前世一般男性の俺が牝馬になった日 作:なんちゃらクイーンの2008
ウマ娘パートと言いつつトレーナーパートみたいになりました。
短いです。仕事の休みが取れないので次回の更新も遅くなると思います。許して。
春、それは出会いの季節。舞い散る桜に交ざるブルーブラックの彼女との出会いを俺は一生忘れないだろう。
トレセン学園に所属して数年。先輩トレーナーのチームでサブトレーナーとして経験を積んだ俺は先輩の下を離れ、独立した……と言うかさせられた。
いい加減自分の担当を持てと追い出されたわけだ。
トレセン学園の生徒は2000人弱。チームや専属のトレーナーを見つけられず、デビューすらできないまま学園を去るウマ娘も少なくはない。
そんな中でトレーナーを遊ばせておく余裕はない、と言う事らしい。
はからずも個人トレーナーとなってしまった俺は、ウマ娘をスカウトして担当を持たなければならない。
しかし俺はサブトレーナーとしての経験こそあれどトレーナーとしては新米、模擬レースを行うウマ娘に声を掛けてみてはにべもなく断られる日々。
成果を上げることができず時間だけが過ぎていく中、気が付けば年に4度の選抜レースの日になっていた。
これを逃せば優秀なウマ娘をスカウトする機会はかなり減ってしまう。
しかし自分のような無名トレーナーが選抜レースの勝ちウマ娘に見向きされるはずもなく、何度かスカウトを掛けてみるもやはりいい返事はもらえなかった。
しばらく選抜レースを眺めた後、何となく居心地の悪さを感じた俺はグラウンドを後にした。
ふらふらと学園を歩き回り、俺は正門まで来ていた。生徒たちは既に登校しきっている時間なので誰も居ないその空間がやるせない気持ちを落ち着けるのにちょうどよかった。
「はぁ……上手くいかねぇなぁ……」
正門前に咲き誇る桜を見上げながら独り言つ。
しばらく桜を見ていると外から走る音が聞こえてくる。
見たところトレセン学園の生徒のようで、なかなか珍しい遅刻者だった。しかし既に門扉は閉まっており、仕方ないから開けてやるかと思っていると、何故か彼女はさらに速度を上げて門扉に向かって突っ込んできた。
「おーい! 危ないぞ! 今、門を開けるから待ってろ!」
しかし彼女はスピードを一切落とさずに踏み込むと高さ150cmはある門扉を軽々と飛び越えた。そして俺の目の前に奇麗に着地すると一言。
「その必要はありません」
「君なぁ……危ないだろ! 一歩間違えば骨折、最悪走れない体になっていたぞ!」
「お気になさらず、慣れているので」
「な、慣れてるって君ねぇ……まあ、いいや君。名前を教えてくれないか」
名前を尋ねつつ俺は目の前の彼女を観察する。
奇麗に切りそろえられた前髪に、腰まで届くスーパーロングの髪。暗めのブルーブラックの青鹿毛ウマ娘。身長は低く門扉と同じぐらいしか無い。
「失礼、私この後の選抜レースに出る予定があるので。何かあればグラウンドでお願いします。このままだと遅刻しそうなので」
そう言うと彼女は一瞬で走り去ってしまった。いや、名前……まあ、いいか。
しかし、とんでもない瞬発力だ。自分の身長と変わらない高さの門扉をも軽々飛び越える柔軟性も気になる。
なにより門扉を飛び越える彼女が目に焼き付いて離れない、彼女をスカウトしたい。
この後の選抜レースに出ると言っていたし俺ももう一度グラウンドに戻るとしよう。
『残り200mを切って8番オルフェーヴルが先頭! 後続上がってきて2番手は1番レーヴディソール! しかしオルフェーヴル先頭だ! レーヴディソール届かない! 今オルフェーヴル1着でゴールイン! 2着はレーヴディソール!』
俺がグラウンドに戻ると丁度レースが終わったところらしく、1着と2着のウマ娘にトレーナーたちが一斉に駆け寄っていくのが見えた。どうやら今日集まったトレーナー達の目当ては彼女たちのようだった。
『春選抜、第12レースに出走する選手はゲート前に集合してください』
次レースのアナウンスが流れる。
ゲート前に視線を向ければ準備体操をするウマ娘たちの中に彼女はいた。軽く柔軟をしている彼女を見れば異様なほど体が柔らかいことがわかる。彼女はその場でステップを軽く踏むとそのままゲートへと入っていた。
若いウマ娘にはゲートが苦手な娘も多いが彼女はそうではないようだ。
ゲートが開くと同時に飛び出したのは彼女であった、やはり素晴らしい瞬発力だ。地を這うような力強い走行でハナを切った彼女はそのままハイペースで逃げると、先頭を維持したまま後続を突き放しあっさりと1着でゴールした。
『クイーンリュンヌ、今1着でゴールイン! まさかの大逃げで勝利です!』
圧倒的なまでの強さを見せた彼女ではあったが不思議と彼女にスカウトを持ちかけようとするトレーナーは居なかった。
なぜだろうと周りを見渡すとほぼ全てのトレーナーが前レースのウマ娘たちに未だに群がっているのが見える。
またとないチャンスの到来に俺は彼女に駆け寄った。
「やあ、君。さっきぶりだな。見事な逃げだったよ、おめでとう」
「おま……貴方は先ほどの……トレーナーだったのですね。ありがとうございます」
「ああ、無名の新人トレーナーさ。じゃあ改めて君の名前を教えてくれないか?」
「私の名前なら、実況で聞いたと思いますが……いいでしょう。私はクイーン……クイーンリュンヌです。いずれ最高のウマ娘になる女の名前です。よく覚えておきなさい」
「クイーンリュンヌ……俺は君をスカウトしたい、是非俺のチームに、いやチームと言っても他に誰もいないけど、是非俺と組んでくれないか!」
「……スカウトですか。いいでしょうその話受けてあげます、今日からお前が私のトレーナーです」
彼女があっさりとスカウトを受けてくれたので俺は逆にびっくりしてしまう。
「い、いいのか? そんなあっさりと決めて。いや自分でスカウトを持ちかけておいてなんだが俺は無名で新人だぞ?」
「ええ、いいんです。他のトレーナーはホラ、みなさい。オルフェとレーヴに群がっているでしょう? だれも私を見ていないんです、でもお前は私を見ていました。だからお前です」
「ハハハ……いいのかそんなんで決めて。いや俺はうれしいけどさ」
「いいんです、無名のトレーナーと期待されていなかったウマ娘。このコンビでトゥインクルシリーズを駆け上がるんです。頂点に上った時に見える景色は最高ですよ」
「ハハハ! 違いない! コレからよろしくな! クイーン!」
「こちらこそよろしくです、トレーナー。今日から私がお前の愛バです。私から目を離さずに見ていなさい!」
クイーンはそう言うと目を細めて笑うのであった。
クイーンリュンヌンの秘密
実は結構惚れっぽい