ただいま、行ってきます   作:雪須

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 ニルバジール症候群による事件の復興が進んでいる頃、みちるはやっていきたいことを見つけることができた。

 その頃、人間社会では動画やTV、ポスターにも出たなずなの正体について疑惑がSNSに......



SNS

「うーん、何していけばいいかなぁ……」

 

ひとりごとを呟きつつ、みちるは公園を一人で歩いていた。

 

銀狼の像が鎮座するこの銀狼公園はアニマシティのビル街にあり、ニルバジール症候群の被害から立ち直りつつある市民の憩いの場となっていて、今日も多くの人々がベンチや石段に腰を掛け会話を楽しんでいる。

 

先だってアニマシティにおいて発生したニルバジール症候群の集団発症は、シルヴァスタ製薬CEOの企みも絡んで、ほぼ全ての市民を巻き込み多くの人的物的被害を出すまでに至った。

 

その集団発症においてみちるは、獣人を人間化してしまおうとするCEOの野望を砕き、市民のニルバジール症による暴走を止めるべく奮闘した。その際軽くないケガを負ったが、それから日も経過し、傷も癒えて患部を保護していた包帯も取れるまでになった。

 

街の復興の雰囲気を感じながら、みちるは歩を進めつつ自分の思いを巡らせていた。

 

私のやりたいことが見えた。

 

それは獣人と人間の間をつなぐこと。

獣人と人間が一緒に過ごすことができるようにしていくこと。

 

それに取り組むには、まだまだ獣人のこと、そして人間のことも知らなければならない。

難しいことだろうけど、人間から獣人になったという自分の境遇は、その困難を克服できる要因となるかもしれない。

 

さてどうやってそれを実現していこうか?

そんなことを考えていた。

 

ふと視界に、ベンチに座っているなずなとニナの姿が入ってきた。

 

うん、今は二人とおしゃべりでもしよう、そう気持ちを切り替えることにした。

 

 

 

「なずな、ニナ、公園来てたんだ。あれどうしたの?」

 

近寄ってみると、ニナは深刻そうにスマホを覗きこみ何かを読んでいる。隣りに座っているなずなといえば、少しイラついた感じの表情を浮かべつつニナのスマホを覗いている。

 

走り寄ってくるみちるに気づいたニナは軽く手を振り、自分のスマホをみちるの方に差し出した。

 

「あ、みちる。これ、今さっき見つけたんだけど…」

 

えっ、何?と思いつつスマホを覗く。そこに表示されていたのはとある有名なSNSアプリ。その中には…

 

「日渡なずなは元人間?」

「獣人は人間に偽装できる?」

「偽装獣人が街に紛れているかも」

 

みちるもなずなも隠しているはずの「人間が獣人になった」という事実が、1週間ほど前からコメントとしておびただしい数書き込まれていた。

 

「えっ、えっ?何これっ?」みちるは思わず叫んでしまった。

 

人間から獣人になったということは人間には知られてはならないこと、そうロゼ市長や大神士郎から度々注意を受けていた。

 

なぜ知られてはならないか。

その理由のひとつは軍事利用されること。

 

獣人は筋力や知覚などの体能が人間よりも数段高く、知力も人間と同程度あるとされている。実際過去の戦争では獣人を歩兵や兵器として利用する研究が行われ、多くの獣人が実験体として犠牲になった。

 

もし人間から獣人になった者がいることが知られたら、兵士の能力強化の研究材料として拉致される懸念がある。

 

市長と大神士郎はまさにその経験者であり、最も懸念している点である。

 

その他に。

 

凶暴で犯罪を容易に起こすような存在に人間がなってしまうと思われること。

 

獣人と人間との関係はまだまだ相互理解している状況とは言い難い。

 

人間社会に住まい、体能の高さを利用して建設従事者や消防士、介護士など社会貢献している獣人も増えてきており、好意をもってくれる人間は以前よりも多くはなってきている。

 

しかし、その体能の高さを悪用した暴力事件や強盗事件など犯罪を起こす獣人も後を絶たず、現在でも獣人に不信を抱く者はなかなかに減らない。

 

加えて、今回SNSでは新たな疑念が挙げられていた。

 

それは、獣人が人間のフリをしていたということ。

獣人が人間を欺いて人間社会に人間として紛れ込んでいたということ。

 

なぜ人間をだますのか。

機会をうかがって強盗など働くつもりでいるのでは、ということ。

 

考えたくもない。

 

どちらも獣人は凶暴、邪悪であるという前提であり、そういう輩もいない訳ではないものの、大多数の獣人は邪悪でも犯罪をしたがっているわけでもない。それなのに。

 

いずれにしろ、人間側に大きな疑念をもたらし、獣人側への風評被害が十分予想される。

 

そういうこともあって、みちるもなずなも人間から獣人になった事実を知られないよう注意していたはずなのだが。なのに、なぜ知れ渡っているのだろう。

 

みちるがそう疑問に思ったとき、ニナが状況を説明してくれた。

 

「この前のニルバジールの騒動で、なずな動画サイトやTVでバズって、アニマシティのポスターにもなってるから人間側にもよく知られてるじゃない」

「で、1週間ほど前に人間側のTVがアニマシティの特集を放送したらしいんだ。その中でなずなの内容があって」

「でその中で、なずなのブロマイドを売ってるマリーさんの出店が映っちゃって。そしたら高校生のなずなを知ってる人がなずなは人間だった獣人じゃないって、そこからバズってるみたい」

 

SNSに上がっているTV画面のスクショにはマリーの出店が映っており、なずなの獣人態と人間態のブロマイドが、店の奥にはNazunaの文字がしっかりと見えている。

 

あ、あ、あ、思わずみちるは口に出してしまった。

 

「人間の街になずなのそっくりさんでもいるのかなぁ?」

「う、うん、そうかもね」

 

ニナの疑問に、みちるはそう答えるしかなかった。

 

実はなずなが元人間だったことは、あのニルバジールによる暴動の時にシティ全域に放送された。しかしその暴動が終息した折に、あの映像は暴動を起こさせるための虚偽情報とされ、二度と公表してはならない映像として現在公開禁止になっている。

 

なのでシティの市民はなずなを獣人と思ってくれているはずではあるが。

 

みちるは、渦中の当人を慮った。

 

「なずな、大丈夫?」

「ふん、みんなして好き勝手に」

 

イラっとくるなぁと一言を付け加えて、なずなはスマホとは逆の方向に顔を向ける。

 

なずなの言葉に思わず「あちゃーっ、マリーさんったら」とみちるが空を仰いだ。

 

その言葉に、すかさずなずなは返す。

「マリーさんは悪くないよ」

 

「だってマリーさん、私のブロマイドを売ってくれてて、それをお客さんは喜んで買ってくれてた。それ見て、私すごく嬉しかった。これからもそうして欲しいと思ってる」

「悪いのは無関係なのに面白がって騒いでいるやつら。ホントムカつく」

 

表情をより険しくして呟く。

 

「あ」

 

そのとき、険悪な雰囲気を変える一言をニナは発してくれた。

 

「ど、どうなったの?」みちるは尋ねた。

 

「読み進めたらね、後の方で人間と獣人は全く別の種、人間が獣人になることは前例がないから別人、名前はただの偶然か、どこかで知ったのを騙ってるんじゃないか?ってなってるみたい」

 

なずなという名前あんまり多くないし顔も同じだから同一人物しかありえないって意見もあるけど、と付け加えてニナは答えた。

 

「あ、別人てなってきてるんだ」 

 

みちるは良かったぁと安心した表情をする。

 

なずなの方は、そっぽを向きながらふぅーんという表情をしている。

よく見ると口元に笑みがあり、実はほっとしているようだ。

 

ニナはさらに、人間に偽装っていう説は高校の健康診断で獣人判定されてなかったという証言があるので、高校生のなずなとシティのなずなは同一人物ではないし、偽装もありえないという流れになってるようね、と言った。

 

SNSの論争は、人間が獣人になったという事象が否定される方向にあるようだ。

 

みちるとなずなにとって何にもなかった、かつ顔と名前が似ていたため発生した人騒がせなネタという最良の形で決着しそうであった。

 

しかし次のニナの発言で、その最良の結末を迎えることは叶わなくなった。

 

「ああっ!!」

「もーっ、今度は何?」

 

まだ何かあんのー、いいかげん終わってよーと思いながらみちるは尋ねた。

 

「えーっと、「家に凸してみたのに、夜逃げしたみたいW」って」

「えええっ?!、何で家が分かるの?!」

「昔のSNSの写真から調べてるみたい。制服の写真とか、オーディションに受かったとか個人特定できそうなスクショが投稿されてる……」

 

そっぽを向いていたなずなの目が大きく見開かれ、あっ、という形状に口が動いた。

 

「あーっ、みんなして人のことを!!」

 

最後のWに単に騒ぎたいだけという悪意を感じ、みちるは腹立たしさを抑えられず思わず空に向かって叫んだ。

 

そんな行動をとる二人を見て、ニナは違和感を覚えずにはいられなかった。

 

「どうしたの二人とも?これって同名とはいえ他人のことなのに。まるで自分たちのことのように……」

「あ、あ、いや自分のことじゃないんだけど、ひどいことするなぁなんて思っちゃって」

 

みちるの答えに加えて、

「ホント、ムカつく。今日は気が乗らないからもう帰るよ、ニナごめんね」

となずなはベンチから立ち上がった。

 

「え、う、うん」

「ほんとごめんね、じゃ、また」

「送ってくよ?」

「んー、大丈夫だよ。ありがと」

 

ニナはいつもと違う様子のなずなに気を遣ったが、なずなはその申し出を遠慮した。

 

「えっと、じゃ私もなずなと同じ方向だから行くね。ニナごめん」

「あ、はい。じゃあ二人とも気をつけて……」

 

ごめんねを繰り返し言って、ニナに見送られつつ帰路につく。

 

 

 

二人並んでしばらく歩いたその途中、人通りが少なくなった頃にみちるがぽつりと呟いた。

 

「あー、なんかニナを仲間外れにしたみたいになっちゃったな……」

「だったら私についてこなきゃいいのに」

 

なずなが尤もなことを言う。

 

しかしついてきた理由はさっきのなずなの家のことを話すためでもあった。

 

「ニナには悪いけど、これ他人じゃなくて本人の話なんだよね」

 

そのみちるの呟きに、

「自分の昔のことから、こんなことになっちゃうなんて……炎上だって、始まりは多分私らの高校のクラスメイトからだろうね。学校では私行方不明者になってるから、気にかけてくれたのかも」

でも結局は炎上しちゃったけど、となずなは答えた。

 

「なずな、家族のこと心配じゃない?」

 

しばしの沈黙。そして。

 

「……ん、なんで?」

 

「えっ?!」

 

みちるは思わずなずなの方に顔を振り向けた。

家族のことを聞いたのに、それについて我関せずの答えが返ってきたから。

なぜ?家族でしょう?

 

するとなずなの口からこんな言葉が流れてきた。

 

「私ね、初めて獣化したあの日、家に入れなかったんだ。うちには獣人の子なんていないって追い返されちゃって」

「だからもう家族じゃなくなったし、家にも戻れない…もうどうしようもないんだ…」

だから今まで家に連絡もしてないんだ、と。

 

その言葉に、みちるはなずなを正面からじっと見つめ、問いかけた。

 

「えーっと、なずな、マジでそう思ってる?」

 

その問いを聞いたなずなは、はぁっと溜め息を一つして呆れた顔で言い返す。

 

「まーた出たよ自分の考えの押し売り。もーいい加減それやめ…」

 

みちるはそれを遮る。

 

「分かってんじゃん、私の思ってること。押し売りでもいい、なずなの本心が聞きたい」

 

見つめるみちるに、なずなは下を向き、何かを見つめていた。

目を閉じ奥歯を噛み締める。

次第にその閉じた瞼に力が入っていくのが見てとれた。

 

そして。

 

「……んなわけないじゃん……」

「やっぱり心配だよ!!私のことでこんなことになるなんて…お母さん、お父さん…」

 

その言葉に、よかった、みちるは安堵の表情を浮かべ、一つ提案をした。

「一度連絡とってみようよ」

 

みちるのシティ外に繋げられるスマホでなずなの両親に電話をかけてみる。

 

「この電話番号は現在使われておりません……」

 

連絡がとれない。

どうしたものか。

 

思案して、みちるはなずなに次の提案をした。

 

「ねぇ、探しに行かない?家族の行き先」

「えっ?どうやって?」

「詳しくは決めてないけど、とにかく向こうに行って人間態になって近所で聞いてまわるとか、そしたら何か手がかりがつかめるかもしんない」

 

みちるの提案に、なずなは否定的だった。

 

「え?そんなことできる訳ないって。私、行方不明中だし、TVにもSNSにも出てるみたいだから顔知られてるし。人に見られたらすぐに私だと分かって大変なことになるよ」

 

が、それに対してもみちるは対策を思いついていた。

 

「だったらこの前いっしょにやった「あれ」やればいいんじゃない?」

「「あれ」? あぁ、あの試しにアイドルとかやってみた…」

「うん、それ。とにかく探しに行くこと市長さんに相談してみようよ」

 




 ここでの投稿が初めてなので四苦八苦しております。何回かやり直ししました…… 

 BNA、伏線になっている設定とかがドシロウト目にもだいぶありそうで、やっぱり元々は2クールとか考えてたんでしょうか?そうならぜひ回収のために2期やっていただきたいところです。
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