ニューサトシのアニポケ冒険記   作:おこむね

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EX03 『ニューサトシの最初の印象3』

 四天王のワタルにとって、マサラタウンのサトシと言う少年は、かつて自分が教鞭を振るった子供の一人という程度のものだった。

 とはいえ、名前を覚えるくらいには記憶に残っている。彼は子供でありながら、大人顔負けの知識を持ち、自分の知らないことを貪欲に吸収しようという情熱を持っていた。

 

 子供らしく、カイリューを見る姿は目を輝かせていたが、それ以外は少し子供らしくないというのがワタルのサトシへの印象だ。

 

 そんな彼と再会したのは一年程時間が経った後、最初に会った時はまだ小さな子供に見えた彼は、今や新米ポケモントレーナーとなって最後のバッジを手に入れるためにトキワシティに訪れていた。

 

 見違えた――としか言いようがない。

 

 たった一年、その一年でサトシは立派なポケモントレーナーへと成長していた。彼の幼馴染であるシゲルもそうだったが、子供は僅かな時間で凄く大きく育つ。

 

 サトシがジム戦をしに来たように、ワタルはワタルでポケモンGメンとしてトキワジムを調査しに来ていた。そんな中、サトシは自分がジム戦をして時間を稼ぐからその間にワタルに調査をしてくれと頼んでくる。

 

 正直、危険だ。本当なら、すぐにでもサトシ達を退避させ、ワタルだけでトキワジムの調査をしなければいけない場面。

 しかし、もうポケモンリーグまでの時間が残り少ないのも事実だった。トレーナーになったばかりのサトシにとって、最後のジムと言うのは大きな意味を持つ。結局、ワタルはサトシのトレーナーとしての決意に負け、その提案を飲んだ。

 

 結果として調査は大成功。

 

 主犯であるサカキを押さえることは出来なかったが、奴らの拠点を制圧し、ロケット団に大打撃を与えることに成功した。

 サトシはその時のバトルで大変な目に遭っていたようだが、ワタルは捜査が忙しすぎて彼の動向まで詳しく目を届かせることが出来なかった。

 

 だが、そんなサトシも、しっかりとバッジを8つ集めてカントーリーグセキエイ大会に参加していた。勝ち進む姿を見るたびに誇らしい気持ちが浮かんでくる。

何故か、シバが我が物顔でサトシのことを自慢してきたが、彼にポケモントレーナーのいろはを教えたのは何を隠そうこのワタルだ。サトシの才覚に最初に気付いたのは自分が先であると、抗議するかのようにワタルはそう声を上げた。

 

「あの子はいいぞ! 才能もセンスもある! 何より良いのは勝利に貪欲な所だ、いずれは俺達と同じ高みに来る!」

「何を我が物顔で自慢している。彼が凄いことなど最初から知っている。何せ、彼にポケモントレーナーとしての知識を与えたのはこの俺なのだからな」

「ほぉ! だが、その様子ではまだ今のやつとバトルはしていまい? 俺はしたぞ。肌であの才覚を感じた!」

「なんだと!?」

「ククク、お前にも見せてやりたかったぞ。あの熱いバトルを……彼がこの四天王のシバに一矢を報いたあの一撃を……!」

「ぐぬぬ……ぬぬぬぬぬ……!」

「……もうみっともないからその辺にしてバトルを見なさいよ。そのサトシ君の出番が来たわよ」

 

 こうして始まった準決勝の試合を見て、ワタルとシバは奇声を上げ、カンナは静かにサトシのファンになるのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 四天王のシバにとって、その少年は才能に溢れて見えた。磨き上げられた肉体に、かくとうポケモンを扱う適正――そのどれをとっても、かつての自分とは比べ物にならない。

 

 シバがサトシと同じくらいの頃は、もっと粗削りで実力もなかった。

 

 勿論、今は年月という積み重ねの分、シバの方が力がある。しかし、もしこの少年が的確に力を付けて育ったなら、いずれ自分が本気になっても勝てないかもしれない。そう思わせるだけの何かを持っていた。

 

 少年――マサラタウンのサトシは、まるで険しい山に登るかのように自分こと四天王のシバに挑戦してきた。自分の力を試したいと、そう顔に書いてある。

 

 ハッキリ言って、今はまだ勝負にもならない。サトシのエビワラーは素晴らしい素質を持っているようだが育成が追い付いていないし、格闘戦であるなら技術でシバが負けるはずがない。

 

 しかし、光るものはあった。

 

 おそらく、生まれつき打たれ弱い体質なのだろうことは、シバは彼のエビワラーを一目見た時に気付いたし、サトシもそれを補うためにエビワラーをカウンタータイプに育てていた。

 

 だが、そのカウンターを見た瞬間、いつか自分は四天王の座をこの少年に奪われるであろうことを直感した。大舞台の観衆の中、お互いにどちらかが倒れるまで殴り合う――そんな幻想がシバの頭の中を過ぎったのだ。

 

 とはいえ、今はまだ才能がある程度の子供に過ぎない。自慢のカウンターの弱点を突くように現実を教えていく。

 

 しかし、彼のエビワラーは倒れなかった。

 

 手加減はしていない。シバのエビワラーは、確実に相手が倒れるであろう一撃を叩き込んだにも関わらず、サトシのエビワラーは意地で倒れるのを拒否してきたのだ。

 

 そして、トレーナーのアドバイスを聞いて、こちらに一矢報いてきた。パンチの最中にこうそくいどうを使うことで、変速を起こしてタイミングをずらすという、シバですら気付かなかった技法を使って――

 

「待っているぞ、サトシ。いつか、必ずこの座を奪いに来い」

「何をドヤ顔してるのよ。見えないから座ってくれる?」

「なんだ、カンナ。いやにサトシにご執心だな。昨日の準決勝まではそこまで気にしたようには見えなかったが?」

「……別に。ただ、彼が優勝する可能性がある以上、その戦い方を見ておきたいだけよ」

「ククク、そうかそうか」

「何よ。その何もかも分かってますって顔……!」

「フハハハハハハ! なんでもないなんでもない!」

「ったく、うるさいねぇ! お前達、静かに見れないならどっかいきな!!」

 

 キクコに一喝されるシバとカンナを見ながら、遠巻きに様子を見ていたワタルが「あーあ、怒られてやんの」と言わんばかりの表情をしていたのは、彼だけの秘密である。

 

 

 

◇◆

 

 

 

 四天王のカンナにとって、マサラタウンのサトシという少年は、多少実力がある程度のトレーナーという印象だった。

 カントーリーグの中継を見ながら、ワタルとシバが騒ぐ中、年齢の割に良いバトルをする以外の感想は生まれてこなかったというのが本音だ。

 

 しかし、そんな彼女の印象も、サトシがリーグを勝ち進むごとに変化していく。

 

 決定打だったのは、サトシと幼馴染であるシゲルがバトルをした準決勝のことだ。別に特別なリザードンを使っていたからではない。劣勢の中、それでも諦めずに楽しそうにバトルをする彼の笑顔に、年甲斐もなくカンナは惚れこんでしまった。

 

 勿論、惚れ込んだと言っても、恋愛的な意味ではない。どちらかと言えば、アイドルに憧れるファンのような感じである。

 

 サトシは頑張ったがカントーリーグの決勝で敗退してしまった。だが、ワタルやシバが彼の将来に期待しているように、カンナもまた彼がいつかカントーの四天王リーグに挑戦するのを楽しみにしていた。

 

 そんな密かな楽しみを胸に、四天王としての仕事をしていた時のことだ。オレンジ諸島のマンダリン島という場所で講演会をする仕事を引き受け、いざ訪れてみるとサトシがそこにいた。

 

 最初は喜びに満ち震え、すぐにでも声をかけようと思った――が、冷静に彼のバトルを見ている内に考えが変わる。カンナが惚れ込んだ彼のバトルは、あの時とは全く別物に変わってしまっていたのだ。

 

 まるで、作業のようにつまらなそうにバトルをしている。死ぬ程バトルが楽しいと笑っていた彼はそこには存在していなかった。

 

 カンナはすぐに気づいた。彼は挫折してしまったのだと。その実力故に負け知らずだったであろうことは容易に想像がつく。それが、あの決勝の敗北で表面に出て、彼はポケモンバトルの楽しさを見失ってしまったのだと。

 

 それは、カンナにとって他人事ではなかった。

 

 何故なら、カンナもまた少し前に挫折を経験したからだ。レッドというカントー最強のチャンピオンに敗北して、カンナは少し前まで向上心を失ってしまっていた。

 手も足も出ずにコテンパンにされ、バトルの意味を見出せず、最終的には四天王を引退することも考えた――留まることが出来たのは、キクコがカンナの精神状態に気づいてメンタルケアをしてくれたからだ。

 

 あの老婆は、長く四天王という立場にいるだけはあってトレーナーの機微に敏い。カンナが挫折したことにもすぐに気づいて寄り添ってくれた。

 

 だからこそ、カンナには今のサトシの状態が良く分かる。しかし、自分とサトシは初対面だ。キクコのように、寄り添ってメンタルケアをするには信頼度が足りない。

 

 故に、カンナは実力行使に出ることにした。

 

 自分の惚れ込んだトレーナーなら、きっとこの挫折を乗り越えることが出来る。そう信じて、カンナはサトシへバトルを申し込んだ。

 

 自分の現状に自覚のないサトシはそれを受け入れ、カンナとのバトルが始まる。だが、すぐに苦しそうな表情を浮かべた。負けることへの恐怖が彼を襲い、マサラタウンのサトシというトレーナーの首を絞める。

 

 けど、彼は乗り越えた。

 

 ピカチュウの電撃を自分の体で受け、ようやく彼はカンナの惚れ込んだマサラタウンのサトシに戻ったのだ。現状、自分の方が圧倒的に有利な状況ではあるが、サトシはそんなこと知らんと言わんばかりに笑みを浮かべて対応してくる。

 

 その強さは、間違いなく自分に匹敵するものだった。敗北の恐怖で縮こまっていた時とは動きや反応、思考速度が段違い。まるで未来でも見ているのかと思うくらいに正確に、そして的確にサトシはこちらの動きに対応してきた。

 

 結果は、引き分け――勿論、本気で倒そうと思えばいつでも倒せた。けど、本来の自分を取り戻してからのサトシの力は、間違いなく本物だった。

 

 そうして、サトシはまた旅立っていく。

 

 いつか必ず、チャンピオンリーグを勝ち抜き、また自分とバトルをするという約束をして。

 

「おい、カンナ! 見たぞ、お前のブログ! サトシとバトルをしたようじゃないか!」

「あら、シバ。見たの?」

「ああ。最初は何やら不調だったようだが、後半の怒涛の追い込みは素晴らしいの一言に尽きる! あの小僧、ちょっと会わない間にまた強くなっていたな!」

「フフフ、そうね。サトシ君はどんなバトルも自分の強さに変えてくる。次に会う時はもっと強くなっているでしょうね」

「………………」

「おやぁ? どうしたワタル? 話に混ざって来ないのか?」

「そうよ。サトシ君にバトルを教えたのは自分だって自慢してたじゃない」

「ぐ、ぐぬぬ……」

「アンタたち、また例のぼーやの話で盛り上がってんのかい? もう四天王リーグも始まるんだから、どうでもいいことで変なミスするんじゃないよ」

 

 

 

◇◆

 

 

 

 四天王のキクコにとって、マサラタウンのサトシというトレーナーは多少腕が立つ子供という印象だった。

 確かに才能はある。ポケモンを育てる能力はオーキドの孫の方が上だが、この子供にはその差を覆すだけの実力があった。実際、何かが違えば、チャンピオンリーグに進んでいてもおかしくなかったのは認める。

 

 それでも、キクコには四天王三人が夢中になる程、特別な何かをサトシが持っているようには見えなかった。何故、彼らがこんなにも一人の少年に夢中になっているのか、今のキクコには欠片も理解できない。

 

 しかし――

 

 そう遠くない未来に、キクコは自分の意見を曲げることになる。自分の目は節穴だったと、彼女もまたサトシを認める一人となることになるのを、今はまだ誰も知らない。

 

「なーんで、あんな子に全員で夢中になってるのかね? 認めたくはないが、才能だけならオーキドの孫の方が上だろうに……」

 

 

 

 




ワタルの会話はカントーリーグ準決勝。シバの会話はカントーリーグ決勝戦。カンナの会話は四天王リーグ開始前。キクコの独り言も四天王リーグ開始前です。
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