ただいま、行ってきます   作:雪須

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ただいま、行ってきます

玄関ではみちるとなずなが玄関に腰かけて靴を履いている最中であった。

 

両方とも靴が履けて立ち上がったところで、みちるは背後から母に声をかけられた。

 

「みちるちゃん、ハンカチ忘れてない?」

「え?あ、あれ?ない。どこにやったかな?」

 

みちるはハーフパンツのポケットをまさぐるが、ハンカチはない。

 

「これ……じゃ……ない?」

 

背後から眼前に差し出された母の手には、探しているハンカチがあった。

 

「あ、それです、ありが……」

 

あ!!今みちるって呼んだ?!

 

はっと振り返って背後に立っているはずの母を見る。

 

すると、母は右手にハンカチを差し出し、左手は顔を覆っていた。

そして左手の間から、頬を伝って涙がしたたり落ちている。

 

「やっぱり、やっぱり……」

 

声を押し殺して泣いている。

 

「やっぱりみちるちゃんだった、おかえり……」

 

母の言葉に、みちるは下を向いた。

 

しばらくだまっていた。

 

みちるの足元の床に水滴がぽたりぽたりと落ちる。

 

そして、一言口を開く。

 

「……ただいま……」

 

顔を上げ、母に抱き着いた。

 

「お母さん、ただいまっ!」

 

上げたその顔はみすずではなく、みちるであった。

 

「お母さん、騙してごめんなさい」

「どうして変装なんかしてたの?あの姿から戻れたんなら、そのままでいいのに」

「だって、突然私が帰ってきたら、びっくりしちゃうだろうし、近所の人に見られたらとかあるし、シティに返してくれないかもだし」

 

ひくっひくっと嗚咽しながら答える。

 

「そんなこと考えてたのね。でも確かにそうね。でも元気そうで本当によかったわ……」

 

母はそういうと、なつみの方を見た。

 

「そうするとこの分だと、なつみさんはなずなちゃん?」

 

なつみも下を向く。

ほどなくして顔を上げ、みちると同じように母に抱き着く。

 

「おばさんっ」

 

その顔はまちがいなくみちるの親友のものであった。

 

「なずなちゃんもみちると一緒にいたんだね」

「二人ともおかえりなさい」

 

「ただいま」

「ただいま」

 

 

 

 

 

二人ともしばらく泣きしきった後、母に尋ねてみた。

 

「いつから私って分かったの?」

 

みちるの問いに、なずなはバレバレなとこばっかだったような、と呟く。

 

「途中の話かな?まるで本人が喋ってるようだったし」

 

「やっぱりあそこか」とみちる。

「詳しく言いすぎちゃってたからね」なずなも同意する。

 

「でも確信したのは、あれかしらね」

 

そういうと母はダイニングに戻り、すぐに何かを手に持って戻ってきた。

 

「これなにかしら?」

 

母が差し出したのは、あの小銭が入っていた細長めの長方形の金属皿。

 

みちるはすかさず「小銭置き」と言った。

なずなが「ペン皿」と言ったのにもかかわらず。

 

「え?!」

「いやこれどうみてもペン皿じゃない?」

 

みちるとなずなで意見が違う。

 

「うちはこのペン皿を余った小銭とか置いたりするのに使ってて小銭置きって言ってるの。だからこれを小銭置きっていうのはうちの人だけだと思ったのね」

 

母の推理に二人は、

「顔とか変えたのにあっさりバレてた」

「みちるのお母さん、よく見てるなぁ」

とそれぞれ感嘆せずにはいられなかった。

 

しかし、みちるは伝えなければならないことを声にする。

 

「お母さん、私達もう獣人になってるんだ。だからごめん、私たちシティに戻らなきゃならない。私たちを獣人として待ってくれている人が向こうにはいる。その人たちに心配をかけさせたくない。だから今日は行かせてほしい」

「でも必ず、必ず遅くてもひと月、ひと月以内にまたここに戻ってくる。今までのこと、向こうで待ってくれている人のこと、話したいことがたくさんある。だから少し待っててほしい」

 

今は私たちは向こうの住人、何も準備しないままここに留まっている訳にはいかない。

そう伝えた。

 

それに対して母は。

 

「……例え獣人となってもあなたはわたしの子ですよ。もう離したくないけど、さっきもそう話してくれたね。分かったわ。待ってるわね」

 

「ありがとう、お母さん」

 

母の言葉に感謝してもしきれない。ごめんなさい、私の勝手で。

 

もう一度母とハグし、そして玄関のドア前に立った二人は、言った。

 

「それじゃお母さん」

「それじゃおばさん」

 

「行ってきます」

 

「行ってらっしゃい。気をつけてね」

 

母の見送りの声を背に、ドアを開けて二人は外に出る。

 

ドアを閉める直前に扉の隙間からもう一度伝える。

 

「できるだけ早く連絡するから。で一月以内にここに来るから。待ってて。じゃあ」

「はいはい、待ってるわね」

最後の会話をし、ドアを閉め、みちるとなずなは帰路についた。

 

 

 

 

 

待ち合わせの場所までは徒歩で10分ほど。

待ち合わせ時刻にはギリ間に合いそうである。

 

街灯の灯る歩道を二人で歩く。

 

「あぁ、母さんと話しちゃった。ホントはよくないんだろうけど」

「私言わなかったけど、みちる、お母さんに今の連絡先とか伝えなかったんだね」

「うん、メッセージとかネットごしだと、シティの人たちのこと、今まであったこと、これから私がしたいこと、たくさんあって伝えきれないと思ったからね。もっと自分の思いを伝えて、両親の話も聞いて納得してもらいたいから」

 

また会える、その時にしっかりと伝えたい、両親からの問いにもしっかりと答えたい、

なぜなら今の私にはやりたいことがあるから……

 

そのためにも次につなげないといけない。

 

「あーひと月って時間切っちゃったぁー。今度こっちに来るのどう言おうかなぁ?市長さんを説得しないと……」

「士郎さんもね」

「うげっ、最難関……」

「また考えもなしに言っちゃうから、まぁそれがみちるのいいところでもあるけど。私も家族に連絡することを考えなきゃ」

 

二人それぞれ次にすべきことができたようだ。

 

「じゃあ明日からも、頑張っていこー」

「うん」

 

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