魔女と弟子の世界周遊記   作:アンドララベリャ

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第五話

古場は家の外に出ると、目を細めた。

気持ちいいぐらいの快晴で、憎らしいほどの青空が広がっている。

 

(さて、まずはヘンリさんを探そうかな。)

 

ヘンリは恐らくもう仕事を始めているのだろう。

いったいどこにいるのか。誰かに尋ねるしかない。

その時、ちょうどどこからか話し声が聞こえてくるのに古場は気が付いた。

どうやら、村に残された女たちが何かをしているようだった。

そうして、古場は女たちの賑やかな声のする村の入り口のほうに向かった。

 

村の入り口の前は広間のようになっていた。

そこで、幾人もの村の女達が籠に洗濯物か何かを入れて集まっていた。

古場は彼女たちにヘンリの居場所について尋ねてみることにした。

 

「あの………、すみません。ちょっと聞きたいことがありまして。」

 

ふくよかな体つきの、女たちのまとめ役のようなおばさんがこちらに気が付いたようだった。

 

「あらあんた、ヘンリさんのところに泊めてもらってる旅人さん? 気を失って眠ってるって聞いてたけど。」

 

「はい、そうです。それで、ヘンリさんがどこにいらっしゃるか、ご存じですか?」

 

「ああ、ヘンリさん? あの人なら村の男連中と一緒に開墾した後の切り株を抜いていると思うわ、多分森のほうにいったわよ。………………体調はどうなの、大丈夫?」

 

「ありがとうございます。ええ、その、ぐっすりと眠ったらすっかり気分がよくなりました。お気遣いありがとうございます。」

 

「あらそう。よかったじゃない。あたしの名前はミランダっていうんだ。………………あんた、ヘンリさんのところまで行くんだろ? 案内してあげるよ。」

 

ミランダと名乗る女性はそう申し出てくれた。

 

「いえっ! そのぅ、そこまでしていただくと申し訳ないというか………………。」

 

「なあに! 私らも今から川に洗濯しに行くんだし、途中ちょっと寄り道するだけさ。」

 

ミランダはそうふくよかな体を揺らし豪快に笑うと、古場の耳元に口を近づけていった。

 

「…………それに、退屈で辛い日々の息抜きになるってもんさ。こう村に閉じこもってちゃ、外からの話なんて少しも入って来やしないからね。昔からあたしら女の大好物は噂話と相場が決まってるじゃないか。」

 

ミランダは少しからかうような口調だった。

 

「それじゃあ、よろしくお願いします………………。」

 

「おっし! お前ら、少し寄り道するぞ!」

 

ミランダはそう大きな声で、集まった村の女たちに告げた。

それとともに古場を彼女たちの前にグイッと押し出した。

じっと興味津々の視線が古場に降り注ぐ。

古場はきまり悪そうにもじもじした。

 

「そ、そのよろしくお願いします。古場といいます…。」

 

 

 

 

 

ミランダたちの後について、古場は村を出た。

一面のライ麦畑の中を一行は進む。

 

「ここら辺のライ麦はそろそろ収穫して、晩秋になったら領主様に納めに行くのさ。」

 

ミランダがそう教えてくれた。

すると、視界の端からにょろりと赤毛の女の子が顔を出してきた。

古場は突然だったので面食らってしまった。

 

「ねえねえ、フィルバー?…さん! その三角帽脱いで顔見せてよ! 昨日みんなが騒いでたんだけど私後ろのほうにいたし、暗くてよく見えなかったの………………あっ、私はソフィっていうの。フィルバーさんもこれからよろしくね。」

 

ソフィはすさまじい勢いでまくしたて、顔を近づけてきた。

 

「はあぁぁ、ソフィ。あんたねえ、初対面の相手にそんなこと頼んじゃダメじゃないか、まったく。フィルバーちゃん、すまないねえ。この子はほんとにお転婆でねえ。」

 

ミランダはあきれた様子だった。

ソフィは不満げにほほを膨らましている。

 

「あの、別にいいですよ。」

 

「ほんと? やったぁ~~!」

 

古場はなんだかそこまで気にすることもないのでさっと帽子をとった。

すると、ソフィが鼻と鼻がくっつくほど顔を近づけてきた。

今まで、異性に古場はここまで顔を近づけられたことなどなかった。

古場はたまらず、顔をそむけた。

 

「へぇ~~~~。きれいな顔ねえ。ラルフのやつが騒ぐのも不思議じゃないわ。」

 

古場は、もともと男である自分の女の子としての容姿を褒められるのは何か複雑なものがあった。

急いで話題を変えることにする。

 

「ラルフ?」

 

古場はソフィの言葉の中の聞きなれない人物名を聞いてみた。

 

「ああ、昨日村人の中に調子者の赤毛の奴いなかった? そいつよそいつ。私の兄貴なの。」

 

古場は記憶を辿った。

そういえば、自分に顔を見せるよう言ってきた男の人が赤毛だったように思う。

すこし確かに言動が軟派だったかもしれない。

 

(あれ……。まてよ? その時、自分が女の子になってると気づいていなかったけど、それを考慮に入れると、その、ラルフさんが言ってたソッチのお店って………………。)

 

古場はとんでもないことに気が付いてしまい、顔が真っ赤になった。

ソフィはそれを見て取り、すぐさま聞いてきた。

 

「えっ! どうしたの、フィルバーさん。…………もしかしてラルフに変なことされた?」

 

「ソフィ、実はね………………。」

 

かくかくしかじかと脇で聞いていたミランダが昨日の出来事をかいつまんで話をした。

ソフィは憤慨したようだった。

 

「なんてやつ! フィルバーさん。気にしちゃだめよ。兄貴はそういうやつなの。デリカシーのかけらもありゃしない!」

 

ミランダが続ける。

 

「仕事はちゃんとこなすし、根はいい奴なんだけどねえ………………。女が絡むと途端にダメになるの。フィルバーちゃんも気を付けるのよ、ラルフは美人とみるとすぐ口説き始めるからねえ。」

 

古場は、さんざんに言われているラルフのことが少しかわいそうになってきた。

その後も、古場とミランダたちはおしゃべりに興じた。

 

 

 

 

 

「ほら、あそこだよ。」

 

ミランダが立ち止まり、小高い丘の上を指していった。

確かに多くの人影が何か働いているようだった。

あそこにヘンリがいるらしい。

古場はミランダに向き直った。

 

「ありがとうございました。何から何まで。」

 

「いいさ、気にすんな。こっちも楽しめたしさぁ。」

 

「フィルバーさん! 今度またお話ししよ~~~!」

 

ソフィがぶんぶんと手を振っている。

 

「そのときは、またよろしく。」

古場ははにかみながら手を小さく振り返した。

そして、丘のほうへと足を向けた。

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