機動戦士ガンダムSEED DESTINY‐FINAGLE 作:ケリュケイオンの蛇
……はい、これは私の好きなものをすべてぶち込んであります。
本作は筆者が当分創作活動をしていなかったため、リハビリも兼ねて書いた拙作です。
ほぼ勢いで書いたことと、余り原作を覚えていないことから、ただ今リマスター版を見て勉強し直している次第です。
そのため、設定等の矛盾もシナリオの進行によって生まれるかもしれません。稚拙な文、独自解釈、原作無視など、色々と原作好きな方からすれば問題のある今作ですが、読んでくださる方がいれば幸いです。
EPISODE:01『運命の再開』
C.E70年。ひとつの大きな戦争があった。
その戦争は、単なる人種差別問題が発端となって引き起こされた。
人為的に遺伝子操作されて生み出された人類-コーディネイター-。遺伝子を操作することにより、難病や遺伝子疾患に打ち勝ち、更には天才的な素養まで持ち合わせた新人類。
その新人類のベースであり、自然発生のままに生まれたナチュラルは、より高い能力を誇るコーディネイターに劣等感を抱いていた。
始まりはただのコンプレックスだったのだろう。きっかけは誰にでもあり、それまでもあった――より強い者への羨望、妬み、劣等感…そう言ったマイナス的な感情が。地球と宇宙という明確な故郷の違いを得て、爆発した。
そしてその結果、互いが互いを憎しみ、殺し合い。お互いにすれ違いが酷くなって、戦火は拡大してしまった。
そして、C.E71年。実に一年以上という時間をかけて、ようやくこの戦争は集結したのだ。数え切れないほど、多くの犠牲を払った上で。
機動戦士ガンダムSEED DESTINY―FINAGLE
EPISODE:01『運命の再開』
風が頬に当たる感触が気持ちいい。そんな当たり前のことが、最近になってようやく分かってきた。
舗装された道路を走るエレカの助手席で、一人の少女がそう呟く。乗っているエレカはロードスタータイプのオープンカー。最新モデルだ。
肩より少し伸ばした白銀の髪が風に揺れ、陽の光で綺麗な輝きを見せている。異性でなくとも気を引くような髪も、整った顔立ちと合わせて一層少女の魅力を引き立たせていた。
「…でさぁ、その子がまた可愛いのなんのって」
さっきから隣からの言葉が耳に入らない。少女にしてみれば興味のない話題…いわゆる色恋沙汰の話だ。少女たちの目的は買い物のはずなのだが、どうしてそんな話題になるのか。
彼女にとっては全く理解に苦しむ話だが、どうやら少女以外の乗っている人間たちはそれで盛り上がっているらしい。
「っておい、聞いてるかフィアちゃん?」
「やめとけよ」
運転席からの声にフィアと呼ばれた少女―本名:フィア・エルンスト―は息をつく。適当に話を逸らそうとして、後方からの声に遮られた。
その声に後ろを見れば、黒髪の少年が視界に入る。年齢的には十代後半。赤い瞳が特徴的な。少しひねた印象を持たせる少年だ。
黒髪の少年の名はシン・アスカ。フィアとは同じ士官学校の同期で、士官学校内では割と付き合いが長い人間である。ついでに運転している褐色肌の少年ヨウランも、二人と同期の仲だ。
だからか、言葉数の少ないフィアのことを、代弁してくれることも多かった。
「どうせフィアは興味ないだろ? お子様なんだし」
ただし、いつもこうやって余計な一言がつく。
言いたいことだけ言ってそっぽを向くシンを見て、フィアは軽くイラッとした。
「お子様じゃない」
「そういうのがお子様なんだって」
フィアがむくれると、シンが素早く突っ込んでくる。耳がいいのか偶然かは置いといて、フィアにとっては苦手な人間だった。
反発がないわけではないが、完全に嫌いにはなれない…表現としては兄というのが近いだろうか。
二年前の戦争で家族を失ったフィアにとっては、懐かしい感覚だった。
「シン、死んで」
「いや、フィアちゃんそれギャグだわ」
「ガキ」
フィアが口汚く罵ると、運転席にいたヨウランが軽く笑みを浮かべて言葉を放つ。それに対してシンが反撃し、車の中で罵り合いに発展した。
「シンのバカ、バーカ!」
「なんだとっ!?」
後部座席に向かってフィアが罵倒し、シンが顔をフィアに向ける。
お互いに掴み合いになるまでそれはヒートアップし、動くたびにエレカが左右に揺さぶられた。
「おぁっ、ちょっ二人共あぶね!? フィアちゃん蹴らないで!」
二人の動きに慌てた声で運転しているヨウランが操作をオートに切り替えた。かろうじて自動制御に間に合ったエレカがバランスを取り戻し、ヨウランがほっと息をつく。その横で、フィアたちの口喧嘩が響き渡っていた。
「あの3人、大丈夫かなぁ?」
現在ザフトの開発している新型戦艦ミネルバ。その甲板で、紅い髪をツインテールにした少女、メイリン・ホークが心配そうな声を上げた。
3人、とはフィア、シン、ヨウランの買い出しグループのことだろう。華奢な身を包んでいる緑色の軍服には真新しさが見える。どうやら彼女もフィアたちと同期のようだ。
ヨウランとシンは男同士話も合う部分があるだろう。しかしフィアは口数も少なく人付き合いがお世辞にもいいとは言えない性格だ。
メイリンにとっては、あのメンバーは何かと不安のある人選だった。
「お姉ちゃんも忙しそうだし。あーぁ、暇だなぁ」
甲板の上で手すりにもたれかかりながら、メイリンは一人ごちる。メイリンの仕事は通信士。いわゆるオペレーターなのだが、現在は特に仕事がない。
戦争が起きてるわけでもないので、軍人なんて暇な仕事だ。特に新人のメイリンは、マニュアルを覚えてこの艦が動く時くらいしかやることはないのだ。
今日は軍務の仕事が非番だったのでこうして甲板で景色を楽しんでいたのだが、それでも一人で数時間も過ごすのは飽きるだろう。
「なんか楽しいことないかなぁ?」
「例えば?」
「んー、例えばぁ……って、えぇっ!?」
暇すぎて独りでしていた言葉に、あるはずもない返事が聞こえた。背後からの声に途中まで言葉を返し、その違和感にはっとする。
先程まで一人だった空間に、何者かが居る。その恐怖に驚いて振り返ると、見慣れた顔があった。
「って、なんだユウかぁ」
目の前の少年はユウ・ロックハート。フィアたちと同じくメイリンの同期で、成績優秀者だ。その証拠に、エリートとされる赤い軍服が目を引く。メイリンには着られなかったモデルで、少しだけ羨ましい。
それにとても容姿が整っている。遺伝子操作されたコーディネイターは一般的に容姿も整っていることが多いのだが、ユウ・ロックハートは群を抜いてイケメンと呼ばれる魅力的な良さを持っていた。
銀色の髪は男性にしては長く、セミロングと呼ばれる部類。同期の男性の中ではレイ・ザ・バレルに次ぐ長さだ。
「そんな反応する? 傷つくなぁ、俺」
メイリンの反応に傷ついたのか、目の前の男は少しだけ声のトーンを落とす。とても悲しそうな表情で。それを見たメイリンは咄嗟に頭を振った。
「あ、ごめんなさい。いきなりだったからびっくりして」
「いや、冗談だぜ? 本気にした?」
メイリンが謝ると、ユウはパッと表情を緩めてからかう。至近距離で格好良いとされる部類の男子に微笑まれ、メイリンは顔が熱くなっていくのを感じた。
メイリンにとっては、見慣れたはずの顔なのに、改めて近くで見るとどうしても心臓が高鳴ってしまう。
元々姉の手伝いで入隊したのに、と慌てて思考を逸らそうとするが、ユウに見つめられ、身体が硬直してしまっていた。
「ってか顔赤いぜ? 大丈夫かよ」
「ひゃっ!? え、え?」
唐突に額にひやりとした感覚が当てられ、メイリンは狼狽した。気がつけば、吐息がかかるほど近くにユウの顔が見える。
どうやら、額同士をくっつけているらしい、と理解するまで数秒の時を有した。
ユウにとってはメイリンの顔が赤くなっていることを不思議に思ったからなのだろうが、メイリンにとっては非常事態だった。
少しでも動けば唇同士が触れてしまいそうだ。昔からユウは異性同士の意識をした場面があまり見られなかったのだが、そういうことに疎いのだろう。
しかしメイリンにはわざとやっているようにしか見えなくて。
「だ、大丈夫だから」
「ん、そうか。具合悪かったら言えよ?」
慌ててメイリンが離れれば、ユウは何もしない。ただ笑顔で頷くだけだ。
ユウのこうした行為に悪気がない。そのことが分かるから、メイリンはいつも落胆するのだ。いつからかは知らないが、時々ユウに対してそう思うことが多くなった。
「なんでだろ」
胸に手を当ててメイリンは呟く。未だ高鳴っている胸の鼓動を抑えながら、思考するも理由はわからない。
ユウが不思議そうに首をかしげるのを視界の端で確認しながら、メイリンが深呼吸した、その時。
周囲一帯に、警告音と。
「っ!?」
爆音が鳴り響いた。
「な、何!?」
「それ貸して!」
メイリンが狼狽するのを尻目に、ユウがメイリンの首から何かをひったくる。甲板から景色を眺めるために用意した双眼鏡だ。結局メイリンは少し見て飽きてしまったが、ユウはそれで状況確認するつもりらしい。
爆発の煙が立ち上る方向に向けて、ユウが双眼鏡を覗く。と、ユウの顔色がはっきりと変わった。
「アレは…セカンドシリーズか!?」
ユウの視界には3機のMS。それぞれ暗緑、黒、青の色合いの新型MSが、MS工場を破壊している光景が映っていた。
今ユウたちの立っている戦艦ミネルバに配属される予定だった新型機だ。その性能はこの場に配備されている量産機を遥かに上回る。
そんな機体が暴れまわる。それだけで受ける被害は甚大なものになるはずだ。
すぐさまユウは身をひるがえす。
「ユウ!」
それを見て、慌ててメイリンが呼び止めた。ユウが動いた理由はあの3機を止めることだ。未だ事態を把握していないメイリンでも、ユウが戦場に行くことは明白だった。
ユウの服は、MSパイロットエースとしての、赤なのだから。
「なに?」
非常時なのに、呼び止めてから何も言葉をかけられない。先程から艦内放送でメイリンたちを呼ぶ声が響いている。メイリンにとっても職務を果たさなければならない義務がある。
お互い早くしないといけないのはメイリンでも分かっていた。必死に言葉を探し、口がぱくぱくと開く。
「えっと…帰ってきてね?」
「ん、当然。俺は赤だぜ」
かろうじて放った言葉に、ユウは笑みを浮かべて答えた。その姿は凛々しくて、メイリンにはとても眩しいものに見える。
緊張に固まるメイリンの頭にユウが軽く手を置いた。
「だからサポート頼むぜ、オペレーター」
「…うん!」
何度か叩いて笑みを浮かべたあと、ユウがその場を離れていく。
その背中を追うようにして、メイリンも艦内へと向かった。自分の役目を、果たすために。
MS工廠は既に火に包まれ、戦場の光景へと様変わりしていた。周辺一帯で煙が上がり、爆音が止むことなく鳴り響いている。
その光景を目の当たりにして、アスラン・ザラは歯噛みした。
アスランはこの日、隣に居るカガリ・ユラ・アスハの非公式会談のため、警護者として共にこのコロニー『アーモリー・ワン』を訪れていた。目的はプラントの現議長、ギルバート・デュランダルとの会談だ。
しかし、会場に向かう途中で戦闘に巻き込まれ、その議長とははぐれることとなってしまった。MS相手では身を守る術も限られ、助かるために咄嗟にザフトのMSへと乗り込んでしまったのである。
これでおそらく戦闘は避けられないだろう。アスランがいた頃よりMSの性能は向上しているようだが、見たところ相手のMSはそれを凌ぐ性能だ。
できればカガリのためにも、リスクは避けておきたいと思っていたのだが、モニターに映る機体を見る限り、それを許してもらうことはできないだろう。
「大丈夫なのか、アスラン?」
「心配するな」
不安そうに声をかけてくるカガリに、優しく言葉を返す。性能差はいまだはっきりとしていないが、アスラン自身先の大戦を生き残った経験がある。
そう簡単にやられはしない。そう意気込み、アスランはザクを動かした。同時に片手でキーボードを入力。手早く手持ち武装を確認。
このザクの装備はシールドと、ビームトマホーク。後者を選択すると、ザクがビームトマホークを肩部シールドから抜き放った。
「ヘアァァァっ!」
掛け声を上げながら、カオスへと斬りかかる。カオスはそれを回避するが、ザクはその動きに対応。即座にスラスターを点火し、シールド越しに強烈なタックルを食らわせた。
『なにぃぃぃぃ!?』
カオスのパイロットが悲鳴にも似た叫びを上げながら、バランスを崩す。その隙を逃すまいと斬りかかるアスランだったが、コクピット内に鳴った警報によってその行動を中断した。
「もう一機か!?」
黒い機体から放たれたビームを、寸前で防御する。シールドに着弾した衝撃でコクピットが揺さぶられ、身体を固定していなかったカガリの身体が激しく打ち付けられた。
「くっ、カガリ…」
意識を失った少女を見て、アスランが呻く。横目で見ると揺さぶられた際に額をどこかで切ったのか血が流れていた。怪我の程度は浅いが、脳震盪の恐れもある。できれば早く離脱して、検査を受けさせたいところだ。
今の状況はアスランにとっては極めて不利な環境だった。要警護者の体を気遣い、精神的に余裕はない。また、敵には質でも量でも劣っている。正規の部隊は出られないのか、一向に応援が来ないこともアスランの焦りを助長させていた。
「ザフトは何をやっているんだッ」
苛立ち混じりに悪態をつく。ただそれが状況を変えるワケではないことを分かっているのか、アスランはそれ以上口を開くことなく戦闘に集中した。
飛びかかってくるガイア…獣のようなMAをシールドであしらい、弾き飛ばす。続けてビームライフルを構えたカオスに横ステップで対応。機体にビームがかすめていくが、構わずに突っ込んだ。
二度目のタックルを警戒してか上に飛んでカオスがかわす。
猛禽類を思わせるMAに変形したカオスが足のクローを展開して掴みかかってくるのを防ぎ、逆に脚を掴んで地面へと叩きつけた。
そのままカオスに切りかかろうとトマホークを振りかざすが、今度は別の場所からのビームに態勢を崩すこととなる。
「流石に厳しいかッ!」
水色のMS、アビスだ。ザクの識別センサーに表記された文字を見て、アスランは舌打ちする。
流石に敵の機体も高性能ながらパイロット自体の練度が高い。一機を潰す前に他の機体が援護に入るため、中々に攻めづらい。これが戦闘を長引かせ、アスランを徐々に防戦へと追い込んでいく。
手数の少なさもアスランの選択肢を狭め、戦闘を不利にする要因だった。せめてビームライフルがあれば、複数相手でももう少し良い立ち回りができただろう。しかし今はトマホーク一本のみ。動きが直線的に成りやすく、読まれやすい。
先ほどブーメラン代わりにしたこともあって奇抜な発想ももう使えないだろう。
そう考えているうちに、コクピットの警告音にハッとした。
「しまったっ!?」
アビスのビームを辛くも避けるが、後方から迫り来るガイアに対応できない。突進を食らわされ、前のめりになったところに、カオスが蹴りを放ってくる。
それもかわせず、凄まじい衝撃がコクピットを襲った。
「ぐぅぅぅっ!」
ザクの巨躯が地面に叩きつけられ、轟音が響き渡る。身体が軋むような痛みに、アスランも流石に呻くのを堪えられなかった。
モニターにはザクの身体を踏みつけるカオスの姿が映っている。抵抗を許さず、一気に決めるつもりか。
ビームサーベルが発振されるのを見て、アスランの額に汗が浮かぶ。咄嗟に抵抗する手段を思考するが…良い考えを思い浮かべることができない。
せめてカガリだけでも、という口惜しさが残る中、アスランはビームサーベルが突き立てられるのを睨みつけ。
『なにっ!?』
カオスを襲った砲撃によって、九死に一生を得ることとなった。
ユウが現場に到着した時には、既に大きな被害が出ているところだった。周囲に瓦礫が散乱し、ザフト士官の犠牲者も確認している。
おそらく技術者のが多いだろう。普段前線に身を置くことが少ない者たちだ。身を守る術はあれど、場馴れしていない分被害を受けやすい。
また、戦場に出ない分命を捨てる覚悟も弱い。彼らは言ってみれば、ユウたち前線に出るための兵士が守るべき民間人に近い存在だ。
見知った顔は確認できなかったが、中には自分と接したものもいるだろう。そう考えると、憤りが身体を沸騰させるような感覚があった。
「一体何やってるんだよ、お前たちは!」
憤りのままに、ユウが叫ぶ。人と接する機会が多い性格だけに、この被害を生み出した敵が許せない。どんな理由であれ、戦争は既に終わっていたのだ。
ユウの搭乗機、ZGMF-X52S『シルバリオン』。純白の四肢を持つ騎士然としたMSが、敵へと踊りかかる。
右腕からビームサーベルを発振してカオスに振り下ろした。
それをシールドで防ぐカオス。それを見て、ユウは瞬時にパネルを操作。強烈な蹴りを放ちカオスをザクから弾き飛ばす。
『新手だとォォッ』
「好き放題しやがって」
吹き飛ぶカオスを見ることなく、左腕のシールドを向ける。狙いは、アビス。
シールド先端部にはガトリング砲が取り付けられており、砲身が高速で回転。ビームの雨を撒き散らした。
『なんだよコイツっ!?』
相手の言葉は聞こえないが、ユウは相手の様子からそんなことを言っているのだろうと感じ取る。だが、容赦はしない。攻め入ってきたのは向こうなのだから、遠慮などする必要もない。
「覚悟してもらうぜ!」
ビームの雨をシールドで防ぐアビスを見ながら、ユウはモニターを切り替えた。後方センサーに反応。識別は、ガイア。
地上での機動力はMA形態のガイアが上だ。まともにやり合う必要はないだろう。少なくとも、以前に模擬戦をした時の相手であれば。
「後ろから突撃するとかさぁっ!」
飛びかかってくるガイアの動きは先ほど遠くからザクとの戦闘で確認している。こいつの動きは単調だ。ガイアの機動力に救われているが、直線的で、分かりやすい。
今までユウの経験した対人論からすると、怒りっぽい直情型。しかもきっと女だ。めんどくさいタイプの。
「バカの一つ覚えみたいにっ」
操縦桿を引き倒し、シルバリオンを屈ませる。ぶつかるべき対象を失って真上を通り抜けていくガイアに向けて、スラスターを全開。ブーストで勢いをつけたタックルで吹き飛ばした。
『キャァァァァ!』
一瞬の接触時に女の悲鳴が聞こえ、顔をしかめる。他人思いのユウにとっては、人が乗っていると実感させられる嫌な瞬間だ。殺しはなるべくやりたくないという思いが、ユウの表情を歪ませる。
だけど、所詮敵だ。そう思うも、感情に心が追いつかない。
その一瞬の迷いで、シルバリオンの動きが鈍る。
『よくもやったな、余り物のくせにさァ!』
その一瞬で、アビスが全砲門からビームを一斉射した。咄嗟に横にステップして回避するが、スラスター部にビームが命中。融解し、推進剤に引火して爆発する。
「くっそぉぉぉ!」
咄嗟に背部ブロックをパージしたことで本体部への被害は抑えられたが、機動力を潰された。それはシルバリオン最大の武器を等しく、戦力低下は避けられない。
咄嗟に通信回線を開き、ザフトの一般周波数に合わせる。ザフト機に登録されている波長だ。敵にも筒抜けだろうが、やらないよりマシだ。
「そこのザクのパイロット! やれるなら援護。出来なければ撤退して応援を頼む」
『了解した。可能な限り援護する。すまない』
一方的な内容であるから、期待していなかったが、律儀な返答にユウは目を丸くした。若い男の声だ。凛々しい声だが、どこか優しさを感じさせる。
きっと、温和な性格だ。戦争向きじゃない。
だが、戦場という孤立した空間で人と繋がれたことに安堵し、ユウは自然と笑みを浮かべた。
「心強い!」
思ったことを素直に口に出しながら、ユウは再び機体を駆る。スラスターがない分機動力は落ちるが、それだけでシルバリオンが戦えないわけじゃない。ビームガトリングを構えて、機動力のあるガイアの動きを止める。
そこにザクがビームトマホークを構え、投げつけた。ブーメランのように投擲されたトマホークがガイアを捉えるが、その攻撃をカオスが盾を構えて弾く。
その直後アビスが無数のビームを撃ち込んでくるが、その場から飛びずさることでシルバリオンは回避する。ザクはトマホークを拾い上げると、それを振りかぶってカオスを近接戦へと誘い込んだ。
それをみて、ユウはザクを援護することを選択。レールガンを展開し、ガイアへと放つ。
フェイズシフト技術による相転移装甲のため、相手MSは実体弾に高い耐性がある。だが、衝撃まで完全に無効化することはできずガイアはザクから引き離されることとなった。
次いで、遠距離射撃が厄介であるアビスへと目を向ける。
「君たちはもう、どこにも帰れない。悪いが、ここで倒す!」
アビスは砲撃戦による後方射撃を得意としたMSだ、かと言って、接近戦ができないわけではない。懐に潜り込まれるのに弱い部分はあるが、それこそアビスの脅威性を示す罠。背部のバックパックユニットを展開させ、広範囲による一斉射が襲いかかってくる。
距離が近い分、面での射撃は避けづらい。そのことは、模擬戦で痛いほどユウは味わった。
「まずその背負いものを潰させてもらう!」
ビーム・ガトリング砲を構え、アビスに狙いを定める。そのままトリガーを引こうとした瞬間、遠くからのビームがガトリングを撃ち抜いた。
「ちぃっ」
シールドから手早くパージし、ガトリングを蹴り飛ばす。宙に舞ったガトリングが爆散するのを、シールドで防ぎながらユウはモニターに視線を移した。
モニターに写っていたのはガイア。MS形態でビームライフルを構えているあたり、突撃バカではなかったようだ。頭は回る、ということか。
ザクもカオスに苦戦しているようで、援護は期待できない。
分が悪い、と悪態を着いた時、索敵範囲に映ったモノを見て、ユウの口元に笑みが浮かんだ。
「はっ、ようやくかよ」
モニターに映る戦闘機と、白銀色のMSを見てユウは操縦桿を持つ手に力を込める。
散々待たせてくれた援軍に、なんと言ってやろうかと考えながら右腕部からビームサーベルを展開して、叫ぶ。
「さぁ、ショータイムだ、ぜッ!」
ユウの援護に駆けつけたザフト製MSの中で、フィアはコンソールをチェックしていた。先ほど通信でメイリンから状況の説明は受けていたが、まさか本当に3機も強奪されているとは思いもよらなかったからだ。
改めて確認すると、確かにメイリンの情報は間違ってはいないだろう。ガイア、カオス、アビスは軍施設への攻撃こそしていないが、ユウのシルバリオンやおそらくこちら側のザクに向けて攻撃を続けている。
通信回線も向こう側から切断されたままだ。一般回線による呼びかけにも応じない以上、明確な敵意があることは間違いない。
フィアは素早く状況を確認するとシンに回線を開いた。
「シン。どうする?」
『どうするもこうするも、あいつらをぶっとばす! 話はそれから』
「なるほど」
シンは故郷のオーブを連合の理不尽な攻撃で焼かれ、家族を失ったという。乱暴な言葉も、彼の心情からすれば当然のもの。
フィアの家族も二年前に亡くなっている。ただ、そのことを、フィアはもう忘れてしまった。それをシンは素直に表現するから、フィアにとっては少しだけ羨ましい。
「シン」
『何だよ?』
一言シンを呼ぶと、モニターに険しい顔の少年が映る。
ここからは実戦。死の危険と隣り合わせの世界だ。だがきっと目の前の少年は生き残るつもりでいる。そのことを表情から感じ取って、フィアは少しだけ勇気づけられた。
「あなたがバカでよかった」
『あ゛ぁっ!?』
一気に不機嫌そうな声を出したシンを置き去りに、フィアは自らの機体を駆った。
白銀の四肢に、黒い胴体。背部の翼は赤と黒で彩られ、まるで血に染まった堕天使のようにも見える。機体コードはZGMF-X58S。
「舞おう、イノセント」
歌うように唇に音を乗せる。透き通るような音の波。その言葉に呼応してか、イノセントと呼ばれた機体のツインアイが力強く輝いた。
背部のウイングスラスターを展開し、一気に加速。亜音速にまで近い初速を叩き出しながら、カオスに踊りかかる。
『何だよ、こいつらはァ!』
ザクの右腕を切り裂き、追撃の構えを取っていたために、カオスは弾丸のごとく迫り来るイノセントに対する反応を遅らせることとなった。ビームサーベルを腰部から抜き放ち、居合の要領で切り払う。
かろうじて身を反らすことで避けたカオスだったが、イノセントのほうが早い。シールドが避けきれずに切り裂かれ、小さく爆発を起こしていた。
『チィッ、次から次へと』
『新型はこいつら3機だけのはずだろ、スティング!』
『うるせェ』
敵の混乱などお構いなしに、フィアは機体を操作する。腰部ロケットアンカーのタクティクス・アレスターを射出し、カオスの両腕を拘束。即座に両腕を切り落とすべくビームサーベルを展開するが、視界端にMA形態となったガイアを見てその行動は中断することを余儀なくされた。
アレスターを戻すイノセントにガイアが迫る。その瞬間、MS形態への合体を果たした戦闘機、シンの『ソード・インパルス』が横殴りに斬りかかった。
ガイアがそちらに気を取られている隙を見て、フィアはカオスへと視線を移す。
だが、敵もただ防ぐばかりではないようで、右脚をクローにしてイノセントを掴み取った。
「こ、のっ!」
機体を掴まれたイノセントがカオスの頭を掴み上げる。お互いヴァリアブル・フェイズ・シフト装甲で覆われているため、どちらも決定打になりにくい。だが、メインカメラを潰せばこちらの勝ちだ。
相手はフィアたちを破壊しなければならないが、こちらは捕獲するだけでいいのだから。
『くそっ……これ以上はジリ貧だ。アウル、ステラ!』
『落とす! こいつだけは!』
カオスがクローによる拘束をしたまま、ビームサーベルを振りかざす。それを見てフィアは操縦桿を引き戻し、仰け反るようにして斬線から身を逸らした。
そのわずかな間を縫うように、ユウの操るシルバリオンが腰部レールガンを放ち、カオスが弾丸の直撃を受けて吹き飛ばされる。
「ユウ、助かった」
『フィア、油断するなよ…?』
回線越しに礼を言うと、ユウが不敵な笑みを浮かべた。正直格好いいが、今は残念ながら眺める余裕はなさそうだ。
ビームサーベルを投擲し、カオスの動きを牽制。同時に腰部後方に取り付けられたビームライフルを掴み取り、ビームを放った。
即座に回避行動を取るカオスだったが、直前までサーベルを避けたことによる慣性がその動きを阻害する。
結果として動きの硬直したカオスはビームを避けきれず、背についたポッドの一基を撃ち抜かれた。爆発する前に切り離したカオス。そこにアビスが援護に入り、追撃の動きを見せていたイノセントへ向けてビームを放つ。
『イライラするんだよッ、お前らさァ!』
『アウルッ! ステラも、帰還だ! これ以上は無理だ』
『うるさいよ! だけど、確かにしんどいか』
会敵した時よりも目の前の3機の動きが鈍くなってきたのを、フィアは薄々感じ取っていた。流石にユウや先ほどのザクとの戦闘が響いているのだろう。
数での優位を失ったことも敵の精神を追い詰めている要因かもしれない。どちらにしろ、好都合だ。
『フィア、シン。そろそろ決め時だぜ』
『わかってる』
ユウの疲労もかなり溜まっているらしい。相当集中していたのか、額に汗が浮かんでいるのがフィアからでも分かる。ヘルメットをつけないあたりはユウらしいが、きっと暑くて脱いだのだろうと推測した。
ユウの言葉にシンが了承し、ガイアに向かっていく。ガイアの左腕は既に斬り飛ばされており、MA形態での機敏さを失っている様子だった。
『いい加減諦めなって!』
ユウのシルバリオンがアビスのビームをよけ、シールドクローでつかみあげる。そのまま地面に叩きつけると、衝撃の余波を使ってアビスが後退を始めた。
ガイアを弾き飛ばすソードインパルスを、カオスのビームライフルが襲う。後方へと飛びずさることでビームを回避したインパルスだったが、ガイアとは距離を離されてしまっていた。
その直後、ガイアが狂ったように暴れだし、アビスがつかみあげる形で上空へと飛び上がる。
『撤退する!?』
敵も潮時だと感じたのだろう。だが、その動きはあまりにも精彩さを欠いていた。スラスターを破壊されたシルバリオンはともかくとして、インパルスとイノセントなら十分補足できる。
インパルスと共に3機の追撃を行おうとした時、上空からの警報にフィアの表情が凍りついた。
『フィア!』
「くっ」
上空からのビームがフィアの左腕をシールドごと焼き尽くし、爆発。その余波でイノセントが吹き飛び、衝撃がコクピット内のフィアを襲う。シンが駆けつけ、フィアの援護に回った。
『向こう側も援軍とは、手の早いことだぜ』
ユウが悪態をつくのを聞きながら、フィアがモニター越しに上空を見る。
視覚センサーが反応し、イノセントのモニターが上空のMSの姿を鮮明に映しだした。
漆黒の翼、黒衣のような黒いボディ。その姿はまるでカラスのようでもあり、悪魔のようでもあった。
素早くフィアが機種特定を試みるが、該当するデータは無し。おそらく、地球連合軍の新型か。
「う、あっ…」
ただ、フィアはその機体を見たことがあった。地球に住んでいたとき、コーディネイター狩りと称した弾圧を受けたことがある。両親が死んだあと、プラントに逃げてくる前の話だが。
その時に見たMSと、似た形状をしていた。いや、正確には形状よりも、その纏っている雰囲気とでも言うのだろうか。
鋼鉄の機械に雰囲気やオーラなどおかしな話だと思うが、フィアはそれを敏感に感じ取っていた。
その姿が、かつての記憶と重なることで、フィアの体は知らないうちに震え始める。
――怖い。
感情の乏しいフィアでも実感することはある。あの機体は、恐ろしく冷たい。
フィアたちは当然知る由もないが、その機体には名前があった。
過去の機体は黒色のエールストライク。
そして今、目の前で冷酷な姿を晒すMS。
『任務、開始』
――GAT-X105E。
その名を、ストライク・ノワールと言った。
拙作を読んで下さりありがとうございました。ここで1話は終わりとなります。
なにぶん、久しぶりの小説でもあったため、色々と文章が酷いと思います。誤字脱字、その他変な接続詞など、至らないところがあれば脳内補完をお願いします。また、報告してくれればそれらの問題点はなるべく修正致します。
見切り発車のため、この物語がどこへ向かうのか。そもそも完結するのか。色々と自分も思わないわけではありませんが、一人でも心に残る話が作れたらいいと思います。
きっとその方が、ただ書いて消してしまうよりいいと思いますので。
それでは、もし読み続けてくれる方がいれば2話以降もよろしくお願いいたします。