ようこそ第0護衛隊群へ   作:/Null

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ミカ可愛い


彼への想い

彼と出会ってから数カ月。

 

最近は戦車道の用事だけではなく、私と遊ぶためだけに家へと来てくれることも多くなった。

 

私の為にと、わざわざ来てくれるということは当然だけど嬉しいし、何より彼がいる時は勉強だってしなくていい。

 

だってそれは、いつもだと口酸っぱいお母さんも、彼と一緒ならいいと遊ぶ事を公認してくれているから。

 

だから今日も私は、大手を振って遊びに行くんだ。

 

「お兄ちゃん!早く!」

 

「はいはい。ミカはいつも元気だね」

 

手を目一杯引っ張って彼を連れ出すそんな光景も、最近では当たり前のようになり、お母さんも微笑ましそうにひらひらと手を振って送り出してくれる。

 

それはきっと彼への信頼の証。

 

 

そんな彼に関して分かったこと。それは、彼が結構優秀な戦車道の選手だという事だ。

 

こうやってお母さんに信頼されてる時点である程度の予想はできてたけど、正直意外だった。

 

 

───だって出会いの印象はサボリで、しかもタバコばっかり吸ってるから。

 

 

「お兄ちゃん、いい加減タバコやめなよ。体に悪いよ?」

 

「え?なんで分かるの?」

 

「分かるよ。だってお兄ちゃんの妹だもん」

 

引く袖は彼のタバコを待つ側。染みついた匂いとは別に、新たな煙に上書きされているのが分かる。

 

そんな彼は私の“妹”発言よりも気になったのか(それとももう訂正することを諦めたのか)、慌てて袖に鼻をつける。

 

私の前では気を使ってなのか、タバコは吸わなくなった彼ではあるが、禁煙にはまだまだ程遠いようだ。

 

あんな体に悪いものの何がいいのか。子供でも良く無いってわかるのに...。

 

「...まぁいいや。いつか絶対禁煙させるから」

 

「うへぇ...」

 

ゲンナリとして紫煙の残る息を吐くその様は、私には全くの逆効果。結果的に私の決意を更に固めることになるだけ。

 

けど...───今だけは許してあげよう。なんたって今日はもっと大事なことがあるから。

 

「ほらミカ。着いたよ」

 

「わぁ...!」

 

繋いでいた手が止まり私も視線を前へと向けると、そこにはいつもと違って見える彼の戦闘機。

 

そう。なんたって今日は、彼の戦闘機に乗せてくれる日なのだ。

 

「ふふっ。嬉しそうだね?」

 

「当然だよ!」

 

この日の為に少しだけ勉強した。

 

機体名は紫電改。

第二次大戦後期における日本海軍の主力戦闘機。けど...目の前にあるのはちょっと違う。見慣れたやつよりも一回り大きく翼の形も違う、単座じゃなくて複座の機体...

 

「...流星だ!」

 

「いつものじゃなくてごめんね?」

 

「全然!」

 

目を輝かす私に、彼は少し申し訳なさそうにしながらも優しくヘルメットを被せてくれる。

 

空を飛ぶにあたってのことは事前にレクチャー済み。この日の為に準備してきたんだ、当然である。

 

ちなみにお母さんの許可だってちゃんともらっている。

 

まぁお母さんとしては私が勝手に知らない人のに乗るよりも、彼の操縦する機体に乗ってくれた方が安心できるから、という妥協からなのかもしれないが。

 

「さ。準備はいい?」

 

「うん!」

 

準備万端と大きく頷くと、彼は私を抱きかかえて座席へと体を滑り込ませる。ちなみに私は後部座席に移動だ。

 

「ミカ。機器には触れちゃダメだよ?一歩間違えば操縦不能...なんてこともあるからね」

 

「分かってるって」

 

物珍しい機器類に触れたいという気持ちは流石に押し殺した。まぁ...今触れて不味いことになるくらいなら、後から彼に教えてもらいながら弄ればいいかと下心も添えて。

 

「じゃあ離陸するから、Gに気を付けて」

 

無線から聞こえる管制の人とのやり取りを終えて、機体が進み出したと思うと少ししてフワリと地面から離れる。

 

Gは思ったよりもこなかった。旅客機と同じぐらい?

 

でも決定的に違うのは見える景色。風防から直に感じられる高度。空に近付くにつれて地上の建物がどんどん小さくなっていく。

 

「わぁ...!」

 

機体が水平になった時。外の景色にうまく言葉が出なかった。

 

戦車に乗っているだけじゃ絶対感じれない...そんな世界。無限に青い空と緑と白が混ざった地上の景色が広がっている。

 

「ご搭乗のお客様にお知らせします。地上の景色をもっと楽しんでいただくため、当機はまもなく背面飛行に移ります。シートベルト着用の再確認をお願い致します。また気分が優れないお客様がいた場合は飛行を中止いたしますがいかがでしょうか?」

 

「全っ然!大丈夫!」

 

「ふふっ。しっかり掴まって景色を楽しんでね」

 

「うん!」

 

 

 

 

――――――――――――

――――――――

 

 

 

楽しい時間はあっという間に終わるもの。しかし、地上に戻った今でも私の興奮は冷め止まない。

 

「お兄ちゃんまた乗せてくれる?」

 

脳裏にこびりついているのは先程見た景色。

 

「もちろん、ミカが乗りたい時に乗せあげるよ」

 

「やった!お兄ちゃん!約束だよ!」

 

次はお兄ちゃんがいつも乗ってる機体に乗ってみたい。1人乗りだけど何とかならないかなぁ。

 

ニコニコと彼と手を繋いで帰る道中、そんな次の機会に心を躍らせる。

 

彼と過ごす日々は何というか...こう。言葉にすると難しい。

 

今思えば、この頃には既に惹かれていたのだろう...彼に。

 

あの景色も、彼がいたからこそ楽しめた。彼がいたからこそもう1度乗りたいと思った。

 

知らず知らずのうちに彼は、退屈だった私の毎日に彩りを与えてくれていたんだ。

 

 

 

───けど、そんな楽しい日々が続いていく中ある事件がおきる。

 

 

 

 

その日、彼は家に来なかった。珍しく仕事が忙しいらしい。

 

残念だけど仕方がない。そう思い、いつもの場所へは1人で向かうことに。まぁ、むしろ彼がちゃんと仕事をしているということを喜ぶべきだろうと、気持ちを切り替えて。

 

 

天気予報は午後から大雨。

 

こういう日は1人で行っちゃダメだよ?と、彼から言われていたけど、本格的に雨が降ってくる前に帰れば大丈夫と安易に思ってしまった。

 

着いた当初はまだ快晴で、後に大雨なんて嘘なんじゃないかと思うぐらい暖かい。

 

それに、ここには新しく彼が作ってくれた小屋だって立ってる。屋根もあるし、壁もある。居心地は最高だ。

 

そんな安心感は私にポカポカ陽気で眠気を誘い、知らず知らずのうちに睡魔に負けてしまっていたのだった。

 

 

――――――――――――

―――――――

 

 

...んぅ?

 

周囲から聞こえるのは轟音。眠い目を擦りながらも、何かがおかしいと暗闇の中、備え付けのライトで周りを照らす。

 

え...?

 

光の中に浮かび上がったのは土色に染まり、変貌した川。いつも綺麗な小川はゲリラ豪雨の影響か激しい音と共に濁流となっていた。

 

「──っ!逃げなきゃ!」

 

呆然とする中、ハッと我に帰りベッドから飛び降りて靴に足を入れようとしたが、そこに靴は無かった。既に水がそこまで来ており流されていたのだ。

 

膝下程度の水位でも人は流される。ましてや非力な子供なんて尚更...。脳裏によぎる最悪の事態に背筋が凍る。

 

「うわっ!!」

 

しかし悪い事は重なるもので、突如としてした大きな音と共に私は浮遊感を感じることとなった。

 

咄嗟に何かを掴んだお陰で流されることはなかったが、見れば壁に大穴が空いている。どうやら川に流された木なり岩なりが壁に当たったみたいだ。

 

掴んだものは彼の作業服で、ハンガーが絶妙に引っかかってくれているだけ。

 

状況は更に悪化してしまった。

 

今は彼の作業服がなんとか私を支えてくれている。けど、水位は既に腰の位置を捉え始め、目の前に岸が見えるのに身動き一つ取れない。

 

身体に掛かる自然の力にグッと歯を食いしばるが、それだけしか出来ない状況。

 

 

──もう、ダメ...。

 

 

無くなった握力は、遂に支えから手を離してしまう。

 

(このまま流される...)

 

そう覚悟した。

 

けど、離したはずの手はそのままだった。

 

 

「...カ ...ミカ ...」

 

「お兄...ちゃん...」

 

遠のいていく意識の中見えたのは、私の手首を掴み必死に叫ぶ彼の姿だった。

 

 

――――――――――――

―――――――

 

 

ゆらゆらと伝わる心地よい振動で目を覚ました。

 

擦れる服は濡れておらず、乾いているけどブカブカで、代わりに暖かい空気を溜めてくれている。

 

「お兄ちゃん...」

 

「なんだい?」

 

「その...ごめんなさい...」

 

言いつけを守らなくて...。

 

背中越し。掠れた声で謝る私に、彼は足を止めて、ゆっくりと私を地面に下ろした。

 

「確かに、ちょっと反省かな?今回だって僕が間に合わなければどうなっていたことか」

 

膝を折って私の視線に合わせるようにする彼に対して、私はうつむく事しかできない。

 

それに苦笑しながらも彼はポンと私の頭の上に手を置いて、私は思わず体をびくりと震わせる。

 

「けど、お兄ちゃんはね?ミカが無事だったんだからそれでいいんだ。そんな気弱にならなくても、これからもずっと、ミカのこと見ててあげるから」

 

「...っ...うぐっ」

 

置かれた彼の手はそっと私の頭を撫でてくれて、顔を上げれば、彼は優しく微笑んでくれた。

 

それを見て、私はようやく感じた安心感から、大声を出して泣いたのだった。

 

 

――――――――――――

―――――――

 

 

「ミカ、そろそろ帰ろっか」

 

泣き疲れた私は、再び彼に背負われながら帰路につく。

 

その時感じた彼の背中はとても大きく、なによりも温かかった。それは、吊り橋効果的なものとはまた違う。彼という存在に対する安心感からくるものだったんだと思う。

 

───彼がいれば大丈夫。そんな感じの。

 

 

 

そうして家に着いた後はお母さんにはこっぴどく怒られて、そして抱きしめられもう1度泣いた。

 

のちに聞いた話ではあるが、私がいつもの時間に帰ってこなかった為、お母さんが心配して彼に電話を掛けたらしい。それを聞いた彼が仕事もほっぽり出して、私を探しに来てくれたのだ。

 

 

嬉しかった。

 

彼に迷惑をかけたという気持ちも勿論ある。けど、それよりも嬉しかった。

 

私を見ていてくれた。

 

私を探し出してくれた。

 

私を1番に考えてくれていた。

 

私の毎日に楽しみをくれた。

 

背丈や年齢は違えど、そんな彼に

 

私は恋をしていたんだ。

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