あれから私は彼についての情報を集めた。
当時の記事や大会の情報など。脳裏に焼きついている、あの機体に描かれたエンブレムを辿って。
けどそれは思った以上に簡単ではなかった。どれだけ探しても、何故か戦車道の中で彼の資料は見つからない。ようやく見つけた写真だって、彼らの部隊であろう集合写真が1枚だけ。
その写真の端には、見たことのある字でこう書かれていた。
“ラーズグリーズ隊 全国制覇!!”
そこで初めて知ったんだ。彼の所属していた部隊の名前を。
“ラーズグリーズ戦闘機部隊”
数多くの大会でトロフィーを総なめにし、日本のトップ部隊だった。
彼等と相対した敵からはラーズグリーズの悪魔、なんて呼ばれていたらしい。なんでも彼らが有名になった大会が行われた地域がラーズグリーズという場所で、そこから名前が付けられたんだとか。
今まで彼らが出場した大会ではどの試合でも撃墜されることはなく、終了時には彼ら5機以外が飛んでいることは無かったという。
そんな記録だけ見ると有名人になってもおかしくない。普通ならテレビとかに引っ張りだこのはずなのに、どこを探しても部隊員の名前でさえ載っていない。当時でさえも謎に包まれた部隊だったよう。
けど、隊長機の特徴だけは載っていた。部隊章とは別に桜の花びらを背景に女性の影が描かれているエンブレムが付いている、と。
───彼だ。
曰く、その機体は5機の中でも速く、上手く。小数点を下回る反応を見せる。IGLとして基本は冷静沈着。けど、大胆に自らが突破口を作る時もあり、それは慢心ではなく自信として。常に勝つ未来を見ての行動。当時、世界中を探しても勝てるものはいないとまで言わしめたその機体。
ここまで聞くに、どうやら彼はあのずぼらな性格からは考えられないほど優れた選手だったようだ。
そんないかにも有名な部隊って感じなのに、なんで当時の情報があまり残っていないのか。そう疑問に思うも、なんとなく私にはわかる。
どうせ彼のことだ。めんどくさいの一言でインタビューも全て断っていたのだろう。
優秀なのに、そういうことに関しては全くの無関心。もっとメディアへの露出を増やしてくれてたら、探し出すのも早かっただろうに。次会った時はそんな理不尽を言ってやろう。
無茶苦茶な八つ当たりに、驚きあたふたする彼。そんな姿が目に浮かぶ。
やっぱり私はキリッと優秀な彼も好きだが、私には見せてくれる、素の人味ある彼の方が好き。
いつの日かきっと来る。そんな未来の光景を信じて。
そして最後に、写真と共にあった彼が答えた唯一のインタビュー。そこにはこう書かれていた。
“ 戦車道には人生の大切な全てのことが詰まっているんです。でも、ほとんどの人がそれに気づいていないだけなんですよ”
───ふふっ。らしくないなぁ。
『まぁミカが大きくなったら風が教えてくれるさ』
言葉に詰まるといつもそう言って、私を煙に巻いていた彼のそんならしくないセリフに、私からは自然と笑みが溢れていた。
だから今は、彼の人生が詰まっていると言った戦車道を頑張ろうと思っている。
きっと。きっと私が大きくなったら、風が彼の居場所を教えてくれるから。
それまで彼に会っても恥ずかしくないような...胸を張って会えるような、そんな生き方をしようと。
胸元に光るネックレスを握りしめながら思う。
風はいつも気まぐれ
そしてどこに吹くかなんてわからない。
でも私は信じてる。
頑張っていればきっと。この風を追っていればきっと会える。
だってこの風は
───彼の元に吹いている気がするから。
◇
「...仕方ないわね。彼といたのは短い時間だったけど、その間あなたはずっとお兄ちゃん子だったし。でも、年に何回かは顔を出しなさい。ここは、あなたの帰る家なのだから」
「お姉様。絶対にお兄様を連れてきて」
「ふふっ。任せて?必ず連れ帰ってくるさ」
中学を卒業した私はある学園艦へと進学が決まっている。
そこは彼の母校。そして彼らの戦闘機も展示されている学園艦。
身勝手にも家の事を押し付ける形になって、お母さんと妹には本当に迷惑をかけちゃったな。
でも、私にはやりたいことができたから。
───彼を追いかける。
たとえ彼がもう表舞台に出ることが出来ないとしても。私は彼についていく覚悟だってある。
その時はまた...。お母さんたちに迷惑かける事になっちゃうかもだけど。
でも許して欲しい。
だってこれが───
私の決めた戦車道だから。