一之瀬帆波といちゃいちゃしたいだけの話   作:砂糖

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10話 この学校で生活する楽しさ

 無人島試験3日目の話。粟瀬は当然の如く、Bクラスに遊びにきていた。粟瀬のさすがというべきところは、最低限クラスに貢献しているところだ。なんなら、貢献度に順をつけたら上位に来るレベルには貢献している。

 

「帆波ー!元気?」

 

「元気だよー。藍くんは……いつも通り元気そうだね」

 

 粟瀬が一之瀬の頭を優しく撫でながらそんな会話をする。それを横目に見ているBクラスの生徒は『いつも通りだな』と素通りできるくらいには見慣れた光景。

 

「今から何するの?」

 

「食材調達に行こうと思ってたんだ」

 

「俺も付いてっていい?もちろん、お手伝いしますよ!」

 

 一之瀬の側で一緒に食材調達に行こうとしていたメンバーが顔を合わせる。会話はせずとも、その思いは一緒。

 

「じゃあ2人で行ってこいよ!」

「そうそう!私たちは私たちで行くからさ!」

「「じゃ、楽しんで!」」

 

 その場に残されたのは粟瀬と一之瀬。粟瀬は嬉しさを顔に滲ませていたが、一之瀬はどこか納得いっていない様子。

 一之瀬は、この場を去った2人が気を利かせてくれたということに気づいていない。しかし、気づく必要はない。なぜなら粟瀬が気づいているから。

 

「じゃ、行こうか帆波。人生初の、()()()()()()だね」

 

「にゃっ!そ、そういう事かぁ」

 

 粟瀬は一之瀬の手をとって森へ足を進める。その足取りは、軽やかだった。

 

 森の中を歩き進めると、時々果実が目に留まる。それを一つ一つ取りながらまた歩き進める。

 

「んー。あれは届かないなあ」

 

「あれってどれ?」

 

 一之瀬が上を見上げながらそういうと、粟瀬は一之瀬の横に付き視線の先を見た。そこにあったのは、アケビ。やけに高いところに実ができている。

 

「アケビだよね?一回食べたんだけどここにもあったんだ」

 

「うちのクラスでも櫛田さん達が調達してたような気がする。俺なら届くかな?」

 

 粟瀬が背伸びをしながら手を伸ばすがあと数センチ足りない。そこそこ背のある彼が届かないのだからもう諦めるべきだろう。しかしそこで、粟瀬が閃いたかのように手を叩いた。

 

「高い高いをしよう。そうしたら届くかも」

 

 ドヤ顔で一之瀬に語りかけるが、一之瀬は微妙な顔。

 

「さすがの藍くんでも、私を高い高いは無理なんじゃないかなぁ」

 

 一之瀬は小柄というより、背丈はある方。それに加えて、体に大きな果実を実らせているので決して体重が軽いわけじゃない。しかしそれでも、手足は細く、腰回りも細いのでふくよかな体型というわけじゃない。

 簡単に言えば、抱き心地がものすごくいい体型。

 

「俺を舐めてますね帆波さん。これでも筋肉には自信があるんですよ。ほらほらおいでー」

 

 ボディビルポーズを簡単にとった後、粟瀬は手を広げた。ここに来てという意味を込めてだ。

 一之瀬はそれに従い粟瀬の前まで移動する。粟瀬は一之瀬の腕の下に手を回し一之瀬を持ち上げた。

 

「わっ!高いっ!」

 

「楽しい?じゃあ、アケビを取りに行きまーす」

 

 そのままアケビの元まで行き、一之瀬が手を伸ばす。位置が少し遠かった為、一之瀬は思いっきり手を伸ばす。『少し前に来て』とお願いするのは少し申し訳なく感じたため、少し不安定な体勢になりながらアケビを取った。

 

「取れたっ————うわっ」

 

 前に手を伸ばした反動で、重心が後ろに傾き倒れ込む。しかし一向に痛みはやってこない。当然、粟瀬が庇ったからだ。

 

「帆波?大丈夫……?怪我してない?」

 

 恋愛フィルターとは、想い人に対しては大抵の人がかかってしまうもので、一之瀬も例外ではなかった。

 前髪がふさっと揺れて、心配そうに自分を見上げる彼氏。いつもは見上げる事ばかりだったのに、見下ろしているこの状況。

 極端な話、一之瀬には粟瀬がとんでもないほどかっこよく、それでいて可愛く見えた。

 

「帆波?まじ大丈夫?どっかぶつけた?」

 

 一之瀬は心配そうに問いかける粟瀬に抱きついた。粟瀬の心臓の音が途端に速くなり、顔も赤くなる。

 

「あ、ありがとう……?どうしたの突然。嬉しいけど」

 

 彼女の突拍子のない行動に戸惑う粟瀬。しかし嬉しいものは嬉しいのでそのまま抱きしめ返す。

 無人島で生活しているはずなのに、一之瀬からはフローラル系のいい香りがする。粟瀬はこの状況を疑問に思いながらも楽しむ事にした。

 

「ここで休憩してくかー。いい?帆波」

 

「うん……休憩しよっか!」

 

 先程の自分の行動から我に返り、顔を赤らめている一之瀬。照れを隠すかのように笑顔を作った。粟瀬もそんな一之瀬に気付きながら、自然と笑みを浮かべる。

 アケビを採った近くの木のそばに腰を下ろして、他愛もない会話をする。焼き魚が美味しかった、恋バナをした、料理テクを披露した。そんな他愛もない会話が続いて、突然静寂が訪れる。

 聞こえてくるのは、木々が風に揺れて鳴る葉擦れの音。その音は静寂の中だからこそ目立った。

 

 一之瀬はこの無人島試験で懸念があった。どうしてという疑問が出てきて、理由があったとしてもそれが許せない自分が嫌で。そんな自分に気づいてくれない彼氏も嫌で。でも彼氏は何にも悪くないと分かってる。

 そんな渦巻くような感情は時間と友人との関わりが薄れさせてくれていた。しかし、葉擦れの音だけ聞こえてくる粟瀬と二人っきりの状況が、その懸念を思い出させた。

 

 不意に、ぎゅっと粟瀬の体操服を一之瀬が掴む。

 

「ん?どうした帆波。なんかあった?」

 

 少し俯いている一之瀬の顔を見るように、首を捻る粟瀬。突然、一之瀬は粟瀬の首に手を回し、流れるような動作でキスをした。時間は数秒にも満たないが、粟瀬がするよりも力強かったそれは、お互いの唇の感覚を長い間とどめさせていた。

 驚きで顔を赤らめ目を見開く粟瀬を、真っ直ぐに見つめる一之瀬の顔も赤かった。

 

「藍くんは私の彼氏だよね!————堀北さんさ、藍くんのジャージ着てたよね……?ごめん、それが嫌で……」

 

 嫉妬とは、めんどくさいものでもあれば、とんでもなく可愛いものでもある。

 当然、粟瀬にとって一之瀬の嫉妬とは可愛いものでしかなく、その上キスまでしてくれたら嫉妬ありがとうと喜ぶレベルだ。

 しかし、真剣な一之瀬の様子から決して馬鹿にする事なく、真っ直ぐに目を見返した。

 

「俺は帆波の彼氏だよ。俺が好きなのも帆波だけ。だから安心していいよ」

 

 そう言って、紅潮した顔で粟瀬は堀北にジャージを貸す事になった経緯を話した。その話を聞くと、一之瀬はほっと息をついて安心したような表情をする。

 

「ごめんね、藍くんの優しさに嫉妬しちゃって」

 

「んふふ。全然嫉妬していいよ!可愛いかったあ、スマホ欲しいなー。写真に収めたかった……!」

 

 粟瀬が冗談めかしく笑いながらそう言うと、一之瀬も合わせて笑う。

 

「ほらほら、おいでー」

 

 そう言って粟瀬が手を広げると、一之瀬はその中に埋まるように粟瀬にもたれかかった。粟瀬は一之瀬の全身を包み込むように抱きしめる。

 暑さで気分が悪くなってもおかしくないのに、そうなるどころか心は満たされていくばかり。

 一之瀬の胸が腕に当たっている事は脳の隅っこに追い払う。気づかないふりをして堪能するのが粟瀬流。

 この事で粟瀬が少し照れている事に気づいた一之瀬も同様に気づかないふりをして脳の隅っこに追い払っていた。照れている彼氏を気づかないふりして堪能するのが一之瀬流。

 

 満たされていくような心のおかげで、一之瀬の無人島試験での懸念は晴れた。Bクラスのベースキャンプは戻る足取りは、行きより軽やかだった。

 

 粟瀬はその日の夜、唇の感覚が離れず中々寝付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平田くん。俺、Cクラスのリーダー分かったよ。自信があるから書いて欲しい」

 

「え?もう知ってる?え、それって誰?」

 

「同じじゃん!すげー、誰が気づいたの?」

 

「堀北さん?……なるほど、さすが堀北さんだね———」

 

「はぁ……ってことは無駄骨じゃん。まあいいや。探偵ごっこで遊んでたんだって自分に言い聞かせて割り切るよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったねー、無人島試験。楽しかった?」

 

 豪華客船の施設の一つであるカフェで、クリームソーダを口にしながら俺はそう言った。

 俺のその言葉に、同じクリームソーダを飲んでいた帆波がストローから口を離して苦笑いをした。

 

「そりゃー、楽しかったよ。でも悔しいかなーっ」

 

 悔しさを顔に滲ませながら、帆波はまたジュースを一口飲む。

 Bクラスの順位は2位。4クラス中の2位だから、決して低いわけじゃない。

 

「すごいと思うよ」

 

「えぇー、1位のクラスに言われても」

 

 そう、俺のクラスは1位をとった。確かに、1位のクラスがすごいと言っても嫌味にしか聞こえないだろう。

 俺としても1位というのは予想外だった。もちろん、俺がCクラスのリーダーを見つけられていたから最下位を取る気は微塵もなかったが、まさか1位とは。

 Aクラスだって、守りが固くリーダーを見つけられたことは奇跡なようなもんだろう。まあ、可能性があるとすれば坂柳派の生徒にこっそり教えてもらうくらい。1人心当たりもあったから、でも可能性はそれくらい。

 

「すごいよ。綾小路くんは」

 

「綾小路くん?」

 

 俺の口からこぼれたその人は、帆波の予想外だったのだろう。俺もつい口からこぼれてしまった。しまったと口を手で隠してしまったので、俺のその言葉が真実だと言っているようなもの。……やらかしたー。

 

「ごめん、嘘。堀北さんだった」

 

「はぁ、……そういうことにしといてあげるよ」

 

 さすが優しい!帆波様!俺の言ったことは心の中に留めておいてくれるだろう。

 まあ、綾小路くんがすごいと言ったのも俺の勝手な妄想だけど。でも綾小路くんは頭もキレるし、今回の試験はかなり行動をとっていたからほぼ間違いないと思ってる。

 

「藍くんも今回の試験、結構頑張ってたんでしょ?結構目撃情報聞いたんだよね」

 

 帆波はそう言ってから「でも、1人で行動するのは感心しないなぁ」と付け加えた。その言葉に「ごめんごめん」と軽く謝る。

 

「まあ、無駄骨だったけどねー」

 

「そうなんだ?でも、珍しいよね。藍くんって普段はそう言う行動しないでしょ?周りに合わせて、最低限のことしかやらない。そんなイメージ」

 

「そりゃ、中々ひどい評価だ。でも、その通りだね」

 

 帆波の言う通り、俺はあまり目立つような行動はしない。今回で言うところのリーダー探しのようなもの。でも今回俺は、Cクラスのリーダーを探した。

 どうしてだろう。正直自分でもよく分かってない。まあただ、勝つためにはリーダーを探し当てることが最重要だと思ったことは間違いない。

 もしかすると俺は、Dクラスから上のクラスに上がりたいと思っているのかも。向上心ってやつかな。

 

「俺達DクラスはAクラスになるよ」

 

 俺がそういうと、帆波は意外そうに、でも嬉しそうに笑った。

 

「じゃあライバルだね。私たちBクラスも負けないよ」

 

 俺がグーを突き出すと、帆波もグーを出してコツンとぶつける。いわゆるグータッチ。

 いやぁ、正直Bクラスは敵にしたくないね。帆波のクラスだし。まあ、競い合う状況において()()()()()()()()()()()けどねー。

 

 その後、他愛もないことを駄弁りながら一日を潰した。

 

 

 




これで3巻はおわり!!
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