千恋*万花~Another Tale~   作:もう何も辛くない

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投稿が遅れたのはパワプロのせいです。
正確には栄冠ナインが全部悪いです。
まあ甲子園連続出場が途切れて今萎えてますけど。(笑)


第十五話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は毎日山に行って欠片を集めているみたいだけど、たまには休んだらどうだい?」

 

 駒川がそんな事を口にしたのは、学園が休みのためにいつもより遅めになった朝食を食べている時だった。

 

「何だよ急に」

 

「ふと思ってね。どうせこの後も山に行くつもりなんだろう?」

 

「勿論」

 

 駒川の問い掛けに頷きながら一言返すと、駒川は隠そうとしない呆れと共に溜息を吐く。

 

 何だこいつ、そこまでこれ見よがしに呆れられると器が大きい俺でもキレちゃうぞ。

 

「陽明。今日は休みなさい」

 

「断る」

 

「即答するなっ。…あのね、陽明。毎日毎日山の中を真っ暗になるまで歩き回って、疲れていないのかい?」

 

「全く」

 

 再び投げ掛けられた質問に今度は頭を振りながら答える。

 

 これは強がりではなく、本当に疲れてなんていない。いや、正直山から帰ってきてすぐは流石に疲れてないと言ったら噓になるけれど、次の日にまで疲労が残る、なんて事は断じてない。

 大体、駒川は分かっていないのだ。

 

「あの程度で疲れるほど柔な鍛え方はしてない」

 

「…君、この町を出てからどんな生活をしてたんだい?」

 

「悪意渦巻く本家で鬼の師匠に徹底的に鍛えられながら人間に仇なす妖をボコる生活」

 

 さっきから質問ばかりだな駒川は。そして正直に嘘偽りなく答えたのに再び溜息を吐かれたのはなんでだ。

 

「君が彼女のために頑張る事を止めはしない。でも、全てを投げ打って奔走する君を見たら、彼女はどう思うだろうね」

 

「…」

 

 箸を持つ手が止まる。

 

 その俺の様子を見た駒川が続けて口を開く。

 

「陽明。たまには休みなさい。そしてその最初の休みの日は今日だ」

 

「…俺が休んでいる間にも、祟りは芳乃の体を蝕む」

 

「それでもだ。君の体は何ともなくとも、そうやって張り詰め過ぎればいつか擦り切れるよ」

 

「…」

 

 ここまで駒川の台詞に俺なりの反論を返し続けてきたが、今の台詞には言い返す言葉が見つからなかった。

 

 張り詰めて、張り詰めて、その果てに擦り切れていった人達を俺は本家で何人も見てきた。

 才能を期待され、その期待に応えようと─────()()()()()()()()()潰れていった人を俺は見た事がある。

 

 駒川の言う事に間違いはない。俺は特別だ、なんてこれっぽっちも思っていない。というより駒川に言われて今、初めて自覚する。

 確かに、張り詰め過ぎていたかもしれない。この調子が続けば身体よりも先に心が、なんて事もあり得る。

 

「…分かったよ。今日は山には行かない」

 

「そうか。なら良かった」

 

 そう言うと、厳しい表情を浮かべていた駒川が柔らかく微笑む。

 

 …こいつ、普通に見てくれは綺麗だよな。こうして他人を慮る優しさも持ってるし、それなのに男の存在を欠片も感じない。何でだ?そろそろ良い年だし、このままだと行き遅れなんて事も─────

 

「陽明?」

 

「…なんでしょうか」

 

「今─────何を考えていたのかな?」

 

「何も考えておりませぬなのでその顔をやめて頂けませんでしょうか」

 

 思考は般若の顔をした駒川によって途切れさせられた。同時に、俺は悟る。

 

 駒川に彼氏が出来ないのはこの暗黒面によるものだったのか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という経緯があり、俺の今日の予定は皆無。今は宛もなくただ外を歩いている。春の暖かな日差しを浴びながら、雲一つない晴れ渡った青空を時折見上げてのんびりと歩く。

 ふと山の方に向かおうとする足を止めつつ、俺が住んでた頃と所々変わった周囲の街並みに視線を回す。

 

 こうして何も考えずただ懐かしみながら町を歩くのは帰ってきたあの日以来初めてかもしれない。

 しかしそれにしてもこの町は殆ど変わっていない。所々コンビニやファミレスといったチェーン店が目に付くようになったが、昔ながらの町並みは本当に変わっていない。

 

 変わっていないからこそ、目新しいものがないからこそ、こうして歩くだけなのにすぐ飽きが来てしまう。

 どうしよう、家を出てから十分ほどで散歩に飽きてしまった。一人で外に出たのが不味かったか、かといっても駒川と一緒にいたとしても結果は特に変わらない気がする。

 

「…」

 

 ふと、一人でいるから退屈なのではないかと思い当たる。では誰と一緒に居れば退屈を紛らわせられるか。

 

 それを考えて、すぐに頭の中には一人の顔が思い浮かんだ。

 ただ、退屈を紛らわせるとかそういう思考から浮かんだのではなく、ただその人に会いたい、と無性に思った。

 

 だから俺は踵を返して行先を変える。山とは反対の方角から真逆の方角へ。

 平坦な道は次第に登り坂となり、歩く毎に勾配が急になっていく。ここまで来るともう歩行者の姿は殆ど見られなくなる。

 これがもっと遅い時間、昼過ぎ頃になればまた話は違ってくるんだろうが。朝早い、とまではいかないが昼前にあそこに()()()()()()人はそうはいないだろう。

 しかも新年度が始まってすぐ、大型連休でもないこの時期に。

 

 長く続く坂道を登っていけば、やがて視界の奥にまだ小さくだが赤い鳥居が見えてくる。

 あそこが─────正確にはあの鳥居の奥にある建物が俺の今日の目的地、行きたい所だ。

 もうここまで来れば俺がどこに行こうとしていたのは分かるだろう。

 

 まずは今頃神社で仕事をしている安晴おじさんに挨拶をしに行くとしよう。

 この時間だと…祝詞を上げているのはあまり考えづらい。だとすると…、外に出る仕事がなければ社務所にいるか?

 まあとりあえず社務所に行きつつ安晴おじさんを探すとするか。そんな風に方針をやんわり決めつつ鳥居を潜る。

 

 鳥居を潜れば正面には大きな楼門とその奥に見る拝殿。そして門と拝殿を繋げる参道の脇に社務所がある。

 歩きながら周囲を見渡すも、安晴おじさんの姿は見られない。境内の掃除はしていないのだろうか?本殿…もしくはやはり社務所にいるか?とにかくさっき決めた通りまずは社務所に向かう。

 

 だが、その社務所には俺が思ってもいなかった人物が立っていた。

 

「いらっしゃいませ。何か御用でしょう…か…」

 

「…おっす」

 

 やって来た俺を参拝客だと勘違いしたその人は俺の顔を見上げ、俺が誰だか分かると同時に声がか細く消えていく。

 俺はその人に軽く手を上げながら一言、短く挨拶。

 

「…陽くん?どうしてここに…」

 

「まあ…、ちょっと暇つぶしに」

 

 俺を陽くんと呼ぶ人物は一人しかいない。

 目を丸くした芳乃の質問に答えてから、俺は内心失敗したと後悔する。だって、暇つぶしに神社に行くって何となく罰当たりに思えたから。

 そんな言葉を神社の娘、巫女姫の前で吐いた事を少し後悔した。

 

「そうですか」

 

 が、そんな俺の後悔を他所に当の巫女姫本人の反応はそれはあっさりとしたものだった。

 別に何とも思っていないのならそれで構わないし、何なら俺としてはそっちの方がむしろ有難くはあるのだが─────それでいいのか?

 

「で?芳乃はどうしたんだよ。安晴おじさんの手伝いか?」

 

「うん。今日ここに来る人が急に来られなくなっちゃって」

 

 なるほど。休みの日はこうして手伝っているのか、と思ったがそうではなく、たまたま今日は芳乃がここに駆り出す事になったのか。

 

「…暇そうだな」

 

「うるさいですよ」

 

 周囲を見回しながら一言呟くとその呟きは芳乃の耳に届いたらしく、今度は流石に怒られてしまった。

 まあ自分の家系が代々受け継いでいる神社に参拝客がいない所を見て暇そう、なんて言われればそりゃ怒るか。

 俺だって陰陽師として町を見回りしている時に暇そうだとか言われたら怒ると思う。というかキレ散らかすと思う。暇そうって言った奴に痔になる呪い掛けるだろうな、きっと。

 

「お昼が過ぎた頃になれば忙しくなりますよ」

 

「だろうな。こんな昼前に参拝に来る人はそういないだろうし。年始は除いて」

 

 芳乃の言葉に例外はあるが概ね同意する。

 何度も言うが、休日とはいえこの時期にこんな時間から参拝に来る人はそうはいない。だからこの時間、芳乃が暇そうにしていても何も可笑しな事はないのだ。

 

「…そういや、安晴おじさんは?」

 

 一旦会話が途切れ、俺と芳乃の間に微妙な空気が流れそうになったその時、ふと胸に湧いてきた疑問を口に出す。

 ここに来てからまだ数分だが、その間俺は安晴おじさんの姿を見ていない。

 社務所にも外にもいないとなると、その答えはかなり限られてくるが─────

 

「お父さんなら今、外に出てるけど」

 

 やはり、何となくそうではないかと思ってはいたが安晴おじさんは今ここにいないらしい。

 しかしだとすれば一つ疑問が残る。

 

「もしかして、今はここにいるの芳乃だけか?」

 

「うん。そうだけど」

 

「…」

 

 その疑問について。さっきから芳乃以外の人の気配がしない事について問い掛けると、あっさりと芳乃は俺の質問に肯定を返した。

 

 いや、確かにこの時間帯は参拝客が少ないだろうから大丈夫なんだろうけど、それにしても少し不用心じゃないか…?

 この時期に旅行者が来るのはあまり考えづらいし、この町の人達がここで悪さをするなんてないんだろうけど。

 

「陽くん。お父さんも参拝客が多くなるお昼過ぎには帰ってくるし、私一人でも大丈夫だから」

 

 もしかして、顔に出ていたんだろうか。芳乃がまるで俺を安心させようとしているかのように、微笑みながらそんな事を言い始めた。

 

 内心の考えを悟られた事に少し驚きつつ、俺は考える。

 ここに来たのはただの暇つぶしのつもりだった。今日一日、俺の予定は全くない。何かしようとか、そんな考えも一切ない。

 

 それなら─────答えは一つじゃないか。第一、あわよくばこのまま今日は朝武家で過ごそうかとすら思っていたんだし。

 

「芳乃。袴って余ってるか?」

 

「え?…確か一つ、去年辞めた人のが」

 

「貸して」

 

「…えっと」

 

 戸惑う芳乃に向かって笑みを向けながら続ける。

 

「芳乃の仕事手伝うよ。どうせ今日一日する事ないし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、臨時で神社での一日バイトが決まってからおよそ三時間。

 真っ白な袴に着替えた俺は芳乃と社務所で誰も参拝客が来ないのを良い事に、のんびりと世間話をしながら過ごしていた。

 

 そういえばと、茉子と有地はどうしているのか聞いてみると、二人は今日志那都荘で働きに来る外国人を迎えに行っているという。

 そのまま穂織の町を案内してくるらしい。

 

 ちなみに二人はその外国人との約束の時間よりも少し早めに家を出たという。

 一体何をしているんですかね?もしかして、デートでもしてるんですかね?考えるとにやけてくるな。帰ってきたら茉子をちょっとからかってやろう。

 

 さて、と。現実逃避はもうこの辺で良いだろう。

 さっきも言ったが、ここで一日バイト(賃金無し)が決まってからおよそ三時間。安晴おじさんは帰ってこず、俺と芳乃は未だに社務所に二人でいた。

 

「すみませーん、おみくじお願いしまーす」

 

「はい、少々お待ちください」

 

 三人家族の父親と思われる男性からおみくじ三枚分の代金を受け取ってから、おみくじが入った箱をその人の前に置く。

 番号が書かれた木の棒を娘、父親、母親の順番で三本引き、その棒に書かれた番号を見て社務所の奥から割り当てられたおみくじを三枚引き出し、差し出す。

 

 ありがとうございます、と俺に頭を下げてから三人家族は社務所から少し離れた所でおみくじを開いた。

 

 …娘さんはいい結果だったのかな?あの喜び方、もしかしたら大吉か。そしてお父さんがげんなりしてる所を見ると凶、或いは大凶か。どんまい、お父さん。

 

「…で?お昼過ぎには誰が帰ってくるんだっけ?芳乃」

 

「…」

 

 時刻は一時を過ぎ、もうすぐ二時になろうとしている。一時半を過ぎた辺りから参拝客がぽつぽつと来るようになり、さっきみたいに社務所におみくじを買いに来るお客も目立つようになってきた。

 

 さっきの家族が帰っていくのを眺めながら、俺は芳乃に問い掛けるのだ。

 芳乃が言った事を、聞き返すのだ。お昼過ぎに誰が帰ってくるのか、を。

 

「ごめんなさい」

 

「怒ってる訳じゃないけどな。…一人で抱え込むのも大概にしとけよ?」

 

 返ってきたのは謝罪だった。

 ちなみに、帰りが遅くなっている安晴おじさんからは何の連絡もない。もし俺が来ていなかったら芳乃はどうするつもりだったのだろう。

 …多分、一人で何とかしようとしてたんだろうな。だからこそ、優しく芳乃を諭す。一人で抱え込まない様に、と。

 

 ─────お前が言うな、って聞こえた気がしたけど気のせいだろ。

 

 そうして参拝客の対応をしながら時間は過ぎていった。

 たまに芳乃に話しかける町の住人もいて、ちょっとした世間話に発展する事もあった。その世間話に俺が巻き込まれる事もあった。

 普段はいない俺が今日はいる事が珍しいらしく、芳乃ではなく俺が話し掛けられる事もあった。

 

 安晴おじさんが戻ってきたのは日が傾き始めた頃の事。

 

「すまない、芳乃!遅くなっ…た…?」

 

 勢いよく社務所に入ってきた安晴おじさんはすぐさま芳乃に謝罪をして、そして芳乃の隣にいる俺の姿を見て動きが緩く、そして固まっていった。

 

「…陽明くん?」

 

「こんにちは。遅かったですね」

 

 ぽかん、と呆けた様子で俺を呼んだ安晴おじさんに会釈をしながら挨拶をする。

 

「どうして君がここに…」

 

「神社に来たら芳乃が一人だったんで。手伝おうと思って」

 

 安晴おじさんに問われ、ここで俺が働いているその理由を説明する。

 暗に俺がここにいるのは安晴おじさんのせいだと言ってるようなものだが、事実そうなので訂正はしない。

 さっきの挨拶の後の一言も皮肉に思えるが、事実なのでこちらも訂正はしない。

 

「そうか…。陽明くんもすまないね。そしてありがとう、芳乃を手伝ってくれて」

 

「お礼は晩御飯で良いですよ。風呂に入れてくれると尚良しです」

 

「…は、はははっ!そうか、分かったよ。何ならまた泊まっていくかい?」

 

「…そうですね。後で駒川に連絡しておきます」

 

 無遠慮にここで働いた事への報奨を要求すると、安晴おじさんは気に障った様子もなく、朗らかに笑いながら俺の要求を受け入れるだけでなく、それに加えて更なる報奨を俺に提示した。

 その言葉に甘え、晩御飯をご馳走になり、風呂に入れてもらうだけでなくまた朝武家で一晩泊まる事にした。

 

 以前、泊まる事になった時はかなり葛藤していたのが、泊まる事をあっさりと決めた今の自分に少し驚きつつ、芳乃と一緒に一日の参拝が終わるまで芳乃と一緒に社務所で仕事を熟した。

 その後安晴おじさんに社務所を閉めるよう言われ、その指示通りに社務所を閉めてから芳乃と一緒に朝武家へと入る。

 

「お帰りなさい、芳乃様。…陽明くん?」

 

「む?陽明ではないか」

 

「え?若狭?」

 

 玄関に入って靴を脱ぎ、居間へと入ると丁度そこにいた茉子が俺達を出迎えた。

 芳乃に向けて挨拶をした茉子はその後、こちらを見て目を丸くして俺の名前を呼ぶ。すると同じく居間にいたムラサメ様と有地がその声に反応し、続いて俺の方に目を向ける。

 

「邪魔するぞ」

 

「はい、いらっしゃいませ。…じゃなくて、どうして陽明くんがここに?」

 

 茉子に質問され、言葉には出さないが頭の上に疑問符を浮かべているムラサメ様と有地にも、今日一日の事について話す。

 今日は山へは行かず一日のんびりする事にして、何となく建実神社に来た事。そこで芳乃が社務所に一人でいて、安晴おじさんがいないと知り仕事を手伝おうとした事。安晴おじさんの帰りが遅くなり、ついさっきまで社務所で芳乃と一緒にいた事。そして、今日はこの家で泊まる事になった、と茉子達に説明する。

 

「そうですか。それなら今日は一人分多く作らなきゃいけませんね」

 

「手伝うか?」

 

「いえ。以前は手伝ってもらいましたから、今日は芳乃様とゆっくりお話ししていてください」

 

 労働に対する報奨、とはいえその労働に関して茉子は部外者だし、ただご馳走になるだけなのは少し気に掛かった。

 だから茉子に手伝いを申し出たのだが、あっさりと断られてしまう。

 

「ただ、今日は天ぷらにはしませんよ?たくあんもありません」

 

「別にいいよ。お前の献立に任せる。子供扱いすん…な…?」

 

 茉子と言葉を交わしながら居間の中へ入っていく。そうすれば当然、茉子と有地との距離も縮まっていく。

 その瞬間、肌を冷たい何かが触る、と言えば良いのか。とにかく形容し難い冷たい感覚が肌を奔った。

 

「…茉子、有地。確かお前らは今日、穂織に働きに来た外国人を案内したんだったな」

 

「…?もしかして、芳乃様から聞きましたか?」

 

「そうだけど、それがどうかしたか?」

 

 足を止め、茉子の方を向いて問い掛ける。すると茉子はキョトン、とどうしてそんな事を聞かれるのか分からないといった表情をした後、有地を視線を交わしてから有地と一緒に返答する。

 

「その時、まさか山も案内した、なんて事はしてないよな」

 

「勿論です。…どうしてそんな事を聞くんですか?」

 

「…いや。念のために聞いただけだ。忘れてくれ」

 

 答えは分かり切っていた。町を案内するのにあんな山に人を連れて行くなんて事するものか。あの山がどれだけ危険に溢れているか、事情を知らない人だってそんな事はしない。

 

 ただそれでも聞きたかった。二人が今日、山へ行ったのか行ってないのか、知りたかったのだ。

 

 ほんの少し、僅かだが、確かに感じる…。これは、間違いない。

 

 ─────祟り神。

 

「その外国の方は志那都荘で働くんですよね?どんな方だったのですか?」

 

 俺が微かに感じる気配の正体を断定した直後、芳乃が口を開く。

 茉子はすでに夕飯の準備をするべく台所に行って姿は見えない。そのため、その質問に答えられるのは有地のみ。

 

「俺達と同い年の女の子だったよ。鵜茅学院に転校してくるみたい」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。それで、その子の名前は─────」

 

 芳乃の相槌に頷いてから有地が口を開く。

 

「レナ・リヒテナウアー、だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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