ようこそ第0護衛隊群へ   作:/Null

1 / 105
たばこはマルボロ派


ミカの過去
彼との出会い


背丈の離れた2つの人影。

 

1つは幼い、まだランドセルを背負うような女の子。もう1つは背の高い、オイルで汚れた作業服を着る男の人。

 

手を繋ぎ、嬉しそうに前へと引く幼い背中に、苦笑いをしながらもついていく高い背中。

 

年齢も、身長も違う。だけど、目が合うとお互い歯を見せ合う2人。しかしその手は唐突に離れ、取り残されたのはその場に俯き、泣きじゃくる女の子1人。

 

立ち上がり前へと進むことも出来る。けど、女の子()は後ろを向いた。まだぼんやりと感じるあの温かい手を探して。

 

そして、あの手()と共に歩くことを決めて。

 

 

これは、懐かしいあの日の記憶。

 

彼との出会い、別れ、そして...私の決意。

 

私は───懐かしい夢を見た。

 

 


 

 

退屈な日常。 

 

戦車道関係で以外、外に出る事のない毎日。

 

世間的に戦車道の名家と呼ばれる家に生まれた私。何をするにしても、家の名前は付いてまわり、自分のやりたいことは出来ない。

 

家にいる時でさえ、やる事といえば戦車道の勉強ばかり。

 

何の変化もない、楽しくない日々の繰り返し。

 

 

けど、

 

そんな私でも実は唯一羽を伸ばしてくつろげる場所がある。

 

人の目を盗んで行く、私だけしか知らない秘密の場所。

 

山のふもと。自然豊かで、上から覗くと魚だって見えるような綺麗な川が流れている、とある場所。

 

そこは私にとって憩いの場であり、人の目を気にせずに私が“子供”でいられる唯一の場所だ。

 

 

───でも、その日だけはいつもと違った。

 

道も整備されていない、生い茂った木々を抜けて、いつものように辿り着いたその川辺には、時代遅れのように煙草を吸いながら本を読む男性の姿。

 

ぽっかりと開けたその場所は、空からでも見ないと分からないようなところなのに、何故か先客が居たのだ。

 

「ここでなにしてるの?」

 

思った以上に近い距離。好奇心から近付いてしまった私の口からポロっと出てしまった言葉。知らない男性にいきなり声を掛ける危うさを、声を出してから気が付いた。

 

すると、どうだろう。その男性は私の警戒が無意味だったような表情を浮かべた。

 

「ごめんね。ここには人がいないと思ってたんだ。場所を変えるよ」

 

ポカンと口を開けて、けど、座りやすそうに(私が置いた)置かれた大きめの石と、私がいることで察したのか、その彼は申し訳なさそうに本を閉じてこの場所から離れようとする。

 

「待って。ただ、ここに人が来たのが初めてだったからびっくりしただけ。だから別にいい」

 

よく見れば作業服姿はオイルに黒く汚れているのがわかる。どうやら変な人ではなく、きちんと仕事をしている人ではあるらしい。

 

「おじさんは何しにここに?リストラでもされた?」

 

「ははっ、きみは見た目に反してズバッとモノを言うね」

 

彼は少しの苦笑いを浮かべながらも話を続けた。

 

「僕がこの街に来る時にね。空からちょうどこの場所を見つけたんだ。とても良さそうな所だったから仕事の前にこの目で見てみたいと思ってさ。もちろんこの後はちゃんと仕事があるよ。いわゆる時間調整ってやつだね」

 

「それってサボりだよね」

 

「それは人の見る視点によって変わるものさ」

 

「そういうものなの?」

 

「そういうもんだよ」

 

「ふーん...」

 

言い訳としては全然下手くそで、けど別にそれ以上の詮索はしなかった。他人の事に対して深く言うつもりもないし、それに、私も同じようなものだったから。

 

「まぁ折角だからここにいても良いよ。おじさん、悪い人じゃなさそうだし」

 

「いいのかい?本当は君をたべる悪い狼かもしれないよ?」

 

「悪い狼なら自分からそんなこと言わないよ」

 

「ははっ。そうかもしれないね」

 

「でもタバコは没収。ここは禁煙だから」

 

「ごめんごめん」

 

謝る彼はそう言って私に煙草とオイルライターを渡してくる。子供に渡すものでもないのに。けど、それはきっと彼なりの見える誠意なのだろう。こうして受け入れてくれたことに対しての。

 

 

そんなやりとりの中、渡されたものに混じってふと彼の手元が目に入った。

 

「あっ!それ私も持ってる!」

 

見えたのは戦車道の教本だった。

 

「あ、その...いきなりごめんなさい」

 

「全然気にしてないよ。きみはどこか背伸びをしてるように見えたからね。子供は笑顔で元気なのが1番だよ?」 

 

「ふふっ。なにそれ。変なおじさん」

 

同じ話題を見つけ、初対面だというのにテンションが上がってしまった私に、彼は微笑ましくそう笑顔を向けてきた。

 

それに釣られて、私も子供らしく顔が綻ぶ。

 

「でも、よくこんな本読んでるね。最近読み始めた僕にはとっては、戦車の事となるとよく分からないよ」

 

「それなら私が教えてあげようか?私こう見えても戦車の事なら結構自信あるんだ」

 

「本当かい?じゃあ...折角だし、是非お願いしようかな」

 

「うん!任せて!まずここはね───

 

 

そこからの時間はあっという間だった。自分が習った事、体験した事を交えて彼に説明していれば、周りは既に薄暗く。

 

 

「またここに来ても良いかい?」

 

「もちろん!おじさんなら大歓迎だよ!」

 

彼の帰り際。言われた言葉に返したのは私の本心。

 

次はいつ来てくれるのか...そんな事は分からない...けど、また会えたら良いな。いや、きっと会える。そう思えるような楽しい時間だった。

 

思えば私は、こんな短時間でその人に絆されてしまっていたんだ。

 

 

――――――――――――

―――――――――

 

 

彼が仕事に戻ってからしばらく経った後。家に帰ると、開けた庭先にプロペラのついた知らない戦闘機が一機。

 

(どうせまたお母さんの知り合いだろう)

 

近々行われる試合の話をしにきたのか、その作戦会議をしにきたのか、それとも家柄に挨拶でもと来たのか。

 

(まぁどのみち子どもの私には関係のないことだ)

 

そう思いこそっと部屋に戻ろうとしたのだが...

 

「あっ」

 

曲がり角で運悪くお客さんとぶつかってしまった。

 

「ご、ごめんなさい...」

 

「こっちこそごめんね、怪我とかしてないかい?」

 

心配する相手方の声に“大丈夫”と返事をしようと思い顔を上げた私だったが、その人物はどこか既視感がある。

 

スーツを着ており見るからに若いが、ほのかに香る煙草の匂いが先ほどの記憶を思い出させた。

 

「...あっ!タバコのおじさん!」

 

そう。それは紛れもない、先程別れたばかりの人。いつ会えるか、などと思っていたが、現実はもっと早かったみたいだ。

 

「さっきぶりだね、こんな早くに再会するとは思わなかったよ」

 

そんな彼も驚き、けどすぐに視線を合わせるようにしゃがみ込んで、先程と違い最初から子供扱いして頭を撫でてきた。

 

馴れなくもくすぐったいその感覚に、自然と私の目は細くなる。

 

「それと、これでも20代なんだ。“おじさん”じゃなくて“お兄さん”って呼んでほしいかな」

 

 

それが彼との出会い。

 

 

横浜にしては珍しく、雪の降る寒い日。

 

紅くなった頬をかき、恥ずかしそうにそう言った彼の姿は、確かに若く、年相応の顔をしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。