私には見える5機目のラーズグリーズが
「まさかこの機体にまた乗る日が来るとはねぇ...」
場所は航空記念博物館。その中にある一際目立つ戦闘機の前で俺はそう言葉をこぼした。
...ん?何故そんな所にいるのかって?
言わなくてもわかるだろ?数日後の試合に備えての整備だよ。
こっそり整備してるとはいえ、燃料と弾薬入れてそのまま飛び立つなんてことは流石に出来ないからな。
やるからには万全を期さないと。
あぁそれと、博物館には今日から数日間は休館日としてもらっている。
俺の機体だけいきなり無くなるのもおかしいし、だから辻褄合わせの意味も込めて全館への立ち入りを出来ないようにする。それならここから戦闘機を持ち出したということはバレないだろう。
ふっ。これがスポンサーの力よ。
「よし、取り敢えず外に出すか。ここじゃ狭くてなんもできんし」
「そうだね。でも、どうやって?」
そう隣にいるミカが聞いてきた。
まぁ確かに本来、博物館から機体を外に出すのであれば、ある程度分解してからパーツごとに持ち出す。そして改めて組み立て直すことをしなければいけない。
俺とミカの2人でやるとなると、それだけでも結構な手間だ。
戦いの日付は刻々と迫っている。そんな悠長な事はしてられない。
ならどうやって出すか?
その答えは簡単だ。
───機体ごと出すんだよ。
そもそもこの博物館の計画にも搬入にも俺たちは関わってたんだ。だからあるのさ。分解せずに出せる方法が。
「ふっふっふ。ミカくん、俺たちが何故ここのスポンサーをやっているか分かるかね」
その問いに...ミカはキョトンとしているが、まぁ分からんだろう。
「その答えは...これだ」
もったいぶらずに手元のボタンを押すと、ゴオォォという大きな音と共に目の前の機体が鎮座している台座ごと地中へと下がっていく。
そう。実はこの博物館、魔改造に魔改造を重ね秘密基地的要素が備わっているのだ。
この装置もそのひとつであり、終着点は地上の格納庫。
ん?何故そんな設備がここにあるのかって?
それは単純に、俺たちがこういうのが好きだからさ。
やっぱり大人になっても憧れるじゃん?サンダーバードとか007的な秘密基地に。
まぁ俺たちの艦隊自体が秘密基地みたいなもんだけど、あそこは違う意味での秘密基地だ。
だから子供の頃の夢を叶えるという意味でここを造った。
「それにしてはちょっと大掛かり過ぎじゃ無いかな?」
「いやいや、大掛かり過ぎる方がいい時もあるのよ」
カッコいいは正義だよ。
因みにではあるが他にも展示物裏の隠し部屋に直通の電話置いてたり、ボタンひとつで地下ピットから軍用車輌が出てくるなど、博物館とは思えない機能はまだ幾つもある。
しかし、その装置が使われる日が来るのかは正直疑問ではある。
◇
無事機体を出した俺たち。結論から言うと、多少のネジやボルトのゆるみはあったが、大掛かりな修理は必要なさそうだった。
大きい部品交換とかになると時間が掛かってしまうから、それがなかっただけでもありがたい。
「どうだろう、間に合いそうかい?」
「ああ。全体的に劣化も見られないし、後はオイルぶっ刺しゃ大丈夫だと思う。取り敢えずボルト締め直すから、すまんけどそこのレンチ取ってくれ」
「...」
「ミカ?」
返事のなかったことを不思議に思いミカへと向き直ると、その視線は格納庫へと向いている。
「───ったく。お前たちはほんと」
その視線を追って見たのは4つの人影とその背後にある4機の戦闘機。それは総4機のラーズグリーズ隊。
「隊長。水臭いですよ。我々を置いていくなんて」
「馬鹿野郎、これは俺個人で行くんだ。場合によっては懲戒免職。そんなのにお前たちを巻き込めんだろ。さぁ帰った帰った」
「何言ってるんですか。我々は群にして個、個にして群...でしょう?隊長が飛ぶのであれば、我々もご一緒させてください」
「それに我々は“亡霊”です。亡霊に懲戒免職なんてありませんから」
そう言って何の憂なく笑っているあいつらは、今も昔も変わらずに頼もしく俺を支えてくれる。
「...後悔すんなよ」
「後悔なら隊長に付いて行くと決めた時から捨てましたよ」
「そうか...ははっ、分かったよ」
「我々の名前が安くない事、分からせてやりましょう」
「おう」
...まったく、昔からこいつらには苦労をかけてばかりだな。
だが、今回だけはその覚悟に甘えさせてもらうことにするよ。
俺には...いや。俺たちには、やらなければならない事があるからな。
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―――――――――
「そういえば、あのエリカ嬢もいるって聞いたんですが」
機体の最終チェック中。隊員から上がったそんな質問。
「一応大洗側で参加予定らしい。俺も安心したわ」
「なるほど。これは恥ずかしいところ見せれませんね」
「間違って落ちたりしてみろ?罵詈雑言の嵐だぞ」
『信じらんない!私の知ってるお兄ちゃんたちならあんな醜態晒さなかった!』
...なんだろう、助けに行ってるはずの俺らが何故か説教されてる予感がする。
まぁそれはエリカだけじゃなくてミカからも言われる気がするが。
そう思うと自然と苦笑いを浮かべてしまう。
そして当のミカはというと、今は機体の整備を手伝いながら他の隊員たちと楽しそうに話をしている。
結構な頻度でうちの空母に遊びに?くるようになってたから、面識あるのはわかってたけど...知らんうちにめっちゃ仲良くなってんなおい。
「でも折角ですし、隊長も見たいんじゃないですか?エリカ嬢の成長した姿」
「んー。確かにそうだな。まぁお前たちが来るまでは1人でやるつもりだったからそういう余裕なかったけど」
こいつらもいれば制空権を取る時間も格段に早くなる。空爆から彼女達の損害を0%に抑えるのだって夢じゃない。
...だから、空からあいつらを見る余裕も出来るかもしれない。
成長したあいつらの姿。それは確かに...少し楽しみだな。
「それで隊長。今回はどういう編成で行きます?」
「ああ。今回は全て戦闘機で行く。爆装はいらん。ありったけの機銃弾を積んでいけ」
「了解です」
「今回も...背中は任せたぞ」
「ふふっ。お任せください」
そう言って僚機の仲間は自分の機体へと走っていく。
俺はその背中を見送りつつも、視線は手元にある一枚のプレートへ。それは昔から機体に付けていた、あのエンブレム。
「やっぱりこの機体にはこれが付いていないとね」
「ミカ...」
そして隣にはいつ来たのかミカの姿が。
「こうして見ると懐かしい気分になる。まぁ俺は歳食っちまったけど」
「ふふっ、それは私もさ。あの頃とは違う。けど、今ならそっちの方が頼もしいだろう?」
「ははっ。確かにそうだな」
過去の戦闘機に、昔とは違う...今の俺が乗る。目の前にある一つの機体で今を変えようとするそれは、はたから見れば無謀で孤独な戦いにも見える。
けど、俺は一人じゃ無い...私も、そしてきみの仲間もいる。ミカはきっとそう言ってくれたんだろうな。
ほんと、いい意味で成長してくれたよ...お前は。
浮かびかける涙を戻し、そっと頭を撫でてやれば、ミカは気持ちよさそうに目を細めてからこちらに寄りかかってきた。
「心配はしてないけど大丈夫かい?」
「任せな。おっさんになったとはいえ空は現役。地上から見とけ?俺たちの勇姿を」
空からの攻撃に対して地上の戦車は無力だ。どれだけ戦車の練度が高かろうが対抗する術が無いのだから。
それは俺たちが一番よく分かっている。
だから1発たりとも戦車には当てさせない。それが俺たちの使命だ。
「それよりも頼んだぜ、地上は」
「任せて。...と言っても私のできる限りだけどね」
「お前が地上に居てくれるだけであいつらにとっては心強いよ」
「...いいや、彼女達にとってきみこそが希望だと思うよ。私と同じようにね」
「...ん?すまん、風の音でよく聞こえんかったんだが」
「ふふっ。なんでもないさ」
◇
───いよいよ決戦の日だ。
久しぶりに湧き上がる闘争心。俺たちはこれから戦場に向かう。あの懐かしの戦場に。
だが引き際は弁えている。俺たちの戦いは空のみ。それでいい。
「分かっているとは思うが、今回の戦いの主役はあくまでも彼女達だ。我々の任務は制空権の確保。それが終われば撤収する」
「「「「了解!」」」」
《着上陸作戦開始 ラーズグリーズ隊 出撃せよ》
「...行くぞ前線豚ども、戦争だ!!」
銃を取れ。始めるぞ。