動きを見なければ、エースがリザードンだと判断できる訳がない。おまけにシバからも話を聞いていただと?
「いずれ、君は私達と同じ高みにくる。そう笑ってたわよ。私も同意見ね、君は強いわ。今のままでも十分四天王と戦える実力があると思う」
でも、とカンナは続けた。
「それはあくまで戦えるだけ。決して勝つことは出来ないわ。少なくとも、君が忘れてしまった大切なことを思い出さない限りは」
俺が忘れてしまった大切なこと?
「いい機会ね。バトルをしましょうか、サトシ君。ルールは1対1、君の一番自信のあるポケモンでかかってきなさい」
ぶっちゃけカンナの言っていることの意味は欠片も分からないが、バトルを申し込まれた以上、逃げる訳にはいかない。
こうして俺とカンナはバトルをすることになった。
俺と一緒についてきていたカスミさんとケンジも、突然の事態に困惑しているようだが、誰より驚いているのは俺である。まさか、ここで四天王とバトルすることになるとは思わなかった。
立ち上がったカンナは、先程までの穏やかそうな表情から一転して厳しい表情をこちらに向けてくる。
そういえば、講演会でカンナは言っていた。
自分は良く、バトルと私生活で雰囲気が変わると言われるが、それはトレーナーとして自然に振る舞うように努めているだけ。一つのルールを持っているだけなのだと。
そのルールとは、水と氷になること。
普段は流れるがままの自然体の水。バトルの一瞬には氷の厳しさを持って挑み、終わればまた水に戻る。
まさに、今のカンナからは四天王に相応しい氷のような冷たいプレッシャーを感じられた。
前を歩くカンナに連れられ、別荘の外にあるバトルフィールドまで行く。正直、カンナがバトルするなら水のフィールドかと思ったのだが、どこにでもあるスタンダードなバトルフィールドである。
「私はこの子で行かせて貰うわ」
フィールドで向かい合うと、カンナはパルシェンを出してきた。みず、こおりタイプのパルシェンが相手なら、ピカ様を出すのが相性的にもいいだろう。と、いう訳でピカ様を送り出す。
カンナはピカ様が出てきたのを見て、「あら、リザードンじゃ無いのね」と首を傾げていたが、ピカ様も俺の大事な相棒である。
ピカ様もリザードンを引き合いに出されて舐められたと思ったのか、頬の電気袋がスパークを起こしていた。怒っている証拠だ。
「俺のピカチュウを舐めてると痛い目見ますよ」
「……そうみたいね」
ケンジが審判をしてくれるということで、そのまま良く分からない俺とカンナのバトルがスタートした。
カンナの言っていることは何一つとして分からないが、バトルをする以上は全力だ。
先手必勝とばかりにピカ様に『10まんボルト』を指示する。対するカンナは、まさかの『テレポート』で攻撃を避けてきた。続けて、『からをやぶる』を指示し、防御と特防を一段階下げる代わりに、攻撃、特攻、素早を二段階上げてくる。
パルシェンのパワーは上がったが、代わりにガードは弱くなった。一撃当てれば、致命傷になる。『かげぶんしん』で的を絞らせないようにしながら隙を突いていく。
どうも、カンナは回避を全てパルシェン自身の『テレポート』に任せているらしい。だが、エスパータイプじゃ無いパルシェンが『テレポート』を使うには、座標の確認のために一瞬のラグがあるはずだ。先程の『10まんボルト』は距離があったから避けられたが、距離を詰めていけば自ずと回避は難しくなるだろう。
そのままピカチュウが『かげぶんしん』でパルシェンを惑わせながら距離を詰めていく。しかし、カンナのパルシェンは特性が『スキルリンク』なのか、『つららばり』が五発連射され、こちらの『かげぶんしん』を的確に射貫いてくる。
ある程度『かげぶんしん』が消えたことで、カンナも本体の位置を読み切ったのか、またも『テレポート』で距離を取らせ、『からをやぶる』でガードを下げてパワーを上げさせていた。
当たれば勝てる。だが、当てさせて貰えない。
クソ、これがトレーナーとしての実力差か。
ブルーの時と同じだ。ポケモンの能力ではそこまで負けていないはずなのに、俺の能力が足りていないからこうしてカンナに翻弄されてしまっている。
苦し紛れに『10まんボルト』を打たせても、全て回避された。その間にカンナはパルシェンに三回目の『からをやぶる』を詰ませていく。
まずい。攻撃が6段階上がったなら『こおりのつぶて』でも大ダメージになる。このままでは負ける――
「随分と苦しそうにバトルするのね」
追撃すれば勝てるという状況だからか、カンナが余裕そうに話しかけてくる。
苦しそう? そりゃ、これだけ追い詰められていれば誰だって苦しくもなるだろう。
「本当にそうかしら? 少なくとも、ポケモンリーグで戦っていた貴方はもっと楽しそうにバトルをしていたわよ」
それは――
「ポケモンリーグセキエイ大会の準決勝、そして決勝、どちらも貴方は決して有利な状況ではなかった。それでも自分のポケモンを信じて、諦めずにバトルをしているように私には見えた」
そうだ。だからシゲルにも勝てた。
ブルーには負けたが。
「でも、ポケモンリーグ決勝戦での敗北が君に刻んだ苦い記憶。それは君から大切なものを奪ってしまったのね」
さっきも言っていたが、大切なものって何だ? 俺は別に何もなくした覚えはない。いつも通りである。
「本当に? 今日の君のバトルを見て、私は思ったわ。何てつまらなそうにバトルするんだろうって。とてもあの日に見た君と同一人物とは思えなかった」
それは、相手は弱いからだ。俺を満足させてくれる相手がいないから、バトルが燃えないんだ。
「じゃあ、今は?」
今は――そうだ。何故、今はこんなに苦しい?
「君は強いが故に、その辺の相手なら一方的に倒せてしまう。だから、気付けていない。君が失ってしまったものを」
カンナは強い。シゲルより――いや、もしかしたらブルーよりも。
なのに、何で俺はこんな苦しい思いをしている?
俺はずっと自分を満足させてくれる強い相手を求めていたはずなのに、何でこんなにバトルが楽しくないんだ?
「君にとって、ポケモンバトルとは何?」
カンナの問いに即答することが出来ない。いつもなら、即答できたはずだ。俺にとってポケモンバトルとは何なのか。
でも、今は出来なかった。あの日から、ブルーに負けてから、俺は一度でもバトルを『楽しい』と思えていない。ずっと、それは相手が弱いせいだと、相手にならないせいだと思っていた。
けど、違う。楽しくないのは、相手のせいなんかじゃない。俺がただずっと目を背けていただけなんだ。
「その答えが分からない限り、君は私に勝つことは出来ない」
そうだ――俺のバトルはこんなものじゃない。
いつもの俺のバトルは、こんなものじゃ――
「――ピカチュウ、俺に『10まんボルト』!!」
「ピ、ピカ!?」
「良いからやれ!!」
意味不明な指示に迷いを見せるピカ様だが、俺が本気だとわかると、全力の『10まんボルト』を俺にぶつけてくれた。
思えば、ピカ様のでんき技を受けたのは初めてかも知れない。ニューサトシはサトシ君と違ってMな趣味はなかったからな。でも、おかげで目が覚めたぜ。
「……俺は、ポケモンマスターになるんだ。俺にとって、バトルは最高に熱くて、最高に楽しいものだ。決して苦しいものなんかじゃ無い。この程度の苦境、笑って乗り越えてやんよ!!」
ずっと負けを引きずっていたのはストライクだけじゃなかった。俺も、ずっと吹っ切れていなかったんだ。吹っ切ったつもりでフタをしていただけだった。
何が燃え尽きているだ。何が行き詰まっているだ。
ただ負けた悔しさから逃げていただけじゃないか。
強い奴じゃないと相手にならないとか言って、いざ自分より強い相手が出てきたら尻込みしやがって全然俺らしくない。そもそも四天王がいるのに喧嘩を売りに行かなかった時点で俺は気持ちで負けていた。ビビってんじゃねーよ。
そうだ、ポケモンバトルは楽しいものなんだ。
一度負けたくらいでへこんでどうする。次、バトルした時に勝てば、それでいいじゃねーか。
今だってそうだ。せっかく四天王なんて強い奴とバトルしているのに、何を負けるのを怖がってるんだ俺は。楽しまないと損だろう。このまま負けてたまるかよ。
「見せてやるよ、四天王カンナ。俺の、俺達の本当の力を」
とはいえ、現状俺は不利な状況に立たされていた。
今、パルシェンは『からをやぶる』を三回積んで、火力は最大。だが、防御面は紙になっているので一撃当てれば倒せる。
当てられないのはパルシェンが『テレポート』で、こちらの攻撃を避けてくるからだ。おまけに、向こうの特性は『スキルリンク』で、回数系の技を確定で最大数出してくる。注意すべきは『つららばり』で、最後の技はまだ使ってすらいない。
ハッ、笑っちまうくらいピンチだな。
でも、こういう時の言葉は決まっている。
だからどうした!!
「ピカチュウ、マチスとのジム戦は覚えているな!? 『ほうでん』、『10まんボルト』!!」
避けられるなら、避けられない攻撃をするまでだ。これまで俺と戦った全てのトレーナーが俺の経験値になっている。
ピカ様が全体攻撃の『ほうでん』に『10まんボルト』を乗せていく。カンナのパルシェンも『テレポート』で避けようとするが、無差別攻撃の動きを読むことなんて出来る訳がなかった。
パルシェンに電撃が直撃する。しかし、実戦で使ったことのない初めての技だったからか、威力が足りていなかったようだ。ギリギリの所で耐えている。それでもダメージは致命的なものだった。
カンナもピカ様の無差別攻撃を見て、もう攻撃を避けるのは無理と判断したのだろう。『つららばり』を指示して、こちらにトドメを刺そうとしてくる。
確かに、その火力から来る『つららばり』をくらえば一発KOだ。『かげぶんしん』で攻撃の的を増やして誤魔化していく。
とはいえ、腐っても四天王である。一度目の『かげぶんしん』でこちらの動きは見切ったのか、的確に本体へ攻撃を仕掛けてきた。
避けられないなら迎撃するまで。
ピカ様を後退させ、『10まんボルト』で『つららばり』を一発ずつ破壊していく。
確かに、パルシェン最大火力状態の『つららばり』は強力だが、単体の火力が高い技という訳ではない。一発一発の火力自体はギリギリ『10まんボルト』でも迎撃できるものである。距離さえ開くことが出来れば、攻撃が届く前に全て破壊することが出来た。
俺達の『つららばり』への対応を見て、長期戦は不利と判断したのか、カンナも勝負を着けるつもりのようで、改めてパルシェンへ指示を飛ばしている。
俺もまた、ピカ様へ即座に指示を飛ばした。
「パルシェン、『ギガインパクト』よ!!」
「後ろだ! 『ボルテッカー』!!」
カンナの指示と同時に、パルシェンが『テレポート』でピカ様の後ろに回ってくる。
だが、そうしてくるのは読めていた。遠距離で勝負がつかない以上、近距離で勝負をつけるしかないのだ。
パルシェンが『ギガインパクト』で突進してくる。だが、『10まんボルト』はチャージが間に合わない。威力150に対応できる攻撃は、もうタイプ一致の『ボルテッカー』しか残っていなかった。
ピカ様とパルシェンの体が激突する。
互いの『ギガインパクト』と『ボルテッカー』のぶつかり合いで爆発が起き、衝撃波で一瞬前が見えなくなった。
「ピカチュウ、パルシェン、共に戦闘不能!」
目を開いた時、二体は同じ場所で倒れていた。
ケンジの判定が下ると同時に、カンナがパルシェンをボールに戻す。俺もまたピカ様を迎えに行った。
ありがとう、ピカ様。ごめんな。
「どうやら、大事なことは思い出せたようね」
「俺はポケモンリーグの決勝で負けてから、ポケモンバトルの楽しさを忘れていた。それが失った大事なことだったんですね」
俺はそれを自覚していなかった。
ブルーに負けてから、ポケモン達が自分達の力のなさを責め、それが俺のせいだと思うと辛くて、何となくバトルが楽しく思えなくなってしまったのだろう。その上、負けたトラウマから負けることを恐れる。負のスパイラルだ。
だから、心の中ではカンナに勝てると考えていながらも、いざバトルに追い込まれると、負けるのを怖がって身動きが取れなくなってしまった。
たちが悪いことに、俺が心のどこかでビビっていてもポケモン達が強いからそこらの相手には勝ててしまう。だから、俺は自分が負けるのを恐れていると自覚できずに、ただ相手が弱いからバトルを楽しめていないと思っていた訳だ。とんだ勘違い野郎である。
カンナは俺のバトルを見て、その状態に気付いていたのだろう。バトルを楽しむことを忘れ、逃げ腰になっている奴が勝てるほど四天王は甘くない。そりゃ、カンナも俺が勝てないと断言した訳だ。
「ある程度強さを持ったトレーナーになると、必ず一度は挫折という壁を経験するわ。なまじ実力があるが故に、その壁を越えられず腐っていくトレーナーを私は何人も見てきた」
カンナは、俺にそんなトレーナーになって欲しくなくて、わざわざバトルをしてくれた訳か。
「未熟者故、お手数をおかけしました」
「いいのよ、楽しいバトルをさせてもらったしね。それにこう見えて、私は君のファンなのよ。来年のチャンピオンリーグ本戦を楽しみにしているわ」
「ポケモンリーグに優勝して、あの地獄のようなチャンピオンリーグを勝ち抜けって、なかなか無茶をおっしゃいますね」
でも、その期待に応えるのがニューサトシである。来年こそ、チャンピオンリーグに参加してやろうじゃないか!
カンナとのバトルが終わり、ピカ様をポケモンセンターに連れて行くと、四天王と引き分けたことをカスミさんとケンジが褒めてくる。
確かに、引き分けだったかもしれないが、それはカンナが俺のために考える時間を作ってくれたからだ。問答無用で攻められたら負けていたのは俺の方だっただろう。
でも、結果として引き分けに持ち込めたのは、ピカ様が俺を信じて戦ってくれたからだ。
カンナのおかげで、胸の中でつっかえていたものが、ようやく取れたような気がする。
久しぶりに、楽しいバトルが出来た。
そんな気がした。
原作との変化点。
・ニューサトシの試合をカンナが見ていた。
四天王全員で見ていた。ちなみにワタルはシゲルのことはバトルして知っていたが、ニューサトシの実力を知らなかったので、決勝を見てとても驚いていた。シバが我が物顔でニューサトシのことを自慢して、ワタルも自分が昔指導したと張り合っていた。カンナはニューサトシのファンになった。
・カンナとニューサトシのバトル理由が違う。
アニメではサトシ君の増長を抑えるバトルだったが、この小説ではニューサトシのトラウマ払拭としてバトルをすることになった。
・ニューサトシの不調は負けたことを受け入れられなかったから。
実は公式戦で負けるのは初めてだった。初期のタケシ、中盤のナツメメガシンカは非公式戦なのでノーカウントだったが、ブルー戦は実力で負けたことが原因で挫折していた。ロケット団に苦戦していたのも、あいつらが無駄に強くなったせいでちょっと負けそうと認識するとニューサトシの不調が発生していたからである。雑魚相手には無双出来るので気付いていなかった。
・カンナとのバトルをきっかけにニューサトシが立ち直った。
自分と改めて向き直ったことで立ち直った。ニューサトシは自分がトレーナーとしてまだまだ未熟だとブルーやカンナ戦を通して改めて自覚できたので、これからはまた貪欲にバトルをしていくことになるだろう。
現在ゲットしたポケモン。
ピカチュウ Lv.52
ピジョット Lv.47
バタフリー Lv.47
ドサイドン Lv.51
フシギダネ Lv.49
リザードン Lv.52
ゼニガメ Lv.49
キングラー Lv.47
カモネギ Lv.47
エビワラー Lv.48
ゲンガー Lv.50
オコリザル Lv.48
イーブイ Lv.45
ベトベトン Lv.46
ジバコイル Lv.47
ケンタロス Lv.46
ヤドラン Lv.46
ストライク Lv.46
トゲピー Lv.26
プテラ Lv.46
ラプラス Lv.46
ミュウツー Lv.70
バリヤード Lv.46
イワーク(オレンジ諸島の姿) Lv.35
カビゴン Lv.33