戦車道協会から一通の手紙と車が送られてきた。
“僕はこれから、ちょっと遠いところに行くんだ。だから当分会えなくなる。でも寂しくならないようにこの車を送るよ”
機械的に打ち込まれた文字で、手紙にはそう書かれていた。
この文章が彼の手で書かれていないは、私にはわかる。
そしてまた会えるかのように言っていることも嘘...。
私があの会話を聞いていたなんて、誰も知らないのだろう。
「嘘つき...」
それは協会の人に向けた言葉。そして...彼に向けた言葉。
星が降る空の下で交わした約束は、遂に守られなかった。私はもう彼の隣で同じ景色を見ることはできないのだろう。
優しい笑顔でいつも私を安心させてくれた彼。密かに恋心を抱き、そして私が生きる上での目標でもあった。
そんな彼がいなくなって───...私はこれからどこへ歩いていけばいいの...?
彼という心の支えが無くなり、瞼から涙がこぼれ落ちる。
それだけ私の中で彼の存在は大きかった。
───空からゴォォという音が聞こえる。
溢れる涙を拭い、見上げると一機のジェット機が。
最近よく見る機体だ。
その機体は漆黒のカラーリングをして、私の家をすぎたあたりから高度を上げて飛び去っていく。
まるで...何かを見守っているかのように。
───あ。
見覚えがあった。
あんな色をつけるのは...あの人たちしかいない。
その考えに当たった時、私は咄嗟にスペアキーを押した。
彼の唯一の形見である、それを。
...。
...だが、送られてきた車は反応しなかった。
ならばと思い手紙と一緒に入っていた鍵を押してみると、特徴的な機械音と共にドアのロックが外れる。
彼から貰ったスペアキーは開かないのに...おかしい。
少しの希望の元で車体のある部分を確認すれば、あるはずの私が付けた名前がついていない。
この車は───彼の車じゃない...?
───なら...あの機体はッ!
もう一度空を見上げれば、漆黒の機体がちょうど高度を上げて飛び去っていく。
───そうだ。
彼が約束を守らないなんてありえない...。
彼は生きてるんだ...絶対に。
自分に言い聞かせるように言ったその言葉が、真実なのかはわからない。
でもそう思わずにはいられなかった。
それは私の一縷の望み。
今は会えないのかもだけど。きっと...。きっとまた会えると信じて。
◇
あの日から、私は彼を追っている。
最初の頃は誰に聞いても、どんな記事を漁っても何の情報も出てこず何度も挫けかけた。
けど...その度に、空を飛んでいる黒い機体と飛行機雲を見て自分を奮い立たせた。
手を伸ばせば届く。彼は、生きてるんだから...と。
桜の咲き始めるこの季節。あと数週間で私も高校生だ。
場所は黒森峰女学園。
今日まで彼に関する成果はあまりあげられてないけど、中等部から戦車道を始めて尊敬する先輩や友人だってできた。
人付き合いの上手くない私には珍しい快挙だ。
だから、彼を見つけたら紹介してやろう。いっぱい...いーっぱい!自慢話を聞かせてやろう。
───だから...。だからそれまで待ってなさいよ!
今なお上空を飛ぶ漆黒の機体に向かってポツリとそう呟く。
その言葉は、きっと風に乗って彼まで届いていると信じてるから。
Yo erika. Still alive?
And thanks, friend.
See you again.