1時間後、市庁舎の市長執務室にみちるとなずなはいた。
秘書の石崎を横に、市長席に座るロゼ市長。
その市長に、みちるは一つの請願をするつもりでいた。
「市長さん、突然にすみません、お話ししたいことが」
「何かしら?こちらもあなたたちに伝えなければならないことがあってね」
ロゼ市長もちょうどみちる、なずなと会う用事があったようだ。どおりで多忙な市長にすんなりと面会できたわけである。
「もしかしてSNSのことですか?」
「あら、もう知ってたのね。そう今人間側のSNSでなずなさんのことで論争があったみたいね、今は収束しつつあるみたいだけど」
「なずなさん、ご家族が大変なことになっちゃったわね」
言葉をかけた市長に、なずなはこくっとうなずいた。
「市長、お願いがあります。私たちシティの外に出たい。私たちが住んでたあの町に行って、なずなの家族がどうなったのか確認しに行きたい」
みちるの請願に、市長はしばし黙考し返答した。
「それは許可できません。あなたがたは人間から獣人になった特別な存在、もしそのことが人間に知られたら、研究対象にしようとする者から狙われて、あなたがたが危険なことになるかもしれない。だから許可はできない」
「なずなさんのご家族の状況は私たちが調べます。なので分かるまで待つようにしてもらえないかしら」
その返事にみちるは即答した。
「いやです。友達が困ってるのに何もしなくてただ待ってるだけなんて、私できません」
すかさず市長が重ねて尋ねる。
「相手が、軍や諜報機関としても?」
獣人の体能は兵士の強化に利用できるからね、とも付け加えて。
少し黙っていたが、みちるは本心で答えた。
「……それでもいやです、じっとしてるなんて無理。危険なことは今まで何回もあったし。市長、お願いします」
待つなんていやだ、自分でやれることはなんとしてでも実行して、自らの行動で結果を得たい。
「……はぁ、やっぱりそう言うだろうと思ったわ」
言い出したら止まらない子だし、も付け加えて市長は大きな溜め息まじりで呟いた。
「えあっ?」
市長の言葉に、みちるは思わず言葉にもならない声を発してしまった。
「流石に今の時代じゃ軍や諜報機関は大げさかもしれないけど、あなたがた、家の近くに行って知人や旧友に見つかったらこっちに帰ってこれなくなるわよ?どうするの?」
そこに自分の考えた対応策を市長に披露する。
「えへっ、そこは大丈夫です」
「私たち変身できるから他の人間に変身して行くつもりです」
その場で今売り出し中のアイドルとそっくりの人間態に変身してみせ、これで変身すればご近所さんや旧友も私たちと分からないはずですとアピールした。
「まぁ、そんな手考えたのね」半ば呆れながら市長は答えた。
しばらく考えたのち、市長は、
「本来は止めるべきなんでしょうけど、そもそもTV局に知られてはならない内容が漏れてしまったことは私たちの落ち度。あなたがたを止めおく資格はないわね」
「外に出ることを許可します。いってらっしゃい、あなたたちが住んでいた町へ」
「ありがとうございます!」
みちるとなずなは手を取り合って、市長にお礼の言葉を述べた。
ただ、それだけというわけには当然いかない。
「ただし、人間から獣人になったこと、あなたがたが使おうとしている変身のこと、これらを人間に知られないようにくれぐれも注意すること」
「向こうにいられる期間はとりあえず今回は1日だけ。宿泊は変身解いたりして身バレする可能性が高くなるから。それでお願い」
えー1日だけぇ、とみちるは不満そうにポツリ。
「以前に住んでいた家の周囲近辺を調査するだけなら1日で十分のはず」
「聞きこみをしても答えが得られないことは当然ある。次につながるようにしっかりと聞いたこと、見たこと、気づいたことを記録しておくように」
「分かりました」
二人は答えた。
「あと警護を一人つけます。石崎、またご苦労を掛けるけどお願い」
構いません、市長の傍らに控えていた石崎は答えた。
みちるは、石崎さんなんだ、士郎さんじゃないんだ、と呟いたが、市長は大神君だと高確率で人間と面倒を起こすから今回はダメ、と即答した。
そりゃそうか、とみちるは苦笑いするしかなかった。
「こちらでもなずなさんのご家族の転居先は調べておくわね、何かあったら連絡は頂戴。
あと、大神君には私からこの件を伝えておくから心配しないで」
市長の言葉に二人は答える。
「はい、すみません。では行ってきます」
「あそうだ、最後にもう一つ」市長からもう一つお達しが。
なんだろう?
「非正規スマホは本来ダメですからね?あなたがた元人間だからどういうものか知っているはずということで大目に見るけど、くれぐれも余計なこととかネットに書かないようにね」
そうだった。SNSの件はシティ外のことだからシティの正規スマホでは分からないこと……
「あうあうあう、市長さん、すみませんでしたー」
みちるはあたふたしながら市長執務室を後にした。
「ふふ、ちゃんとやれるかしら、あの二人」