ここは黒森峰の学園艦にある大型ショッピングセンター。留学準備の買い物でまほと一緒に来ているのだが、
「デカ過ぎんだろ...」
このショッピングセンター。某テニヌの迷言が飛び出すぐらいデカい。
学園艦でこうも違うのか。継続の学園艦なんて...。ううっ泣きそう。
「兄さん、早く行こう。日が暮れてしまうぞ」
「すまんすまん」
そう言って横を見れば私服姿のまほ。
黒のスカートと赤のハイネックニット。その上からミリタリー感の強い黒のジャケットを羽織っている。黒森峰のパンツァージャケットを彷彿とさせるようなコーデだ。
「?どうしたんだ兄さん?」
「いんや。私服のまほ可愛いなおもて」
「!?...ふふっ、そうか。なら、朝から悩んだ甲斐があったな」
俺の言葉にまほは少し照れながらも嬉しそうにそう答えた。
普段キリッとしてるまほがそういう顔するとギャップ萌えがやばい。そしてあまりにも冴えないおっさんである俺がツラすぎる。まぁ今に始まった事ではないが。
「取り敢えず、最初はどこ周る?」
「そうだな、少し家具が見たい。向こうのが私に合うかも分からないから出来ればこちらで新調して持って行きたいと思っているのだが...」
「問題は輸送費か?」
「ああ」
まぁ日本国内の引越しですら独り暮らしの人間でも10万以上かかるのに、海外へ持っていくとなるともっと嵩むことは目に見えてるからな。まほの懸念もわかる。
だが安心してほしい。
「実は今度ドイツの駐在武官宛にC-2で荷物送る予定があるんだがな。予定よりも荷物が少なくて、ちょうど留学生1人分の荷物の空きがあるんだ」
「え?」
「まぁなんだ。だから輸送費とかの事は気にすんな。お前の好きなもん持っていけ」
「本当にいいのか?」
「たまたま、だからな」
「ふふっ、そういう事にしておくよ。...でも、ありがとう」
「ん。そんじゃ家具見に行くか」
「ああ」
ぶっちゃけミカの戦車LCACで送ったり、エリカにシーホークや戦闘機乗らせたりしているのでまほの荷物の輸送など今更ではあるのだが
今回の輸送に関して、うちはあくまでも海自みたいなもんだからC-2は保有してない。ドイツへ飛ぶのも陸自さんのものだった。
だから交渉は難しいかなーと思っていたのだが、そこに丁度よく現れた哀れな後輩(蝶野一等陸尉)がいてな。
んでその後輩くんに今回の作戦指揮してる人紹介してもらったら、その人昔の戦車道の知り合いだったわけよ。
そこからはトントン拍子で話が進み、輸送スペースを確保したわけで。
一応うちの艦隊見習生の留学って事にしてるから、決して私的に利用する訳じゃないよ!と言い訳しとく。
◇
「いやー。やっぱ家具屋っていいな」
こういうとこ来ると片っ端からベッドなりソファーなりに座って、これいいなー。座り心地最高やん?ってガキの頃は遊んでたなー。まぁ当時は金ないし置くスペースもないから買わないんだけどね。
だがしかし。今は違うのだよ。
そう、今は金のあるガキなのだ。体は大人でも心はガキなのだ。
わーい、おじさんいっぱい買うぞー。
「まほまほ。このガラステーブル格好よくね?買いじゃね?」
「兄さんがテンション上がってどうするんだ...」
やっぱね、一度はこういうガラス製の欲しくなるのよ。家にある事にちょっと憧れちゃうのよ。俺も初任給で買った記憶あるわー。まぁ重いし使い勝手悪い時とかもあるけど、買ったことに対して後悔はしていないよ!邪魔って思う時も正直あるけどな!
「それよりも兄さん、これとかどうかな?」
「んぁ?」
まほの声に視線を後ろへと移すと少し大きめのベッドが。
「ちょい大きいんちゃう?まぁ大きいのが好きならいいと思うけど」
「兄さんが来る時のことを考えたんだが」
「ん?俺用のやつ?いや、ならソファーでいいやん。わざわざベッド2つ部屋に常設とか邪魔やで。ほれここに背もたれを倒すとベッドに早替わりのカッコいいソファーが───
「そうじゃなくて、兄さんと一緒に寝るようのだ」
いや、めっちゃド直球やん。というかそれこそソファーで寝るわ。女子高生と一緒に寝るとか俺が捕まるわ。
「ほう。ミカとは一緒に寝てるのにか?」
バレてて草。
「兄さん、先日の話。実は聞いてたんだろ?私たちも覚悟を決めたんだから、兄さんも覚悟を決めてくれないと困るぞ」
また痛いとこついてくるな...。
「それともなんだ?あれだけ言ったのに、私たちの覚悟が伝わってないのか?」
「い、いや。そういうわけじゃないんだが...」
...はぁ。俺もちゃんと覚悟決めるべきだな。
「わかったよ。ちょっと大き目のやつを買うか」
「うん。そうする」
そう言ったまほは表情を一転させ、嬉しそうに笑顔を見せた。
なんかどんどんと俺の退路無くなってる気がする。もう大阪夏の陣レベルやぞこれ。
「ちなみにさっきの話はどこで知ったん?」
「ん?ああ、この前兄さんの家に行った時にな。ミカが自慢げに話ししてたぞ」
おいミカ。堂々と密告してんじゃねぇよ。
「一応保身のために言っとくが、俺は自分のベッドで寝てるだけだからな」
わざわざミカ用にベッド買い直したのにあいつが使ってないだけだからな。
「はいはい。そこに関しては何も追求する事はないから安心していい。だが、兄さんは私が西住流ということを忘れないでほしい」
「え?どゆこと?」
「西住流に逃げるという選択肢はない。ということだ」
いや、そこは逃げてくれ悟空ぅー!
◇
俺の心の叫びはもちろん誰にも届かず、結局その後は昼飯を挟んで現在はまほの服を選んでいる。
ちなみに昼飯はまほ行きつけのカレー屋だった。まほがめっちゃ常連客だった。おばちゃんに「あら?まほちゃん。1日振りね」って言われてた。
1日振りってどゆこと!?まさか毎日カレー食ってんのか?栄養よわ!ってまほに聞いたら普通に目を逸らされた。
あかん。今度俺が栄養バランス考えた飯作ってやらんといかん。
「兄さん?」
「ん?」
人知れず決意を固めていると更衣室のカーテンが開いた。
「どうだろう?」
「うん。めっちゃ可愛い」
「さっきからそればっかりじゃないか...」
「いや。それしか出てこんのやけど」
こいつら元がいいから正直何着ても様になる。ずるい。やはり世の中美人とイケメンは何やっても様になるというカースト制。
「じゃあ兄さんに選んでもらおうかな」
「え?まじで?俺センスないぞ?」
「大丈夫だ。兄さんが選んでくれるならそれがいいから」
おおう。女性服売り場にいるだけで場違い感甚だしい俺に対して責任重すぎ...。
んー。でも実はまほに着て欲しいなとたまに考えていた事はある。
「まほだと黒色を連想がちだけど、俺は白色もいいと思うぞ。黒も好きだけどな。あと、たまにはお嬢様系とかどうよ。ロングスカート的なやつ」
「ふむふむ。それで本音は?」
「ここぞという時に違う色着てるとキュンとするというか、普段黒着てる人が白着るとギャップ萌えというか。って何言わせてんだよ」
「なるほど。分かった、ちょっと試してみる」
なんか物凄く恥ずかしい心の声を暴露してしまったが、それでまほが着てくれるなら安い代償よ。
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―――――――――
「どうかな?」
「グリフィンドールに120点」
「?よく分からないが似合っているのか?」
「めちゃくちゃ可愛い」
「そ、そうか」
先程よりも強い口調で言った俺の言葉に、まほは少し恥ずかしそうに身を捩っている。
いやー、眼福眼福。やっぱり一緒に来た甲斐があったというものだ。
「じゃあ、これ買うことにする」
「おーう...って、待て待て。折角なんだ、プレゼントさせてくれ」
「え?でも、結構高いぞ?」
「いいのいいの。こういう時ぐらいは出させてくれよ」
「なら、頼む」
「ん。店員さん、今着てる服のお会計お願いします」
『かしこまりました。ではレジの方までお越しください。それと、このまま着て行かれるのでしたらタグもお取りしますが』
「どうする?」
「そうだな...なら、取ってもらおうかな」
「いいのか?」
「折角兄さんが選んでくれた服なんだ。すぐに着たいって欲があってもいいじゃないか」
「そうか。じゃあお願いします」
そう言うと店員さんは手慣れた手つきタグを取り、先程まで着ていた服を紙袋に入れて渡してくれた。
先程までのまほの姿も惜しい気持ちもあるが、俺が選んだ服を嬉しそうに着てくれているのを見ると、そんな気持ちも吹っ飛んでしまう。
ほんと見てるこっちが嬉しくなるな。
「兄さんは買わないのか?」
「ん?俺か?俺は別にいいかな」
外出用の私服はあまり持っていないけど、正直作業服とジャージがありゃそれでいいし。てか作業服とジャージが有能すぎるんよ。材質もいいし動きやすいから、ついつい平日もそれで過ごしちゃうんよねぇ。
「そうか。なら私が選んでやろう」
「んぇ?」
「大方平日も作業服で過ごしているのだろう?使える私服は多いに越したことは無いぞ」
「...お前。今日ほんとに鋭いな」
「?そうか?」
鋭いってレベルじゃないけどな。見聞色の才能あるよお前。
「ともかく、今からメンズ売り場に直行だ。兄さんにもファッションというものを教えてやる」
「なんか不安で仕方ないのだが」
「任せろ。男性の服など選んだこともないが、取り敢えず色々着させてから考えればいい」
「着せ替え人形とか恥ずかしいんだが」
「ダメか?」
「いや、ダメってわけじゃないけど...」
こんなカースト下位の人間に色んな服が合うとは到底思えないが、まぁまほの気が済むまで付き合おうと思う。
だって今日の主役はまほだからな。
「似合わなくても笑ったりするなよ」
「兄さんが着こなせない服なんて無いだろ...」
◇
「兄さん。今日はありがとう」
あの後私は文字通り兄さんを着せ替え人形のようにして、色々な服を着てもらった。試着室のカーテンを開けるたびに恥ずかしがりながら出てくる兄さんは中々新鮮味があって面白かった。
でも、全部様になっていたのは流石というか兄さんらしかったな。
「こっちこそありがとな。お前の買い物なのに、わざわざ俺の服まで買ってもらっちゃって」
「いいや。ようやく兄さんとデートも出来たし、私としては願ったり叶ったりだ」
彼の一言に私は首を横に振ってそう答えた。
彼にそんな自覚はなかったかもしれないが、私の中では兄さんとの初デート。服をプレゼントするのに正直憧れていた部分もある。
「確かにデートだったな」
「なんだ。自覚はあったのか」
「そりゃまぁ。お前らも色々話込んでたし」
そうか、やはり先日の話は聞いていたんだな。
...それであれば問題ない。
「なら。最後は別れ際のキス、だな」
「いきなりハードル高いなおい」
「私だって恋する乙女なんだ。そこは察して欲しいな」
こんなチャンス。私でなくとも逃す人なんていないだろう。
「ほら、タイミングは今しかないぞ?」
「...ったく」
...ん。
彼の唇と触れ合ったのは短い時間ではあったが、今日という一日を私は忘れることは無いだろう。
だって今日は、遂に私も兄さんとの関係を一歩踏み出せた。そんな最高の一日だったから。
「これからもよろしくな、まほ」
「ああ。これからもずっと、だな。よろしくお願いします、兄さん」
最後に私は満面の笑みを浮かべてから、もう一度彼と唇を合わせるのだった。