ようこそ第0護衛隊群へ   作:/Null

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本は“姫君の青い鳩”の小説版みたいなやつ


別れ?

今日は11月30日。私の誕生日である。

 

「ミカ誕生日おめでとう。何か欲しいものがあればそれをプレゼントしてあげたいんだけど、何かある?」

 

「...お兄ちゃん、そういうのって本人に聞くの良くないと思う」

 

「本当に欲しいものなんて本人にしか分かんないじゃん?それなら聞いたほうがいいかなって」

 

ジト目を向ける私に彼は苦笑いをしながらもそう答えた。

 

 

まぁ確かにそういう発想をする人はいる。でも私は───

 

「...お兄ちゃんがプレゼントしてくれるものなら何でも嬉しいのに」

 

「ん?なんて?」

 

「なんでもない!」

 

小さく呟いた私の一言は、案の定彼には届かなかった。どうせと分かってはいたが、少しむくれてしまう。

 

「じゃあ私、お兄ちゃんが着けてるネックレスが欲しい」

 

「ん?こんな物でいいの?」

 

「それがいい」

 

彼が胸元から出したものは古い鍵状のアクセサリー。それは鍵と鍵穴が一つずつ付いたネックレス。

 

戦闘機なんかに乗る人がそんな物を着けていていいのかどうかは知らないけど、いつも大事そうに掛けているのを私は知っていたのだ。

 

「ほらミカ。誕生日おめでとう」

 

私の肯定を聞いた彼は、何の躊躇もなくそれを渡してくれる。

 

───でも私がやりたかった事は違う。

 

 

彼がプレゼントしてくれたアクセサリー。そのうちの鍵の方を彼に返す。

 

「これでお揃い。お兄ちゃんとずっと一緒」

 

「ふふっ。そうだね、ミカとずっと一緒」

 

照れくさそうに言う私に対して、彼もそっと微笑んでそう答えてくれた。分かりやすい私はそれだけで、むくれていた空気を抜いてしまう。

 

幼いながらに思うのは将来のこと。

 

このアクセサリーのように彼にとっても私にとっても、どちらもが必要であれるように。この瞬間がずっと続きますように、と。

 

そして将来は彼と───...えへへっ。

 

手の中で握るアクセサリーと同じように、きっとこの未来も掴んでみせる。

 

ぽんぽんと頭の上に優しく置かれた彼の手に、私の願いを込めるように満面の笑みでそう返すのだった。

 

 

 

 

 

「...!?... ... ... ...!」

 

電話口でお母さんが誰かと話をしている。聞こえる口調からはいつになく焦りが伝わってきて、聞き耳を立てる私も何事かと心配になるぐらい。

 

そんな気配を察したのか、お母さんは一度こちらに視線を向けて、苦い表情を浮かべてから電話を切り、一呼吸の後に改めて私の方へ向き直す。

 

 

 

「ミカ。落ち着いて聞きなさい...」

 

 

 

 

───突然だった。

 

───交通事故で彼が亡くなったらしい。

 

 

 

呆然と立ち尽くす私に、お母さんは何も言わず抱きしめてくれて。けど、私の身体は動かなくて。

 

突然過ぎることに涙すら出ずに、私の頭の中には彼との思い出だけが駆け巡る。

 

“タバコの香り。空の景色。ずっと一緒に居るという約束。”

 

はっと我に帰った私はただ走った。走って、走って、向かった先は彼との思い出の場所。

 

そこにはまだ彼がここに居るかのように、彼の作業着と愛読本が無造作に置かれていた。

 

“この作業服に染み付いた煙草の匂いも、もう消えていくのかな...”

 

大好きだった彼の作業服を抱いて、ボンヤリと香るタバコの匂いが、ついに私の涙腺を刺激する。

 

大好きだった彼にはもう会えない。

 

その言葉をどれだけ否定しても、無情な現実だけが私に突き刺さった。

 

 

 

 

彼がいなくなってから、戦車道は大きく変わっていった。

 

戦車道から戦闘機の枠組みが外されたのだ。

 

それはまるで、彼のいた場所を消されている感じがして、今の戦車道を私は好きになれなかった。

 

「ほらミカ、そろそろ戦車道のお勉強しなさい」

 

「やだ!お兄ちゃんもいないのに、なんで勉強しないといけないの!私は、お兄ちゃんと一緒に戦車道をしたかった!それなのに...。それだけなのに...!」

 

目尻に涙を滲ませ、どうしても思い出してしまう彼のこと。

 

私が嫌々ながらにも戦車道の勉強をここまで頑張れたのは、将来彼と一緒に戦車道が出来ると思ってたから。

 

空は彼。地上は私。

 

2人で組めば絶対負けない。

 

そんな戦車道を目指していた。

 

けど、そんな夢は儚く泡のように消えた。

 

私はもう戦車道を頑張る意義を見出せなかった。

 

食事も摂らず、ただただ部屋に閉じこもった私を見て、今思うとお母さんはとても心配していたんだと思う。

 

だからこそ、持てるだけのコネを使って彼の情報を探してくれていたんだ。

 

「ダメな母親ね私は...。結局、また彼に頼ってしまうなんて」

 

そう申し訳なさそうに、けれどもどこか確信めいた風に溜息を吐いたお母さん。

 

「これはとある筋から聞いた信憑性の高い情報よ。全てが国家機密らしいから...賢いあなたならこの意味、分かるわよね」

 

彼とは違う柔らかい手。その手が優しく私の頭を撫でる。

 

「...ミカ。彼は、生きているわ」

 

「───え...?わっ...!」

 

驚き思わず上げた顔は、窓から吹き込んだ一陣の風によって戻された。

 

なびく髪に離れるお母さんの手。けどその代わりに、私の頭には少し固い、けど安心出来る手が置かれたような気がした。

 

どこか懐かしい感触に目を細め、チラリと風の行先を辿ればそこには彼の愛読本が。

 

机の上でパラパラと音を立てるそれは、少しずつ勢いを失いやがて止まる。

 

 

“しばしの眠りのあと、ラーズグリーズは再び現れる。英雄として現れる”

 

それは風の残したメッセージ。

 

開かれたページには、そう残されていた。

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