機動戦士ガンダムSEED DESTINY‐FINAGLE   作:ケリュケイオンの蛇

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皆さん、お待たせしました。蛇です。
需要があるかわからないまま2話目を投稿させていただきます。
この話には多少残酷な描写、オリジナル展開が含まれております。話の都合上原作との齟齬が生じておりますので。苦手な方はブラウザバックをお願いします。
勢いで書いたとはいえ、推敲した上で投稿しております。が、中には筆者の見過ごした誤字脱字、あるかもしれません。
読んでいて不思議に思った文、疑問を抱く文は、申し訳ありませんが脳内補完をお願いします。
では、お楽しみ下さいませ。


EPISODE:02『黒翼の悪魔』

 少女は走っていた。擦り切れたローブを風にはためかせがら、ただひたすらに生きようともがいていた。

 可愛らしかっただろう顔は煤で汚れ、恐怖に涙を浮かべている。周りからは炎が巻き上がり、少女と似た格好の人間が無数に横たわっていた。

 少しでも歩みを止めれば少女もこの人間たちのように物言わぬ肉塊と化すだろう。

 瓦礫を避けるように進むと、少女の行く手を遮るように地面がえぐられていった。

 

「きゃぁっ」

 

 小さく悲鳴を上げ、その場で丸くなる。着弾の衝撃が小さな身体を襲い、飛散した小石が少女のローブを切り裂き、肌を掠めていった。

 走る痛みに顔を歪めながら、細い足で立ち上がろうとする少女。しかしその気力は、目の前の光景によって失うこととなる。

 一人の男が銃弾の雨にさらされ、肉片と血煙を撒き散らす。赤い花のように咲いたしぶきが地面を濡らし、少女の頬に肉片が飛び散った。

 

「あ、あぁ…」

 

 その男の伴侶だろうか、少し小柄な女性が遺体に駆け寄り、同じようにただの肉の塊にされていく。

 無慈悲なまでの殺戮。それを行うのは、頭上で紅い翼を広げた黒き巨人。

 連合製MS、エールストライク。そう名付けられたMSが、目の前の地獄を作り出していた。

 少女の瞳に、悠然と空に浮かぶ悪魔が映った。悪魔は次の獲物を探すように顔を動かし、少女を見つけたのか、ゆっくりと舞い降りてくる。

 明確な死が目の前に来たことで、少女の歯がガチガチと鳴りだした。まだ小さな少女の体が小刻みに震え、目の前の死を呆然と見つめている。

 そして悪魔が少女の前に降り立ったとき、少女の意識は闇に包まれた。

 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY

 EPISODE:02 『黒翼の悪魔』

 

 

 上空で漆黒の翼を広げる新たな敵に、フィアは動揺を隠せずにいた。

 二年近く前の、惨劇。二度目のトラウマが蘇り、壊れたはずの心に波紋を広げていく。

 

「ス、ストライク…」

 

 士官学校時代に嫌というほど聞いたその名が、少女の口から紡がれた。かつて、ザフトが最も辛酸を舐めさせられた相手として、MS訓練の際は仮想敵としても用いられたMS。

 連合の開発した、セカンドシリーズのルーツたるGの一つだ。

 そしてフィアにとっては超えなければならない壁でもある。そのことに、フィアは唇を噛み締める。

 

『フィア、何してる!』

 

 唐突に聞こえたシンの声に、フィアは現実に戻された。咄嗟にモニターを見ると、アグニを構えたストライクノワールが銃口を向けている姿が見えた。

 ロックオンアラートに突き動かされるようにその場を飛び退くと、膨大なエネルギー光が目の前の地表を焼き尽くす。

 

「くっ…!」

 

 先ほど左腕部を蒸発させたのもあのアグニだろう。目の前のビームは通常のビームライフルの何倍もの熱量を持っているはずだ。シールドを失ったイノセントでは、直撃すれば無事では済まないことは明白だ。

 

『俺がこいつを引きつけるから、シンたちは奪われた3機を…!』

『ユウッ』

 

 ユウが通信で先を急ぐよう促すが、今のシルバリオンだけでは圧倒的に不利だ。空を飛ぶストライクノワールに対して、飛び道具もなくスラスターも破壊されている状態では、一方的に蹂躙されるのが分かりきっている。

 ユウの腕が悪いわけではないものの、先ほどの戦闘で消耗しすぎてしまったのは無視できない。

 

『もうすぐレイとルナも来るから! 先に――』

「ダメ」

 

 ユウが勝算を口にするが、フィアは反射的にそれを止めた。

 脳裏にちらつく過去の記憶を振り払うように頭を振り、落ち着いて状況を確認する。

 ユウのシルバリオンはスラスターがない分、機動力が著しく低下している。更に武器はビームガトリングを破壊されており、地上から上空への攻撃手段はレールガンしかない。

 迎撃こそ可能だが、相手はストライクの系列機。おそらくPS装甲を搭載しているはずだ。シルバリオンのレールガンは決定打になりにくい。

 そこまで考えると、フィアは一度息を吐いて言葉を放った。

 

「ユウは後退して補給を。シンは3機を追尾」

『なっ!?』

 

 二人が驚愕したような声を出すが、フィアの考えは変わらない。現時点でシルバリオンにストライクノワールの相手は任せられない。

 だが、かと言ってストライクノワールを放置するわけにも行かない。そうすると残るべきは目立った損傷のないインパルスではなく、シールドと左腕部のロストこそしたものの、ビーム兵器を持ち飛行可能なイノセントが適任だ。

 疲弊したあの3機のみならば、シンのインパルスだけでも補足できる。可能なら後続の援軍にも向かってもらいたいが、それはストライクノワールとの状況次第で考えることとして、フィアは作戦を立てていく。

 フィアの説明にシンは釈然としない表情で黙り込み、ユウは何かを考え込む仕草を見せた。

 

『分かった』

『ユウ!?』

 

 それほど時間をかけず、ユウの言葉が返ってきた。それにシンが食ってかかるが、ユウは笑みを浮かべて言葉を放つ。

 

『俺はフィアを信じるだけだぜ』

「シン、行って」

 

 不敵な笑みを浮かべたユウとフィアの言葉に、シンは口をつぐんだ。二人の意思は何を言っても変わらない。そう判断したからだ。

 それにシンがここで駄々をこねるほど、敵は撤退していってしまう。そうすれば再び戦火に巻き込まれ。失われる命が出ることとなる。

 それだけはシンも願い下げだ。嘆息して、頭を冷やす。そしてシンは自分の個人的感情よりも、任務を優先することを選んだ。

 

『分かった! 頼むぞ、フィア』

 

 ミネルバにフォースシルエットの要請を行いながら、シンのソードインパルスが跳躍する。それを防ごうとストライクノワールがチャージし終わったアグニを向けるが、フィアのイノセントがそうさせまいとライフルを放った。

 

『フィア、使え』

 

 インパルスがフォースシルエットに換装する際、エクスカリバー対艦刀をふた振りパージするのを見て、フィアはビームライフルを腰部に格納。フットペダルを踏み込むと同時にイノセントが飛翔し、エクスカリバー対艦刀を空中で掴み取り、ノワールへと斬りかかった。

 

「はあぁぁぁっ」

 

 だがノワールは即座にアグニを投げつけ、イノセントの動きを阻害。アグニを切り裂いたイノセントが、爆風に煽られて硬直した隙を逃さずウイング型バックパックから抜き放ったフラガラッハで斬りかかってくる。

 

「……早い!」

 

 ナチュラルはコーディネイターより反応が遅いと士官学校で言われていたが、この機体のパイロットはその枠に当てはまらないようだ。先ほどの回避行動といい、的確にこちらの動きに対応してくる。

 それに対して、フィアの表情が僅かに歪んだ。その機敏な動きは確かに、ザフトを苦戦させ他ストライクの名にふさわしいものに思える。

 だが。

 

『全部にキラ・ヤマトが乗ってるわけじゃない!』

 

 ユウの叫びにも似た声と共に、ストライクノワールにレールガンが襲いかかった。身を翻して避けるノワール。それに追従するように、イノセントが追いすがる。

 

「ユウ?」

『やっぱり援護するぜ、危なっかしいんだよフィアは』

 

 イノセントを動かす中で、モニターに映る顔を視界の端に入れた。確かにPS装甲に対して効果は薄いが、レールガンでも相手の動きは阻害できる。

 現に何の援護も受けられない状態よりも動きやすくなっているのだから、フィアにとっては良い誤算だったと言うべきか。

 

「仕方ない…使って」

『もち』

 

 先ほどのシンのように、今度はイノセントの後腰部につけたビームライフルを取り外し、落とす。落下していくビームライフルの行方を見ることなくフィアはノワールへ肉迫した。

 右手のエクスカリバーを振り抜き、居合のように斬りかかる。それを身をひねって避けるノワールに、今度は左のエクスカリバーを振り上げるも、フラガラッハで防がれた。

 ならばとタクティカル・アレスターを向けるが、脚部を持ち上げるように態勢を変えていなされる。

 

「動きが全然…ッ!?」

 

 すぐさま蹴りを放たれ、イノセントが弾き飛ばされた。コクピット内を振動が襲い、呻くフィアに対してノワールがリニアガンを向け、発射。

 高速で飛来する弾丸を、今度はユウがビームライフルで撃ち落とした。どうやら無事に受け取っていたようだ。

 続けざまにノワールに向けて放たれたビームを避け、ノワールがビームライフル・ショーティーで応戦。連続して放たれるビームの雨を、ギリギリのところでシルバリオンがかわしていく。

 

『さっきの奴らより手強いっ!』

「それでもっ」

 

 エクスカリバー対艦刀の一本を投擲し、ノワールへと再び向かうイノセント。それを援護するシルバリオンの二機だったが、ノワールはそれをいなすように迎撃する。

 その時、二機のMS反応にノワールの動きが止まった。

 

『どうやら、援護が来たようだぜ』

「ルナ、レイ…」

 

 モニターを見ると、真紅のガナー・ザク・ウォーリアが、大型火器『オルトロス』を構えた姿が見える。刹那の差で放たれたエネルギーの奔流が、ノワールを飲み込まんと迫っていった。

 それを宙返りのようなアクロバティックな動きで回避するノワール。更にビームライフル・ショーティーを放つが、純白に染められたもう一機の援軍―ブレイズ・ザク・ファントム―がファイアビー・誘導ミサイルを展開させ、弾幕を張ることで相殺した。

 数の差に圧されたのか、それとも時間稼ぎが十分だと判断したのか、ストライクノワールが身を翻す。

 それを見て、フィアが追いすがろうと機体を動かした。

 

「逃がさないッ」

 

 後方からザク二機も同じように追いすがるが、ストライクノワールはビームライフル・ショーティーで軽く牽制すると、瞬く間にその姿を遠ざけていった。

 まるで、掻き消えていくように。

 

 

 シンのフォースインパルスは宇宙へとその活動域を移し、強奪された3機へと向かっていた。

 

「逃がすかよ!」

 

 みすみす宇宙への逃亡を許してしまったのは不覚だった。これでは捕獲などという問題ではないだろう。

 宇宙はコロニーという限定的な空間ではない。重力に縛られず、上下左右どの方向にも動くことが可能である。そのため敵の動きはまさに縦横無尽。特に宙間戦闘に比重を置いたカオスはその影響が顕著だった。

 先ほどの動きの鈍さはどこへやら、だ。損傷があるにもかかわらず、水を得た魚のようにシンのインパルスへ迎撃を仕掛けてくる。

 

「チッ、いい加減にィ!」

 

 残り一基の機動兵装ポッドをビームライフルで撃ち落とし、シンがフットペダルを踏み込む。

 カオスはビームライフルを撃ってくるが、シールドを投げつけてそれを防ぐ。そのままフォースインパルスに速度を載せ、空いた左手でビームサーベルを抜き放った。

 

「落ちろよ、このバカ!」

 

 慣性のまま突進するフォースインパルスの速度に、カオスは対応することができない。アビスもガイアも、今となってはもう遅い。二機のためにカオスが囮となったことで、シンは戦う中で二機から意図的に引き離していたのだ。

 ――殺った!!

 自然と笑みを浮かべ、シンがそのままサーベルを振り下ろす。ビームサーベルはそのままカオスに突き刺さり、その機能を止める――はずだった。

 

「うわあぁぁっ!?」

 

 唐突に横殴りにかかった衝撃によって、シンのコクピットが激しく揺さぶられる。インパルスが何らかの被弾を受け、吹っ飛んだのだと理解するまでに数秒の間を要した。

 二機の援護が間に合わないと油断した、シンの完全な失策だった。奪われた3機のみに固執した結果、別の可能性を考えることをやめていたのだ。

 

「もう一機居たのか」

 

 急いで態勢を立て直し、シンは状況を確認する。

 モニターの機体称号ライブラリに標示された名は、ストライク。

 ――またお前かよ!

 思わず怒鳴りかけ、口を閉じる。先ほどの黒い機体は類似していながらも、別の機体であることは想像できた。だが、シンの目の前に居るMSは違う。

 二年前の亡霊、ストライク。ザフトを散々苦しめた悪夢が、今ザフトの前に立ちはだかっている。

 

「だったら、俺が倒してやる」

 

 二年前は、ザフトが奪い損ねた結果、その行く手に立ちはだかっていた。現在は、ザフトの機体を奪い、ザフトの……シンの行く手を塞いでいる。

 それならば、破壊してでも押し通ろう。シンは二年前など知らない。二年前の亡霊などに、恐怖しない。

 ストライクより恐ろしい悪魔を、シンは知っているのだから。

 

「もう古いんだよッ、あんたも!」

 

 目の前のストライクにビームライフルを向け、連射する。無数のビームがストライクを狙うが、全て回避された。

 ビームに気を取られた相手に対し、再度シンは接近する。

 左手のビームサーベルを振るうが、ストライクは身を翻してそれをかわす。だが、その様子にシンは笑った。

 シンが先ほどのカオスに対する行動と同じ行動を取ったことで、相手はこう思っているはずだ。

 ビームライフルで牽制し、ビームサーベルでの格闘戦を挑む奴。だが、それがシンの計算であることを、相手に教えてやる。

 ビームサーベルを返す手で投擲。

 後方へと身をそらした相手はそれを避けることができず、シールドで身を守る。

 そのシールドめがけて、インパルスが強烈な蹴りを放った。

 足蹴にされて、ストライクのシールドが弾き飛ばされる。続けて頭部に向けて手を伸ばし、機体を捕まえにかかる。

 だが再びの警告音に、シンはその場を離れた。

 

「二度もやられるか」

 

 その場を離れた瞬間、先程までインパルスがいた場所を無数の弾丸が通り過ぎていく。おそらくレールガンか。

 シンが撃たれた先にモニターを移すと、紫色の戦闘機が確認できた。外見はメビウス・ゼロだが、ザフトの機体ライブラリを確認すると、ガンバレル・ストライカーと表示されている。

 その名の意味を頭で確認することなく、シンは何かを理解した。目の前でガンバレル・ストライカーが中折れし、ストライクの背部へ接続される。

 何のことはない。シルエット・モジュールのように独立して稼働することが可能なストライカーパックだということだ。ストライクにはないものだと教わったが、どうやら敵もストライクの換装システムに疑念を持っていたらしい。

 

「くっ、お前なんかに構っている暇は!」

 

 すぐに片付ければカオスたちを追尾できると思っていたが、気づけば3機の反応が消失している。おそらく、相手の母艦に回収されたのだろう。シンの意識をそらすことも、敵の策略だったようだ。

 だが、それならばと目の前の機体に意識を向ける。この機体だけでも倒して、敵の正体を暴いてやる。そう考え、シンはインパルスを操った。

 ビームライフルを構えるインパルスに向けて、ガンバレルストライクが背部の兵装ポッド『ガンバレル』を切り離す。

 四基のガンバレルはそれぞれ意思を持ったように稼働し、インパルスへ向けてレールガンを放ってきた。

 

「ぐ、このぉぉぉ!」

 

 ガンバレルの精密な射撃を避けながら、シンはストライク本体にライフルの狙いを向ける。だが連続したガンバレルの攻撃に、いなしきれなくなり何発かが機体に直撃した。

 

「ぐああぁぁぁ!」

 

 着弾の衝撃で態勢を崩すインパルスに、ストライクのビームライフルが狙いを定める。連続して放たれたビームがフォースインパルスを襲い、右肩、左足、と次々にパーツを穿っていった。

 

「くそぉっ、こんな…」

 

 次々と各部から起きる小さな爆発の衝撃に、シンの意識が途切れかける。それを頭を振って振り払うと、ガンバレルストライクが捕獲しようと近づいてきていた。

 このままだと、インパルスまで鹵獲されてしまう。そう考えたシンは、機体を分離させようと手を伸ばした。

 だが迫り来るガンバレルストライクに、一条のビームが走ったことでそれは中断される。

 

『シン、援護する』

『動けるようなら離脱しろ、シン』

 

 シンがその声に回線を開くと、フィアの顔が写りこんでいた。その横にはレイの顔も見える。

 それを見たのか、それとも役目を果たしたと考えたのか、ガンバレルストライクが離脱していった。

 

「とりあえず、助かったのか…俺は」

 

 敵機が離れていく様子を見て、シンはとりあえず安堵の息を漏らす。

 シンが経験した最初の実戦は、とりあえず生き残れたものの、苦いものとなった。

 

 

 

 シンがフィアたちと合流する少し前、母艦である新型艦『ミネルバ』への着艦を果たしたシルバリオンの中で、ユウは通信をしていた。

 

「ミネルバが出る?」

『うん、シンが外に出ちゃったから、それを回収するためにもってことみたい』

 

 通信回線の先で、オペレーターとしての役を務めるメイリンが頷く。既にオペレーターとしての口調ではないためか、後ろの方で叱責が飛んでいた。

 身を縮こませるメイリンの様子を楽しむように見ながら、ユウはシートにもたれかかる。

 

「まぁ、どのみち奪われた3機も追わないとな」

『うん、それなんだけど』

『また敬語を使わないとはっ!』

 

 ユウの独り言にメイリンが少し困ったように頬を掻き、また怒られていた。後ろのおっさん、じゃない。アーサー・トライン副長だろう。あの人は生真面目だそうだから、声と言葉で容易にユウは想像できていた。

 

『アーサー、少し黙ってなさい』

『えぇっ、は、はい!』

 

 今度はアーサーがタリアに咎められ、身を縮こませる。その様子に、メイリンがプッ、と口を手で押さえて小さく笑った。

 どこのコントだ、と半分呆れながらユウも笑う。戦闘で疲れた身体には、こうした日常的な会話が心地いい。

 特にユウにとっては、人と触れ合うことは何より安心できる行為だった。

 

「俺もとりあえずそっちに向かうぜ、補給の間は暇だし」

『あ、忘れてた』

 

 ユウがメイリンに向けて言うと、メイリンがあっと声を出す。疑問に首をかしげたユウに、メイリンが身を乗り出すように通信回線に近寄った。

 一瞬膨らみが見えたような気がしたが、ユウはそのことに気づかずメイリンを注視する。

 

『実は今、議長が来てて』

 

 内緒話でもするようにひそひそと話すメイリンに、ユウの思考は固まった。

 議長とは、ザフトのトップ、ギルバート・デュランダルだろうか。超のつくVIPの。

 艦長も士官扱いのユウからすれば十分偉いが、そんな役職とは比較にならない。言うなれば一企業の社長と、一国の王。まさに月とすっぽん並の格差だ。

 

「メイリン、君の冗談はいつも面白いぜ」

『冗談だったら私も良かったのに』

 

 ユウが笑って済まそうとすると、メイリンの表情が暗くなった。よくその身体を見ると緊張で強ばっているのか肩が若干上がっているのが分かる。

 どうやらメイリンの言葉は本当のようだ。

 

『だから早くきてぇ! 助けて』

 

 両手を握ってお祈りのように縋るメイリンに、ユウもさすがに身を引く。

 同情するが、議長なんてなるべくかかわり合いになりたくない。少しでも失言すればどうなるか、ユウは特に、同期である金髪の青年の顔を思い浮かべて、深く息をついた。

 

「とりあえず降りるから。通信切るぜ」

 

 まぁユウにとってはメイリンも大事な友人だ。気は進まないが、友人が困っているのを見て助けないというのもユウらしくない。

 手元のパネルを操作し、コクピットハッチを開ける。

 目の前のハンガーから見知ったメカニックたちの顔が見え、ユウに言葉をかけてくる。

 

「ユウ、お疲れさん」

「ルナは先に行ってるよ」

 

 褐色の肌を持つヨウラン・ケントと、紅いメッシュが特徴的なヴィーノ・デュプレ。二人共がユウと同期で、友人だ。

 二人ともパイロットとしてよりも技術屋として勉強し、こうしてメカニックとして一緒にミネルバに配属されている。

 経験こそ浅いものの、ミネルバに配属されたほどだ。二人の技術センスは、士官学校でも優秀な部類なのだとわかる。

 

「ルナが? なんでまた」

 

 先に帰還していたのは知っているが、随分と動きが早い。何かあったのかと尋ねれば、ヨウランもヴィーノも困ったような顔をした。

 何か面倒事だろうか。議長の件もあるし、とユウが考えると、ヨウランがその疑問に答えてくれた。

 

「ほら、あそこにザクあるじゃん。ウチに配備されてない奴」

「あぁ、本当だな」

 

 ヨウランの指差す先を見れば、緑色に塗装された一般カラーのザク・ウォーリアが見える。ミネルバに正式に配備されたザクは両機とも専用カラーに塗装されているため、そのザクには違和感があった。

 とはいえ、元々ザフトの機体だ。あの混乱の中で回収されたのかとも思ったが、違うようだ。所々に見える戦闘の後はユウはどこか見覚えがあった。

 

「あの時の…?」

「あの時?」

「あぁ、俺がカオスたちと戦闘した時に居たザク。多分そうだと思うけど」

 

 無意識に音に出した疑問に、ヴィーノが首をかしげる。それに答えると、納得した様子でヴィーノは黙った。

 しかし次の瞬間、ユウの肩を掴んではしゃぎ出す。

 

「じゃぁすげぇじゃん。お前」

「何が」

 

 暑苦しいぜ、とユウが言ってもヴィーノは離そうとしない。やや強引に引き剥がすと、今度はヨウランが口を開いた。

 

「あの機体に乗ってたの、オーブのアスハ代表らしいんだよね」

「は?」

 

 ヨウランの言葉に、ユウが間抜けな声を出す。幻聴かと疑うユウだったが、興奮する二人を見る限り真偽はどうあれ嘘はついていないようだ。

 先ほどメイリンからはデュランダル議長がブリッジにいると聞いたばかりだったが、オーブの代表トップまで居るとはどういうことなのだろう。

 そのうち地球連合軍トップも居るんじゃないのか、と疑心暗鬼に陥りかけるユウだったが、ヨウランの声で持ち直すこととなった。

 

「ルナはその真偽の確認。とりあえずこんな状況だし、議長本人に確認取るまでは監視ってことで」

「なるほどな。まぁ、議長の存在を知ってる時点で本物っぽいぜ」

 

 もはや考えることを諦めたユウが投げやり気味に応える。とりあえず整備長に促され、整備ケージから離れた。

 既に無重力空間になっていることで、ユウの身体は落下することなく宙を漂っていく。

 

「ユウー、また後で武勇談聞かせろよなー!」

「当然だぜ」

 

 ヴィーノの言葉に親指を立てて答えながら、ユウは整備デッキを後にした。

 背を向ける前に見えたシルバリオンは、損傷していることもあってか出撃前より頼りなく見えて。

 

「次は勝とうぜ、シルバリオン」

 

 静かに、自分の力量不足を恥じた。

 

 

「確かにアレは、俺のミスかな?」

 

 漆黒の宇宙空間を飛んでいく一つの機影。そのコクピットで、男は口元に苦笑を浮かべる。灰色の仮面で頭の半分以上を覆い隠している異様な風体の男だ。

 呼吸のためか鼻先から下は露出しているため、口元からかろうじて表情を読み取れることが、男を生身の人間として認識させている唯一の部分だ。

 長い金髪が仮面からはみ出ているのも、そのことを裏付けている要素の一つだ。

 

「しかしあの白いMS。なかなか見所がある」

 

 ガンバレル・ストライカーを装着していない状態とは言え、男の駆るMSに肉薄し、頭部を掴みかけるに至っていた。油断があったとはいえ、それを言い訳にすることはできない。

 ガンバレル・ストライカーを無人機仕様にしていたのが早速役に立った形だ。その稼働試験も兼ねていたとはいえ、予想以上にこの改修は役立ったと言える。

 当初の目的であるザフトの新型MS奪取。それ自体は成功したのだから、とりあえずは良かったと思うべきだ。

 

『ネオ・ロアノーク』

 

 少し物思いに耽っていた男の耳に、声が聞こえてくる。ネオと呼ばれた男はその声に画面を見やると、表情を柔らかくした。

 

「おっ、少年。良い活躍をしたそうじゃない」

 

 少しばかり、ネオ自身の失態を戒めるつもりで言葉を紡ぐ。目の前の相手は、先ほどの強奪作戦で一役も二役も買っていた。

 危うく失敗の可能性さえあった3機の強奪を支援し、なおかつザフトのMSを一機以外足止めしている。その上で目立った損傷も被弾もないのだから、上官としてのネオの立場がない。

 ただ、少年はネオの指揮下でその命令に従うだけだ。有能なはずなのに、向上心が見られない。同じ部隊の長としては、有能な部下がいることは嬉しいのであるが。

 

『あんたの助けも必要か?』

 

 内心持ち上げていたら、皮肉を持って返された。相手の言葉に、ネオの表情が引き攣る。

 

「言ってくれるねぇ」

 

 だが、相手の言葉ももっともだ。これほど派手に行動した以上、追っ手が来ることは明白だろう。

 ここからは逃亡生活だ。相手に捕まらず、殺されず。そして証拠を掴ませない。

 ネオたちの部隊は言わば幻。見えず、ただ痛みを与えるための存在。

 

「ま、全てが上手く行けば苦労もないんだろうけどね」

 

 敵方も、これで痛い思いをするはずだ。万事が上手くいくわけではないことを教えるための装置。

 第81独立機動軍『ファントムペイン』

 其れは、戦争という世界が生んだ、見えざる痛みをもたらす病。

 

 

 




お疲れ様でした。今回はどうでしたでしょうか。テンポが悪い、文が稚拙、色々あるかもしれません。
筆者こと蛇、精進あるのみだと思います。
読者の皆様にはここまで拙作に付き合っていただき、感謝の言葉しか出ません。何かしら、読んでよかったと思えていただけたら幸いです。
まだ物語も序の序。これからが盛り上がりを見せる部分でもありますので、ここまで読んでくださった皆様、これ以降も付き合っていただけたら幸いです。
ではまた3話でお会いしましょう!
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