「でもお兄さんって強かったんですね」
「せやろ?もっと褒めてもええんやで?」
アキからの一言に、俺は得意顔にそう返した。
今日は継続メンバーと共に慰安旅行も兼ねて、島田流の保有する山奥のコテージに向かっている。
まだ大学選抜との試合が終わってから日が浅いため、車内はその話で持ちきりである。
「しかし、お前らもよくカール自走臼砲なんか潰せたな」
「あはは、私たちがやったわけじゃないんですけどね」
「それでも大学選抜の戦車3輌撃破してんじゃねぇか」
履帯切れて転輪だけになって走り出した時は一体何が起きてるのか理解が追い付かなかったが
結果的にはカール自走臼砲を守るパーシングを手玉にとった挙句、車体部と砲塔部の間をぶち抜いて撃破してたのは正直感嘆を覚えた。
クリスティー式サスペンション?
戦闘機乗りには知らない名前ですね。
当の自走砲自体は大洗の戦車が砲口に直接撃ち込むという嘘のような方法で撃破したが
それも彼女たちだけでなし得た事ではなく、途中糧となったアンツィオの戦車、そしてこいつら3人の活躍あってのことだ。
ほんと、良くやったよ。お前たちは。
「でも折角きみも飛んでたんだ。きみがやってくれてもよかったんだけどね」
「ははっ。当日は爆装してなかったから無理だよ」
そもそも俺たち航空爆弾とか積んでなかったからなー。流石に無理だわ。
...いや、待てよ。
爆装なしでもガソリンぶっかけて機銃撃ちこみゃいけてたかもしれんな。
うまくいきゃ車体全体が火だるまになるし、弾薬庫に引火すればそれこそ1発でいけるな。
ぐへへ。今度機会があれば後輩君の戦車にでも試してやるか。
そう。こんな非道な事をしてもこの世界の乗組員は特殊なカーボン素材で守られているから大丈夫なのだ。
いやー。技術の進歩ってすごいね!
◇
「着いたぞー」
「わぁ!」
車を運転して約2時間。ようやくコテージに着いた。
途中、車の中からは川も見えたし自然豊かな場所って感じでいいな。
「早く中見てみましょうよ!」
「あんまり急ぐなよー。こけるぞー」
「わかってますって!」
そう言って足早にコテージに入っていく3人を、俺は眺めている。
...お前ら。4人分の荷物は流石に俺だけじゃ持って入れんぞ?
「それじゃあ部屋割りするね」
荷物を運んで早々、部屋割りを始めるアキ。
元気だねー。さすが女子高生って感じだわー。
「こっちが私とミッコの部屋」
「おう」
「それでこっちがミカとお兄さんの部屋」
「おう?」
いや、何当然のように言っちゃってんのよ。あれか?同居してるからか?
「部屋足りないなら俺リビングで寝るけど」
「え?足りてるじゃないですか」
「え?」
「え?」
「...お兄さん。あきらめな」
何?君たちには俺らどう映ってんの?
っていうかミカももう荷物入れてるし。
「それよりも、お兄さんの荷物多くないですか?」
「ん?あぁ。この前パスタ作ってやるっていう話だったろ?それだよ」
「あ!ちゃんと覚えててくれたんですね」
「まぁな。最初は俺が作るって話じゃなかったけど」
当の本人はカンテレを弾いて既にリラックスモードになっている。
「ただ、その他は現地調達だからな。夕方までに魚釣らないとパスタだけだぞー」
「はーい!」
◇
その後、荷物も入れ終わりひと段落したところで、夕飯のために川に釣りに来た俺たちだったのだが
「なぁミカ」
「うん?」
「この川魚いんの?」
「いるんじゃないかな?ほら」
そう指差す先はミッコのクーラーボックス。
あいつめちゃくちゃ釣ってやがる。
「じゃあなんで俺の竿に掛からないんかな」
「それはきみがヘタだからじゃないかな」
おうふ。今のはグサッときたぞ。
「お兄さん。そんなんじゃ川魚は釣れないよ」
ミッコがニヤつきながら言ってくるが
ぐぬぬ、言い返せねぇ。
大体なんなんだここの魚は?俺の餌が食えねぇってか?
ラーズグリーズ隊なめてんのか?あん?
「前に得意分野って聞いてましたけど?」
「海釣りならな。川釣りがこんな難しいと思ってなかったわ」
正直完全になめてた。海釣りなんていくらでも釣れるから川も余裕って思ってた。
「そらよっと!」
「流石ミッコ!また釣った!」
うごごご、かくなる上は
「おいミカ。お前もあいつらと川釣り経験あんだろ?ちょい代わってくれ」
そう言って俺は釣竿をミカに手渡した。
ふぃー。これで一息つけるな。
気付けば何故か部屋対抗戦みたいになってたこの釣り。
手練れのミッコとの差がどんどん開いていってたから、マジでやばかった。
しかし、ここで満を持してうちの秘密兵器の登場だ。
うちの秘密兵器はすごいぞ?戦車道の勉強サボって川で遊んでたぐらい元気だったからな。
見ろあの澄ました表情。
おそらくは円で魚の動向を探ってやがる。
あとは隠を使って釣るだけ。
ふふふ。これは勝ったな。第3部完!
...と思っていたのだが
おかしいな。全然かからんぞ。
てかどうした?手プルプル震えてんじゃねぇか。
「お兄さん。ミカにやらせちゃダメだよ」
「え?」
「だってミカ。取る専門じゃなくて食べる専門だもん」
は?
「まさかと思うけど、あいつ自分で食料調達とかしない?」
そう言った俺の言葉にアキが頷く。
「たまに他の学校からレーションとかは盗んで...ごほん。貰ってきてたけど、ほとんど全部自分で食べちゃうし」
「おい」
ちょっと前までサバイバルしてたってのに食料全部自分で取ってないじゃねぇか。
あと今よからぬ事も聞いてしまった気がするんだが。え?何?レーション盗んで?
「あ!でもお兄さんと住み始めてからは変わりましたよ!たまにお弁当だって持ってくるし」
「それは俺が弁当作ってやってるからな」
「えぇ!?あれお兄さんの手作りなんですか!?」
「うむ。もっと驚け?」
つっても2人とも朝は時間ないから簡単なやつだが。
そんなことよりもだ。
「ミカ、何か申し開きは?」
「食べ物から声がしたんだ。私を食べてってね」
「んーギルティ」
◇
結局釣り対決は勝負にならないくらいの大差で負けた。
ぶっちゃけめっちゃ悔しい。
開始前自信満々だった自分を殴ってやりたい。
てかミッコは何匹釣ってんのよ。
釣りキチか?釣りキチ三平なのか?
ミカのやつも最初から結果は見えていたみたいな顔しやがって
分かってたなら先に言ってくれ。
俺だけ恥ずかしい思いしたじゃねぇか。
まぁそんなこんなあったが今はコテージに戻って夕飯の準備中。
「ミカ、皿取って」
「うん」
キッチンには俺とミカ2人。
そして
「ミカが手伝ってるのってなんか新鮮」
「だなー」
後ろにいる野次馬2人。
何やってんだ。
「学校でもこれぐらい素直なら苦労しないのにね」
「ほれ、やることないなら手伝ってくれー」
「今やることやってるんですぅー」
え?何やることって?俺らの観察?
そんなマジマジと見つめられると恥ずかしいんだけど!
「でも2人の後ろ姿って、こうして見るとなんだか新婚さんみたいで憧れちゃうなー」
「アキ、2人の邪魔しちゃ悪いから向こう行くよー」
「ちぇー」
言うだけ言って結局2人はリビングへと戻っていった。
なんだったんだ。ほんと
「新婚さんみたい。だってさ」
「ん?いいじゃねぇか。嫌か?」
「いいや。ただ、きみが肯定してくれるとは思ってなかったからね」
少し驚きながらもミカはそう答えた。
「まぁ。変わったんだよ俺も」
「そうかい。なら、よかった。のかな?」
「ああ。よかったんだよ」
そう言って思い返したのはミカとの再会の日。
俺の物語はあそこから加速した。
あの日ミカがあそこに居なければ俺はまだ日陰を歩いていただろう。
みほやまほの手助けも出来なかった。
エリカを助けることも出来なかった。
愛里寿にはまた嫌われてたかもしれない。
家元たちには呆れられていたかもしれない。
でも
そうはならなかった。
この手を引っ張ってくれた奴がいたから。
だから変われたんだよ。
───お前のおかげでな
その一言を俺は飲み込み、ただミカの頭を優しく撫でてやる。
今までのこと全てが、偶然の積み重ねで成り立っているのかもしれない。
ミカと初めて出会った時だってそうだ。
あの日俺があそこに居なければ
あの日お前が来なければ
もしかしたら全てが違っていたかもしれない。
でもお前なら
───あの日出会わなくても、必ずどこかで出会ってる。
そう言ってくれるんだろうな。
ただまぁ
「歳が違いすぎるわな」
「ふふっ。私は構わないさ」
その後少しの間キッチンからは料理の音だけが聞こえていた。
「ほら出来たぞー」
「わぁ!美味しそう!」
作ったのは川魚の塩焼きと簡単な和風パスタ。
そんなに料理得意ってわけでもないから
これぐらいで許してくれ。
「いただきまーす」
そう言ってから皆で食べ始める。
「お味の程は?」
「美味しい!」
「お。口にあって良かった」
やっぱ素直に美味しいって言ってくれると嬉しいねぇ。
戦車道もそうだったけど褒められて伸びるタイプよ?俺
「というかミカいつもこんなの食べてるの?ずるーい!」
「ふふっ。同居人の特権、だろう?」
いや、そのドヤ顔先日のエリカでも見たわ。
作ってるの俺だからな!
お前ら食べてるだけだからな!
◇
「2人ともー。忘れ物ないー?」
「ちょい待ち。今確認中ー」
楽しい1泊2日もあっという間に終わり、今は彼と退室の最終確認をしている。
昨日の料理中。あの言葉に彼は少し照れながらも否定しなかった。
それは単に言葉の意味に照れたから?
それともその場の雰囲気に呑まれたから?
それとも───
いいや。やっぱり、これ以上はやめておこう。
その答えを出すのに少し臆病な自分がいるから。
まったく。らしくないな。
「あー、そういえばミカ。お願い事はもう決めたか?」
思索に耽ている中、彼の一言で私は意識を戻した。
それは大学選抜戦前、彼が参戦するきっかけを作った時の話。
そのお願い事はまだ決めてなかった。
けど、今決めた。
「今言ってもいいのかい?」
「ん。別にいいぞ」
じゃあ───
「じゃあ、お願い事はキス。がいいかな」
「へ?」
そんな彼の反応をよそに私は目をつむり
揶揄うように頬を出す。
彼女たちには少し卑怯かもしれないけど
これぐらいは許して欲しい。
だってこれは
私と彼との約束なんだから。
「...ったく。しゃーねーな」
彼の吐息が私の頬にあたるのがわかる。
ふふっ。これは役得だったね。
そう思った。
でも
“!!?”
私はあまりの出来事に目を見開いた。
目の前には照れ臭そうな笑みを浮かべた彼がいる。
「───ミカ。いつもありがとう」
「お兄さんはやくー」
遠くから彼を呼ぶ声が聞こえる。
「おう。今行くー」
その声に駆けていく彼。
その背中を見つめながら
私は唇に残ったほのかな感触を確かめるのだった。
「ミカ顔赤かったけど大丈夫かな」
「んー気にしなくていいでしょ。どうせお兄さん案件だし」
「あー確かにそうだね」