一之瀬帆波といちゃいちゃしたいだけの話   作:砂糖

8 / 11
ここから、無人島編完結まで週一ペースで更新します。
無人島試験??そんなの関係ないね。いちゃいちゃするぜ。


8話 青春を謳歌できる者には、そばにいる人がいる

 真っ赤な顔をして、上目遣いで俺を見上げる帆波。

 帆波の口から出た、欲しい誕生日プレゼントは『好き』と言う言葉だった。

 夕日に照らされて輝く帆波。風に揺らされた髪の毛と服が、紅潮した顔と合わさって妙に色っぽい。

 俺は赤くなった顔を見られるのが恥ずかしく、帆波の肩を掴んで耳に顔を寄せた。

 

「大好きだよ」

 

 俺の口から出た言葉は驚くほど優しく、叫びたい気持ちとは対になっていて妙だった。

 紅潮していた顔がさらに真っ赤になった帆波にそっと()()をする。

 帆波の唇は驚くほど柔らかく、それでいて儚かった。どうしても手元に収めたくて、帆波を全身で包むように抱きしめる。

 

「世界で一番、帆波が大好きだよ」

 

 そう言って笑うと、帆波は今にも溶けてしまいそうな表情をして俺を抱きしめてくれた。

 その抱きしめてくれる力は、宝石を持つ手より優しく、それでいて力強い。俺はその力加減が心地よくて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無人島試験2日目の朝。無人島で初めて迎えた朝は暑苦しく、早く起きたいがそのまま寝ていたいような。

 

「はぁぁぁぁぁ、帆波可愛い」

 

 暑苦しいテントから出て伸びをする。ここ数日はこの夢ばっかり見てしまう。……正直しょうがないと思う。

 

「朝から何?気味が悪いわよ」

 

「あ、堀北さん。おはよう。そんな気持ち悪かった?」

 

「ええ、ものすごく。見ているこっちが糖尿病になりそうなほど甘ったるい顔だったわ」

 

「うーん、例えがよくわかんないなあ。まあ、これからは気をつけるよ」

 

 気をつけても、改善できるかは別。俺は悪くない。帆波が悪い。帆波が可愛すぎるのが悪い。いや、全く悪くはないけどね。

 それにしても、森の中とはいえ今は夏。テントの中では蒸し暑さで汗が止まらなかったのだが、堀北さんは妙に寒そうだ。顔色もどこか良くない。それに、寒そうにしてる割には汗かいてるし。

 つい気になって、堀北さんのおでこにピタッと手をつける。そうするとまあ、熱いこと熱いこと。熱ですね、はい。

 

「いつから?」

 

「なんのことかしら」

 

「ごまかさないで。体調良くないんでしょ?」

 

「いつも通りよ」

 

 堀北さんは頑なに認めない。

 それもそうだ。堀北さんはこの無人島試験で重要な役割であるリーダーをしているし、リタイアするだけでマイナス30ポイント。

 体調不良というだけで、クラスメイトからは冷たい視線を寄越されるかも知れない。

 それでも、平田くんのようにクラスメイトからの好感度が高ければ別だが、正直堀北さんは平田くんのように好感度が飛び抜けていいわけではない。

 

「もう起きるの?まだ割と早いと思うけど」

 

 時刻は6時を回ったばかり。まだ目を覚ますクラスメイトも幸いいない。堀北さんとのこの会話も、誰かが目を覚ましていて盗み聞きさえしてなければ聞かれている心配はないはず。

 

「少し目が覚めたから水を飲みに来たのよ。川の水も、抵抗がないといえば嘘になるけれど、飲めないこともないわね」

 

 上手く話を逸らそうとする堀北さん。

 俺はカバンからジャージを取り出した。そしてそれを堀北さんに渡す。

 

「体格差あるし、今着てるジャージの上からでも着れると思うよ。俺、昨日はジャージちょっとしか着てないから、汗臭いとかもないと思う。体は冷やさない方がいい。これ着て、みんなが起きる前にもう一回寝てきな。8時まで時間もある」

 

「……彼女は怒るんじゃない?どこのどいつかも知らない女に、彼氏が服を貸してるなんて」

 

「へぇ、堀北さんも案外そういうこと気にするんだ。大丈夫だよ。帆波は世界一優しいからねー。それに、熱を出してる女の子をほっといておく方が怒られそうだよ。あと、彼女からしたら、堀北さんはどこのどいつかも知らない女じゃなくて、俺の友達でDクラスの堀北鈴音だって、ちゃんと認識してるよ」

 

「勝手にあなたの友達にしないでくれるかしら?」

 

 おっと、地雷。すまない、つい言ってしまっただけなんだ。

 まあ、俺が言いたいのは『気にするな』ということだけ。リーダーという責任もあるだろうし、体調不良は出来るだけ治して欲しい。まあ、この環境じゃあそう易々と治らないかも知れないけど。

 

「でも、有り難く借りることにするわ」

 

「うん。気にしないでいいよ。とりあえず、風邪は寝て治さないとね。はい、テントに戻った戻ったー」

 

 背中をぐいぐい押してテントに向かわせる。この事は内緒にすると約束をすると、堀北さんはテントに戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「平田くーん!俺ちょっと島を散策するねー」

 

「わかった!でも1人では行動しないようにね!」

 

 女子に手を引かれている平田くんにそう告げればそう返してくれた。

 よし、許可も出たことだし行きますか!

 

「いざ!Bクラスのベースキャンプへ!」

「おー!」

 

 俺の後に声を出した彼女は櫛田さん。俺がBクラスのベースキャンプを探すのに協力をお願いした人だ。

 まあ、なんで櫛田さんなのかっていうと。俺のペースにある程度ついてこられるくらい体力もあり、Bクラスの面々とも交流がある。俺も櫛田さんとは喋りやすいし、帆波と櫛田さんはそこそこ仲がいい。

 正直、これ以上適任はいないよね。

 ベースキャンプも昨日の散策である程度目星は付いているから、そんなに時間はかからないと思うし。

 

「わざわざありがとねー。俺のわがままに付き合ってくれて」

 

「全然いいよー。それに私も、Bクラスのベースキャンプに行ってみたいって思ってたから!」

 

 櫛田さんは笑顔が眩しい。そしていい子だ。それはもう話しやすい。時折、恋愛相談をさせてもらってる。

 

「それで、この前一之瀬さんの誕生日だったけど、何か進展はあった?」

「んふふー、実はね—————」

 

 俺は、ついにキスをした事とその時の帆波がとんでもなく可愛かったことを告げた。

 話に夢中になっていて気づかなかったが、櫛田さんの方を見ると何やら驚いた顔をしている。

 

「えっ……あのチキンで有名な粟瀬くんが手を出すなんて……!あの一之瀬さんが彼女なのに、手繋ぎしかした事ないくらいチキンだった粟瀬くんが……!」

 

「えっ、そこ驚く?」

 

「当たり前だよっ!だってあの粟瀬くんだよ!?」

 

「いや!その粟瀬は俺だけど!」

 

 どうやら、女子の間では俺がチキンだということは共通認識らしい。ちょっと否定できないのが辛い。

 しかし、チキンとはいえ俺も男だ。できればこの試験中にキスはもう何回かはしたいし、本音を言えば帆波の方からもして欲しい。

 

「あの、肉食系の顔して実はチキンな粟瀬くんが……」

 

「ねえ、ちょっと馬鹿にしてるよね!?」

 

「あはは、バレちゃった」

 

 舌を可愛く出して笑う櫛田さん。やはり馬鹿にしていた。まあ、チキンなのは認めよう。

 だが、それは今までの俺であって今の俺はチキンではない。今の俺はキスの味を知ってしまった肉食動物も同然。

 

「どうする?俺がキスから調子乗って帆波に襲い掛かったら」

 

「うーん。とりあえず、粟瀬くんの悪口言いふらして女子の嫌われ者にするかなー」

 

 おぉ、怖い。俺は肉食動物はやめとくぜ。俺は帆波第一で生きたいからな。まあ、理性さえあれば男だろうと襲い掛かることなんてしないと思うけど。いや、理性があるからこそ、逆らえないとわかっている女性を襲うのか?とんでもねぇな。

 

「んー、そろそろ着きそうなんだけどなあ」

 

 喋っていると時間はあっという間に過ぎていき、そろそろBクラスのベースキャンプに着きそうな所まできた。

 

「あっ、あれじゃないかな?開けた場所があるよ!」

 

 そう言って櫛田さんが指差した先には確かに開けた場所があり、人の影が見える。そこがBクラスのベースキャンプで間違い無いだろう。

 だんだんと近づいてくると、何人かがこちらに気づく。そして、なぜか大きく目を見開いて叫び出した。

 

「一之瀬ぇぇぇ!!!!!彼氏が浮気してるぞ!!!!」

 

「「えぇ!?」」

 

 俺と櫛田さんが声を上げてしまったのは悪くないと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベースキャンプの隅で、何人かが大きな声を出している事に気がついたのは、私がクラスのまとめ役として全体を見ていたからだ。

 

「————騒ぎが起きてると思ったら、そういうことね。よかったぁ、くだらない事で」

 

「くだらないって酷くないですか!帆波さん!そこの別府くんは俺が帆波という彼女がいながら浮気するクソ野郎って言ったんですよ!俺が浮気するわけないでしょがー!!!」

 

「まあまあ、粟瀬くん。別府くんもそこまで言ってないよ。それに、男女で来ちゃった私たちにも非はあるよ。ごめんね、一之瀬さん。こんな事で騒ぎ起こしちゃって」

 

「うんん、全然っ!むしろ、藍くんもいつも通りで安心したよー。じゃ、みんな解散ー!それぞれの作業に戻ろっか!」

 

 私がそう声をかけると、集まっていたみんながそれぞれバラけ始めた。それに合わせて私は2人をベースキャンプに案内した。

 1人は粟瀬藍くん。私の好きな人だ。もう1人は櫛田桔梗さん。彼女は入学してから仲良くなった友達。

 

 正直、藍くんの浮気の声に内心はとんでもなく焦っていた。本人が自らひけらかす事はないが、藍くんはかっこいい。彼氏という贔屓目を省いても、かっこいいと思う。

 それだから、私より可愛い子たちと交流もあるだろうし、と心配していたのだ。

 そんな時に櫛田さんと2人でやってきたなんて知ってしまえば、焦ってしまうのも仕方のない事だと思う。そんな心配も杞憂に終わったんだけどね。

 

「どうして2人で来たの?あっ、もちろん来ないでほしいとか、そういう意図はないよ!?」

 

 内心では2人で仲良くここに来る様子を想像して、ちょっぴり嫉妬していたので、ちょっと言い方がキツくなってしまった気がした。

 口にもしたが、私だって2人に来てほしくない訳ではない。ただちょっと、2人がお似合いだから私の彼氏なのにと、嫉妬してしまうだけだ。

 あー、藍くんには言えないなぁ。こんな恥ずかしい事。もっと彼女として余裕持たなきゃ。

 

「櫛田さんは帆波とも仲がいいでしょ?俺がちょっと無理言ってお願いしたんだ」

 

「そうなの。私、試験中なのに一之瀬さんに会えて嬉しいなぁ」

 

 櫛田さんは笑顔で私に笑いかけてくれる。うぅー、私はこんな優しい子に嫉妬してしまってたなんて。恥ずかしい。

 

「私も会えて嬉しいな。よかったらベースキャンプを案内しようか?ゆっくりしていきなよっ」

 

「んーとね。帆波を海に誘いに来たんだよね。忙しそうなら日を改めるけど、今日は無理そう?今すぐじゃなくてもいいからさ」

 

 まだ今日は海を見ていないからすっかりと記憶から抜け落ちていたけど、今は無人島に来ていて、海はとても綺麗だった。

 私は頭の中でやらないといけない事をまとめる。

 

「今すぐは無理だけど、10分後とかなら大丈夫だと思う!一度ベースキャンプ戻っててもいいけど、ここで待つ?」

 

 今は食材調達に出ているクラスメイトが何人かいるから、まとめ役としてすぐには出ていけないけど、かなり前に出て行ったから帰ってくるのにそんなに時間はかからないはず。

 私がそう聞くと藍くんは櫛田さんと相談し始めた。

 

「櫛田さんはどうする?」

 

「私は一度戻ろうかなって。2人の邪魔しちゃ悪いしね」

 

「んーじゃあ。俺たちは一度戻るよ。櫛田さんを送ったら、すぐにこっちに向かうね」

 

 2人は大きく手を振りながら戻って行った。私は2人を見送りながら考える。

 海、か。楽しみだな。最近行ってなかったし、それに藍くんもいる。そういえば、星之宮先生がこんなことを言っていた。

 

『ここの海すっごく綺麗よー。一之瀬さんも、彼氏と遊ぶといいわ。絶対に仲が深められるわよ!キスくらいなら、木の影に隠れればできるわよ』

 

 その先生の言葉と同時に、先程までここにいた藍くんの艶めかしい唇を思い出す。

 そして一瞬で体が火照る。は、恥ずかしい。急に海で遊ぶのが恥ずかしくなってきちゃった……。

 うわぁぁ、と思考をぐちゃぐちゃに混ぜで一度リセットする。

 落ち着こう。2人っきりじゃないんだ。櫛田さんもいるはずだし、妙に緊張する必要はない。

 私は一度深呼吸をして、また作業に戻った。作業の手が速かったのは、私は恥ずかしがりながらもこの後、海で遊ぶのを楽しみに思っているからだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帆波っ!海行こう!」

 

「う、うん!」

 

 Bクラスのベースキャンプにやってきてすぐ、帆波の手を引いて海へ向かう。

 なんだか帆波の顔が赤いが、多分暑いからだろう。日焼け止めちゃんと塗ったかな?帆波、元から白いから焼けたら多分すごい痛いと思う。そういう俺も、割と色白で日焼けするとマジで痛いのでちゃんと塗ってきた。

 

「水着着てきた?」

 

「着てきたよ。流石にあっちじゃ着替えられないから」

 

 そりゃそうだ。ベースキャンプだからテントがある訳で、海辺にテントを置いておいてくれる優しさなどこの学校にはない。まあ、試験だからだろうけどさ。

 

「そ、それにしてもさ。2人なんだね」

 

「ん?うん。あれ?言ってなかったっけ」

 

 櫛田さんには心底申し訳ないが、本当についてきてもらっただけなんだよね。

 いや、櫛田さんなら来てもらっても全然いいけど、やっぱ2人の方が嬉しいし。そう言う考えが透けていたんだろう。櫛田さんは自ら「2人で楽しんで来なよ」と言ってくれた。ありがてぇ。

 

 海に着くと着替え始める。と言っても、先ほど話した通りお互いに下に水着を着ているので、上に着ている体操服を脱ぐだけだけど。

 俺はささっと脱いでカバンに服をしまう。

 帆波は着替え終わったかなーっと帆波を見るとちょうど上を脱いでいるところだった。

 スラっとした腰回りにたわわな胸。肌は白くて透けて見えてきそうなほど。頭を服がくぐると、ストロベリーブランドに輝く髪がこれでもかというほどにサラサラと揺れる。それは本物の絹のようで、笑顔を浮かべない帆波はまるで人形の様だった。

 

「にゃはは、そんなに見られると、恥ずかしいんだけど……」

 

「世界一可愛いと思う。本気で。キスしていいですか」

 

 俺はつい抱き寄せて、上から帆波を見下ろしながらそう聞く。その顔の距離はわずか15センチもないくらいで、シミシワ一つない彫刻の様に整った帆波の顔がよく見える。大きな瞳がまつ毛を揺らしながら瞬きをする。

 お互い水着なので密着度は今までの比じゃない。オレの胸あたりにも、水着一枚しか壁のない帆波の胸が当たっている。

 帆波の顔はほんの一瞬で真っ赤に染まった。

 

「こ、ここでっ!?」

 

「と、いう事は。ここじゃなきゃいいって事?」

 

「い、いやぁ、そういう訳じゃ……」

 

「じゃあ俺とキスするのが嫌って事?」

 

「い、い……」

 

 言葉を詰まらせる帆波を真っ直ぐに見つめる。わずかに、両腕にかける力を込める。キュッと抱きしめると、夏の太陽に照らされ輝いている帆波の前髪が揺れた。

 

「い、いや、じゃない……」

 

 最後は聞き逃してしまうほど小さい声だったが、聴力検査に引っかかったことのない俺は聞き逃さない。

 追撃とばかりに顔を近づけた。そして、俺はちょっといたずらっ子の様に笑って言う。

 

「じゃあしていいよね」

 

 顔の距離は僅か10センチ。ここで目を伏せてくれたらOKサインだろう。

 しかし、さすがの帆波は目を伏せる事はなく、俺を突き放した。と言っても優しくぐいぐいと、真っ赤な顔を逸らしながらやられただけなので精神的ダメージはゼロ。むしろ可愛くてHP回復。まあ、ここではやだって言ってたから、今回は俺が悪いだろう。

 

「じゃ、後でね」

 

「〜〜〜〜っ!???!?!?」

 

 俺は、囁く様に帆波の耳元でそう言った。

 声になってない声で叫んだ帆波を横目に俺は海に駆け出す。

 俺の夏休み最高すぎんだろっ!

 

 ちなみに。帰り道にキスをした。ちょっとだけ海の味がして、それなのにしょっぱくないキスは、本当に不思議だと思う。

 

 

 




割とキャンプとか行くアウトドアな主人公は旅行テンションです。キス一回してから調子に乗ってます。いつから怒られろ、この野郎。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。