邪教のススメ   作:抹茶れもん

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 解説パァート!!



巫女勧誘(裏)

「ふぃ〜っ、やぁっと一仕事終わったか」

 

 テキトーに聖堂とかいかにもらしい名前をつけたただの寂れたボロ広場から離れた地下街の路上にて、私は背伸びをしながらシナリオの第一段階終了を(ねぎら)った。

 クリスティーナの勧誘に成功したあの後、食糧を調達してくるという(てい)で一旦その場を離れて現在に至る。地下街の活動もいよいよ大詰めだ。それにあたり必要な物資を卸してこいと得意先にに伝えておかなければならないのだ。あと諸々の(賄賂)もある。

 そんな益体もないことを考えていると、路地からゾロゾロと手に武器を構えたゴロツキ共が現れた。

 

「おい、てめェ! その銀髪……広場のヤツだよなァ!? 先週てめェらに殺されたヤツの兄貴分がオレだァ! 同じように身内を殺されたヤツらを連れてきた……! 生皮剥いでくびり殺してやるぞォ!!」

 

「ウワ〜」

 

 面倒くせぇ。そもそもこっちが集めた食い物と毛布の追い剥ぎ目当てで襲ってきたのはてめぇらだろーが、舐めてんのかオォン?

 

「囲め囲め! 袋叩きにしろ!」

 

 私が心中でガンつけている間にもゴロツキ共による包囲網が完成していく。

 やり方次第じゃ穏便に済ませることもできたが私はそうしなかった。

 なんたって、今は最高にテンション上がってんだからなァ!

 

「やっちまえェー!」

 

「ハハハ! やってみろ、地獄を見せてやるからよおォッ!!」

 

 最近もっぱら運動不足だ! 覚悟しろ、地面のシミにしてくれるわー!!

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「で、さんざ暴れてきた挙げ句にこりゃ一人じゃ無理だと逃げてきたってぇワケか」

 

「ザッツライ。その通りだよパウロくん」

 

「ナメた口きいてんじゃんねぇよクソガキ。立場ってもんを考えやがれ!」

 

 人通りの無い路地裏でブサイクな大男と超絶美少女たる私のフランクな掛け合いが響き渡る。

 

 私のパウロくん呼びに青筋を立てているこのがっしりとした体格のいかにもな強面ゴリラ男。名前はパウロくん。数年前からこの地下街を牛耳るギャング共の首領している34歳バツイチ独身ゴリラであり、私の得意先……主な収入源でもある。

 何事も金が無ければやっていけないものだ。スラムでの教団運営だってそこは変わらない。信者の食い物、調理器具、衣服、毛布、消毒用の酒、娯楽用の楽器、その他生活用品にあと私のピストル管理費。

 そこら辺を一手に担ってくれているのがこのパウロくんなのだ。私も彼の大柄で強靭な体格と気前の良さ、そしてそのクソザコな脳みそを気に入っている。

 

「で、何の用で呼び出しやがったんだぁ? クソガキ、オレはお前と違って忙しいんだが?」

 

「パウロくんが忙しいのは私のおかげだろ? 私のアドバイジングが無ければ今ごろ君はブタのエサだ」

 

 なぜギャングのボスと今はまだ一人前ホームレス集団の代表が取引関係にあるのか。それはまぁ色々あったのだが、かいつまんで言えば内部抗争状態だったそのギャングに私がパウロくんを通して口を挟み、彼をボスにしてあげた恩の代わりに物資を融通してくれたり、困った時に手を貸してくれるように取引したのだ。

 

「というわけで、新しく50着分の綺麗な黒地と白地の布、20人分の裁縫道具、ブレスレット用の糸とそれが通るような穴が空いた綺麗な丸い石をありったけ。それといつもの量の食い物を50人分。これで全部かな、よろしく頼むよ」

 

「チッ、可愛げのねぇガキだ。強欲すぎんだろ」

 

「え? もしかして……用意できないの?」

 

「ハァン!? できるわ! ナメんじゃねぇっつってんだ!!」

 

 チョロォ〜。やっぱこのサルいいカモだわ。いじっても面白いし。

 

「……ところでだな、お前が先週依頼してきた殺しの件なんだが」

 

「ん? それがどうしたんだい」

 

「没落したお貴族様じゃねーかよぉ! なんか面倒なことにならねぇだろうなぁ!?」

 

「胸ぐら掴むなおっさん。くさい」

 

「ハァン!? くさかねーわぁ!!」

 

 やっぱ気付くか。あわよくばその節穴で見逃して欲しかったのだが。そうすればこんなくさい思いしなくて済んだのに。

 

「ハイハイ説明するから離せ離せ。

 うん、それで良し。さて、結論から言えば大丈夫だから気にしなくていーよ。お上の連中も不干渉を貫くそうだからね、薄情な連中だよ全く」

 

「なんでお前がンなこと知ってるかは今更もう聞かねぇけどよ、結局何の目的があったんだ?」

 

「お巫女さんの勧誘のためだよ。あれはその下準備」

 

 そう、先程入信したクリスティーナ。彼女の父を殺したのはつまるところ私の指示である。

 シナリオはこうだ。

 まず私はとある信頼のできるスジからある報告を受けた。それは貴族街の侯爵、ユーハヴェット家が没落して地下街のスラムに落ち延びたというもの。

 目を付けたのはその一家の令嬢であるクリスティーナ・ユーハヴェット侯爵令嬢。14歳という若さで珍しい治癒魔法を駆使し、礼儀正しく社交界でもってそれなりに注目されていた金髪碧眼の容姿端麗な美少女。噂では宰相の(せがれ)との見合いも予定されていたとか。

 そんな彼女の評判を聞き、これは使えると思ったわけだ。

 

「広告塔として、ね」

 

「広告塔ぉ?」

 

「そうさ。考えてもみたまえよ。

 社交界を背負(しょ)って立つことを期待された美しいご令嬢がなんの因果かドン底のスラム落ち! そこで神の使徒ととの出会いを果たし、神の巫女として見初められ再び日の目を浴びるようになった! そして教義に忠実に従い、持ち前の治癒魔法を身分の差すら(かえり)みず惜しみなく非魔法使いの民衆のために使う『神の巫女』となるわけさ!

 ハハハ、教団のイメージアップにこれほど最適な人材がいるか!? しかも本人は自分の思想や意志などひとつも持たない指示待ち人間ときた……扱いやすいったらありゃあしない!」

 

「うわぁ……」

 

 彼女の性格は送られてきた資料によって既にプロファイリング済みだ。今回は『ビッグファイブ』という5つの要素で正確にその人間の性質を表す手法を用いた。

 外交性、調和性、誠実性、ストレス耐性、創造性、この5点の高低で診断する。

 クリスティーナの場合は調和性と誠実性が高く、ストレス耐性と創造性が低かった。つまり心優しく真面目で責任感があり、特に家族愛が強かった。場の空気を読むことに長ける一方で、自分の意見を殺しがち。さらには甘やかされて育ったためか不安を抱きやすい。

 簡単に言えばモロ宗教にハマりやすい性格だ。ターゲットにした理由の一つである。

 

「人は不安をどうにかして解消しようとする生き物だ。そして不安から救ってくれた人物に対して最大級の信頼を向ける。

 だから私は彼女の父親を殺した。母親も殺すつもりだったんだが勝手に病死してくれたのはラッキーだったね。

 最愛の父母が死に、いつ死ぬかもわからないスラム生活をたった1人でこれから一生切り抜けなければならない……クリスティーナの不安はピークになる。そして絶対絶命のピンチに私が現れ、見事に悪漢を撃退! ホラ、命の恩人になるなんて簡単だろ?」

 

「うわぁ……」

 

 彼女を慰める際に頭を撫で、優しく抱きしめたのもポイントだ。どちらも父親と母親を彷彿とさせる象徴的なアクションであり、家族を失った悲しみと不安に苛まれる彼女にはクリーンヒットする。

 

「次に解消する不安は衣・食・住という生活における3大要素。

 身体を暖める毛布、粗末だが定期的に振る舞われる無償の食事、住に関しては此処が地下街で雨風に晒されない時点で解決してる。

 この定期的、無償というのが重要でさ、パウロくんは『返報性の原理』って知ってる?」

 

 『返報性の原理』とは恩を受けた人間はできる限りその恩をを返そうとする心理のことだ。

 恩を受けるとは衣食住の継続的な保証で、恩を返すとは入信すること。

 こういう時は『無償』というのが特に強い。タダより高いものは無いとはよく言ったものだ。

 加えてそれが継続的であれば、相手もまた継続的にその恩を返さなければならないという心理が働く。カルトにハマった人間が容易に脱会できなくなるのはこのせいだ。

 

「そして、詰めとして使ったのが『アンビバレント』というテクニック。

 これは人間ならば誰もが持っている2面性を指摘することで信頼を得る手法でね、特に普段表に出している面は大勢の前で肯定し、裏の面は一対一になった時に指摘してやるのが効果的だ」

 

 不思議なことに、人間は普段見せない部分、または自分でも気づいていない自分を言い当てられると非常に驚くと共に、目の前の人間は真の自分を見てくれているという信頼感を抱くのだ。

 教団のガキ共と2人で一緒に遊んでやることで表の優しさを肯定し、夜の一対一の会話で不安からくる自分の『流されやすさ』を否定して、ありもしない『芯の強さ』をまるで存在するかのように指摘する。

 

 ここまでやれば万に一つも取り逃すことはない。彼女はまんまと『信頼』という名の落とし穴に落っこちたわけだ。

 

「信頼とは目に見えない鎖のようなもの。鋼鉄のように頑丈なくせに、蜘蛛の巣のように絡め取られ、気づかぬうちに雁字搦(がんじがら)めだ。

 そう考えると、信頼こそが神への信仰であるとも言えるかもね」

 

「タチ悪りぃなぁ、オイ……」

 

「ハハ、なんとでも言いたまえ。君も為になったろ? 聞けばまた内部派閥が割れ気味だそうじゃないか。今日の話を教訓にすれば、頭の弱い君でも上手いことまとめられるんじゃないかな?」

 

「……! ったく、全部お見通しってわけかよクソが!」

 

「ハッハッハ!」

 

 途端に眉を顰めるパウロくんに笑いが噴き出る。良いアドバイスになっただろうよ!

 

「というわけで、頼んだ物資に追加でありったけの羊皮紙とインク、あと50人分のペンをツケといてくれ。あ、それとさっきゴロツキ共に盛大にぶっ放してきた弾薬の補充も頼むよ」

 

「クソ……足下見やがってこのインチキ教祖! てめぇの宗教うさんくせぇ上にテキトーなんだよ!」

 

「教義なんてテキトーでいいんだよ、テキトーで。どうせ細かいところは信者が勝手に理屈つけてくれんだからさ。

 じゃ、私はもう帰る。5日後に受け取りに来るから、物資と運び屋にちゃんと都合をつけとくようにね」

 

「待て! 最後に一つ聞かせろ!」

 

「あん?」

 

 言いたいことだけ言ってさっさと背を向けて立ち去ろうとする私にパウロくんが怒鳴る。

 

「てめぇが世間知らずの女一匹仕入れるのにそこまでする理由が見えねぇ。さっき言ったことだけじゃねぇだろ! 物資もそうだ。今まで要求してこなかったもん大量に言いつけやがって……一体てめぇ、今度は何やらかそうとしてやがる!?」

 

「ほぉー……パウロくん、もしかしてしばらく見ないうちにちょっと頭良くなったんじゃない? 魚の目玉でも食ってんの?」

 

「ンなもん食うか!」

 

 いや意外すぎてつい。

 しかし目的、目的ねぇ……

 

「———そりゃあ、お前が知るべきことじゃねぇよなァ」

 

「……!」

 

 私は首だけで振り返り、大柄な男を睨め上げる。小柄な少女に怯える大男など

 上下関係はもう決まってる。だから、ただの駒が余計な詮索をするべきじゃあないんだよなァ。

 

「ま、そのうち気が向いたら教えてやるよ。それじゃあねパウロ、せいぜい組織経営がんばりな〜」

 

「……」

 

 私の目的は最初から一切のブレは無い。私は今度こそ間違えない。物資が届いて準備が整った後、シナリオは第2段階に移行する。

 ———君には期待しているよ、クリスティーナ。




☆人の性格を理解する方法!
●ビッグファイブ……かなり正確です。高名な学者さんが脳みそ絞って考えたのでマジで正確です。
 自己分析にも使えますが、小説書くときにキャラクターになった気分でやってみるとそのキャラへの解像度が上がったりするのでオススメです。無料で診断できるサイトとか色々あります。
 ちなみにエヴァンジェリンは外交性と創造性が99%でぶっちぎりで高く、誠実性とストレス耐性もかなり高い値でしたが、協調性が1%というドン底でした。
 まぁ、わかりやすく言うとクッソ計算高いメスガキです。

☆人の心を掴む方法!
●返報性の原理……真面目な人ほど足をすくわれます。ご注意ください。
 ちなみに恋愛にも応用できます。相手のことを褒めたり好きという気持ちを伝えれば相手もそれに応えようとしてくれます。しかしやりすぎると逆に嫌われるのでご注意を。
●アンビバレント……社交的な人には「普段明るいけど、1人になるとよく落ち込んだりするんじゃない?」と言い、内向的な人には「普段冷静で落ち着いてるけど、実は一つのことにとことんのめり込める情熱があるよね」と言うと「こいつ心読めるんじゃね……?」と思われます。
 ただ、暗い人にそのまんま「暗い人だよね」と言うとキレられたりするので言い方は適宜変えていきましょう。
 あと普通に外れることがあるので、その場合に備えてリカバリーとなる返事をあらかじめ考えておくといいです。コツは自分の指摘の範囲を拡大して包括してしまうことです。
 言い方考えないとドン引きされることもあるので他の色んな心理的テクニックと組み合わせると効果的です。
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