勝者と敗者
第63回戦車道全国高校生大会
2回戦は、私たち黒森峰が勝った。
相手は継続高校。
変幻自在な立ち回りで常に私たちを翻弄してきたが、練度も経験も私たちの方が上だし、ましてや戦車の性能だって上だ。
地力の違いで、私たちが勝つのは必然だっただろう。
けど激戦の最中、私の頭の中はある事でいっぱいだった。
───それは試合が始まる少し前の話。
いつものように隊長と相手校に挨拶をしに行った時のこと。継続高校テント前の駐車場にそれはあった。
───Audiだ。
万年金欠と言われる継続高校にしてはいい車乗ってるじゃないと軽く思ったのだが、何故かその車に既視感があった。
ナンバーは全然見たことがないのに、昔...この車に乗ったことがあるような。
だから私はその既視感を確かめるために、無礼を承知で車体の下を覗き込んだ。
───!?
そこで見つけてしまった。
昔、私が悪戯心で付けた傷跡...幼い筆記で浅く彫られた私の名前を。
「失礼ですが、あの車の所有者はどこに?」
挨拶なんて忘れて私は問いただした。隣で隊長が怪訝な顔をしているが、そんな事関係ない。
「あの車かい?あれは私の車さ」
継続の隊長がそう答える。
そんなわけない。あの車は間違いなく...“彼の”だ。
「では前の所有者は?元々あの車はあなたのものじゃないはずです」
「前の所有者なんて居ないよ?今も昔も私たちの車さ」
「...エリカ?どうしたんだ?らしくないぞ」
「っ!隊長...すみません」
...ちょっと熱くなりすぎたかもしれない。...でも、ようやく手掛かりを掴んだんだ。ここで手放すわけにはいかない。
「試合の後、話があります。終わったら、必ずここで待っていてください」
目に力を入れて言ったその言葉に、継続の隊長は無言で不思議な弦楽器を弾いている。
ふん!余裕ぶってるのも今のうちよ。必ず...。必ず聞き出してやるから。
なんたって彼は...死んでしまったはずの彼は───
───私の、初恋の人なんだから。
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試合中。あの車の事が頭から離れなかった。
何で継続高校の隊長があれに乗っているのか...何で今日になって彼の車が出てきたのか
何で───
何で───
考えれば考えるほど思考の沼にハマっていく。
だめだ。今は試合に集中しないと。
決勝戦。あの子がそこまで上がってくるかわからないけど
それまでは。負けるわけにはいかないんだから。
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───誰もいない...。
その場所は既にもぬけの殻。
デブリーフィングもほっぽり出して、真っ先にここまで来た。なのに...。
車もない...人もいない。
なんで...どうしてなのよ...。
「...ッ」
試合に勝ったというのに、私の頬を一筋の涙がつたう。
皆...私の前から消えていってしまう...。
いつもそうだ。
あの子の時も。そして...彼の時も。
気付けば居なくなっている。私の手をすり抜けるかのように...。
ぎゅっと握り締める私の手の中には、昔貰った...彼の車のスペアキーが光っていた。
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「ミカ。本当によかったの?黒森峰の副隊長さん置いてっちゃって」
「良いも悪いもないさ。彼女が探しているのは私ではないのだからね」
「それってやっぱりお兄さんのこと?」
「さぁ?それは彼に聞くのが1番早いんじゃないかな?」
◇
第63回戦車道全国高校生大会
残念ながら2回戦でミカ達は負けた。
3年生として最後の全国大会...そして隊長としてのプレッシャーもあっただろう。いつも帰ってくる時間は遅く、何も言わずともかける熱意は俺にも伝わってきていた。
───でもその夢は叶わなかった。
悔しかったけど仲間たちの手前...隊長という立場のせいでその気持ちを押し殺すしかなかった。
自分は...自分だけはあくまでも冷静でいなければいけない。そうしないと全員が悔し涙を流してしまいそうだから。
それが家に帰り、俺しかいない場所になったことでその感情が爆発して今に至ると。
気持ちはわかる。わかるのだが
「───お前、今日一日この状態で生活すんの?」
現在腰に抱きつかれ、ケンタウロスのような姿で絶賛料理中である。
「...ん!」
「ん!じゃなくて。てか顔を擦り付けんな。鼻水つくだろ。風呂とかトイレとかどうすんのよ」
「一緒に行く」
「いや、ダメに決まってんだろ。100歩譲って風呂は良いとしても、トイレは絶対ダメだわ」
あくまでも100歩譲って...。譲ってなんだからね!
と、雰囲気を湿らさず、1人ツンデレのように言い訳をしながらも、結局動きづらかったので取り敢えずソファーに場所を移せば、流石のミカも腰に抱きつくことはやめて、隣に座りこてんっと肩に頭を乗せる。
「みんなの期待に応えてあげれなかった。今年こそはって思ってたのに...。もっと...何か出来てたかな」
「ミカ。あまり背負い込むなよ。お前に出来ないなら、誰にも出来なかったんだ」
いつもよりも弱々しく話すミカの頭にに俺はそっと手を乗せてやる。
ミカの才能。そして以上の努力を俺は見てきた。そんなお前が出来なかったのなら、俺にだって...そして他の誰にだって出来なかったんだ。
昔から悪魔だのなんだのと言われるが、俺たちだって普通の人間だ。出来ることなんて人一人分だ。
「あそこでこうしていれば...とか考えてるのかもしれんが、お前が常に最適解だと信じて動いたんだろ?なら、それが正解だったんだ。反省はいいけど過去は変わらない。大事なのはそこから何を学ぶか...だろ?」
「でも...」
「でもじゃない。皆お前を信じてあそこに立っていたんだ。そんなお前が、自分を信じれなくてどうする」
ミカの体がピクリと動く。
「皆きっと、お前と同じだ。今頃自分自身を責めてる。隊長のためにもっと何か出来ることがあったんじゃないか...ってな」
お前が仲間達の為に、何とかしてやりたかったと思っているのと同じことだ。それはお互いを信頼してる証拠でもある。
間違いなくお前が隊長だったからこそ生まれた信頼だよ。
「俺が言うのもおかしいが、お前は隊長として皆の期待に十二分に応えてやれてたんだよ。
───よくやった。流石俺の妹だ」
その言葉を皮切りに肩を震わせるミカを、俺は何も言わずに抱きしめてやるのだった。
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「───と黒森峰の副隊長に言われてね」
「ほーん。変な奴もいるもんだな」
夕食も終わり、一息ついた頃。
まだ目が赤く腫れているミカだが、ようやく気持ちの整理がついたらしく2回戦の出来事を聞くことになった...のだが聞かされたのは試合内容ではなく、俺の車に突っ掛かってきた変な人物。
会って早々にそんなこと言われたら流石にドン引きだったろうな。
涼しい顔をしていたらしいミカだが、内心引いていたのは想像するに容易い。
「んで?そいつの名前は?」
「確か、“エリカ”といっていたかな」
「ブフゥォ」
思ってもいなかった人物の名前にお茶を吹き出してしまった。
「...エリカって銀髪の?」
「そうだね」
「ツリ目で負けん気の?」
「そうだね」
「...マジかよ」
「やっぱりきみの知り合いだったか」
「なんかそのー、すまん?」
「謝る必要なんてないさ。重要なのは彼女とどんな関係なのか、だよ?」
「関係なぁ...。まぁ、お前とおんなじようなもんだよ」
あいつが幼い頃は、お兄ちゃん!お兄ちゃん!ってミカみたいにすっごい懐いてたもんな。
それが今や天下の黒森峰の副隊長ですか...。あいつも立派に成長したんやなぁ...。あ、やば嬉しくて泣きそう...。
「ふーん。なら尚更注意しとかないとね」
「んぁ?どゆことよ」
「いや。こっちの話さ。それよりも、きみは会いにいかなくて良いのかい?」
「んー。そりゃ行きたいよ?昔から気が強くて人と馴染むのが得意じゃない奴だから正直心配で仕方ないし」
副隊長ってことだから一応人徳はあるんだろうけど、それでも心配は心配だ。
「でもよ、忘れそうになるから言っとくけど俺、国家機密よ?行けないでしょ普通」
そもそもミカに会うのだって躊躇ってたんだからな。
「...ふーん。まぁきみがそういうのなら好きにすればいいさ。でも...」
「でも?」
「もし会うことがあるのであれば、私も同行しようかな」
「なんでよ」
なんか、すんごい話こじれる気がする。
「ちなみに隊長は誰だったん?」
「“西住まほ”だね」
「ブフゥォ」
「はぁー...。ほんと...知り合いが多いんだね、きみは」
Oh,her?
Yeah. I know her.
It’s going to take a while.
It happened years ago.