家に着いてすぐ、私はいつもの場所へ向かった。
彼が母から説教をもらうのを見るのも面白そうだったけど、私にも飛び火する可能性があったからね。リスクマネジメントは、大切だよ?
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この場所...彼との思い出であるこの場所は、彼がいなくなってからもちゃんと管理している。
といっても帰省するタイミングでしか出来なかったけど。それでも昔の光景と変わらないように努力してるんだ。
空から見ても一目でわかるように...そして彼がいつ戻ってきてもまたここで遊べるように。
───なんせここは。私達が始まった場所だからね。
目に映るのは色々な意味で思い出深い山小屋。
年季の入った椅子に腰掛ければ、手作りということを感じさせるように、ぎしっと軋む音が鳴る。
そこで私はいつものように本を開く。
それは...彼の本。
タイトルは───“姫君の青い鳩”
この物語の最後は結局ハッピーエンドなのかバッドエンドなのか...結局私には分からなかった。
昔お姫様に助けられた鳩が、病床にふせるお姫様のためにどんな怪我や病気にも効くといわれている魔法の木の実を探しに行く物語。
私のもとからいなくなった彼を思い、最初は私が姫君で彼が鳩だと思っていた。だから彼は必ず帰ってきてくれると...。
───でも...物語の通りだとそれは間に合わない。
それならばと私は立場を変えて考えた。
私が鳩として。彼を助ける鳩として───でもそれじゃダメだ。間に合わない。
だから...だから私は、風になる事にした。
鳩よりも疾く駆ける風に。
そして私は彼のために、この鳩よりも疾く家から飛び出して旅に出た。
それは物語と同じで遠く...遠く...そして長い旅だった。
吹き荒れる嵐の中で私は、彼という木の実を探した。
...まぁ私の場合はお母さんの助言という裏技はあったんだけど。
物語の終盤───
鳩はお姫様のもとに戻る事はできたが、結局間に合わなかった。そして、お姫様の最後の顔がとても安らかだったので鳩は悲しくも後悔なくそのまま眠りについてしまった。
───というお話。
結局鳩は間に合わなかった。けど...私は間に合った。風になった私は間に合った。
そう、私達の物語にはハッピーエンドしかいらないのだ。
「ここで何してるのかな?お嬢さん?」
「ふふっ。あの時とは逆の立場だね」
探しにきてくれた彼に、私は本を閉じながらそう答えた。
私と初めて会った時のことを、ちゃんと覚えていてくれたのだろう。
───ふふっ...嬉しい。
彼はいつも私の欲しい言葉をくれる。そういうところも私が彼を好きな理由の一つだ。
「なんだ。ちゃんと保管しててくれたのかその本」
「当たり前だろう?きみの残した数少ない忘れ形見だったものだからね」
「ほぅ。じゃあ作業服とかもまだ残ってんの?」
「あぁ。残ってるには残ってるけど、あれはもうきみには使えないよ」
「というと?」
怪訝な表情を浮かべる彼だが、まぁわからないのも無理はないだろう。だって...
「あの服は私の大きさに直してしまったんだ。だから、もうきみじゃ入らないのさ」
「え?何?わざわざ自分サイズに直したの?」
「使わないというのも勿体無いだろう?」
「マジかよ。俺大好きっ子じゃん」
「大好きっ子さ」
迷いなく返答した私の言葉に、彼は目を丸くして、恥ずかしそうに頬をかく。
ふふっ。いつものお返しさ。
...もっとも、大好きっ子なのは間違ってないんだけどね。
「そういやさ。あれ、ちゃんと機能してんの?」
「うん。ちゃんと機能しているよ?きみの力作なのだろう?」
「まぁなー」
恥ずかしさからか話を逸らすかのように彼が聞いてきたそれは、あの事件の後、小屋の修復と共に造ってくれたもののこと。
残念ながら、その効果を確認する前に彼はいなくなってしまったけど。
けどその効果はばっちりで、大雨が降っても川の氾濫は無くもう小屋が浸水するという事はなかった。
...まぁそもそもな話、ここにくる時はしっかりと天気予報を見る事にしているから被害に遭うなんてことはないんだけどね。
でも彼のおかげで、知らないうちに小屋が流されていた...なんて事が無くなっただけでもありがたかった。
だって、ここにはまだ...私たちの思い出が残っているから。
◇
「良いのかい?私が乗って」
「ん?あぁ、いいんだよ。こうなることも見越して複座機で来たんだ。大人しく乗っとけ」
学園艦へ戻る日。準備をしていたところに彼から声が掛かった。なんでも彼が乗ってきた機体で送ってくれるらしい。
それでいいのか国家機密と一瞬思ったが、彼がいいというので大人しく乗せてもらうことにした。
「ミカ。次帰って来る時は彼と一緒に来なさい?そっちの方がこの子を呼ぶ手間もかからないし時間も早いわ」
「そういうことだから、これからもよろしく頼むよ」
「へいへい、任されましたー」
母からの嬉しい見送りの言葉をもらって、機体はエプロンから滑走路へ機首を向ける。
「ふふっ。これで母公認...ということだね」
彼に来て欲しいというのも確かにあったが、実はこっちが本命。これから彼と共に歩くことをお母さんに認めてほしかった。その為に今回彼に来てもらったのだ。
昔と変わらず優しい彼を見てもらう為に、ね?
...まぁお母さんはその企みに気付いていただろうけど。
「大方そんな狙いだろうと思ってたよ。でもまぁ俺も家元に会えて良かった。正直怒られるかなと思ったけど、なんだかんだで背中も押してもらったし...───ありがとなミカ」
やっぱり彼にも気付かれていたみたいだ。
「んじゃ離陸準備するぞ。昔と違って機体が重い分、出力も上がってる。さらにキツくなってるから覚悟しとけよ?」
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「RAZGRIZ01 Take off」
彼の言葉とともに車輪から伝わる振動が消えて、腰がフワリと浮いたと思ったら、瞬間強力なGが体にかかる。
「くぅッ」
加速も...。上昇速度も...。昔とは比べ物にならなかった。
時折気流にぶつかり、機体がガタガタと音を立てている。
でも、安心できる。
───だって彼の操縦だから。
「どうですか?お客様。当機の乗り心地は?」
「昔と同じで最高だよ」
「それは良かった。それでは今回の飛行は昔見れなかった、もっと上の世界へご案内しましょう」
そう言って彼が操縦桿を引けば、またどんどんと漆黒の機体が雲を突き抜けていく。
到達した場所は高度10000mを超える世界───
───地球が丸く見える。
「ミカ。手元の速度計を見てみな」
促されて見れば速度計は1300kmを指している。
地上よりも飛ぶ速度が遅く感じていたが、実はとてつもない速さで飛んでいたようだ。
「ようこそ音速の先へ。これが、今の俺の世界さ」
後ろを向いて親指を立てる彼を見て、コックピットの中だけど彼の背中はとても大きく感じた。
「───ふふっ。悪くないね」
「だろ?」
それかACVDのリメイク出してお願い