お茶会への参加
「ミカ。頼む」
この話は、そう彼にお願いされる少し前のことである。
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「んー。なんかよく分からんが、みほは大洗女学園で戦車道をやってたと?んで天下の黒森峰を倒して優勝か、すげぇなおい。でもなんでまほと一緒に黒森峰で戦車道してなかったんだ?」
「さぁ?私に聞かれても分からないさ」
新聞を読みながら独り言のようにそう呟く彼に、私は曖昧な返事を返した。
そもそも彼と西住家に交流があったことだって最近知ったのだ。だから西住流の妹が黒森峰を飛び出した理由なんて私が知る必要もなかったし、知ることもなかった。
「けど、エキシビジョンマッチの時に見た妹さんは元気そうだったよ」
「ん?そうか。まぁ元気にしてるならよし」
そんな私の回答に満足したのか彼は少し顔を綻ばせながら、もう十分と新聞をたたみ始めた。
確かその中には彼女の仲間たちと、彼女の笑顔が大々的に載っていたはずだ。それを見て、彼も疑問は残るが納得したのだろう。
「そういえばアキから聞いたんだけどよ。エキシビジョンマッチ、なんで参加しなかったんだ?」
「刹那主義には賛同できない。そう思っただけさ」
「ほーん。お前も結構刹那主義のところあると思うけどな」
失礼な。私のどこが刹那主義だというのだ。
彼とのひと時の時間を楽しんだり、彼に美味しいご飯を作ってもらったり、彼の寝るベッドに潜り込んだりと...あれ?少し自信がなくなってきたな。
自分自身の発言に珍しく引け目を感じる私ではあったが、こちらに向き直った彼は彼は先程とは違い何故か目つきを鋭くしている。
「それよりもミカ。俺の言葉...パクっただろ」
ギクリ
「『戦車道には人生の大切な全てのことが詰まっているんだよ。でも、ほとんどの人がそれに気づかないんだ』?それ俺が昔大会のインタビューの時に言ったやつだよな」
「言ったか言ってないか、それは今重要なことかな?」
「いや、重要だよ。あれ俺の黒歴史だし。というかどこで知ったし」
「きみの記事に残っていたよ」
「残ってたぁ?...ぐぬぬ。あれだけ残すなって釘刺してたのに」
「別にいいじゃないか。見られて減る物でもないんだし」
それにその記事だって、私のような物好きしか見ないだろう。
そう思いながら彼の淹れてくれたコーヒーに口をつける。彼の苦い思い出とは違い、私好みの甘めのコーヒーに。
「アキ以外に言ってないよなそれ」
「まだ。ね」
「やめて!俺の黒歴史を広めないで!」
悪戯な笑みを浮かべる私に対して、彼は現実を直視したくないのか手で顔を覆ってひとりもがき始めた。
ふふっ。なんだろう、こういうのも悪くないね。
刹那主義といわれても仕方のない。そんな彼との日常を、今日も私は満喫するのであった。
ビー! ビー! ビー!
しかしそんな平穏も一本の電話で終わりを告げることとなる。
「もしもし?」
「あら、意外ですわね。てっきり出てくださらないのかと思ってましたのに」
相手は聖グロの隊長からだった。
うちとはほとんど交流もないのに珍しいこともあるものだ。
「今日は気分がいいんだ。それだけさ」
彼との日常を享受する愉悦。決して刹那主義という訳ではない。
「それで。何か用かい?」
「ミカさんは大学選抜チームをご存知かしら?」
「それなりにといったところかな。あそこには何人か知り合いがいてね」
「実は数日後にその大学選抜と大洗女学園が、非公式に試合をすることになっておりまして...。詳細は省きますが、なんでも廃校の危機なのだとか」
ふむ。先日見た西住妹の通う大洗か。
初出場で初優勝するぐらいの高校だ。いくらなんでも廃校になるというのはおかしな話だが。
「彼女達が大学選抜と戦うには戦車の数が圧倒的に足りてません。ですから彼女達を助けるためにと、各高校にお茶会として協力を要請してる最中なのですが」
「うちからも何輌か出して欲しいと」
「お話が早くて助かりますわ」
「きみの要件はわかった。でもそれは私の一存では回答できないね」
現地に行くには時間もかかるしお金もかかる。貧乏高校の継続としては無駄な出費は避けなければいけない。
そもそも私は彼女達となんの繋がりもない。どちらかというと大学選抜の方が繋がりが大きいのだから肩を持つとすれば大学選抜だ。
...まぁあくまでも私は、という話ではあるが。
一つため息をつきながら隣を見れば、何も知らずにコーヒーを飲んでいる彼の姿が。
「まぁ急な話ですし仕方のない事ですわね。...それと、本当はこっちの話がメインなのですが...。戦闘機を、貸して欲しいのですわ。航空記念博物館に展示されているものを」
「あれはある人達にとって大切なものだ。そんな簡単には貸せないかな。もちろん本人がいいと言うなら貸してもいいけどね」
というか何故そんな昔のものが必要なのか。数年以上動かしていないから飛ぶのかどうかも怪しいし。
「実は今回の試合。大分昔のルールが適用されるらしくて...戦闘機部隊有りの試合になるとお聞きしたんです」
...ふむ。よくそんな理不尽なルールを大学選抜が提示したな。
私の知る人達なら正々堂々と戦うと思う。そんなことをやらなくても彼女達は勝てる自信を持っているはずだから。
そうならなかったとなると...もしかしてだけど、私達の知らない誰かが一枚噛んでる可能性があるね。
「わたくしは詳しく存じ上げませんが、昔時代を築いた戦闘機部隊が大学選抜側に参戦するという情報は得ていますわ。名前は...えーっと、ラーズ...なんでしたっけ」
「───ラーズグリーズ」
彼の動きがぴたりと止まった。
「そう。それですわ」
「だから航空博物館にある戦闘機を使いたいと」
まさか今になってその名前を聞くことになるとは思わなかった。彼の雰囲気から察するにそんな話が彼に回ってきている感じではない。という事はそのラーズグリーズは偽物...。
...はぁ。相当な面倒事のようだね、これは。
「でも搭乗員はどうするんだい?機体だけあっても空は飛べないよ」
「それについてはまだなんとも。取り敢えず機体だけでも押さえておかないとと思いまして」
「なるほど」
まぁどのみちどちらかは必要なのだ。押さえれる方から押さえる。時間もない今、そうするしかないのだろう。
「ならこちらからも条件がある。戦闘機を貸すにあたって、搭乗員はこちらで決めさせてもらう」
見るからに聞き耳を立てている彼にもしっかりと聞こえるように、少し大きめの声で私は言葉を続ける。
「もしその搭乗員が今回の依頼を断った場合、戦闘機は貸せないね」
「それで結構ですわ」
聖グロ隊長にはそう言ったが、まぁ十中八九彼は受けるだろう。
彼の妹分の通う学校が廃校の危機であり、さらに相手はラーズグリーズの名前を使っている。彼が動くには十分すぎるほどの理由だ。
「それと、もしもその人が行くと言うのであれば私も参加してもいい」
「...わかりましたわ。いいお返事を期待しております」
そうして、プツッという音と共に電話が切れる。
耳から携帯を外して彼を見れば、珍しく真剣な表情を浮かべる彼。
「ミカ。頼む」
「頼むも何も電話で言ったことが全てさ。きみがでるなら私も出る。ただそれだけ」
「それでもだ」
参加はあくまでも個人の意思。アキやミッコがもしダメなら戦車には乗れない。
まぁその時は彼と空を飛ぼうかなと私は考えてる。私も人並み程度に操縦はできるんだ。昔...ハワイで彼に習ったからね。
「そもそもだけど、あの戦闘機は動くのかい?」
「あぁ動くぞ。俺たちがこっそりメンテナンスしてるからな。多少の追加整備は必要だが燃料入れれば飛び立てるはずだし、俺たちが勝手に使っても何も言われないと思う」
「やけに融通が効くんだね」
「まぁな。だって、あそこの施設...俺たちが出資してるし」
へぇ...それは初耳だ。
確かに貧乏高校で有名なうちに付属してる博物館なのに何故か設備が整ってたり、来場者も少ないのに円滑に運営できてる時点で資金の流れに怪しい部分はあったが、まさか彼らの出資が入っているとは思わなかった。
───けど、これなら大丈夫そうだ。
「改めてミカ。ありがとな。これが終わったら何かお願い事聞いてやるよ」
「そういうのってフラグじゃ?」
「俺が飛ぶんだぞ?フラグなんて無いよ」
「ふふっ。それもそうだね」
───彼らが空中にある限り私の負けはない。そして彼らならやってのけるだろう。
それは彼の乗艦するケストレル艦長の言葉。
その言葉通り彼らが負けることはない。それは昔も今も変わらない事実。
どちらかと言うと心配なのは地上の方だ。
相手は大学選抜...という事は私の妹が隊長をしているはず。それに私の先輩もいるんだ。一筋縄では、いかないだろう。
けど、彼は相手チームの隊長が私の妹ということは知らないはずだ。実家に帰った時もそこまで聞いてないみたいだし。
だからこの事は彼には内緒にしておく。
彼の覚悟が鈍ってしまっては困るからね。
あぁそれと、一応お母さんにも連絡しておかないと。
私と彼が参戦するなら伝えとかないと後々面倒臭くなるし。
...主に妹からの追求とかが。
さぁ 天使とダンスだ。