私は今彼を後部座席に乗せてF-14を操縦している。
のだけれど...
「ほれ。そんなんじゃいつまで経っても上達しないぞ。I have control」
「器用貧乏じゃなくて立派なマルチプレイヤーになれ。そのためにはこれぐらいしないとっ」
「え?わっ!」
彼に操縦が移った途端、機体が90°近くピッチアップして体に強烈なGが掛かる。
「キャー!!?失速!失速してるって!!」
揚力を失ったせいて機体がストール状態に。
「大丈夫、わかってやってんだよ」
何故こんなことになったのか
話は少し前に遡る。
それはあの日の帰り。彼の戦闘機に初めて乗った日。
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―――――――――
「How's it going, Erika? 初めて乗った戦闘機は」
「...」
「おーい、エリカ?」
「へ?あ、あぁそうね。いいんじゃないかしら?」
「ほんとにそう思ってるでござるかー?」
「そう思ってるわよ!変な言い方しないでよね」
「ははっ」
彼に連れられてやってきた場所
そこは高度1万を超えた雲の上
眼下には青く光る丸みを帯びた地球。
そして頭上には透き通るような青空。ではなく、暗い青の中に太陽と星しか見えない。
そんな素敵な場所。
え?旅客機に乗った時に同じような景色を見てるじゃないかって?
いいえ、そういう意味じゃないの。
きっと私は彼と一緒に見たかったんだと思う。
この景色を。
今世界には私と彼しかいない。そう感じさせるようなこの空間。
幼い頃からの夢がやっと叶った瞬間だった。
プロペラの付いていたあの機体には乗れなかった。
けど
私の頭上からいつも見守ってくれていたジェット機に乗ってる。
その彼と一緒に。
でも、少しだけ残念なのは
ミカさんに先を越されちゃってたってこと。
彼への想いは互角でも
この機体に乗るのは私が初めて。そう思ってたから。
だからちょっと悔しいな。
ミカさんは私たちの知らないところでどんどん距離を詰めていってる。
同居だってしてるらしいし、突つけばもっと色んなことが出てきそう。
隊長は隊長で、昔彼と夜空の遊覧飛行を楽しんだと言っていた。
それに比べて私は...
いいや、弱気になっちゃダメ
さっき悪魔たちに激励を受けたばかり
私だって負ける気なんてないんだから!
ああ、それともう一つ。彼に聞いておかないといけないことがあったんだった。
「...あんたの車」
「ん?どうした?」
「車よ。ミカさんにあげちゃったの?」
「あげてねぇよ。勝手に乗られてるだけだ」
「ふぅん。どうだか」
「なんでそこ信用してないねん」
あれだけミカさんが乗り回してたらもう事実上ミカさんの車では?
それに悪魔たち曰く彼は押しに弱いから。
だからミカさんに押されてあげちゃっててもおかしくない。
「はぁー。私もあの車欲しかったんだけどなぁ」
「いやだからあれまだ俺の車だからな。てかお前も持ってんだろ、型式おんなじやつ」
「そうじゃなくて、あんたの車がいいって言ってんのよ」
「まだ現在進行形で乗ってるんですが」
「じゃあ何か他のが欲しい」
「他のって言ってもなー...」
そんな私の我儘に対して彼は少し考える素振りを見せてから、改めて口を開いた。
「んじゃこれとかどうだ?」
「これって?」
「この戦闘機だよ」
「へ?」
「なんだ?いらんのか?」
「い、いる!いるけど...」
いきなり戦闘機いる?とか言われて驚かない方がおかしいでしょ!普通に考えてそんな簡単に渡せるもんじゃないのに。
「いいんだよ。そもそも俺がメインで乗る機体は違うし、この機体はあくまでサブとして運用してるからな」
「で、でも...」
車と違い数十億の戦闘機、しかも機密マシマシだと考えると流石に気が引ける私は常識人だと思う。
「なら、長官命令だ。と言えばいいか?」
「ちょっと卑怯じゃない?」
「そうせんとお前の中でも踏ん切りがつかんだろ」
「まぁ、確かに」
そう言われると断れない。そう、なんだかんだで私も押しに弱いのだ。
「ただしこいつを乗りこなせるようになったらの話だからな。サポートはしてやるから気張って訓練しろ?」
「ふん!当たり前じゃない。私なら戦闘機の操縦だってすぐに覚えてみせるわ!精々あんたも隊長の座を私に奪われないように頑張ることね」
「ははっ、その粋だ」
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――――――――――――
そして時は戻って、今いるのは地上。
「うぇ、吐きそう」
「何言ってんだ。ジェットコースターよりマシだろ」
彼に操縦が移った後は、コブラから始まりバレルロールにスプリットS。そんな空戦軌道のオンパレード。
それがなんでジェットコースターよりもマシと言えるのか意味がわからない。怖さの次元が違うっての。
うぇ、思い出したらまた吐きそうになってきた。
「黒森峰の中でもFa223の操縦技術なら1番だったんだけどなぁ」
「なんやそれ」
ポツリと呟いた私の一言に彼は疑問の表情を浮かべた。
「“フォッケ・アハゲリス Fa 223 ドラッヘ”。第二次大戦中に使用されてたドイツのヘリコプターよ」
「あん?そんな昔のもん乗ってんのか?安全性とか大丈夫なん?」
「まぁ現代用に改修されてるから大丈夫...なはず」
「はずて...。そんな危ないもんに乗るぐらいならシーホーク乗れシーホーク。そっちの方が安全だわ」
「そんなのうちに無いわよ」
「無いなら贈ってやるから。これからはそっち乗れよ」
「いやいや、訓練とかは?」
「並行して訓練するに決まってんだろ」
「」
「うちの場合はな。習うより慣れろだ」
「えぇ...」
こうして私は戦闘機の操縦訓練を受けた初日から新たにシーホークの操縦も訓練内容に加わってしまうのだった。
◇
──────
《ほら背後取られてるぞ》
《レーダーだけに頼るな。360°自分の目でも確認しろ》
──────
《フレア出すのが遅い》
《そのタイミングだと欺瞞の効果が薄くなるから気を付けろ》
──────
《操縦桿引くのが早すぎる。もっとギリギリを見極めろ》
《それと絶対にブラックアウトとレッドアウトはするなよ。その時点で負けだぞ》
──────
《今のはFOX1の方がいい》
《ミサイルにも種類がある。状況を見て使い分るんだ》
──────
《撃っても避けられることもあるんだ》
《20mmの練習も怠るな》
──────
──────
──────
──────
訓練が始まってから数ヶ月後
あれ?これ飛行訓練じゃなくて実戦訓練になってない?という疑問を抱く時間も無いぐらいに、毎日ほぼ空にしかいなかったせいで私もなんとか形になってしまった。
だってヘリしか運転できなかった私がセスナとか飛び越していきなり戦闘機よ?普通ならありえないと思うし、逆にここまで来れた自分に感動しちゃうわ。
「06 Take off」
そうコールして今日も私はカタパルトから飛び立つ。少し前まではこの時かかる重力も相当きつかったけど、悲しいことにこの射出にも慣れてしまった。
──────
「今日は俺のサポートなしで無人機とドッグファイトしてもらう。向こうから実弾は出ないがシュミレーターがしっかり判定してくれるから実戦をイメージしてやれ?」
「わかってるわよ」
「ああ、あとこれはラーズグリーズの入隊試験みたいなもんだからよろしく」
「ええ!?そういう大事なことは先に言いなさいよ!」
「ははっ。今まで通りやればいいだけだろ。ほれ、もう来たぞ」
彼の言葉に驚く暇もなくレーダーを見ると背後から点が迫ってきている。
「いきなり背後からって条件最悪じゃない!」
スロットルを開いて加速するが、背後の無人機との距離がどんどんと縮まってしまっている。
まずいっ、このままだとロックされちゃう!
そうはさせじと機体を捩るけど、ピタリと背後に張り付かれた。
なんなのよこれ!?振り切れないっ!?
「本当に無人機なの!?」
「うちの練習用の無人機だ。これでも1番弱いやつだぞ」
ピーッ!ピーッ!ピーッ!
「フレア!」
鳴り響いた警報音と共にフレアを撒きながらも再度機体を捻った。
ピッチスケールやフライトパスマーカーが目まぐるしく動く。
「くっ。くぅう!」
グレイアウトして徐々に狭くなっていく視界。
でも...負けてたまるもんか!
歯を食いしばり、意識を失うまいと必死だった。
そして数十秒後
けたたましく鳴っていた警報音が消えた。
...なんとか避けれたようね。
体感時間1分以上はあっただろうか、額には汗が滲んでいる。
でも背後を見るとまだ敵機が...
こうなったら意地でも落としてやるわ。
重要なのは敵機との距離。
落ち着け、落ち着くのよ私。
彼との訓練で何回も見たし経験したじゃない。
もう少し───
もう少し───
今だ!
操縦桿を一気に引き付けて機体を90°までピッチアップ。
それは彼が初めて見せてくれたマニューバであるコブラ。
揚力が無くなり機体がストール状態に陥って急激に速度が落ちたため、背後から迫る無人機は私の機体に合わせて減速することが出来ずにオーバーシュートした。
よしっ!アフターバーナー点火!
その隙を逃す私じゃないんだから!!
「Target,Lock!」
ここだ!
「FOX2!」
背後を取り返した私は赤外線誘導ミサイルを放つ。それは確実に無人機に食らい付いていた。
いけっ
いけっ!
私の放ったミサイルは真っ直ぐに無人機へと向かっていく。このままなら命中する!そう思った。
しかしそんな淡い期待を他所に、無人機はフレアによってミサイルを回避してしまった。
でも!
「そんなことお見通しだっての!」
そう。私の本当の狙いは20mmバルカン砲での撃墜。そのためにアフターバーナーで距離を詰めたんだ。
次は外さない!
「FOX3!!」
重い回転音と共に、本命である20mmの弾丸が遂に撃ち出された。
そして...
ビーッ!!!!
「やるじゃねぇかエリカ」
彼からの声に返事が出来ない。
ディスプレイを見ると無人機の反応が消えていた。
今の...本当に自分がやったのよね?
実感は湧かないけど、
操縦桿を握る手は嬉しさのあまり震えていた。
...ああ。やった、やったんだ!
やり遂げたんだ。この私が!
昔見た彼らを、私は地上から眺めることしか出来なかった。
けど
少しだけ。
ほんの少しだけその憧れに一歩近付いた気がした。
私も彼らの舞台に上がれた。
そんな気が。
「...リカ?おーい、エリカー?」
「何よ」
「余韻に浸っているところ悪いが」
「...は?」
「第二ラウンドだ」
彼の言葉とともに、キャノピー越しに2番機がこちらに近付いてきてるのが見える。
『よろしくお願いしますよ。エリカ嬢』
「へ?ま、まさか」
「残念ながら、そのまさかだ」
「え!?えぇぇぇぇええええ!!!?」
その後は彼らに追い回されるだけ追い回されて、何もできないままサラッと撃墜判定を出された。
ほんと、どんだけ強いのよこの人たちは!
余韻に浸ってた自分が恥ずかしいじゃない!
「ふっ。まだまだブービーってとこだな」
「ひどっ!こんだけ頑張ったのに」
ラーズグリーズ隊におけるブービーとは将来有望な新人という意味なのだが
エリカがその意味を知るのは少し後の事であった。
コーブラー フフフフーン