「期待していると言ったのは私だが、本当に40輌相手に勝ってしまうのもどうかと思うぞ兄さん」
「いやー。負けられない戦いがそこにあったというか、熱が入りすぎたというか」
「見てみろ、みほが完全に拗ねてるじゃないか」
「まじで?」
まほに促されて見たその先には口を尖らせていじけてるみほの姿が。
「...お兄ちゃん、きらい」
おおぉぉ...みほやめて...お兄ちゃんに1番効くからそれ...
いやだって仕方ないのよ!?戦車乗ってないとはいえ俺らだって色々経験してたからね?というかさっきの試合結構危なかったからね!
「ふふっ。流石の兄さんも試合には勝ったが、みほには勝てないみたいだな」
うごごご...試合中熱くなりすぎた過去の自分を殴ってやりたい。
「というか最後のあれはなんだったんだ?」
「ん?あれとは?」
「最後のフラッグ車を狙い撃ちにしたやつ」
「...あーあれ。あれはな、1発目をな?傾斜に乗り上げて仰角とって自走砲みたく撃ち上げるじゃろ?」
「うん?」
「それが着弾するタイミングに合わせて2発目を当てることで、相手に気付かれる事なく合計2発分のダメージを入れるってトリックよ」
「いや、何言ってるか分からない」
え?なんで分からんのよ。反撃の隙も与えずにフラッグ車潰せる画期的な戦法やで?戦車道の今後を揺るがす革命的な発明よ?将来教本載るよ?
「そんな芸当が出来るのは兄さんたちだけだ。そもそもあんなことを他の人たちが出来てたら今の戦車道の戦い方は既に大きく変わってる」
確かにあんな馬鹿げた発想をするのは俺たちしかいないのかもしれないな。そこは否定できんわ。
「まぁ兄さんの規格外な才能は今に始まったことじゃない、か。はぁー、昔は私が教える側の立場だったのになぁ」
「いやいやいや、そもそも俺ら基礎すらも満足に出来てないから。操縦するので手一杯よ?今回の作戦だってAIMゴリ押し作戦だったし」
「え!?私たちそんな作戦にやられたの!?」
そんな作戦とはひどい。俺らとしてはそこだけが取り柄なんだから勝負するとしたらそこを生かすしかないやん?ぶっちゃけFCSない戦車とかマジつらたんだった。
え?お前は車長しかやってないだろって?だまらっしゃい!
「みほ。相手があのサジタリウスだったんだから仕方ないさ」
「そうそう...って、え?なんでそれ知ってんの?」
「昔お母様に聞いたことがあってな。非公式の大会で大暴れした1輌の戦車の話を。あれは兄さんだったのか」
「忘れてください。あれは若気の至りだったんです」
「忘れるも何も当時の関係者は皆知ってると思うぞ。なぁみほ?」
そんなまほの言葉にみほもコクコク首を縦に振っている。
「ちゃうねん。あの日はな?遊び半分で戦車乗り回してたら何故か会場に迷い込んでな?間違えましたーって言えずに戦車ん中引き篭もってたらそのまま1輌で大会エントリーされててな?そしたら無駄に勝ち進んじゃったせいで俺たちも熱が入っちゃってな?行けるとこまで行ってやろうっt───「兄さん兄さん」
「なに?まだ話してんだけど」
「長文すぎて自分が悪いのに言い訳してるようにしか聞こえない」
「お兄ちゃん、大人げない」
「」
どうやらこの場に俺の味方は居ないようでござる。
「ちょっとよろしくて?」
「ん?」
と思ってたら救世主が現れた。
試合前に挨拶した聖グロ、サンダース、アンツィオ、知波単、大洗、プラウダ...
あ、これただのお疲れ様でしたの挨拶だわ。救世主じゃなかったわ。
「噂に聞くサジタリウスの矢。この目で見ることができて光栄ですわ」
しかも、どちらかと言うと敵側だった。
もうやめて...これ以上俺たちの黒歴史をいじらないで...
「あれだけの技術をお持ちなら是非とも我が学園艦にて専属コーチを...と思ったのですが、抜け駆けすると後で酷い目に合いそうな感じですし、どうでしょう?ここは各学園を定期的に回ってもらうということで」
『意義なし』
おい、待て待て。めっちゃ勝手に話進めてるやん。俺らが教えれることなんてないがな。むしろ戦車に関しては教えられる側だってさっき言ったの聞いてなかった?
誰か異議あるよな?俺、海将補よ?役職だけでも職務も忙しいのわかるよな?
エリカー!ラーズグリーズ隊6番機候補のエリカさーん!あなたの将来の隊長が困ってますよー!
「えへへ、黒森峰に来てくれるのならいいかも...」
あ、ダメだこいつ。意識飛んでるわ。
というか、そもそも黒森峰ならたまーに物資輸送で行ってるでしょ!それで我慢しなさい!
がしかし。これでエリカは実質再起不能。
エリカがやられてしまった以上、後頼れるのは...
まほー!いつも職務手伝ってくれるまほさーん!兄さんの忙しさ伝えるなら今しかないよ!伝えたげて!兄さん忙しいからそんな事出来ないって!
そう目配せすれば、分かってると言わんばかりにまほが頷いたのが見えた。
流石まほやな。いつも間近で手伝ってくれてる分、俺が非常に忙しいということを理解してくれてる。いやー。これで一安心だわ。
「兄さんは職務がー、と言っていつも逃げるから、そこは私から防衛大臣に話をつけておこう。きっと喜んで差し出してくれると思う」
「おい」
退路塞いできてんじゃねぇか。というかお前いつの間に大臣と面識持ってんねん。
「艦隊に出入りしてるんだから面識持つのは当然だろう」
そう言ったまほを見れば勝ち誇ったような顔をしている。
くそう。まほまでも敵にまわるとは予想外。
だが甘いな。ここまではあくまでも前座。最難関であるうちの同居人はここに健在。そう簡単に首を縦には振らんぞ?
「なぁ、ミ───
「いいんじゃないかな?期間を決めればいい息抜きにもなるだろう?」
「」
そう言ったミカの手には大きな紙袋が。
あいつ、買収されてやがる。
「土日家空けることになりますがそこん所は?」
「別に問題ないよ。私も同行するし」
「は?」
「やるとしても土日だろう?だから私も同行するって言ったのさ」
「ミカさん。それについては私と隊長から話があります」
そこからはやいのやいのと俺の頭上で議論が繰り広げられ、預かり知らぬところで話が進んでいく。
当の俺は、あてにしていた3人を失い打つ手無し。みほは話のスピードについて行けて無いようで苦笑いを浮かべている。
あぁ、救いはなかった。
と諦めていたのだが
「皆さん。同志の意見も聞かずに話を進めるのは少し早計では無いでしょうか」
その議論に待ったを掛けた人物が1人。
「そもそも同志は戦車乗りではありません。自ら得意分野でないと言っている人を無理やり連れ出すのは少々酷かと」
ううっ、ノンナ...お前だけだよ。ここにいる常識人は。
「ただの視察でも結構。そこ辺りの役割をしっかりと決めてから改めて提案するほうが───「...決めた」
「同志?」
「プラウダに行く」
「へ?い、良いんですか同志?」
「ただ、ノンナの言った通り戦車で教えれることはないから、あくまでも視察しかできんけど」
「い、いえ。それでも来ていただけるだけで嬉しいです」
「そう言ってくれるとこちらとしても助かるよ」
さっきも言ったけど、戦車に関しては全くの専門外だからなー。10式ならともかく、昔の戦車とか聞かれても正直わからん。まぁ戦闘機なら今のでも昔のでも教えてやれるが、今の戦車道では教えても意味ないからね。
「ということで、他のとこは行かないけどプラウダには行くことにしたので」
『えぇっ!?』
そんな俺の宣言が予想外だったのだろう、各校の代表達は驚きの表情を隠せないでいる。
カチューシャは───あ、こいつもめっちゃ驚いてるわ。
...まぁ実の所、今回の交流会を機に視察として各学園艦はまわる気でいたんだけどな。滑走路の状態も確かめたかったし、何より大臣からも各学園との連携を深めていけと言われているから。
そう。これは俺の悪戯心からついた嘘。
珍しくあたふたしているあいつらを見るのは中々面白いもんだよ。
◇
「次に会うのはプラウダの学園艦で、ですね」
「おう。また連絡入れるからな」
「プラウダの地に戻ってこれるなんて光栄に思いなさい?」
「ははっ。ガキンチョもあんまりノンナに迷惑かけんなよ」
「ガキンチョじゃないって言ってるでしょ!やっぱり名前覚える気無いじゃない!」
「ふふっ、続きはまた後日にしてください。楽しみにしてますよ我が同志」
「おう」
そう微笑みを浮かべてから2人は去っていった。
「ノンナさんがあそこまで表情崩すのも珍しいなー」
あー、確かに。みほの言う通り初めて知り合った頃はめっちゃ堅物だったな。でも何回かお茶するうちに気付けばあんな感じになってたけどな。
「あ、それとお兄ちゃん。前に言ってたボコミュージアムなんだけどね」
「ん?愛里寿と行くって言ってたやつ?」
「うん。ちょっと色々あって連絡できなかったんだけど、やっと日程決まったから。ちゃんと予定空けといてね」
「おう。可愛い妹達の為だ、ちゃんと空けとくよ」
「えへへ、よかった。私も楽しみにしてるからね」
職務よりも優先すべきは妹たちの笑顔やから。それに、長い間全然構ってやれてなかったからめっちゃ甘やかしてやりたいしな。
でもよく分からんミュージアムってところだけが唯一怖いんだよねぇ...。まぁ、なるようになるか。
「じゃあみほ、俺らも帰るから」
「うん。2人とも操縦気をつけてね」
「おう...って2人?」
「私よ!私も操縦して帰るのよ!そもそも皆さんを送り届けないといけないでしょうが」
あ、そういえばうちの隊員たち、エリカのシーホークで来てたんだった。色々ありすぎて忘れてたわ。
「それに、折角だからあんた達の昔話も聞きたいし」
「いいけど、面白くないぞ?」
「サジタリウスってだけで面白いことは確定よ」
「おうふ。やっぱりそこですか...」
「それじゃ、またケストレルで」
「ういー。安全運転?でな」
「わかってるわよ」
◇
ケストレルまでの帰り道。
空の上で、後部座席に座るミカに俺は今日一日気になっていた事を聞いた。
「なぁミカ。お前最初から知ってたろ?」
「確信はなかったけど風の噂で、ね?」
あーなるほど、これはミカ母から聞いたな。
確かにあの日戦車貸してくれたのは当時のミカ母だった。となると俺たちはあの大会に迷い込んだ、というより迷い込むように仕組まれたということか。
はぁー。ほんと、親子揃って食えないねぇ。
「でも、きみがプラウダにしか行かないと言った時は流石に驚いたけどね」
「あれはちょっとしたジョークみたいなもんだよ。それに気付いてないお前らは側から見ると中々面白かったぞ」
「むぅ」
まぁあの後、ちゃんとネタバレはしたよ?それを聞いたノンナは少し残念そうな顔をしていたが。
「はぁー。全く、少しはこっちの気にもなって欲しかったな」
「ん?別にいいじゃねぇか。だって、お前も一緒にまわるんだろ?」
「...確かに、そうだったね。ふふっ」
自分から言い出したんだから頼むぜほんと。
「あ、でも戦車は返せよ。人の試合に賭け事など愚の骨頂」
「ガーン」
「口で言ってもダメだからな」
「んで?あの買収されてた紙袋は何だったんだ?」
「それはお楽しみかな?」
「お楽しみねぇ」
「まぁそのうち分かるさ」