一之瀬帆波といちゃいちゃしたいだけの話 作:砂糖
「綾小路くん。目撃者、見つかったんだってね」
平田くん達から目撃者と思う人は見つかったとメールがきた。その人物は佐倉さんで俺と同じように考えていた人がいたことがわかった。やっぱり、俺の出る幕はないんじゃないかなぁ。
「そうなんだが、本人は違うと言っているし、無理して話させてはないけどな」
「そうだね。帆波がさ、協力するって言ってるんだよね。堀北さんに話し通せる?」
「俺が?粟瀬が自分で言ったらどうだ?」
「いやぁ、綾小路くんからじゃないと聞いてくれないよ。よろしく」
無理やり綾小路くんに仕事を託したのは今日の朝の話だ。
「それに堀北も分かってるだろ。Dクラスの目撃者は証人として弱いって」
「まあ、そうね」
暑い特別棟で偶然会った佐倉を怖い堀北から逃す。
もう目的は達成できたし、戻ろうか。本当に暑い。ここにいたら頭が回らなくなりそうだ。
「あ、綾小路くんに堀北さんじゃん」
知った声が聞こえてきてオレ達は振り返る。そこにいたのは粟瀬と粟瀬の彼女、一之瀬という生徒だ。
もしかして、デートでここにきたのか?———どうこの場を撤退するべきか。
粟瀬には声をかけられちゃったし、非リアのオレにはデート中の友達に会ってしまった時の対処法なんて知らない。助けてくれ、平田先生。
オレが思考を回している中でも堀北は全く動じてない……素直に尊敬するぞ。
「あ、デートじゃないよ。堀北さんだよね。私は一之瀬帆波。協力するって話は聞いたかな?」
黙ってたオレ達より先に一之瀬が喋り出した。堀北は警戒心剥き出しだ。
協力って朝に粟瀬が言ってたやつだよな。
おい、堀北。あれ本当だったの?みたいな顔でオレを見るな。確かにオレはBクラスの知り合いがいないから怪しむのは分かるが、話を聞かなかったのは堀北だぞ。
「あ、ごめん帆波。俺、話すの忘れてた」
「えぇ!まあ、会えたし気にしなくていいよ」
粟瀬、お前はなんていいやつなんだ。うまく話が通らなかったのはオレの責任なのに察してフォローしてくれるなんて。お前とは一生友達だっ!
「藍くんに詳しい話は聞いててね。私はこの事件が解決してほしいって思っててさ。協力してもいいかな?」
一之瀬は堀北とオレに確認するように聞いた。
この協力は一之瀬にはメリットがない。
粟瀬の彼女ということである程度は一之瀬という少女を信じてもいいと思ってるが、粟瀬の彼女だからこの事件解決に協力するというのはないはずだ。そもそも粟瀬はこの事件に非協力的だった。
「この協力はあなたにはメリットがないはずよ。それとも粟瀬くんの彼女だから?」
「えぇー?いや、藍くんは関係ないよ。嘘をついた方が勝つ事件なんて、話を聞いちゃった以上、個人的に見過ごせないんだよね」
一之瀬は続けて言う。
「私たちBクラスが協力して新しい証人になることができれば、信憑性はグッと高くなるんじゃない?見つけた目撃者はDクラスの生徒だったらしいけど、まだいるかもしれないしさ」
一之瀬はこの事件に関してかなり詳しく知ってるようだった。まあ、粟瀬が話していたんだろう。粟瀬が急に協力すると言い出したのも、一之瀬が関係しているのかもしれないな。
「どうかな?私は悪い提案じゃないと思ってるけど」
Dクラスは所詮、当事者達のクラスだ。ここでBクラスが協力してくれることは大きな意味を持つだろう。
「手伝ってもらいましょう、綾小路くん」
堀北がそう言うと一之瀬は嬉しそうに笑って粟瀬と目を合わせる。粟瀬も嬉しそうに笑う。……仲がよろしいことで。
「決まりね。よろしく堀北さん、綾小路くん」
このような形で一之瀬と関わりを持つとは思わなかったが、悪い出会いではないだろう。
「あー、それにしても暑いね、ここ」
一之瀬は薄らと額に汗をかきはじめた。粟瀬も暑そうに胸元をパタパタとしている。
「だから飲み物買ったら?って言ったじゃん。まだ冷たいからこれ飲みなよ」
「わー!ありがとう」
粟瀬は三分の一くらい減ったミネラルウォーターを一之瀬に差し出す。一之瀬もなんの躊躇もなくそれを受け取り飲み始めた。
飲みかけ、だったよな?新品じゃなかったもんな?カップルというものはこんなにもナチュラルに間接キスをするのか。いや、これが普通なのか?
堀北はそれを見ても何も思わなかったのか真顔のままだ。
「あ、円滑に物事を進めるためにも二人の連絡先聞いていいかな?」
飲み終わったミネラルウォーターを粟瀬に返した後スマホを取り出した一之瀬はそう聞いた。
堀北は視線だけでオレに指示を飛ばす。私は嫌だからあなたよろしく、だ。
「オレで良かったら。連絡くれたら対応する」
「うん、わかった」
あれ、オレって意外と女の子の連絡先、多いぞ。一之瀬は粟瀬の彼女だからノーカンとか?
そうだとしても、オレは気付かぬうちに青春を謳歌しているのかもな。
粟瀬に後で聞いてみたら連絡先の桁が違った。いや、粟瀬と比べるのがいけないんだよな。そうに決まってる。
「うっわ、しくじったぁ」
生徒会の仕事終わり。下駄箱で靴を履いた後、外を見るとゲリラ豪雨。
いや、雨ってなんで急に降ってくるんだろう。すぐ止むよな?はぁ、だるいよー。
帆波は先に帰っちゃったし、濡れて帰るか?本当に風邪ひいて休んだらマイナスポイントにならないよな?
走り出そうとしたら遠くから知った顔が近づいてくる。
「藍くんっ!お迎えに来たよっ!」
「あ゛〜〜、かわいい。まじかわいい。本当にかわいい」
「えぇ!?」
顔を赤らめてたじろぐ帆波。
いや、お迎えって可愛すぎではありませんか?いや、本当、やばいでしょ。
「ゲリラ豪雨だよね。濡れて帰ろうとしてたから助かった」
俺は、帆波が持ってきたであろう二つ目の傘を借りようと手を出した。
そうすると帆波は「あっ」と口を開いて焦り始める。
「い、いやぁ。たまには相合傘もいいんじゃないかなぁ〜、なんて」
「ん゛〜〜!かわいい」
忘れちゃったんだね!かわいいね!
あれかな、雨降ってたからお迎えに来てくれて。でもちょっと急いでたから俺の傘忘れて。いや、かわいいね!?なんでそんなにかわいいんですか!?
「じゃあお邪魔します」
「どうぞどうぞ」
身長差もあるから結局俺が傘を持って歩き出す。1人用だったからそこまで大きくない傘で、肌は密着する。
トントンとお互いに歩く音だけが聞こえて、妙な雰囲気になる。こういう時は、なぜか上手い会話が見つからない。というかいい匂いするし。どうしてそんなにもいい匂いなんですか?
「あー、須藤くんの件。協力ありがとう。綾小路くんに聞いたけど上手くいったんだってね」
「うん。楽しかったよ。あの様子じゃ、やっぱりCクラス側が嘘ついてたってことであってるみたいだね」
「龍園くんがまた、裏で糸を引いてたんでしょ。警戒しないと」
「そうだね」
また会話が途切れた。数秒沈黙が訪れてまた足音だけ聞こえる。いや、それは違うな。二人の足音と俺の心臓の音、それだけが聞こえる。
いや、さっき匂いとか考えるから息が吸いづらいっ!いい匂いだから俺がわざと嗅いでるみたいになっちゃうじゃん!
俺は手の位置は変えず少し外側に行く。距離を取らねばまずい。
すると帆波は少し眉を下げて首を傾げた。
「どうして距離とるの?嫌だった?」
「嫌なわけないよ。ただ近いと、傘なんて捨てて、帆波を抱きしめてキスしたくなっちゃうから」
あれ……?俺、今なんて言った?やばいこと……言っちゃったよね!?
あーー!俺何やってんの!帆波に引かれたよ!絶対!えぇ?やばい、どうしよう。なんか変な雰囲気で帆波と近いし、いい匂いするから変なこと言っちゃったよ、どうしよう。
「ごめん!今のなしっ!キモかったよね!」
もう取り消せないかもしれないけど、謝る。謝ってキモい判定はしないでいただきたい。いや、もう遅いか?
帆波の方を見て謝るが、帆波の顔は真っ赤だった。
「い、いや……キモくないよ、全然」
「……ありがとうございます…?」
顔が赤いってことは照れてるってことだよね?照れてる?え?照れてるの?
「あー、……雨止んだらどっかデート行かない?」
「うん。いいね」
寮までの短い道のり。会話の数は少なかったけど、普段会話する時より100倍くらい心臓がうるさかった。
ドキがムネムネって原作で綾小路も言ってるんだよね。
最初らへんの巻は綾小路が浮かれてるって感じがして好き。でも一之瀬の方が好き。