機動戦士ガンダムSEED DESTINY‐FINAGLE   作:ケリュケイオンの蛇

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最近あるものを買いました。GUNDAM CONVERGE EX03『ディープ・ストライカー』。
食玩、定価2400円(税抜き)。(つд⊂) 食、玩…? え…?(゜д゜)
さすが宇宙の怪物。値段も規格外でありますね。
可動はあまりしませんがCONVERGEは出来がいいですね。立体化も少ないディープ・ストライカー、しかも彩色済みフィギュアとあっては買わずにはいられません。さらにMS状態への替えパーツ付き。何があったのかバ○ダイ。作者にとってはボリューム。クオリティどちらも満足の出来でした。
もう既にウイングやブルーディスティニーも出てるんですよね。ディープストライカーで満足している状況ですが、こちらも買っていこうと思います。
そして積み上がるプラモの山。切り崩すのはいつになるんでしょうか…考えるだけでも恐ろしい


EPISODE:03『追撃』

『イノセント、帰還します』

 

 オペレーターであるメイリンの声が響く中、フィアはその身体をシートへと預けていた。

 イノセントがハッチへと着艦し、固定用アームで固定されていく。その様子を振動で確かめながら、フィアはヘルメットを脱ぎ捨てた。

 白銀色の髪が宙を舞い、汗が飛び散る。異性が見れば魅力的でも、フィア本人からしてみれば嫌な光景でしかない。

 

「最悪」

 

 座席のシートを外し、膝を抱えて丸くなる。脳裏に浮かぶのは、敵の黒いMS。その佇まいが、挙動が、雰囲気が。全て二年前の嫌な記憶を思い起こさせ、フィアの心に波紋を広げる。

 冷たい。恐怖という名の感情が、喪失したはずの心を揺らがせた。

 丸くなった身体が、僅かに震える。プラントに来てからそんなことなどとっくになくなっていたのに、たった一機のMSで全て二年前に戻ったような気がして、フィアは顔を埋めた。

 

「寝よう」

 

 そうすれば、少しだけ嫌な思いもなくなるだろう。フィアは膝を抱えたまま、そっとその瞼を閉じた。

 意識がまどろんでいく中、フィアはひとつの人影を見たような気がして。

 

「――」

 

 ぽつり、と音にならない声で呟いた。

 

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY

 EPISODE:03 『追撃』

 

 

 宇宙へと発進したミネルバは、ザフトの開発した新型MSを強奪するという卑劣な行動をとった敵を追うべく、その船体を移動させていた。

 鈍い灰銀色に光る船体は、今までザフトの建造してきたどのタイプの戦艦とも違う。完全な新造艦、それがミネルバだった。

 この新型艦はプラントの誇る最新鋭技術を余すことなく投入して、建造されている。つまり、相手が逃げきれる可能性は限りなく低い。

 

「敵母艦の位置は?」

「はっ、現在解析中です」

 

 ミネルバを任された艦長、タリア・グラディスは後方に座るクルーに向けて言葉を放つ。それに対して、クルーの一人、メイリン・ホークが顔を覗かせて言葉を返した。

 まだ若い、年頃の少女だ。紅いツインテールの髪が特徴的だが、正直タリアは邪魔ではないのかと思えてしまう。

 髪が長いのは自分に似合わないと思ったか、いつからかタリアは髪を短くするようにしていた。

 それも全て、タリアの後部、予備座席へと座るひとりの男が原因なのだが。

 

「目標補足! インディゴ53、マーク1ブラボーに不明艦1。距離――」

「それが母艦か」

 

 ミネルバの索敵担当であるバート・ハイムの声に、デュランダルが呻く。バートの索敵した限りでは、敵母艦の距離はミネルバの有効射程より離れていた。

 タリアも座標を聞いて、少し表情を厳しくする。流石に新鋭艦とはいえ、攻撃できなければ無力に等しい。

 どうやら敵はタリアの予測を超える機敏さを持っているようだ。こちらがインパルスたちの回収に手間取っている間に、かなりの距離を稼がれてしまったのだろう。

 

「失礼します」

 

 タリアが考え込んでいると、背後から声が聞こえてきた。何かと思って振り向いた先には、空いた扉からユウ・ロックハートが入ってくるのが見える。

 その後ろにはレイ・ザ・バレルの姿も確認できた。銀髪のユウと金髪のレイ。対照的な髪色も相まって、容姿端麗な二人が並ぶとどこかのアイドルユニットのようにも思える。

 二人の登場に、メイリンがはっきりと喜色の笑みを浮かべた。年頃の少女からすれば、このツーショットは嬉しい光景ではある。

 

「議長?」

 

 デュランダルの姿を見たからか、レイが驚いたような声を出した。当然だろう。いくらなんでも、ただの戦艦にザフトの最高権力者がいるなんて思いもしない。特に今は式典などではなく、本物の戦場なのだ。

 とはいえ、議長も二人のパイロットもここからすぐ追い出す、というわけにも行かない。

 今は一刻も早く敵艦に追いつきたいところではあるが、赤服でもある二人に何かしら聞いておくのも有りかもしれないとタリアは考えた。

 

「ちょうど良かったわ。二人とも、今後の作戦について、何か意見はないかしら?」

 

 タリアから放たれた言葉に、二人の青年は目を丸くする。急な質問の意図をしばし考える二人だったが、それが新型機強奪事件のことだと思い至るとユウが口を開いた。

 

「行動指針で言えば、即時追撃だと俺は思いますね」

「しかし、議長が!」

 

 ユウはタリアと同じ考えを持っていたようだが、レイは少し違うようだ。普段冷静かつ的確な判断が売りのレイではあるものの、今回の意見は少しばかり慎重だった。

 

「だがそれだと、目標は確実に見失うぜ? 地球まで持ち込まれたら手遅れだと思うけど」

「なら、増援を寄越すなり――」

「レイ、議長の役目は何だ? プラントの繁栄と平和のためだ。必要なら自分を犠牲にしてでもそれを達成する」

 

 熱くなるレイを、ユウが冷静に説得する。確かに、ギルバート・デュランダルは重要だ。彼がいなくなれば、プラントの上層部は混乱するだろう。

 しかし、議長とは本来、常にその身を命の危険に晒すのが仕事なのだ。戦場には出ずとも、戦争が始まれば敵国と机で向かい合うこともあるだろう。

 銃口を突きつけられるかもしれない。後ろから撃たれることも、あるいは時にその命を自ら絶つことで降伏という形で争いを終わらせる選択肢をしなければならない。

 戦争が始まれば、国民にも被害が及ぶ。世界全土が、前大戦のように争いに巻き込まれるだろう。

 それを防ぐため、議長にも取らなければならない責任がある。

 そのことを、ユウはよく理解していた。

 

「って、デュランダル議長なら言うと思うぜ?」

 

 そう言って、レイにいつものような笑顔を向ける。そのユウの姿を見て、タリアは口元を緩めた。

 今期卒業生である赤服の中でも、おそらく最も人の心を読み取る術に長けた人材と言えるだろう。

 突発的な状況に対応できる柔軟性、相手に物事を正しく伝える話術、そして、戦闘以外でも動じないその胆力。

 当初はレイ・ザ・バレルが最も優秀だと思っていたタリアは、その認識が甘かったことを自覚した。

 笑みを浮かべて楽観的な印象を受けやすいが、その笑みの奥には表情では読み取れない何かがある。ユウは、今期の中でもおそらくトップクラスの兵士と言えた。

 

「その通りだよ、ユウ君。戦争を止めるためなら、私はこの身を捧げる覚悟だ」

 

 ユウの言葉に、デュランダルは気を悪くすることもなく、鷹揚に頷いてみせる。その表情は穏やかな笑みをたたえているが、瞳には強い決意の光が宿っている。言葉だけでなく、覚悟した上での態度なのだろうとタリアは考えた。

 昔から、一度決めたら迷わないその性格は変わっていない。そう思い、タリアは複雑な心境を抱いた。

 しかし、嬉しくもある。変わらないデュランダルの在り方もだが、ユウが図らずとも代弁してくれたタリアの意志を肯定してくれたのだから。

 

「それでは、本艦はこのまま目標『ボギー・ワン』を追撃します。よろしいですね?」

「構わんよ。むしろ、望むところだと言わせてもらおう」

 

 タリアの言葉に、デュランダルは不敵な笑みを浮かべてみせた。余裕のある態度を見せることで、兵士の不安を解消する狙いもあったのだろう。

 実際、判断をすべて委ねられたタリアはその態度に幾分か救われた。

 とはいえ、デュランダル議長を失うわけにも行かない。ミネルバはこれから先、撃墜されることを禁じられたも同然だ。

 デュランダルに退席を促し、ユウとレイ二人にその案内を頼む。二人の少年を伴って艦橋から出て行くデュランダルを見送ると、タリアは軽く息をついた。

 絶対生還命令。その重責が、タリアの肩に重くのしかかっていた。

 

 

 ファントムペインの母艦、ガーディ・ルー内のメディカルルームへと一人の人間が入ってきた。

 目元を覆うバイザーに、青みがかった銀色の髪が特徴的な少年だ。既にその場へ居た仮面の男、ネオへと向かう足取りは、薄暗い空間にも関わらず迷いがない。

 

「少年か。珍しいな」

 

 ネオがその存在に気づき、意外そうに言葉を放つ。二人共が顔の一部を仮面で隠している姿は傍から見れば異様な光景だ。しかし、他の人間は意に介することなく作業を進めている。

 

「コード・ナハトだ…少年じゃない」

 

 ネオの言葉に苦言を呈し、ナハトは視線をある場所へと向けた。その視界に入ったのは3基のカプセル型ユニット、『揺りかご』だ。

 半透明状の天井部に、ベッドのような繊維クッションが設けられている。半透明の天井部から、点滅する光が暗い空間に漏れ出ていた。

 その中で眠りについているのは、どれもコード・ナハトと似た年代の少年少女。

 つい先ほど、ザフトから新型MSを強奪したのは彼らだ。

 

「調整は上手くいっているようだ…」

「ほう。見ただけで分かるのか」

 

 ナハトがつぶやくと、ネオが面白そうに言葉を放つ。そのことに対し、特に何の感情も抱かず少年は頷いてみせる。

 

「当然だ…」

 

 きっぱりと断言するその視線は、仮面越しに眼前の揺りかごへと注がれていた。

 彼らとナハトはよく似ていた。同類と言っても良い。感情を制御され、兵士としてのみ価値を持つ存在。

 他の生き方など知らない。知る必要もない。ナハトも彼らも、人としては余りにも空虚な存在だった。

 

「なら、ここはお前に任せるよ、少年」

「……了解」

 

 二度は言わない性分なのか、それとも諦めたのか、ネオの言い方に再度注意することなく、ナハトは淡々と返答した。

 ネオがその場を離れていくのを気配で感じながら、ナハトは揺りかごへと近づいていく。

 ステラ・ルーシェ、アウル・ニーダ、スティング・オークレー。それぞれ区別のための記号でしかないが、名前そのものは覚えていた。

 中でも、ステラと呼ぶ金髪の少女のもとへ、ナハトは視線を送る。

 揺りかごの中の彼女たちは、戦闘の苛烈さが嘘のように、穏やかな表情で眠っていた。彼女たちは常に万全の状態で戦闘を行うために、記憶の最適化を行うことを義務付けられている。

 必要な記憶と、不必要な記憶。それらを揺りかごが脳波から読み取り電子化することで、第三者が選別し、記憶の取捨選択を行うことができる。そして恐怖や同情など、戦闘を行うのに不要な感情とそれを想起させる記憶を取り去ることで、ステラたちエクステンデッドは常に最高の状態で戦闘に望むことができるのだ。

 無駄な感情で命を散らせるより、その方が良いだろう。ただしそれは、人間というより人形に近いが。

 

「…必要ない」

 

 ただ一言、そう呟いた。感情も、記憶も、人間性も。そんなものは捨ててしまうべきだ。

 ナハトを含めて、エクステンデッドであるステラたちは兵士だ。常に死と隣り合わせであり、それを恐れてはならない。恐怖し、生への未練を抱かせるそれらの要素は、兵士にとっては最も忌むべき悪魔の囁きに相違ない。

 だからこそ、ナハトは否定するのだ。自らの存在を示すために。そしてステラたちが歪んだ存在だと認めないように。

 ナハトの視線の先で、ステラが一筋の涙を流す。縋るように手を宙に浮かせた先は、ナハト自身。

 それはあたかも、ナハトの存在を求めているようで。

 

「青き清浄なる世界のために」

 

 その様子を見ながらただ一言、自らが存在する意味を示す言葉を呟く。

 その言葉には、感情のない冷たさだけが秘められていた。

 

 

 フィアが目を開けると、紅い瞳が視界に入った。煌々と燃える炎のようにも、研ぎ澄まされた光を放つ紅玉のようにも見える瞳だ。

 フィアのような、血を連想させるような醜さのない赤が、そこにはあった

 

「シン…?」

 

 その瞳を持つ者を、フィアは一人しか知らない。その人物の名を呼ぶと、その瞳の主は安堵したような表情を浮かべた。

 

「こんな所で寝てると風邪引くぞ」

 

 シンの黒い髪が揺れるのを見ながら、その言葉に首をかしげる。フィアが身を起こせば、その身からブランケットがひらりと落ちた。

 先ほどコクピット内に眠るフィアを心配して、シンが掛けたものだ。汗で冷えた身体を、最低限温める効果はあったのだろう。寒気は特に感じないのがいい証拠だ。

 

「コーディネイターは風邪をひかない」

「…お前な」

 

 淡々と言葉を紡ぐフィアに、シンは呆れたような声を出す。確かに、軽重を問わずウイルス性及び細菌性の病気や遺伝子疾患を発症しないコーディネイターは多い。

 それは先天的にもたらされた遺伝子操作の産物であり、遺伝子レベルでその病気への強い耐性を持っているためだ。

 しかし、それは免疫力に関係する遺伝子を操作された者が獲得するもので、それを行っていても感染確率が100%0というわけではない。

 新種が出れば感染するだろうし、何らかの原因でその耐性がなくなってしまうこともある。

 だからこそ、シンはフィアの身を心配してブランケットを用意したのだが。

 

「可愛げのない奴…」

「シスコンよりマシ」

「なんだとぉっ!?」

 

 シンがぽつりと呟いた悪態に、言葉の暴力で応じてやる。それに対してシンが目に見えて怒り出し、フィアがシンの顔を足蹴にする事態へと発展した。

 コクピットで眠っていたから身体の節々が痛いが、フィアはそのことを特に気に止めていない。

 それよりもシンに対して言いたいことがありすぎて、何を言おうか頭をフル回転させる必要があった。

 完全に、シンを使って嫌な記憶を忘れようとしているだけだ。フィア自身、嫌な女だと思う。

 

「バカ、バーカッ!」

「うるせぇ、マユの可愛さを少しは見習え!」

 

 やいのやいの、イノセントのコクピット内が騒がしくなったことで、次第に周りの人も関心を向け始める。

 特にヨウランとヴィーノは、またかという感じで苦笑していた。

 レイに議長の案内を任せて戻ってきていたユウもその騒ぎを聞きつけ、状況を見るなり怪しい笑みを浮かべ始める。

 

「二人共、ここは賭けにして小遣い稼ぎと行こうぜ」

 

 こっそりと、ユウがヨウランたちに耳打ちする。ユウにとってみれば、軽い悪戯心からだったのだが、思いがけず、二人は乗り気な様子となった。

 ユウの言葉に年頃の少年たちは同様の笑みを浮かべ、まるで悪ガキのような顔で周囲に声を放つ。

 

「今期士官学校卒業生名物! 赤服同士の対決だよー!」

「対戦カードはシン・アスカとフィア・エルンスト! 同期でも屈指の好カードだぁぁあ。どっちに張るか、それとも反るか」

「よってらっしゃいみてらっしゃい」

「いや、それは違うと思うぜ」

 

 二人のはしゃぎっぷりにユウは笑みを浮かべたまま突っ込む。しかし、周りの整備兵はそんな細かいことは気にしないらしい。

 突然の戦闘、そして出撃によって過度の緊張を強いられていた整備兵たちは、いきなりの娯楽に歓声を上げた。

 その多くがイノセントのコクピットが見える位置までいき、どっちが勝つだのと大騒ぎだ。幸い大方の機体整備がひと段落着いた所のようで、整備兵たちは暇を持て余していたらしい。

 その様子を見ながら、ユウは少し離れた位置に移動する。

 この騒ぎでは、後々何かしらの懲罰を受けることは容易に想像がついた。

 君子危うきに近寄らず。先人の教えを、ユウは忠実に体現していた。

 

「こうなったらインパルスに乗るべき、そうすべき」

「おー上等だ。やってやろうじゃねぇかこうちくしょうッ!?」

 

 大胆かつ到底認められない宣戦布告をフィアが告げ、自棄になったシンがそれを受ける。

 その際、身を乗り出したシンの後頭部に、漂っていたスパナが直撃した。

 後頭部に走る激痛に、シンの身体がつんのめる。その際身体を支えていた手がコクピットの枠から離れ、バランスを崩した。

 

「うわぁっ!?」

 

 重心が異常に前に移動した状態では咄嗟の姿勢制御もうまくいかず、シンを倒れ込む形でフィアの身体に覆い被さった。

 当然、手は咄嗟に体を支えるために前へと突き出した格好で。

 

「いっつぅ……あ」

 

 シンが呻きながら起き上がろうと手に力を込めた。その度に柔らかい感触が手から伝わり、シンは目を開ける。

 視界に映ったのは、紅いスーツと、華奢でありながらも肉付きの良い太もも。状況が理解できず、そのままゆっくりと顔を上げたシンは、ある一点で動きを止めた。

 シンを見下ろすように、フィアが不思議そうな顔を向けている。お互いに何が起こったか全く理解できていない。

 そして先に理解したのは、シンだった。

 要するに、フィアの下腹部に顔を埋め、彼女の胸を揉みしだいている状況だったのだ。それを理解した瞬間、シンの全身から血の気が引いた。

 確かアーモリー・ワンでも、似たような状況があったような。

 ――こーの、ラッキースケベ!

 

「あ、いや、これは違うんだ! 今のは事故で、俺は……」

「……シン」

 

 慌てて弁解を試みるシンの名を、フィアが呼ぶ。それだけのことなのに、シンは一切の動きを止める。

 もう手遅れだ。そう悟ったシンは、最後にピンク色の携帯を握りしめる。

 

「死んで」

 

 その瞬間、シンは死んだはずの妹と再会を果たした気がした。

 

 

「それはあんたの自業自得」

 

 紅いザク・ウォーリアのコクピットに座る形で、ルナマリア・ホークのなだめる声が聞こえる。その言葉に、やはり女だからな、とシンは諦めたように息をついた。

 黒い髪から覗く額には、赤い打撲痕が見える。後頭部と前頭部、両方が鈍い痛みを発する感覚はいわば万力だ。まるで拷問を受けているような感覚に、シンは少しばかり理不尽さを感じていた。

 

「だから不可抗力だって。わざとじゃないんだぜ?」

 

 俺も被害者なのに、とシンは額に手を当てて、痛みに顔を顰める。目の前にいる、一本跳ねた髪が特徴の女性から、氷のうを受け取ると腫れた患部にそれを当てた。

 急激に冷やされ、痛みが徐々に引いていく感覚がシンの心も沈めていく。だがそれでも、納得できない部分が残っていた。

 

「女の子なんだから、そんなことされたら咄嗟にそうなっちゃうのは仕方ないわよ。男は違うでしょうけどね」

 

 頭上から響くルナマリアの声に、シンは妙に納得してしまった。確かに男が押し倒されるパターンは、被害者であるにもかかわらず妙に興奮するかもしれない。それは男が優位という先入観があるから、男は心に余裕を持てるのだと推測できる。

 一方女は最初から男に肉体的な面で劣るという意識が根強い。そのため男に何かしらされた際、心に余裕が生まれず嫌悪感が生まれるのだろう。

 そんな難しい言葉で理論づけてみるが、やっぱりシンには納得がいかなかった。性別の時点で扱いが変わるなんて、余りにも理不尽だ。

 一度フィアに文句を言ってやろうかと立ち上がろうとするシンに、ルナマリアがポツリと呟く。

 

「フィアも反省してたみたいよ? アタシに氷のう持ってくるよう連絡してきたのもあの子だし」

「……なんだよ、それ」

 

 ルナマリアの言葉に、シンは憮然とした顔をした。そんなことを言うのは、反則だ。それでは悪態をつくこともできなくなってしまう。別にシンはそこまで気にしているわけでもなく、悪役になりたいわけではないのだから。

 

「でも、羨ましいかも」

 

 唐突にルナマリアが呟いた言葉に、シンは首をかしげる。話の内容が理解できず、思わずその顔を仰ぎ見た。

 

「何がだよ」

「シンとフィアのこと。お互い言いたいこと言えて、それでも変に相手を気遣って。まるで兄妹喧嘩みたい」

 

 そう言うルナマリアの表情は、どこか憂いを帯びている。瞳を伏せ、長い睫毛が女性らしさを引き立てていた。

 何故か急にルナマリアが別人に見えて、シンは狼狽える。見慣れないルナマリアの一面なのだろうが、普段の彼女からは想像もできない魅力だ。

 正直、可愛いと思う。

 

「ルナにはメイリンがいるだろう?」

 

 そんな邪な思いとは別に、兄妹と言われてシンの胸が酷く痛む。シンの記憶にある、最悪の光景。

 二年前、故郷で焼かれた両親と妹のことが、頭に浮かんでは消えていく。思わず妹の遺品であるピンク色の携帯を握り締め、シンはそっぽを向いた。

 

「アタシたちはダメ。喧嘩しようなんてとても思わないもん」

「それはそれでいいだろ。俺なんてマユともっと仲良くしとけばなんて」

「あ、ごめん…」

 

 シンの言葉に、ルナマリアは気まずそうに口ごもる。それに対して、シンはため息をつくと首を振った。

 

「いいよ別に」

「ありがとう」

 

 結局、よく分からない話の流れになってしまい、変な空気になってしまう。その不自然な空気を吹っ切るためにシンは身を起こした。

 変化した光景を何の気無しに見ていたシンだったが、ある一点でその視線が止まる。

 

「なぁ、ルナ」

「んー?」

「あのザク、誰が乗ってたんだ?」

 

 シンの視界の先には、緑色に塗装された一般カラーのザク・ウォーリアが見える。ルナマリアが乗っているものは赤色のため、その一般機仕様に見覚えはない。

 おそらく先の戦闘で強奪された3機に奮戦していた機体だろう。ガイアに動きを阻まれたシンを援護してくれたが、損傷も激しくすぐに撤退してしまっていた。

 損傷の割によく動いていたこともあって、短い時間ではあったもののシンの記憶にはよく残っている。目の前の機体は、その記憶よりいくつか修復されてはいたが。

 

「あ、そういえばアレ! オーブのアスハ代表よ」

「へぇ……って、オーブのアスハ?」

 

 相手の言葉に相槌を打ち、その重大な言葉に思わずオウム返しした。オーブとはシンの生まれ故郷でもあるオーブ連合首長国。そしてオーブ代表のアスハとは二つの意味を持つが、この場合は現首長を務めているカガリ・ユラ・アスハのことだろう。

 前大戦時に崩御したウズミ・ナラ・アスハの娘、として今のオーブでの人気は高い。だが、シンは好意的にはとてもなれない人物だ。

 憎悪までは行かないが、どうしても家族を失った責任をその時指導していたウズミ・ナラ・アスハに向けてしまう。

 その娘であるカガリも同様に。

 

「うん。アタシもびっくりした。まさかこんなとこで、大戦の英雄に会うとはね」

 

 その言葉に、無意識にシンは表情を顰める。別にカガリ・ユラ・アスハに当時の責任を押し付けるなどという愚行はしないものの、英雄と言われる分にはどうしても抵抗があった。

 英雄なら、どうしてマユを、両親を守ってくれなかったんだ。あの時家族を失った人は、みんなそう言うだろう。

 世界を救った英雄。だがそれは所詮、全ての人を救うことなどできない。

 結局、本当に守りたいものは自分で守るしかないのだ。

 

「でも、アスハもちゃんと強いんだな」

「あ、でもザク動かしてたの、別の人みたいよ? アレックスって言ってたけど」

 

 少しだけ大戦の英雄と呼ばれることを理解したつもりのシンだったが、ルナマリアの付け足した言葉に目を丸くした。

 

「え、じゃぁ動かしたのは別人なのかよ」

「みたいね。ただその人――アスラン・ザラかも」

 

 納得を返せ、と言わんばかりに身を乗り出したシンに、ルナマリアが笑みを浮かべて喋る。再び出た英雄の名に、シンは何度目かの衝撃に沈黙した。

 アスランと呼ばれる人物もまた、カガリと同様に前大戦の英雄と呼ばれた男だ。元々ザフトに所属していたエースパイロットの一人であり、あのストライクを相打ちとはいえ撃破したほどの腕前を持っている。

 それならば、性能面で不利なザクでもセカンドステージ相手に渡り合えた実力も納得が行く。

 だがそれだと結局、カガリ・ユラ・アスハは何をしていたのかという話になるが。

 

「アスランって今オーブに居るらしいし。その腕なら代表の護衛になってもおかしくないわよね」

「それは確かに…」

 

 ルナマリアの言葉に、シンも頷く。確かにアスラン・ザラが護衛であれば、彼に操縦を任せるのが一番安全だろう。カガリの操縦技術がどうあれ、戦闘経験で言えば、アスランの方が豊富なはずだ。

 それに、カガリは今はオーブという一国の代表なのだ。護衛が迂闊に戦闘を許すとは思えない。

 

「アスラン・ザラ、か……」

 

 ザク一機でセカンドステージを相手に渡り合うその実力。なおかつ最重要人物を守りぬくその精神力。

 その正体が誰だろうと、同じMS乗りとしては一度会って師事を受けてみたい。ザクのパイロットは、そんなことを思わせる人物だった。




ここまで読んでいただき、いただきありがとうございました。
第3話、いかがでしたでしょうか? 今回は戦闘抜きなので物足りないかもしれません。
最後の方は少し引きが下手だったと自分では思っています。こんなんで続きが気になる人がいるのか…?
近年暴力系ヒロインはあまり好まれない傾向にあるようですが、フィアのは理由のある暴力です。もし不快に思われた読者様がいたら許してやってください。次の話で説明もさせていただきます。
また誤字脱字、その他感想についても随時受け付けております。気になった点があればご一報ください。可能な範囲で対応します。
それでは、第4話でお会いできることを願いつつ。
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