彼との出会い
その日私は戦車道の観戦に来ていた。
でも、実は今絶賛迷子中。
なんでかって言われても、わ...私のせいじゃないわよ?お母さんと一緒に居たはずなのに気付けば1人になってただけよ!
なんか迷子の人がよく使う言い訳だと思ってるでしょ。わ、私は違うんだから!
...と、ともかく!
右も左もわからずに歩いていると、滲んだ視界に数機の戦闘機のシルエットが見えてきた。
...どうやら迷い込んだ先が格納庫だったようだ。
「大丈夫?迷子かい?」
しゃがみ込んで聞いてきたその人に、私は母の言葉を思い出す。
「おじさんのような怪しい人にはついて行くなと言われてます」
「いや、それ面と面向かって言っちゃだめでしょ」
使い込まれた作業服を着たその人は、私の言葉に微笑ましそうにしながらも携帯電話を取り出した。
「ちょっときみのお母さんを探すから、取り敢えずここで待ってようか」
見上げればどこかに電話をかけているが、時折私の視線に気付いては不安がらせないようにだろう、優しく微笑んでくれている。
───...よかった。悪いおじさんじゃなかったみたい。
もう歩くのも疲れたし、元の場所にも戻れそうにない...いわゆる八方塞がりの状態だったから正直とても助かった。
だから...ま、まぁ...このおじさんに会えて...一安心...かな?
帰れるというだけで心に余裕も生まれてきた。
───ん?あの機体...。
安心感からか緊張はなくなり、目に入ったのは一機の戦闘機。
それは桜の花びらを背景に女性の影が描かれている、特徴的なエンブレムが付いている機体。
「あれが気になるのかい?」
「うん...」
迷子のくせに見惚れていた...などと思われなくなかったけど、何故か正直に言った方がいいと思ってそう小さく頷いた。
「じゃあ乗ってみようか」
「...いいの?」
「あぁいいさ。ほら!」
彼の言葉に驚きつつも抱き上げらて座ったのは、少し硬い椅子の上。
「わぁ!」
目の前にはおそらくこれで動かすのであろう棒が立っていて、足は届かないけどペダルのようなものがある。そしてなにを示しているのかよくわからない計器がいっぱいある。
子供の感性として、凄いとしか言葉が出でこなかった。
「今日はね。この機体に乗って僕が空を飛ぶんだよ」
「えー?おじさんが?」
「そうさ。このお兄さんが試合に出るんだよ」
「でも、おじさんすぐに負けそう」
「ははっ、そうかもしれないね。じゃあ応援してくれるかい?今日一日僕の事を」
「んー...しょうがないなぁー」
頑なに言うお兄さんという言葉は無視して、彼の言葉に仕方なさそうに返事をする。でも...心の中ではとても興奮していた。
こんな小さな私に応援して欲しい...なんて言われて嬉しくない子なんていない。それに、もともと今日は何の理由もなく観戦に来ただけ。そこに応援する人が出来た。
ただそれだけ。そう思っていた。
その後
迎えに来てくれたお母さんと会った時には、私の涙はもう止まっていた。
それは彼のおかげ?それとも時間のおかげ?
それはわからない。
───けど彼といた時間は...その...楽しかったなぁ...。
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「おじさん!頑張れーッ!!」
空に彼らの機体が見える。洗練された描く軌道上で、不定期ではあるが確実に黒煙を上げて落ちていくのは敵機。
その光景に私の心は否が応でも熱くなってしまう。
あそこまで、この声が届いていないことはわかってる...けど彼らは私の声に応えるように時折翼を振っているみたいで。
それを見ると、私の声が届いているように思えてたまらなく嬉しかった。
「...あっ!」
あのエンブレム───おじさんの機体だ!
その機体は私の頭上を通り過ぎたかと思えば私たちの上をゆっくりと旋回している。
目を凝らしてみれば、彼がこちらに敬礼をしているように見える。それも海軍式の。
戦車道なのに海軍式なんだ。
...ふふっ。なんだかおかしい。
少しだけ矛盾しているようなその行為に笑みをこぼしながら、私は大きく手を振り応える。
今日初めて会っただけだってのに...こんな広い会場の中で、空の上からでも私を見つけてくれた。
それは先程迷子になった時と同じ...。
ありがとう。そして、頑張れ!お兄ちゃんッ!
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試合は彼らの完勝という形で幕を下ろした。
当然だ。彼らの動きを見ていたら誰だってわかる。
それに...私があれだけ応援したんだ。負けるわけなんてないじゃない。
授賞式の始まる最中、今は会場にいるであろう作業服姿の彼を探している。
...けどなかなか見当たらない。
あんな服装してるんだから、すぐ見つかると思ったんだけどなぁ...。
「うーん───あっ!」
居た!...服装は違うけど間違いない。壇上に立っている飛行服姿の彼。
私に気付いたのか、目線が少しこちらに向いたような気がした。
そして、彼らのインタビューが始まる。
前置きで、彼は何故か記事にはしないで欲しいということを言っていた。
その理由に関しては私にはよく分からなかった...けど、その後に言った彼の言葉は私にとって生涯忘れることのできない一言となった。
『今日の勝利は誰に送りたいですか?』
「そうですね。強いて言うなれば───
───今日初めて出来た...私の小さなファンに」
そう言って彼は私の方に向いて片目をつむった。
お母さんと会場の視線が私に降り注ぐ。
...は、恥ずかしい。
赤くなってしまった頬を隠すように両手で顔を覆い、指の隙間から彼の方を見れば、悪戯が成功した子供のような満面の笑みを浮かべていた。
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その後、私は彼と写真を撮った。
インタビューで写真は撮らない言ってたけど、きみだけは特別に...と彼から提案されたんだ。
彼の戦闘機を背景に彼と写真を撮っていると、俺たちも混ぜろと隊員の人たちも来て、また何枚も写真を撮った。
───それか彼との初めての出会い。
彼らと共に映るその写真は、私の1番の思い出として、私の行ってきますとただいまを玄関で聞いている。
There is no mercy in war.
People live and people die.
That's all there is to it.