セントラルの一室にて
半日ほど寝ていた運命が目を覚まし医師からの状態の説明と警察からの事情聴取が行われた。
個性に異常は無く、左腕の欠損を確認。
次の日、早朝。
まず病室に訪れたのは担任の相澤、校長の根津、リカバリーガールの3名であった。
根津は運命の左腕にまず悲痛の顔をし、謝罪から始めた。学校側として生徒を守れなかったこと、君の身体に取り返しのつかない欠損を負わせてしまったこと、補償として今回の治療費や左腕の義手費用など、そして慰謝料等も全て根津の資産から払うと言い、最後に襲撃の時にピクシーボブや生徒を治療して回ったことへの感謝で一度話を締めた。
運命も一度に多くの事が起こったのでゆっくりと理解していき、校長の言葉を受け入れた。受け入れた上でそれでも言いたい事を伝える。
「責任問題とかそういうのはあるんでしょうけど、雄英が悪いってことは思ってません。悪いのは敵連合で。それにあの時相澤先生はオレに戻ってこいと言ってたのを無視して飛び回って、人質交換に応じてしまったのもオレなんです。自分で選んだことでもあるので…相澤先生が全責任を負って消えてしまうのは嫌だなって思ってます、すいません、全然まとまってなくて…」
「…ありがとう、君の様な生徒が我が校にいてくれる事を誇りに思うよ」
根津は再度深く頭を下げた。
そして義手の事を話そうとする所で一度声を上げて止めてもらう。
「先生、ここで個性使って良いですか?」
「ん、解った、いざとなればすぐ止めるぞ?」
「はい、…土よ」
左肘の包帯を解き、塞がった面にどこからともなく土が生まれ腕の様に形成され最後に手の形になる。全ての形成が終わったその土の腕に運命から光が纏わり付きゆっくり指先が動いていく。握って、開いて、各指だけを動かしたりしながら確認していく。
「土の腕か、器用な事をする。感触はどうだ?」
それを見て相澤がその手をゆっくりと握る。
「あー若干ありますね、こう、何枚も軍手とか巻いてその上から触られる感じですかね。でも自分の感覚というかと言えば違うよな…練習すればその辺も何とかなるかな…」
「見た目は土だが使えそうだな、だが義手はあって困るものじゃない。校長が費用は出してくれるし最高峰の技術で作られる物も持っておけ、エクトプラズムも何度も試した最高の工房と契約できるからな」
「普段とそうじゃない時とかで使い分け出来そうだし試させてもらいますね」
話しているとバンと病室の扉が開き、右手を骨折したのか吊るさせている大柄な骨と皮のような見た目の男性が病室を間違えたのか入ってくる。
「運命少年!起きたんだって!?」
「!?貴方は…どこかで…」
乱入者の姿を見て今まで黙っていたリカバリーガールが大きくため息を吐きながら声を出す。
「以前保健室の予備室で肺のエグい傷を治したって言えば思い出すかね?」
「…あぁ!あの古傷がエグかった男性…え、でも運命少年って…」
「こんなナリだからわかんないだろうがこれが『オールマイト』さ」
「あぁ、君は知らないか。フン!ほらね」
骨と皮の男性が一瞬だけ筋骨隆々のオールマイトになり一瞬で元の骨と皮に戻る。
相澤と根津も肯定の頷きをしているだけに信じるしかなくなる運命。
「そういうことさ、運命少年。そして君を助けに行くのが遅れてしまいこんなことになって…すまない」
「これはあの魔王の様な男にやられたことですから、むしろ助けに来てくれてありがとう、ですよ」
運命が脱出してからの事は塚内という優しそうな刑事さんに事情聴取の流れで説明されている。
「魔王、そうだね、あの男、AFOはまさしく魔王と呼ぶに値する巨悪だった。君は個性を奪われなかったようだが…」
「精霊に、4大精霊達に守ってもらいました。精神世界まで入ってこられたのはびっくりしましたけどね」
「そうか!君には精霊達がいたから抗えたのか、良かった。本当に良かった…」
「それだけならあんたもボロボロなんだから帰りな、まだこっちは話さないといけないことがあるんだ」
リカバリーガールの言葉に焦るオールマイトは懐からメモを取り出す。
「実はミルコとプッシーキャッツのピクシーボブから言付けを預かっていてね、今から言うね」
「まずはピクシーボブから『助けてくれてありがとう、困った事があったら生意気ラビットじゃなくて土の師匠の私に何でも言いな』だ。君は師匠多いね、この愛されボーイめ!次にミルコ、『鍛え直してやるからはやく仮免取ってこい』だってさ彼女らしいね。ゲロ吐きコースだって言ってたけど私がなんとか優しくしてあげて欲しいと言っておいたよ、毎回ゲロ吐かされるのって辛いよね、うんうん、私もそうだったからさ…あれは痛かった…」
過去を思い出したのか辛そうな顔で外を見るオールマイト。そして運命と視線を合わせて頷き合う、経験者は分かち合うのだ。
「そして最後は私だ、あの時は言えなかったから。私の古傷で呼吸も辛かった肺の傷を治してくれてありがとう、あれから呼吸が楽になってね、血を吐くことも少なくなったんだ」
最後にオールマイトは笑いながら頭を下げる。
「オールマイト、ありがとうございます。なんかもう胸いっぱいです」
運命も笑顔でそれに返し、オールマイトは満足しながら自分の病室へ帰って行った。
それを見送り相澤は運命へ今後の事を伝える。
「ここからはこれからの事だ。午後に親御さんが面会に来るそうだ、まずはしっかり話し合ってくれ。その後に俺と校長が親御さんと話をする」
「はい」
「それ次第だが、まぁそれは終わってからだな。まずは身体をしっかり癒してくれ」
頷きを返す運命に3人は席を立ち病室を出て行った。
窓から見える快晴の空に目をやりながら、運命はただクラスメイト達はどうなったのだろうとゆっくりとベッドに身体を沈み込ませた。
そして8月中旬の登校日
雄英からのタクシーを宛がわれた運命はゆっくりと校舎に入り教室へ向かう。
見慣れた部屋で見慣れた顔達を見て笑顔を浮かべて挨拶する。
「おはよう、皆」
「「「「「運命!!」」」」」
「助かったってのは聞いてたけどお前携帯見ろよ!!心配したんだぞぉ!!」
「悪い、携帯ぶっ壊れてたから今日明日にでも届くはずなんだけどまだ無いんだ」
殆どの生徒が駆け寄ってバシバシと存在を確かめるように叩いて元気な姿に喜びの声を出す。
峰田も涙を浮かべながら運命のズボンを握りしめて言う。
それに返していると蛙吹梅雨が皆をかき分けて運命の前に立ちその姿を全身見回し左腕で止まる。
「運命ちゃん!無事で良かったけど…その包帯の左腕は?」
「梅雨ちゃん、腕はちょっと火傷跡が残ってさ、グロイから巻いてるんだ」
夏服になったことにより肘から指の先まで包帯で巻かれている腕がより目立つ。
「……ごめんなさい、私が捕まってしまったから…」
目に涙を浮かべ感極まって運命に抱き着く蛙吹、皆もあの時を思い出し目線を伏せる。
だが切島、緑谷、飯田、轟、八百万はその腕を見て眉を顰める。この5人は救出に際し運命が腕を消し飛ばされたことを知っている。そのはずなのだが現実に今左腕は包帯で見えないが動いて手も優しく蛙吹の頭を撫でている。まさか治ったのかと訝しんでいるが今はそれを口に出せる状況ではなかった。
「悪いのは敵連合だって、梅雨ちゃんが無事な事がオレは嬉しいよ」
「でも…」
「運命君が攫われてからずっと梅雨ちゃん心配してたから…ウチも生きて帰って来てくれて嬉しい」
「ありがと、まぁただいまって感じ?」
「「「「「お”がえ”り”」」」」
蛙吹の涙が伝播したのか芦戸や上鳴、峰田らも涙を浮かべながら運命に抱き着く。
そこにもう一人の帰還者の爆豪がいつものように肩に荷物をかけ入ってくる。その姿にまた皆が喜びの顔で声をかけていく。
「爆豪もおかえり!」
「元気そうで安心したよ」
「爆豪もいぎででよ”がっだよ”おおおおおお」
「ちっ朝からうっせぇ、何の問題もねぇわ…」
嫌そうに返しながら席へ歩いていく。いつもの塩対応に皆も苦笑いをし、逆に安心する。
爆豪は囲まれている運命の、その左腕の包帯を少し睨んで、胸の中で泣いている蛙吹を見たあと舌打ちして席へ向かった。
何人かが続いて無事を喜んでいるがうざそうに対応している。
そして予鈴がなり担任の相澤が入室してきたことで漸く静けさが訪れた。
「おはよう。まぁ色々言いたい事もあるがとりあえず家庭訪問で話した寮に行くか、場所は今から配る地図に書いてある。委員長、頼んだ」
「はい!全て配り終えたら静かに席を立ち移動を開始するぞ諸君!」
雑務を飯田に任せ相澤は最前列の運命の左腕を見て一度止まり顔を見やる、そして何も言わずに歩いて出て行く。
運命が先生にだけ見える様に人差し指を口に立てていたのを他の生徒は見えなかった。
そして新築された1Aの寮『ハイツアライアンス』前にA組の生徒が揃うと相澤が仕切り直し声を上げる。
「とりあえず1年A組、無事に集まれて何よりだ」
その言葉に皆が口々に返していく。
「耳郎と葉隠さんはガスで直接被害あったもんね、許可降りてよかったね」
「私は苦戦したよ…」
運命の横にぴったりと寄り添う蛙吹も先生に心配の声を上げる。
「無事集まれたのは先生もよ、会見を見た時いなくなってしまうのかと思って悲しかったの」
その声に同意の頷きをする生徒達。
相澤も顔を掻きながら返す。
「俺もびっくりさ、まァ…色々あんだろうよ。さて…!これから寮について軽く説明するが、その前に一つ」
パン、手を打ち注目を集める相澤。
「当面は合宿で取る予定だった”仮免”取得に向けて動いていく」
おぉ、ざわつく生徒達にさらに声をかけていく。
「大事な話だ、いいか。切島、緑谷、飯田、轟、八百万、この五人はあの晩、あの場所へ爆豪、運命を救出に赴いた」
「「「え」」」
全員が息を呑み、相澤を見返す。相澤もその反応を見て続ける。
「その様子だと行く素振りは皆も把握していたワケだ。色々棚上げした上で言わせてもらうよ。オールマイトの引退がなけりゃ俺は、運命・爆豪・耳郎・葉隠以外全員除籍処分にしてる」
「「「「「!?」」」」」
「彼の引退によってしばらくは混乱が続く…敵連合の出方が読めない以上今雄英から人を追い出すわけにはいかないんだ。行った五人はもちろん、把握しながら止められなかった12人も理由はどうあれ俺達の信頼を裏切った事には変わりない。正規の手続きを踏み、正規の活躍をして信頼を取り戻してくれるとありがたい。以上!さっ!中に入るぞ、元気に行こう」
「待った」
重い空気の中寮に入ろうとする相澤に爆豪が声をかける。振り返る相澤に爆豪は運命の所まで歩き胸倉を掴み全員の一歩前に引きずり出す。
「ちょ、何を!」
「爆豪ちゃん!?」
「…先生、頼む」
「……あぁ」
爆豪の意図を正確に理解したのか相澤は髪を逆立たせ目を赤く見開かせ運命の左腕を見る。
ぼとり、と運命の包帯が巻かれていた左腕が肘から落ちて中から土が零れ落ちる。
「「「「「!?」」」」」
全員が息を呑む中八百万が納得の声を漏らす。
「そういうことでしたか、土の個性で腕を作って見せていたのですね…」
あまりの状況に状況を知る者以外絶句していると運命が怒りの表情で爆豪の胸倉を掴み上げる。
「なんで!?」「お前バレねぇとでも思ってんのか?これからどれだけ同じ場所にいると思っとんだ、無理なんだよ隠し通すなんて」
「俺も同意見だ運命」
爆豪と相澤からの言葉に運命ははっと振り返り彼女を確認してしまう。
「そんな…運命ちゃんの、腕が…」
蛙吹は呆然とした顔でその腕を掴み、肘から先の断面を見て、気絶した。
「「梅雨ちゃん!」」
前から運命が、後ろから麗日が抱き留めるが蛙吹は身動き一つしない。
「……運命、麗日。入って右の女子棟の二階の手前の部屋の鍵だ、臨時の寝床でベッドとソファが置いてある。そこ使え。他の者は寮の説明だ」
麗日に鍵を投げ渡し告げる相澤。受け取った麗日も困惑のまま気絶した蛙吹に個性を使い軽くして運んでいく。
「運命、お前…」
「皆、ごめん…」
後ろからのクラスメイト達の声に運命は蛙吹を介抱しながら絞り出すように返し、先に寮に入っていく。
「お前が謝ることなんて何一つねぇだろうが…!」
切島の声がやけに響いて、消えていった。
麗日が蛙吹のネクタイと第一ボタンを外しベッドに寝かせて隣に座る。
運命も近くのソファに座り項垂れ床を見やる。
沈黙が続く中、麗日が喋り出す。
「梅雨ちゃんな、運命くんと人質交換で助かった事聞いて凄いショックで落ち込んでてん」
蛙吹の顔を見ながら麗日は続ける。
「あの時ウチらがトガヒミコって敵連合の女子と争ってた時に、運命くんの人質交換要員として梅雨ちゃんが選ばれたって聞かされて動揺して取り逃がした。爆豪くんと常闇くんがおらんってなった瞬間に梅雨ちゃんも珠にされて連れ去られて。そんで常闇くんと梅雨ちゃんが帰って来て、爆豪くんと運命くんは連れ去られた」
ゆっくりとその長い髪を手で撫でる。
「梅雨ちゃんずっと涙堪えて耐えててん、病院のデク君の所で切島くんが助けに行こうって行った時も本当はイの一番に行こうと動いてたけど、血が滲むくらい拳握りしめて必死に周り止めてた」
振るえる手を握りしめ胸に当てる。
「そんで次の日にオールマイト達が頑張ってくれて、二人も無事って飯田くんから連絡来て、喜んで今日の朝やったはずやねんけどな…」
涙を堪えながら、声を震わせながら。
「ごめん、一番辛いんは腕無くなった運命くんやのに…梅雨ちゃんの為に隠そうとしてくれてたのに…」
「…そこから先は私が言うわ、ありがとお茶子ちゃん」
目を覚ました蛙吹が麗日の手を握る。
「梅雨ちゃん」
「悪いけど、二人っきりにしてくれるかしら?」
「うん、何かあったらすぐ呼んでな、ここ女子棟の二階で上の部屋にウチらおるから」
「運命ちゃん、ここに座って腕を見せて」
麗日が先ほどまで座っていた場所に座り、右手と左腕を差し出す。
「…あぁ、本当に無くなってしまったのね。嘘でも夢でもないのね…」
両手で左肘を触り、その現実を確認する。手から感じる体温もどこか冷たく感じ、沈黙が続く。
「梅雨ちゃん」
どれくらい時間が経ったか分からないほどの沈黙を破ろうと運命が声をかけるが震える声が返ってくる。
「ごめんなさい…、私が弱かったから取り返しのつかないことに…」
「梅雨ちゃんのせいじゃない、悪いのは敵連合さ。爆豪だって捕まった、あの時のオレらじゃ誰でも無理だったんだ!」
「でも、それでも…」
左肘に添えらた両手、それを見て溜まった涙が溢れだすその頬に触れて動かし目を合わせる。宝物を触るように大事に、想いを込めて。
「オレは自分のした事に、一片の悔いもない。たとえ何度生まれ変わっても、必ず、同じ道を選ぶ」
「え…」
「オレは生きてる、生きてここにいる!片手が無くなったくらいでなにさ!まだオレの、オレらの”夢は終わらない”!」
運命はニカッと笑いながら
「笑って欲しい、梅雨ちゃんの笑顔が好きだから」
右手で蛙吹の大きな目からこぼれ落ちる涙の雫を掬う。
その言葉にさらに大きく目を見開き、笑顔を作る。
「…ありがとう、私も好きよ。…クロスちゃん」
触れる指と胸の奥から溢れてくる暖かさが二人の距離を零にする。
これが貴方に届けば良いなと共に想いながら。