ニューサトシのアニポケ冒険記   作:おこむね

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#041 『なんだその躍り? さそうおどりか?』

 11歳 β月κ日 『ミュウツーの独白』

 

 旅立つには遅い時間だということで、そのままカンナの別荘に泊めて貰ったのだが、みんなが寝静まった頃、久しぶりにミュウツーがマスターボールから出てきた。

 この暴君が自分から会話を求めてくるのは珍しいので、バルコニーで月を見ながら少し話をする。

 

 聞けば、どうやらミュウツーは俺自身も気付いていなかった、ポケモンリーグ後の不調を何となく察していたらしい。『お前も悩むのだな』と、口にした時のミュウツーの顔は何とも筆舌に尽くしがたいものだった。

 思えば、ミュウツーと戦い、一緒に行動するようになってから――いや、それこそニューサトシになってからというもの、ここまで弱い姿を見せたことはなかった気がする。

 

 おそらく、ミュウツーが俺に持っていたイメージはもっと強いものだったはずだ。それこそ、どんな相手にも問答無用で立ち向かう超人のように感じていたに違いない。例えるなら、自分の父親をスーパーマンだと思っている子供のようなものである。

 しかし、子供が実際に仕事場の同僚や上司と関わる父親の姿を見て、憧れが現実に変わるように、今回の一件でミュウツーの中の俺のイメージも変わってしまったらしい。

 

 とはいえ、マイナスのイメージではないようだった。むしろ、これまで自分の存在に疑問を感じ続けていたミュウツーだからこそ、俺が挫折して迷う姿は逆に安心できたようだ。

 だが、そういう俺の姿を見たからこそ、改めて自覚できたこともあるらしく、今回はそれを俺に伝えたいと思ったらしい。

 

『今だからこそわかる。あの日、お前が負けた時、私の心にもまた一つの棘が刺さった。何故、私はあの場で戦っていないのか。何故、私は見ているだけしか出来ないのか。そんな気持ちが芽生えたのだ。無論、最初は気付けなかったがな』

 

 そう話すミュウツーはこちらに顔を向けない。

 

 こいつがどんな表情で話をしているのか、どんな思いで話をしているのかも全くわからなかった。

 

『私はずっとお前を見ていた。ポケモンリーグとやらで戦うお前とポケモン達の姿を。それを見て、不思議と一緒に戦っているつもりになっていたのかもしれない』

 

 こいつはこいつで俺のことを応援してくれていたのだろう。だからこそ、俺が負けたことを自分のことのように感じてしまったのかもしれない。

 

『私はこの世で一番強く、最強になるべくして生まれた存在だ。それは、私がどういう生き方をしようと変わらない。だからこそ、見ているだけの自分に苛立ちを感じた』

 

 悔しかったと、見ているだけでなく一緒に戦っていたかったと、ミュウツーは素直に口にする。

 

 どうやら、俺が思っていた以上に――いや、こいつ自身もまた、自分が思っていた以上に、俺のことを気に入ってくれていたらしい。

 

『私はポケモンだ。お前の、ポケモンだ』

 

 俺はこいつの強さに頼るのが嫌で、今までミュウツーを腫れもののように扱っていた。

 ポケモンリーグでもこいつの力を使おうと思ったことはなかったし、これからもバトルでこいつを使うようなことはないと思っていた。

 

 でも、違った。間違っていたのだ。

 

 この世界はゲームじゃない。ミュウツーは使用禁止ポケモンなんかじゃないし、自我のないデータでもない。他のポケモン達と変わらない心を持った存在なんだ。悔しいと思うこともあれば、嬉しいと思うこともある。

 

 思えば、俺も増長していた。

 

 ミュウツーを出せばどんな相手にも勝ててしまう。そんなことをずっと考えていたのだ。実際、ポケモンに能力があっても、指示するトレーナーのレベルが足りていないと負けるのだと、散々痛い目を見たのにな。

 

 遠回しな言い方だったが、こいつは俺に伝えようとしてくれたのだ。これからは、一緒に戦おうと。

 月夜に照らされるミュウツーの姿を見ながら、俺は黙って右手を差し出した。ミュウツーが応えるようにその手を掴む。

 

 勿論、野良バトルで弱者を蹂躙したり、ミュウツーの力に溺れたバトルをするつもりは今後もない。ただ、こいつを出すのに相応しい相手がいるのなら、今度は俺もミュウツーと共に戦おうと思う。例え、卑怯と罵られても、こいつも俺のポケモンの一体なのだ。

 

 この日の夜、俺とミュウツーは少し仲良くなった。

 

 

 

 11歳 β月λ日 『マンダリン島横断』

 

 カンナは二日間の公演会を終えると、チャンピオンリーグ本戦のためにカントーへ戻っていった。

 対する俺達は、これからビッグシティにあるユズジムを目指して徒歩で移動する予定なのだが、ケンジ曰く真っ直ぐ進んでも一週間はかかるらしい。

 

 最近、ラプラスに乗って楽ばっかしていたからか、カスミさんが文句ばかり言っている。全く嘆かわしい。カントーを旅していた時は毎日歩いていたというのに。そんなんじゃすぐデb(文字が歪んでこれ以上読むことが出来ない)。

 

 

 

 11歳 β月μ日 『ニドラン恋物語w』

 

 キスして進化か、まさに経験値だな byケンジ

 

 

 

 11歳 β月π日 『雷平原だ! FFで見た!』

 

 雷がよく落ちる平原を横断中、フォードというおっさんと仲良くなった。

 フォードはコイルの群れを使ってこの辺りの雷を充電させ、電気の届かない近くの街や村へ届けているらしい。

 

 丁度、近場の街へ行く用事があるということなので、俺達も一緒にケンタロス車に乗せて貰うことになった。

 途中、ロケット団がその電気を狙って、変な磁石を使ってフォードを襲ってきたので、いつものようにやなかんじーにしてやる。お前ら変に作戦立てるより、真正面から向かってきた方が強いんだから普通に来れば良いのに。

 

 

 

 11歳 β月σ日 『まさに嫉妬の炎だな。ん? 炎?』

 

 ビッグシティには着いたのですぐにジム戦だと意気込んだのだが、聞けばユズジムはビッグシティから少し離れたユズ島という小島にあるらしい。

 ならば、さっさと移動してしまおうということで、ラプラスでユズ島を目指していると、島の手前で女の子が溺れているのを発見した。すぐに救出したのだが、どうやらこの子はマリーといってユズジムのジムリーダーであるジギーとかいう男の妹のようだ。

 

 そのままユズ島へ行くと、妹を探していたジギーがやってきてカスミさんにお礼を言っている。実際に救出したのは俺なのだが、どうもジギーはカスミさんに一目惚れしたようで、俺とケンジのことは眼中に入っていないらしい。

 サザンクロス南の星を名乗っていたが、見た感じ島に雲、炎、風要素がなくて少し寂しいような気もする。

 そんなことを考えていると、妹のマリーがジギーの態度に失礼だと怒っていた。まぁ恋は盲目とも言うしな。ぶっちゃけ、ジム戦をしてくれればそれで良いぞ。

 

 ジギーも出来ればもう少しカスミさんとの逢瀬を楽しみたかったようだが、妹の命の恩人である俺がジム戦を所望しているのを無視できる程ではなかったらしい。

 ただ、こいつ俺のことをカスミさんのボーイフレンドだと思っているのか当たりがきついんよな。普通に旅仲間だから、そんなに嫉妬しなくて大丈夫だぞ。

 

 ジギー曰く、このジムではジム戦前に腕試しとして、ポケモンの技の威力と精度を測るテストがあるということなので、早速そのテストとやらを受けることになった。

 テスト内容は、船で島を一周する間、出てくる的をポケモンの技を使って全て壊すというものだ。一つでも残したり、壊せなかったりしたら、その時点で挑戦権を失うらしい。自信はあるのだが、船のスピードと的の強度や数次第でピカ様一体じゃ難しいかもしれないので、転送装置を借りてカモネギをリザードンに、ヤドランをゼニガメに交換をしておいた。

 

 しかし、いざテストが開始すると、船はのんびり、的は木の的、おまけに場所は数か所というアトラクションにしか見えないテストに俺のやる気もげんなり。こんなテストなら他のポケモンを出すまでもないということで、ピカ様に的の破壊をお願いする。

 

 真面目なピカ様も流石に退屈なようで、欠伸しながら余裕でテストをクリアし、俺はユズジムへの挑戦権を獲得した。

 

 

 追記。島を一周する間に日が沈んだので、ジム戦は明日になった。こいつの恋路にもう一日付き合わなきゃいけないとか気が滅入りそうだ。

 

 

 

 11歳 β月τ日 『オレンジリーグ ユズジム』

 

 このジムでは双方が同じタイプのポケモンを使ってバトルをするらしい。今までのジムとは違い、普通にバトルするタイプなので少し驚いた。

 勝負は3対3で、レベル制限はなし、先に二勝した方が勝ちというスタンダードなもので、挑戦者である俺に戦うポケモンのタイプを決める権利が与えられている。

 

 少し悩んだが、でんき、ほのお、そしてエスパータイプにした。最後にエスパーと聞いて、カスミさんが「まさか!?」と声を上げたので静かにするようにジェスチャーする。

 まぁ、この中でミュウツーのことを知っているのはカスミさんだけだし、バリヤードを連れて来ていないのは知っているからな。まさか俺がジギー相手にそこまでするとは思わなかったのだろう。

 

 ちなみに本当の理由は、最後のポケモンに悩んでいた時に、鞄の中にいる暴君がボールを揺らしてきたので意見を尊重した形である。とはいえ、先に二勝すれば出番はないので、おそらく出番はないと言って良いだろう。ミュウツーも保険をかけろという意味で自分を使うように言っただけだと思うし。

 

 フィールドは外だったのだが、まさかの断崖絶壁である。こいつ、ポケモンが落ちたらどうするつもりなんだ? いや、まぁ俺が勝つから別にいいけど。

 

 一試合目はでんきタイプ対決ということで、ジキーの一体目はエレブーだった。こちらは当然ながらピカ様である。エレブーなら何度か対戦もしたし、まぁ負けることはないだろう。

 

 バトルがスタートすると、先手必勝の『でんこうせっか』を指示する。それを見て、ジギーも『でんこうせっか』を指示していた。体格の差を考えると、このままぶつかっても勝てないのはわかりきっているので、直前で『かわらわり』を指示し、エレブーの脳天に尻尾の一撃を与える。

 ピカ様のトリッキーな動きにジギーが驚いているが、こっちの方が小さいのだから普通に攻める訳がないだろう。

 

 焦ったようにジギーが『かみなりパンチ』を指示してきたが、でんきタイプにそんな弱い技が効く訳ないだろう。ということで、パンチを躱してそのまま『かわらわり』で脳天に追加の一撃を与える。よろけた所に追撃の『ボルテッカー』を放ち、そのまま戦闘不能まで持って行った。

 タイプ一致でも半減だと威力60くらいしかない『かみなりパンチ』と違って、『ボルテッカー』は半減されてもタイプ一致で威力90の大技である。その分、自分へのダメージも受けるが、このタイプバトルの仕様上、ピカ様の出番はここで終わりなので後ろのことを考える必要はなかった。

 

 まさか何もさせて貰えないまま倒されるとは思わなかったのか、ジギーが絶句したまま動かない。いいのか? カスミさんが見てるぞ色男。

 

 周りからの声掛けで、ようやく正気を取り戻したジギーは慌てたようにエレブーをボールに戻す。

 

「な、なかなかやるじゃないか。だが、まぐれが二度も続くとは思わないことだ」

 

 今の試合運びがまぐれに見えるのなら、こいつのレベルもたかがしれてるな。

 これは暴君の出番はなさそうだと思いながらリザードンを出す。ほのおタイプ対決なので、ジギーはキュウコンを出してきた。

 

 勝負はこれからだとばかりに、いきなりジギーが「ミュージックスタート!」と合図を出す。すると、どこからともなく音楽が流れ始め、いきなりキュウコンが踊り始めた。何だその踊り? さそうおどりか? いや、こっちは踊らないけど。

 

 とりあえず、何で踊ってんのかは分からないが、ほのおタイプ同士の対決なら、こっちのメインウェポンは『エアスラッシュ』になってくる。リザードンを上昇させ、上からキュウコンへ『エアスラッシュ』を連打した。しかし、この変な踊りは伊達ではないようで、キュウコンがリズム良く踊りながら、こちらの『エアスラッシュ』を回避していく。

 

 試しにリザードンにリズムを外すように指示してみるが上手く対応してくる。どうやら、付け焼刃の動きではないようだ。

 お返しとばかりに、向こうも『シャドーボール』を打ってきたが、空を飛んでいるリザードンもまた悠々と攻撃を回避している。こっちの攻撃も向こうも攻撃も当たらないんじゃ、遠距離攻撃で決着をつけるのは無理だな。

 

 リザードンに『えんまく』を指示する。煙の中にリザードンが隠れ、ジギーやキュウコンが姿を見失っていく。勿論、無意味に隠れた訳ではない。

 そのまま、上空からの勢いを利用した『ギガインパクト』でキュウコンへダイブして行く。『えんまく』のせいで、キュウコンはこちらに気付くのが一歩遅れた。いくら踊りで避けようとしても、既に避けきれない範囲までリザードンが来ている。ジギーも『シャドーボール』の連打でこちらの動きを止めようとしていたが、リザードンはダメージも気にせず、キュウコンへ突っ込んでいった。

 

 ジギーも直前で『あやしいひかり』を指示してこちらを混乱させに来たが、このスピードで突っ込んでいる以上、例え混乱しようと、もうリザードン自身も止まれない。『ギガインパクト』がキュウコンに直撃し、一撃で戦闘不能まで持って行く。

 

 これで俺の二勝なのだが、またもジギーは呆然としたまま動かなかった。カキョウイン、アブドゥル、ジギー、終わったよ。

 

 またも周囲の声かけによって、正気を取り戻したジギーだったが、今度は言い訳をすることもなく素直に自分の負けを認めた。そのままユズジムに勝った証であるリンボウバッジを渡してくる。

 また、俺に負けたことで、カスミさんへの恋も諦めてしまったようで、「サトシ、カスミさんを大事にしろよ」とこちらを応援してきた。何度も言っているが、俺とカスミさんはそういう関係ではありません。

 

 

 




 原作との変化点。

・ミュウツーと仲良くなった。
 ポケモンリーグまでの数か月、ニューサトシをずっと見てその頑張りを良く知っていたが故に、負けたことで自身もショックを受けていた。ロケット団とのやりとりを見て、ニューサトシが不調だと気付いたが、どういう不調までかはわからなかったので様子を見ていた。吹っ切れたニューサトシを見て、自分も一緒に戦いたかったのだと気付いた。

・二日間マンダリン島にいた。
 これから歩きになるので、食料などを買う日として一日滞在時間を増やした。カスミさんが久しぶりの歩きを嫌がり、何故かニューサトシは殴られた。

・第100話『二ドラン恋物語より』、ニューサトシは意味に気付いた。
 ぶっちゃけ、作者もケンジの言葉に気付くまで時間がかかったが、ニューサトシは一瞬で気付いた。

・第101話『大平原のコイル達!』より、最初の襲撃でロケット団を完全に追い返した。
 もう完全復活したので、ロケット団も瞬殺した。ぶっちゃけ、ロボや罠で奇策を使ってくるよりも、純粋にバトルされた方が苦戦する。

・第102話『地下道の怪物!?』より、地下に居た怪物がいなくなっていた。
 おかげで事件そのものがなくなり、ニューサトシ達もすぐにユズ島に移動した。

・第103話『ユズジム! タイプバトル3対3!!』より、ニューサトシは三体目に暴君を選んだ。
 暴君もドヤ顔で「お前のポケモンだ」と言ったので出番に飢えている。結局は二体目で倒してしまったので、出番はなかった。ジギーがカスミさんとの仲を応援してきたが、アニメ通りニューサトシとカスミさんはただの仲間である。


 現在ゲットしたポケモン。

 ピカチュウ Lv.52

 ピジョット Lv.47

 バタフリー Lv.47

 ドサイドン Lv.51

 フシギダネ Lv.49

 リザードン Lv.52

 ゼニガメ  Lv.49

 キングラー Lv.47

 カモネギ  Lv.47

 エビワラー Lv.48

 ゲンガー  Lv.50

 オコリザル Lv.48

 イーブイ  Lv.45

 ベトベトン Lv.46

 ジバコイル Lv.47

 ケンタロス Lv.46

 ヤドラン  Lv.46

 ストライク Lv.46

 トゲピー  Lv.26→28

 プテラ   Lv.46

 ラプラス  Lv.46

 ミュウツー Lv.70

 バリヤード Lv.46

 イワーク(オレンジ諸島の姿) Lv.35→37

 カビゴン  Lv.33→35



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