機動戦士ガンダムSEED DESTINY‐FINAGLE   作:ケリュケイオンの蛇

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皆さんお久しぶりです。蛇です。
今期はロボアニメ多いですね。M3、キャプテン・アース、アルドノア・ゼロ、アルジェヴォルンと目移りしてしまいます。ロボ系の好みで言えばM3、シナリオならアルドノアが一番楽しめましたが、皆さんは何か見てるものはあるんでしょうか?
やっぱりロボはいいですよね。燃えます。この作品でもそういった部分を出していきたい、と改めて思いました。色々とオリジナルMSの設定も浮かぶのが一番の収穫でしょうか(笑)
今回は4話をお届けします。更新遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
それでは、どうぞ。


EPISODE:04『歪み』

「どうぞ、お座りください」

 

 ミネルバの艦長室で、二人の男女が向かい合って自分の席に腰を下ろした。その脇には、それぞれ異なる性別の人物が付き従って立っている。

 対面して座っているうちの一人、カガリ・ユラ・アスハは、まだ年若い少女でありながら、一国を背負う身としてその席についていた。

 彼女の前には、同じ国を背負う者として、プラントの長を務めるギルバート・デュランダルが腰掛けている。カガリよりも年上でもう青年という年齢ではないものの、一国を任される身としては、やはり幾分若い。

 

「では、説明していただきたい。この現状を、プラント議長はどう考えているのか」

 

 こうして対面している訳は、ザフトが開発していた新型MSに関する議題だった。

 カガリにとってみれば、今の平和を守るための会談である。

 二年前、多くの犠牲を払って手に入れた平和。ようやく戦後復興がひと段落し、これからそれが実感できるという最中、ザフトが新型MS及び新型戦艦の披露式を行うという情報が耳に届いた。

 目的はどうであれ、軍事力を増強するという意味で今の平和な世界に波紋を生みかねないその噂は、決して無視できないものであった。特に、先の戦争で敵対関係にあった地球連合軍を悪戯に刺激すれば、第二の火種になりかねない。

 居てもたってもいられず、非公式に会談を取り付けて向かえば、案の状新型兵器を強奪される事件が発生。

 カガリ自身巻き込まれ、今この戦艦にその身を置いてもらっている。一国の代表である以上、ミネルバ側も適当に扱うこともできないのだが。

 

「そうですね。しかしまず、姫の御身を危険にさらしてしまったこと、お詫びさせていただきたい」

 

 対等な立場であろうと力強い言葉を発するカガリに、デュランダルはあくまでも柔和な態度を崩さない。

 アスランがこっそり耳打ちしようとするのをカガリは手だけで制し、デュランダルに頭を振った。

 

「いや、元々こちらが無理を言った立場なのだ。先の件については、そちらの態度を責めるわけにも行かない」

 

 相手の謝罪を制しながらも、カガリは己の未熟さを痛感していた。最初は新型MSを強奪されたことで、軍事力の増強を非難するつもりであった。

 しかし、ここまで低姿勢を貫かれては、一方的に非難することもできない。何よりカガリ自身が言ったように、元々プラント側には無理を言ってお願いをした立場なのだ。

 非公式会談であればなおのこと、カガリ一人に人員を割くわけにも行かなかっただろう。

 

「だから今後について話そう。私はプラントとは、良き理解者でありたいんだ」

 

 だからこそ、カガリは本題を切り出した。話術でも、読心術でも年を積んだ相手には遠く及ばないことは、政治の世界に身を投じて十分痛感している。

 そしてカガリは、誰よりも真っ直ぐに言葉を伝えられることが、何よりも自分の武器だと分かっていた。嘘に塗れ、薄汚れた政治家の中では、その若さゆえの純粋さが、時に相手の信頼を得ることもある。

 そしてそのカガリの態度に、デュランダルもまた、笑みを向けた。

 

「姫は純粋なお人のようだ。その好意に、私も全力でお答えしましょう」

「ありがとう」

 

 この時、宇宙の片隅で、オーブとプラントの二国会談が密かに行われることとなった。

 

 

機動戦士ガンダムSEED DESTINY

 EPISODE:04 『歪み』

 

 

 ステラは夢を見ていた。とても楽しい夢だったように思う。辺り一面にお花畑があって、ステラはその中心で踊っているのだ。

 まるで童話のお姫様のように、くるくる回っては花びらが舞う。そんな少女らしい夢を、いつかステラは実際にやってみたかった。

 ただ、その夢には続きがあって、それはとても悲しかった。

 ステラは手にナイフを持ち、くるくる回りながら人を斬るのだ。舞い散るのは花びらではなく、人の血で。夢の中だけは、それが悲しいと思えた。

 とはいえ、いつもステラがしていることだ。どうして悲しいと思うのかわからないし、そういった時は目を覚ませばその思いも忘れることができた。

 だからステラは気にせずに、その夢を止めるため目を開ける。

 ゆっくりと開いた瞳には涙が溜まっていて、それが不思議と綺麗だった。

 

「綺麗…」

 

 思わず、言葉が溢れる。なぜ涙が溜まっていたのかわからないが、とりあえず瞳に残っていたものを擦って拭き取った。

 そのまま瞬きを繰り返し、目の違和感を取り除く。

 改めて開いた視界に、一人の少年が映り、ステラは表情を緩めた。

 

「ナハト!」

 

 揺りかごからその身を乗り出し、ステラは大好きなその名を呼ぶ。

 ナハトはステラに呼ばれてもたいして表情を変えず、白衣の研究員と話していた。

 その様子にステラは悲しくなるが、仕方ないだろう。おとなしく、脚を投げ出してブラブラさせていると、ナハトの方から近づいてきていた。

 

「ステラ・ルーシェ、気分はどうだ?」

「うん!」

 

 ナハトからの言葉に、ステラは嬉しそうに頷く。言葉をかけてもらうだけで、温かい気持ちがステラを満たすのだ。

 傍から見ればまるで会話になっていない。だが、ステラが頷くのを見て、ナハトは納得したように言葉を紡ぐ。

 

「……問題ないようだな」

「うん!」

 

 ナハトが頭に手を置くと、ステラはくすぐったそうに目を細めた。うっすらステラから見えるナハトの表情は読みづらく、無感情にも見える。

 実際ステラの安定剤として組み込まれた行為なので、ナハトからしてみれば任務のうちなのだろうが、ステラはそのことを気にもとめず、その感触に身を委ねた。

 

「なんだよー、アレ」

 

 その様子を少し離れたところから見ていたアウルが、たまらなくなったのか口を開く。

 アウルの言葉を聞いて、スティングも息をついた。

 

「俺が知るか」

 

 スティングもアウルも、それぞれ自分の揺りかごから身を起こしている。寝起きとしては、最低な光景だ。

 何が悲しくて甘い雰囲気の二人を見なければならないのか。一方的な好意を寄せるステラに、ナハトもよく付き合っている方だ。ナハトは特に何も感じていないだろうが、同じ男としては恨めしい。

 ただ、そういうことは他所でやれ、そう二人は同時に考えていた。

 

「ちぇー、どうせならもっと寝とくんだったぜ」

「どうせすぐネオも来るだろ」

 

 ステラのほうを見ることに耐え切れなくなったのか、アウルはそのまま揺りかごへと身を委ねる。その様子を見ながら、スティングは息をついた。

 アウルも全く子供のようだ。そう思いながらスティングも顔を上げる。流石に、ステラの方を見るのはこの中で我慢強いと自負するスティングでも辛いようだ。

 

「お、みんな起きてるなー?」

 

 スティングの言葉が天に届いたのか定かではないが、タイミングを測ったようにネオが姿を見せる。

 その声に、アウルは勢いよく上体を起こした。

 

「おせーよ!」

「んー? 時間は守ったつもりだったんだがな」

 

 アウルの文句に、ネオは肩をすくめるだけだ。おそらく、わざとだろう。とはいえ、ステラたち3人が目覚めるタイミングとしてはそう時間が経っているわけでもない。

 だからこそ、アウルもそれ以上文句を垂れるようなことをしなかった。子供扱いを嫌がるアウルだからこそ、堪えているという感じだ。

 そのことが透けて見える時点で、アウルもまだまだ子供っぽいのだが、とスティングは笑った。

 

「ネオ・ロアノーク」

 

 ネオの声が聞こえたからか、いつの間にかナハトが近寄っている。その横にはステラも一緒だ。

 ナハトの右手に腕を絡ませているようで、ステラの年に不相応なほど豊満な胸が押し付けられている。柔らかくナハトの腕を挟み込んでいるソレを見て、ネオは咄嗟に鼻を抑えた。

 流石に、インパクトがありすぎる。よく見れば、研究員たちも涙を流しているように見えた。

 ただ、当のナハトはそれを気にせず淡々とした表情を保っている。さすが、兵士として完璧だと上層部が言うだけのことはある。

 だが、次に放たれた言葉には疲労の色が隠しきれていなかった。

 

「…待遇の改善を要求する」

 

 ――お前が言うな!

 その瞬間、ナハト以外の男の心は一つになった。

 

 

「フィアさー、ちょっとやりすぎだったんじゃないか?」

 

 イノセントのコクピット内にこもって調整を行うフィアに、長い銀髪を揺らしてユウが声を出した。長髪な上、色素も相まってか綺麗だが、ユウはれっきとした男である。低い男性特有の声が、フィアの耳をくすぐった。

 その言葉に、それまでキーボードを叩いていた手が止まる。

 細くしなやかで、とても綺麗な指だ。少女らしい手には目立った傷もなく、本当にMSを乗りこなす少女だとは、到底思えない。

 

「後で謝る」

 

 それだけ言って、またフィアはキーボードを叩き始めた。ユウに言われなくとも、フィアはシンに悪気がなかったことは分かっている。

 あの時スパナがシンの後頭部に直撃するのも見えていたし、そもそもシンはフィアを異性として認識していないだろう。

 精々が、手のかかる同期。それに、失った妹も重ね合わせて面倒を見ているだけだ。

 そのことに、フィアは特に何も感じない。シンといる時間は退屈しないが、いなくなっても困らない。既に戦争状態に近い今の状況では、特にいつまでも一緒というようには行かない。

 ただそうは考えてもどこかフィアは、シンに対してやったことに罪悪感を抱いていた。

 あの行為は、シンが胸を触ったとか下腹部に顔を埋めたとかいう行為による驚きよりも、数刻前の戦闘で乱れたフィア自身の心を隠すためにやったことだ。

 あのままだと今までと違う自分をシンにぶつけてしまいそうで、怖かったのだ。

 だから蹴り飛ばして、物理的に距離を保つことで心の動揺を隠した。

 

「シンには、悪いことをした」

「いや、別にフィアが全部悪いってことじゃないけど」

 

 ぽつり、とフィアが呟いた言葉に、ユウはさりげなくフォローを挟む。こうしたところが、彼の女性人気が高い理由の一つなのだろう。ただ、フィアは特に何も感じなかったが。

 こちらを見て表情を緩めるユウを気にも止めずに、フィアは近くにあったドリンクボトルに手を伸ばした。

 

「ユウー、俺のドリンクしらねぇ?」

「ん? あぁ、これだぜ、ってアレ?」

 

 フィアがドリンクボトルに口をつけた瞬間、ヴィーノが下方から顔を出す。当のユウはヴィーノに何か差し出そうとしたのか、右手を伸ばして硬直していた。

 何もない手を握っては離し、フィアのほうを向いてユウがぎこちなく笑みを浮かべる。

 ヴィーノが何もないユウの手を見て、それからフィアを見て同じように固まった。

 その様子に、不思議そうな顔でフィアは目を瞬かせる。

 

「フィ、フィアちゃん?」

 

 ヴィーノの震える手が、フィアの持つドリンクボトルを指差した。その顔は朱がさしたように赤く染まっている。まるで熱があるみたいだ。

 

「何? あっ」

 

 フィアが持つドリンクボトルには、ヴィーノの手持ちだということを示すサインが書き加えられていた。ご丁寧にラクス・クラインのステッカー付きだ。それも最近の、胸を強調したタイプ。

 この場にいないヨウラン・ケントが本当は貼ろうとしていたものを、間違ってヴィーノのボトルに貼ってしまったという経緯があったようだが詳しくは知らない。そもそも、何故いちいちボトルを占有化するのかフィアにはさっぱり分からなかった。

 

「後で洗って返す」

「あ、いえ、できればそのままでも!」

 

 気にせずこくこくと口を付けるフィアに、茹で上がったタコのような顔でヴィーノが頭を下げる。ソレをユウが面白そうに眺め、ヴィーノを見守っていた。

 

「……はい」

 

 それほど喉が渇いていたのだろうかと、フィアがドリンクボトルを返す。彼女自身充分喉を潤したので、元の所有者であるヴィーノが望むなら返さない訳にはいかない。

 整備士である彼もまた、急激な運動量に相当水分を欲しているのだろうと考えてのことだ。

 ただヴィーノは、それをすぐには飲まずに抱えて降りていったが。

 

「別にもう取らないのに」

「いや、フィアはもう少し異性に対して警戒心をだな?」

 

 少しだけ呆れたような声を出したユウが、途中でその顔の向きを変えた。

 その様子に、フィアも首をかしげる。

 周りの喧騒に混じって、遠くから人の話し声のようなものが聞こえてきた。

 

「デュランダル議長と、誰かいるぜ」

 

 ユウの言葉に、フィアもその身を乗り出してコクピットから顔を出す。ちょうどユウが片手で支えてくれる形になったので、姿勢を崩す心配もない。

 声が聞こえてきた方向を見れば、確かにフィアたちも見慣れているデュランダルの姿が見える。

 その横に並ぶ、金髪の少女の姿を見てフィアは小さくその名を呼んだ。

 

「カガリ・ユラ・アスハ?」

 

 フィアの呟いた言葉に、ユウが改めてそちらを向く。

 

「へぇ、アレがオーブの」

 

 口元を釣り上げて納得したように、ユウが笑みを深めた。フィアはユウに少しもたれかかるように、更に身を乗り出す。

 その先で、金髪を揺らしながらカガリがデュランダルへ顔を向け、言葉を放っている。

 

「争いがなくならぬから、力が必要だと議長は仰ったな」

 

 わずかばかりに聞き取れた声を、フィアは頭の中で整理した。そのようなことをいつカガリが議長に聞いたのかは分からないが、フィアたちの知らない間に話しでもしていたのだろう。

 むしろ、代表同士の会話などそうそう第三者が聞けるものでもない。

 

「えぇ」

「だが、ではこの度のことはどうお考えになる? あのたった3機の新型MSのために、貴国が被った、あの被害のことは!」

 

 肯定するデュランダルに、カガリは真っ直ぐな視線を向けた。その声音には、憤りと失望とが混じり合っている。

 カガリの言葉を、他の誰もが耳を傾けて聞いているようだ。先ほどより喧騒が少なくなったことで、フィアはより鮮明にカガリとデュランダルの会話を聞くことができていた。

 

「言ってくれるねぇ。さっすが平和の国って感じだぜ」

 

 ユウが笑って声を出す。ただ、その笑みはいつもの人懐っこいものではなく、皮肉げに歪められたものだ。

 

「そもそも、なぜ必要なのだ! そんな力が、今更!」

 

 声を荒げるカガリに、デュランダルはただ柔らかい表情を向けている。その様子は子供の文句を聞く保護者のようで、どこかフィアはカガリの姿に虚しいものを感じていた。

 カガリの言い分は正しい。平和な世界では、正しくなければならない言葉だ。だが、軍艦の、それもつい先ほど戦闘をこなした後では、その言葉は何の効果も持たない。

 確かに、今は平和だ。だがそれは、前大戦にどちらかが勝ったわけではなく、お互いに滅亡することを避けるために一時的な休戦を申し込んだに過ぎない。

 正確な勝者はカガリも居た『三隻同盟』というオーブを後ろ盾とした義勇軍だが、そのほとんどが今では姿を見せない状況だ。

 本当に武器を捨てさせたいならば、彼女たちが表舞台に出て地球とプラントの相互問題を解決していくべき立場のはずなのに。オーブを担うカガリ・ユラ・アスハ以外は政治にも手を出さず、言葉で示すこともない。

 

「今更無意味」

「確かにな」

 

 淡々と言い放つフィアに、ユウが同意した。二人して、カガリの言葉がどれほど綺麗事であるか、そしてこの場にはふさわしくないことを感じ取る。

 戦場で、綺麗事は通じない。

 ミネルバが今更MSを宇宙に捨てても、3機のGを奪った敵もソレを返してくれる道理はない。

 遅すぎたのだ。カガリの言葉は。

 それは前大戦が終わった時、一切の武装を放棄するとでも条約に書き記しておかねばならなかったことだろう。

 

「我々は誓ったはずだ! もう悲劇は繰り返さない。互いに手をとって歩む道を選ぶと!」

 

 それでも、カガリの言葉は止まることを知らない。なまじ高い役職を持つだけに、誰も思う所を言うことができない。

 そして誰も何も言えないから、カガリの言葉が苛烈さを増す。まさに、悪循環だった。

 流石に議長も場を考えてか、カガリを制そうと口を開く。

 が、その前に別の場所から、議長の声を遮る形で声が放たれた。

 

「さすが綺麗事は、アスハのお家芸だな!」

「シン!」

 

 流石に代表に対する言葉ではないだろう。デュランダル議長の脇に控えていたレイが、声を荒げたシンのもとへ向かっていった。その名を呼ぶ声音は、少し叱責の色が混じっている。

 だが、シンはそんなことを意にも介さず、カガリに激情の瞳を向けていた。

 その瞳に、思わずカガリがたじろぐ。

 シンの眼差しは、今までにないくらい激情の色に染まっているだろう。遠目からでも、似たようにオーブで両親を失ったフィアにはそのことがわかった。

 

「そんな綺麗事言ったって、アンタの親父が殺したオーブの人たちは戻ってこない!」

「シン、いい加減に!」

 

 痛烈な一言だった。ピンク色の携帯を握り締めたまま、シンはその場を去っていこうとする。

 それを引き止め、レイが叱責の言葉を放った。レイの言葉に頭が冷えたのか、シンの動きが止まる。

 

「俺の家族も、フィアの親も…あいつの国で、あいつの言葉を信じて死んだんだぞ」

 

 小さく放たれた言葉だが、その言葉は鮮明に、カガリの耳に届いた。それだけに、カガリの表情が曇る。

 シンの言うあいつとは、カガリ自身でなくその父親だ。確かに、カガリ以上にカガリの父であるウズミ・ナラ・アスハは戦争に嫌悪を示していた。

 相手が武器を向ければこちらも武器を取る。そんなことが続く限り、戦争は終わらないと、そうカガリに言ったのもウズミだ。

 ウズミ・ナラ・アスハも、民を守れなかった自責の念から戦火に焼かれるオーブとその運命を共にした。

 それなのに、助かった人々にウズミの意志が伝わっていない。それどころか、憎しみの対象となってしまっている。

 それが、カガリにはとても悲しく思えるのだ。

 

「どうするよ?」

「流石に、止めるべき」

 

 その様子に、ユウがフィアの方に言葉を放つ。おそらくシンと同じように、関係の深いフィアの真意を聞いているのだろう。

 それに対して無感情に返答すると、フィアがコクピットから飛び出していった。

 

「世話が焼けるぜ」

 

 フィアの言葉に、肩をすくめながらもユウは付き従う。その様子を空気で感じながら、フィアは声を出すべく息を吸い込んだ。

 

「シン、言い過ぎ」

「フィア……何で!」

 

 少しばかり張った声が届き、シンの表情に困惑の色が浮かぶ。言いたいことを言えて落ち着いた感じだろう。シンの言葉は痛烈だったが、カガリの言葉も結局は家族を失ったシンには無意味でしかない。

 二人共、見ているものが違うのだ。

 

「アスハ代表も、あの戦火で父を失った。少しは言葉を選ぶべき」

「うっ!」

 

 フィアの言葉に、シンの表情が歪む。自分でも少し言いすぎたことは自覚している様子だ。ならば、時間と話し合いが解決してくれることもある。

 

「アスハ代表も、この場で言うべきではありませんでした」

「そ、そのようだ。すまない。私も熱くなってしまって」

 

 カガリへと向き直って律儀に言葉を放つフィアに、カガリも申し訳なさそうに頭を下げた。その横で、アスランが少しだけ安堵したような、申し訳なさそうな複雑な表情を浮かべる。

 デュランダルを見れば、柔和な笑みで返された。勢いに乗って国家の代表とも言うべき人物に物言いをしてしまったが、叱責される様子はない。

 改めてカガリやデュランダルに向けて、頭を下げるフィア。

 ただ、そのことに納得していない人間が、一人だけいた。

 

「やっぱり、納得できないな」

 

 フィアと共に流れてきていたユウが、小さく呟く。その言葉に、一番近くにいたレイが顔を向けた。

 ユウの表情からなにか読み取ったのか、レイの顔に緊張が走る。止めようと口を開くレイより先に、ユウがその昏い感情を吐き出していた。

 

「英雄はいいよな。ちょっと力があって、上手くいったからって。終わった後は何を言ってもいい。何をやってもいいのかよ? あんた達がどれだけ立派なことしたか知らないけどさ」

「ユウ、お前も落ち着け!」

 

 レイが珍しく慌てたように静止するが、ユウは気にも止めない。いつもならそんなレイの姿を物珍しく観察しているところだが、今のユウにとっては興味の対象にもならなかった。

 

「堂々と乗り込んできたかと思ったら、存在否定でもしに来たのか? ここは軍艦で、今は戦場だ。武器を捨てろ? 必要ない? 今俺は、あんたがその辺の奴だったら泣くまで殴ってるくらいムカついてるぜ!!」

 

 ユウも、ここまで饒舌になることに自分自身で驚きを覚える。何が気に障ったのか、正確にはユウ自身判断もつかないことだ。

 最初は、止めるつもりだった。だからフィアにどうするかも聞いた。だが、カガリの言葉を聞くにつれて、ユウにとってカガリの印象は最悪にまで落ちたのは事実だ。

 シンは家族を亡くし、その手を血で染めようと何かを守ることを誓った。そのために何度も努力していたことをユウは知ってる。訓練兵時代には、日が暮れても格闘訓練に付き合ったことも多い。

 フィアは親を亡くした上に、感情まで失った。それがどれほどのことか、ユウには想像のつかないことだ。言ってみれば、一度フィアも死んだのだ。

 きっとフィアは気にしないと言うが、それは違う。気にすることもできない、の間違いだ。そんなの、ユウからしてみれば地獄だろう。

 なのに、目の前のカガリという人間は、シンの覚悟も、フィアの心も否定しようとしている。

 そんなのが英雄として皆からもてはやされて、守られる。そんなのは、間違っている。

 

「ユウ、落ち着け」

「それができたら苦労はしない」

 

 レイの叱責にも、ユウは耳を貸さない。流石にいつもと少し違うユウの態度に、シンもさっぱり熱を奪われてしまっていた。

 

「いつものユウらしくない」

「ッ!」

 

 いつものって何だ。そう答えようとして、ユウは黙りこむ。ユウを覗き込むフィアの顔は、いつものように無表情だ。ただ、その瞳が、少しだけ揺らいでいるのを、ユウは感じ取る。

 僅かに残ったフィアの心が、ユウに訴えかけてくる気がした。なにか、とは明確に言えないが、フィアはユウを真剣に止めようとしている。

 それがわかるからこそ、ユウは少しだけ顔を下げて謝った。

 

「…納得いかねぇぜ」

 

 ただ、シンもフィアも気遣うような顔を向けてきて、ユウは黙ることしかできなかった。

 これは普通、立場が逆だろう。

 

「アスハ代表、これまでの非礼、申し訳ありません」

 

 シンたちに対する心象をこれ以上悪くするわけにも行かない。そう考え、ユウはぎこちなく頭を下げた。

 それが本心からの謝罪でないことは一目瞭然のはずだが、カガリのほうから咎めるような言葉は聞こえてこない。それならば、とデュランダルも沈黙しており、結局現状での処分はないようだ。

 複雑な想いを抱いたまま、ユウはカガリに背を向ける。

 

「っ、なんだ!?」

 

 その瞬間、敵襲を示す警報がその場に鳴り響いた。

 

『コンディション・レッド発令! コンディション・レッド発令!』

 

 オペレーターであるメイリンの声が響き、途端に周囲が慌ただしくなる。シンやレイ、そしてユウがそれぞれ自機に向かう中、フィアはカガリへと向かっていった。

 

「あの、アスハ代表」

「な、何かあるのか?」

 

 周囲の喧騒もあり、戸惑ったようにカガリが声を出す。その前に浮かぶと、小さく口を開いた。

 

「いえ、後でお聞きしたいことがあるので」

「私は構わない。むしろ、私も君たちと話したい」

「ありがとうございます。では」

 

 表情を特に変えることもなく、フィアは頭を下げる。その様子に、カガリ自身胸を痛めた。

 無表情な少女というのは、それだけである種の悲壮感がある。特に、シンの口からオーブで家族を失ったと聞けば、その代表であるカガリには重い。

 ただ、カガリの前にいるフィアはカガリを責めるばかりはしなかった。カガリ自身が同じ立場であれば、シンの行動が当然だと思ってしまうだけに、興味を抱く。

 そんなカガリの考えをまるで気にも止めないかのように、フィアはその場を離れていった。

 フィアの瞳の先には、悠然と佇むイノセントの姿がある。

 

「舞おう、イノセント」

 

 その言葉とともに、イノセントの目に当たるツインアイが光ったような気がして。

 無意識にフィアは、怪しく口元を歪めた。

 

 




今回、いかがでしたでしょうか? 次回は戦闘回ということで、キャラクターの日常性を意識して描いています。うまくいってるといいですが…。
今後は最低月1ペースを守りながらの更新とさせていただきます。読者の皆様にはご迷惑をおかけします。
それでは、次回会えることを願って。
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