ただいま、行ってきます   作:雪須

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育った街に久々に戻ってきたみちるとなずな、なずなの実家はどうなっているのか?


育った街で

アニマシティから車で移動、途中のパーキングエリアで一夜を明かして、次の日の朝に目的地へたどり着いた。

 

そこはどこでも普通に見られる住宅街、でもみちるとなずなにとっては長年にわたり生活をしてきた、慣れ親しんだ街。

 

車から外に出たみちるは、その街の空気を確認するかのように、ひとつ深呼吸をした。

 

この街を出て数ヵ月、引きこもっていた期間を含めても1年ちょっとしかたっていない。見ていなかった期間はそれほど長くはないはず。

 

それなのにこの風景、この空気、懐かしさを感じずにはいられない。

なずなも周囲の建物を覚えているかひとつひとつ確認しているようだった。

 

車からみちるとなずなを降ろし、石崎はつきっきりでの警護ができないことを伝えた。

 

「本当はいっしょに付いて警護するのがよいのですが、女子高生と中年男がいっしょにいるというのは……まぁはばかられる状況となりますので。なので、私はここら近辺を車で巡回しています。もし何かあればすぐにこちらの携帯で連絡を。表面のボタンを押すとすぐに通話できますので、すぐに向かいます」

そういうと一見してスマホに見える無線機を二人に手渡した。使わずに済むとよいが。

 

くれぐれも獣人であることを悟られないように、待ち合わせ場所に18時にはお出で下さいと言い残し、石崎は車を出した。

 

車が見えなくなるまで見送ったのち、みちるが口を開く。

「街を出て数ヵ月しかたってないのに、すごく懐かしい。ねぇなずな。あ、なずなは1年以上か」

 

そのみちるの言葉に、なずなはみちるをきっと見た。そして小声ながら注意を促すような口調で返事をする。

 

「あの、なずなじゃなくて、なつみでしょ?違う姿にしたんだから、名前も変えなきゃねって言い出したのそっちなんだから、自分が間違えてちゃダメじゃん」

「あ、そうだった、なずながなつみで私がみすずだったよね。面目ない」

 

そう、近所の人に分からないようにと、みちるもなずなも変身をしている。

みちるはうす茶の髪をナチュラルショートに、なずなは黒の髪をポニーテールに、人相はネットで見つけた人物を適当にミックスした。

 

そして自分たちは、日渡なずなの高校の友人として日渡家を訪れたという設定にした。実際みちるは高校時代の友人だし。万が一不審がられて高校のことを聞かれたとしても自分がいたところなので答えられるはず、と考えたからである。

 

よし、これでいけるはず。

 

「んじゃなつみの家に行こうか」とみちる。

今度は言い間違えないようにしないと。

 

しかし、「それはなずなの家で正しいの」友人がなずなの家に行く設定なんだからとなずな。

 

裏目ぇ、とみちるの表情に斜が落ちる中、二人はなずなの実家に向かった。

 

 

 

 

 

しばらく歩いたのち、

 

「もうすぐだね」

「……」

 

なずなは返答しなかった。が、歩くスピードが若干早くなっている。

1年前から見ることがなかった風景を再び目にして、少なからず興奮しているようである。

 

ほどなくして、なずなの家に着いた。

 

インターホンを押してみたが応答はない。

 

「誰かに聞いてみようか……」とみちるが話したところに

「あっ向こう隣のおばさん」と、なずな。

 

家の前の道をこちらに歩いてくる年齢50前後の婦人が見えた。

よし、あの婦人に日渡家のことを尋ねてみよう、さっき決めたようになずなの友人として。

みちるはその婦人に声をかけようとした。

 

が、声をかけようとするより先に、その婦人はみちるたちに気づき、二人を見た。

いや見るというよりは睨んで、二人の横を通り過ぎていった。

 

いきなりの対応に、みちるは婦人に声をかけることができなかった。

 

「ん?え?なんで?」

「おばさん、たしかに豪快なところあったけど、初対面の人にあんな態度とる人じゃなかったのに」となずなも当惑気味。 

 

そして二人は気づいた。

 

「ってあれ?」

「あれ?」

 

周囲の住宅から多くの視線を感じる。

 

「ねぇなずな、なんか隣近所の人たち、私たちを見てない?」

 

よく見てみると、玄関から、窓のカーテンごしから、庭の生垣のすきまから、多くの人々がこちらをじっと見ている。

 

「もしかして、監視されてる?」

 

なずなの言葉に、みちるは体から冷たい汗がにじみ出てくるのを感じた。もしかして私たちが獣人というのがもうバレてるのだろうか……

 

そのとき、家の庭の端にクシャクシャになった薄汚れた紙が何枚か落ちていることに、みちるは気付いた。

「なんだろ、この紙……」監視にも似た周囲からの視線を気にしつつ、一つ拾いあげ紙を広げ二人で見る。

 

そこにはカラープリンタで印刷された大き目の文字の一文があった。それは...

 

「偽装獣人一家はうせろ」

「!!」

 

みちるは声が出なかった。声は上げなかったが、代わりにとある感情が強烈にこみ上げてくる。

 

だめだ、このままここにいたら、だめだ。

 

みちるは走り出した。

どこへ?

とにかくどこかへ。

 

 

 

 

 

気が付いたら公園に来ていた。

眼前でなずなが初めて獣化したのをみちるが見てしまった、あの公園に。

 

はぁはぁ、こみ上げてきた感情は少しは収まっただろうか?

 

いや収まっていない。

それどころか文面を思い出してしまうと、さらにその感情が膨らんでくる。

 

そしてついにその感情が表に出てきてしまった。

 

「ううぅ、なんなのよ、なんなのよこれぇ。こんなの、こんなの書いた奴らぁ、許せないぃぃ!!」

 

顔から手から獣毛がふつふつと生え出し、強い感情のせいかペキッパキッと音を立てて鼻のあたり、そして上下のあごの骨格が変形、マズルと牙が形成されていく。

それとともにミチミチッと両腕両脚の筋肉が変質し、指先も太く、爪も鋭い形状に変形していく。

 

頭頂部の髪が持ち上がり耳介が形成されつつあり、顔には模様が浮き上がりつつある。

尾が外に出でんと、はいているハーフパンツを破らんばかりに内から圧を加えている。

 

そこになずなが覆いかぶさり、小声ながら力強く言い放つ。

 

「落ち着いてよ!こんな人目に付くとこで何してんのよ!」

「だって、だって、悔しいじゃん!」

 

みちるの目から涙がこぼれた。悔しくて悔しくて。

 

しかし涙を流したせいか少し興奮が収まり、怒りによる獣化をなんとか抑えることができた。

 

たまたま公園に人がほとんどいなかったのも幸いして、獣化の様子を見られずにすんだ。

が、もう少し気を落ち着かせようと公園で休むことにした。

 

「ご近所の人たち、私がいたころは知らない人にあんな感じの態度とることなんてしなかったのに。多分SNS見た野次馬が家に来たんじゃないかな、それも大人数」

「この様子だと近所の人から移転先聞くのは、今他人の振りをしてる私たちじゃ到底無理だろうね」

 

なずなは力なく答えた。

 

そのとおりだろう、あのようなとんでもない紙を置いていくような輩が多数押しかけてきたにちがいない。そこに見ず知らずの二人が尋ねてきても、その輩と何ら変わりないようにしか見えず、相手にもされないだろう。下手をすれば警察沙汰にもなりかねない。

 

学校の友人として家の周りの人に聞けば転居先は分かるだろう、その考えは甘かった。

 

困った。

 

「本当にもう聞けるとこ無いのかな……なずなんちのこと知ってて、初めての人にも教えてくれそうなとこ……」

みちるが自問する。

 

問題設定としては今ある状況を並べた正しい列挙ではあるものの、全体として何とも都合の良すぎる組み合わせに、

「そんな都合のいいとこなんかある訳ないって」となずな。

 

そうだよね……

 

あぁ、これで調査もあっさり2時間ほどでおしまい、自分ちの様子も見れないかーと空を仰いだ。

 

実のところみちるは、なずなの両親の行先を明らかにするついでに自分の実家がどうなっているのかも見れたらいいなと思っていた。

 

が。この状況、自分の知りたいことだけ達成してしまったら、何も得られてないなずなに申し訳がない。ということで実家にも行けそうにない。

 

ああ。

 

実家……自分ち。

 

……

 

ん?自分ち? 

 

んーっと、えーっと、うーんっと……あっ!

てかなんで最初に思いつかなかったんだろう。

 

「そうだ、聞けるかも!」

 

あんな都合よすぎな設定を満たす答えって何、

「えっ、うそっ、どこそれっ?」思わずなずなは聞いた。

 

「私んち」

 

素っ気なくみちるは答える。

 

「だって両方の親、事故の件でお互い良く知ってて、なずなと私が親友って知ってるから連絡先をうちに知らせてるかも」

「あ、なるほど、じゃあ変身解いて会う?」

 

なずなの提案に、

「んー、やめとく。いきなり私が行ったらびっくりしちゃうだろうし、シティに帰らせてくれないだろうし」

「あと、わたしん家の両親は私がアニマシティに行ったことは知ってるから、今変身してる私たちが、アニマシティのみちるの友人ということにすれば、うちの親も話を聞きたいと思うんじゃないかな。うん、私んちに行こう」

 

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