千恋*万花~Another Tale~   作:もう何も辛くない

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遅くなってしまいました。
リアルが忙しかったのと、ちょっとポケットでモンスターな世界にて冒険を─────ゲフンゲフン

そ、それでは続きをどうぞ(汗)


第十一話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば今日から新学期だけれど、のんびりしていて大丈夫なのかい?」

 

 駒川の口からそんな問い掛けが出てきたのは、二人で朝食を食べている時の事だった。

 口に含んでいた目玉焼きを咀嚼して飲み込んでから、駒川の質問に答えるために口を開く。

 

「俺、高校には通ってないぞ」

 

「…え?」

 

「俺、中卒」

 

「…」

 

 駒川が目を丸くして固まっている。

 そこまで驚く様な事だろうか?確かに本家の人間には高校に通っている奴もいたが、そうじゃない奴は決して珍しくはなかった。

 陰陽師界隈では別にそんな─────って、駒川家はその界隈から抜けて長いのか。それならまあこの反応も仕方ないのか?

 

「いや、すまない。これから私は学校に行くし、良ければ案内しようかと思っていたんだ」

 

「…あー、そういや保健医してんだっけか」

 

 駒川の返答を聞いてから思い出す。駒川は診療所を営んでいるだけでなく、この町の学校の保健医も兼任している。

 今日から新学期ならば、当然駒川も一職員としてこれから学校に通う事になる。そして、駒川は俺も今日から学校に通うものだと勘違いしたらしい。

 

「しかし…それは少し残念だね。陽明」

 

「あ?何が」

 

 不意に、駒川が悪戯気に笑みを浮かべて可笑しな事を言い出した。

 怪訝に思いながら駒川を見返して聞き返すと、笑みは変わらず浮かべたまま駒川は続けた。

 

「芳乃様の制服姿、なかなかに似合っているんだよ?」

 

「…」

 

 思わぬその台詞に俺は返事を返す事が出来なかった。

 

 俺は今まで、高校に進学しなかった事に後悔した事はなかった。

 中学を出てからは修行に集中したかったし、進学すれば修行の時間をとりづらくなると考えて進学を選ばなかった事に後悔なんてなかった。

 

 しかし今、俺は初めて、ほんの少しだけ後悔していた。

 俺は進学していない。高校に通っていない。つまり、俺は学園に通う必要はない─────言い方を変えれば、学園に通う事が出来ない。

 

 先程の駒川の台詞を声には出さず、頭の中で反芻する。

 学園に通えない、つまりそれは、芳乃の制服姿を見られないという事でもあるのだ。

 

「…残念だね?」

 

「何が」

 

「いや?別に?」

 

 こいつ─────切れ痔になる呪い掛けてやろうか。あれ地味にきついみたいだからな。実際に呪いを喰らった本家のあいつの顔を思い出す。

 …あれは傑作だった。今でも笑いそうになる。

 

 いや、待てよ…?芳乃の制服姿を見たいのなら、何も学校に通わなくても良いじゃないか。時間的には…家を出るには少し早いか?だが、もう着替えていても可笑しくない時間だ。

 

 よし、式神を飛ばそう。使い方があれ過ぎるが、芳乃の制服姿を見るためだ。やむを得ない。

 

「陽明…?どうしていきなり式神を出したんだい?しかもその式神、君の手に止まったまま飛ばないけど…」

 

「うるさい黙ってろ。おい、おい。くそ、何故飛ばない…っ」

 

 駒川の疑念に満ちた問い掛けを無視して俺は札から解放した小鳥の式神に命令を送り、芳乃の元へ飛ばそうとする。

 しかし、いつもは命令を送ればすぐに飛び立つというのに今回は何故か飛び立とうとしない。

 

 まさかとは思うが─────俺の邪念を感じ取って命令を拒否しているんじゃないだろうな。

 馬鹿な。式神とは本来術者に絶対服従、命令に逆らうなんてあり得ない事なのに。

 

「何故だ式神、何故動かん!」

 

「その台詞は色々と危ない気がするよ陽明」

 

 動かない式神に呼び掛けるも、小鳥の式神は首を傾げるだけ。

 くそ…、飼い犬に手を噛まれるとは微妙に違うが、そんな気分だ。

 

「こうなったら…隠し身の術で通学中の芳乃を見に行くしか…」

 

「陽明、目を覚ますんだ。本気でそれを実行すれば私はおまわりさんにストーカーとして君の身柄を明け渡さなくてはいけなくなる」

 

「警察が怖くて覗きが出来るかぁっ!」

 

「開き直るんじゃないっ!」

 

 この後、駒川の必死な呼び掛けによって俺が平静に戻るのは数分経ってからの事だった。

 でも…見たかったな、芳乃の制服姿。有地は見れて何で俺は見れないんだろ。

 

 …自業自得ですね、分かってるよこんちくしょうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝の錯乱についてすっかり頭から抜けたお昼頃、太陽がほぼ真南に昇る時間帯に俺は家を出て街を歩いていた。

 向かう先はまあ予定調和というか、朝武家の裏にある山だ。昼飯も適当に焼きそばを作って済ませ、腹も膨れた所で仕事に取り掛かる事にした。

 

 したのだが─────街中の雰囲気に俺は違和感を抱いていた。

 

「(…学生多くね?)」

 

 そう、街中を歩く住民達の中に学生が混じっているのだ。それも、こうして疑問に思う程度には多い。

 というか、おかしくないか。まだ正午を回ってすぐだぞ。普通今頃の時間帯は昼休み─────いや、まだ四時間目も終わってないんじゃないのか?

 何で普通に学生達が外を歩いて─────

 

「(あぁ、今日が始業式だからか)」

 

 そこまで思ったところで、思い出す。今日が始業式の日である事を。

 いや、始業式の日であっても午後は普通に授業という学校も多くあるが、鵜茅学院はそうではないのだろう。そうでなくてはこの光景の辻褄が合わない。

 もし俺の考えが外れていて午後も授業なのだとしたら、それにも関わらずああして学生が外を出歩いているのだとしたら─────学院の治安は終わっていると断言して良いだろう。

 

 とりあえず、もうこの事については良い。学生がここに居ようが居まいが俺には関係ない。これからの俺の予定が変わる訳でもない。

 この時の俺は、そう思っていた。間違っているなんて微塵も思っていなかった。だが、俺は分かっていなかった。

 

 学院が午前中で終わるのなら当然、学生は全員学院から出て各々の帰路に、或いは友人達とどこかに出掛けていく。

 そう、学生ならば誰でも漏れなく、例外なく、そうするのだ。

 

「陽くん?」

 

 山に、朝武家がある方へ行く道に入ろうとしたその時、俺を呼ぶ声がして足を止めた。

 

 声がした方へ振り返ると、振り返った先には俺を見て驚いたように目を丸くする三人の男女が立っている。

 

 そう、学生なら当然学院を出る。学院を出て、各々思う場所へと行く。そして、その中で多いのは恐らく自分の家へ帰る者。

 彼女は─────芳乃は、その多数に含まれるのだろう。

 だから、こうなるのは驚くほどの事じゃないのかもしれない。

 

「お前ら…」

 

 しかしだからといって、まさかこんな所で彼女達と出会うなんて思ってもいなかった俺は驚きを隠せなかった。

 確かに外に出た時間帯的にこうなる可能性は高いのかもしれないが、まさかこうも見事にばったり出会す事になるとは。

 

「どうしてここに?」

 

「山に入ろうと思ってたんだよ。昨日、お前らに見せた欠片を集めるために」

 

 驚きを収めてから次に芳乃達は疑問の表情を浮かべた。

 俺に問い掛けてきたのは芳乃だったが、一緒にいたもう二人、茉子と有地も同じ事を思っていたのだろう。俺の返答を聞いた二人は芳乃と一緒に納得の表情を浮かべた。

 

「それなら今頃、ムラサメちゃんも欠片を探していると思うぞ」

 

「ムラサメ様が?…そうか」

 

 有地の台詞に、今度は俺が驚く番だった。だが、確かに昨日もムラサメ様は欠片の探索に協力できるという旨を言っていた。

 その言葉通りの行動を早速今日、実行に移してくれた事への感謝を胸に抱く。

 もし山で会えたら、そうでなくても探索に一段落をつけた後、ムラサメ様を探して礼を言わなくては。もしムラサメ様が欠片を回収していたら、その欠片を受け取らなくちゃいけないしな。

 

「あの、私も手伝います」

 

 芳乃が瞳に決意を携えて、そう言ったのは俺がそこまで考えた時だった。

 芳乃だけじゃない。茉子も有地も、言葉には出さずとも芳乃と同じ事を思っているのが見て取れた。

 

「…まずは家に帰って着替えろよ」

 

「っ…はいっ!」

 

 何がそこまで嬉しいのか知らないが、俺が返事を返すと芳乃は輝くような笑顔を浮かべながら頷いた。

 俺は昨日、芳乃達に協力を頼むと言っている。それなのに、ここで芳乃達の手助けを断る方が可笑しいというのに。

 

 とはいえ、俺以外の三人は学院の制服を着ている。制服を着たまま山に入り、欠片を探す訳にもいかない。

 制服を汚せば大変だろうし、まず第一に制服姿のままでは動きづらいだろう。

 

 こうして山へ行く前に寄る所が出来た俺は自然な流れでそのまま芳乃達と一緒に歩く事となる。

 

「それはそうと陽明くん。芳乃様の制服姿、どう思います?」

 

 不意に俺の隣に駆け寄ってきた茉子がそう口にしたのは、四人で歩き出してからすぐの事だった。

 

 そう問われて、僅かにドキリとする。そして同時に、朝の出来事も思い出す。

 

「ま、茉子?いきなり何を言い出すの?」

 

「いえいえ…。単なる私の興味本位ですよ?」

 

 突然可笑しな事を言い出した茉子に芳乃が問い詰めるも、茉子は堪えた様子はなくむしろ、僅かに頬を染めて恥ずかしそうにする芳乃を見て浮かべていた笑みを更に深くする。

 

「…」

 

 歩きながら芳乃が横目でこちらを見る。頬に浮かべた羞恥の色をそのままにこちらを覗く芳乃の表情に胸を高鳴らせながら、改めて今の芳乃の格好に視線を回す。

 

 全体的なテイストは洋風だが、部分部分に和のテイストを感じさせる制服は芳乃に着て貰うために作られたのではと思えるほどに似合っていた。

 それに、俺の目を奪うのは芳乃の服装だけではない。芳乃は小さい頃から普段は髪を横にまとめてサイドポニーにしていた。そしてそれは今でも変わらなかった。昨日、芳乃と再会した時も髪型はサイドポニーだったし、家に帰ってからも髪型はそのままだった。

 だが今は違う。今の芳乃は髪をまとめる髪型ではあるものの、まとめた髪を横にではなく後ろに下ろしていた。そう、つまりポニーテールである。

 

「陽くん?じっと私を見て…どうしたんですか?」

 

 初めて見る芳乃の姿に目を奪われたまま視線を外せないでいると、芳乃が俺に問い掛けてくる。

 しまった、流石に不躾に見すぎたか。誤魔化す─────いや、そういう訳にもいかない。俺はもう、芳乃には嘘を吐きたくない。

 

 芳乃は気にしないと言ってくれたが、俺は芳乃との約束を破り、それだけでなく芳乃と再会するまでは芳乃を騙し続けようとした。

 だから、だろうか。恥ずかしくない訳がない。それでも、誤魔化したいという気持ちをそれ以上に強く湧き上がる、芳乃に嘘を吐きたくないという気持ちが塗り潰していった。

 

「すまん。似合ってて見惚れてた。綺麗だと思う」

 

「…っっっっっ!!!!!?」

 

「「おぉ~…」」

 

 言ってすぐ、俺は耐えられず芳乃の顔から視線を逸らした。だから、芳乃がどんな反応をしたのか分からない。

 顔が熱い。鏡がないため分からないが、きっと俺の顔は羞恥で真っ赤になっているのだろう。

 

 背後からは茉子と有地が合わせて声を漏らしたのが聞こえた。

 

「まさか、ストレートに感想を口にするとは。陽明くん、やりますね」

 

「男─────いや、漢だ」

 

「うるさい」

 

 好き放題言う、背後の二人に向かって振り返りながら一言突きつける。

 だが全く効いた様子はなく、茉子は勿論有地までニヤニヤと笑みを浮かべたまま前を歩く俺と芳乃を眺めていた。

 

 くそ、別に勝負とかしてないのに途轍もない敗北感を覚える。

 

「…」

 

 しかし二人に怒りの矛先が向かったお陰か、先程までの羞恥はやや薄れ、横目で気付かれない様にではあるが、芳乃の方を見れる余裕が出来た。

 ちらり、と芳乃の方を見て、俺は彼女の表情を目にする。

 

 嬉しそうに、それでいてどこか恥ずかしそうに微笑む、でもこちらを見ようとしない芳乃の横顔を。

 

 また、俺は芳乃に視線を釘づけにされて─────

 

「っ!…ん、やぁ…っ」

 

「…芳乃?」

 

 突然立ち止まった芳乃の変化に気が付いた。

 

 胸元で両手を握りしめ、両眼を閉じ、何かに耐えるように体を震わせる芳乃。

 

「朝武さん?」

 

「…これは」

 

 俺から少し遅れて同じように異変を感じた茉子と有地が駆け寄ってくる。

 俺と同じく芳乃を呼び掛ける有地と、芳乃の状態を見て僅かに顔を顰める茉子。

 

「ぅあっ!んん…んんんっ…!」

 

 どこか艶めかしい声を上げる芳乃。今顔に浮かんでいる赤みは、先程のような羞恥のものではないのだろう。

 

「芳乃、どうした。しっかりしろ!」

 

「陽明くん、これは─────」

 

 初めて見る芳乃の状態に、そしてなかなか収まらない芳乃の苦しみ様に次第に焦りが募る。

 思わず声を荒げながら芳乃へ呼び掛ける俺に、茉子が俺の肩を叩きながら声を掛けてくる。

 

 だがその言葉が続く前に、芳乃に更なる変化が訪れた。

 

「んあっ!ああっ!んんんんん─────っ!」

 

 荒くなる呼吸、そして続く叫び。

 それと共に、にょきっと芳乃の頭から生えた白い耳。

 

 そう、耳だ。人間のものではなく、どこからどう見ても獣のものと思われるふさふさとした毛並みのある白い耳。

 

 そうか、さっきまでの芳乃の苦しみ方は耳が現れる前兆─────つまり。

 

 今この瞬間、あの山のどこかで祟り神が発生したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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