「あっ!大兄様!」
「おお!愛里寿か!大きくなったなぁ」
兄貴が帰ってきて早々に駆け寄る愛里寿。何年振りかってのによく覚えてんなぁ。
「大丈夫か?元気してたか?怪我とかしてないか?」
いや、過保護か。久しぶりに会ったのにそれでええんか。愛里寿に過保護すぎって嫌われるで?
「はい!お兄様と大兄様のおかげで元気いっぱいです!」
それでよかったんだ!というか俺もちゃっかり入れてくれてるあたりめちゃくちゃ嬉しい!
「そうかそうか、よかったよかった。じゃあ積もる話もあるし中で話そうか」
「はい!」
中で話そうかじゃねぇよ。俺とミカのこと見えてないやん。あと、愛里寿もめっちゃいい返事しちゃってるし。
「ほらミカちゃんも入るよ」
あ!これ俺だけだ!俺だけ完全に無視されてるやつだった!
「はい!」
待て、お前もいい返事すんなし。
「兄貴よ、俺も帰ってるんだが」
そう言って兄貴の方を見ると、兄貴はため息をつきながらこちらに向き直した。
「可愛い愛里寿ちゃんたちが帰ってきているのに兄貴に連絡を寄越さないような薄情な弟を持った覚えはない」
「いや、それに関しては全面的に謝るけど、こっちも色々あってん」
「だまらっしゃい!乙女の純情をもて遊ぶ軟派弟め。大体こんなやつのどこがいいんだか。10歳以上も違うんよ?もう30過ぎたおっさんよ?」
「あー、そのことについてなんだが」
「ん?」
「お義兄さん。“婚約者”のミカです」
「俺の!?」
「お前のじゃねぇよ」
義兄って言ってんだろ。何で久しぶりに会ったのにいつの間にか婚約者になってんねん。そんな訳ないやろ...いやそんな訳あったわ!俺似たようなもんだったわ!?
「冗談に決まってんだろ、ミカちゃんの気持ちは昔から知ってる。ミカちゃん、おめでとう」
「ふふっ。ありがとうございます」
「うちの弟はミカちゃんや愛里寿ちゃんが来てるって事すら俺に言わない大バカ野郎だけど」
やっぱりめっちゃ根に持ってるやん。
「だけど、きっと歳の差なんて関係なくミカちゃんの事を幸せにしてくれると思うから」
「はい。実はもう幸せいっぱいなんです」
「...そうか。言うまでもなかったようだね」
「...大兄様。私も撫でて欲しいです」
撫でられているミカを見て愛里寿が兄貴の裾をキュッと掴んでいる。
「おう、いいぞー」
「えへへ」
いや、俺めっちゃ嫉妬するんですが。俺も愛里寿撫でてやりたいんですが。
「そういえば、ミカちゃんはまだ戦車道は続けてるのかい?」
「はい。今は継続高校でやってます」
「そうかそうか。まぁ戦車の整備とかで困ったら言いなさい。うちの弟よりは上手い自負はあるから」
「うるせー。技術士官に勝てる訳ねぇだろ」
そもそも戦闘機乗りだよ俺は
「ふふっ。ありがとうございます。でも大丈夫です」
「ん?専属の整備士でもいるの?」
「そういうわけではないんですけど、お義兄さんと一緒にやるとこの人が嫉妬しそうなので」
「なるほど確かに。こう見えてこいつは昔から独占欲が強いからな」
「ぐぬぬ。悪かったな」
正直否定できん。というか否定したらなんか色々バラされそう。兄貴からしかりミカからしかり。
「大兄様!大兄様!」
「ん?どうした愛里寿」
「私も!私も戦車道やってます!」
「おぉ!じゃあ愛里寿の戦車を魔改造しよう」
おい、過保護兄貴。そういうとこやぞ。今の家元みたく嫌いって言われても知らんぞ。
え?鏡見ろ?いや、俺はノーカンだから。ノーカン!ノーカン!
「戦車は、そう...センチュリオンだろ?実は既に設計図も用意してある」
「いや。どんだけ用意いいねん」
というか何故愛里寿の乗っている戦車を知ってるんだ。お前はエスパーかと言ってやりたい。
「それが...この設計図だ!」
そう言って兄貴が広げた設計図を3人で覗き込んだんだが、一言言わせて欲しい。戦車道の規定見てこいと。
そもそも、なんだこれ。FCSついてるし、装填も自動装填っぽい。しまいにはハッチ上にTOWミサイルのようものまでついている。
「なぁ兄貴」
「ん?」
「まさかとは思うけど、ここから撃ち出されるものは敵戦車へ有線誘導できますか?」
「おう!」
“おう!”じゃねぇ。完全にTOWだろそれ。
「ダメに決まってんだろ。戦車道の規定見てこい」
ガワだけがセンチュリオンで内部は第3か第3.5世代の戦車が戦車道で使える訳ないだろ。
「ええー!いいじゃん!なぁ愛里寿」
「そうです!お兄様は厳しすぎます!」
あかん、あかんぞ。この兄貴、愛里寿の教育に悪過ぎる。てか戦車道にはきちんと厳しい愛里寿が流されてるし、愛里寿も兄貴に対して甘すぎるし。
「とにかくダメなもんはダメ。ボッシュートです」
「「ええー」」
「ええーじゃありません!」
全く。親の顔が見てみたいわ。
「ううっ...。私には冷たいのに...」
「あ」
何故か電柱の影に居た。彼女たちの母親が。
それで隠れてるつもりなんか。というか何故ここまで来たのか。
今ここは家元にとって荒野のウェスタンだぞ。愛里寿の家出を肯定してる者しか居ないぞ。
...トントン
ほれ言わんこっちゃない、背後からうちの母が肩つついてるぞ。
「ん。誰ですか全く。私は愛里寿の尾行で忙しいんです」
ダメよ家元!ちゃんと振り向いて!うちの母よそれ!どうなっても知らんよ!
「千代ちゃん」
「馴れ馴れしいですね。そもそも千代ちゃんと呼ぶ人はこの世に1人しか───
あ、ようやく気付いた。
「千代ちゃん。言いたいこと、分かるわよね?」
「は、はひ!」
笑ってない笑顔をしているうちの母を見て表情がみるみる青くなっていく家元。
大学選抜の奴らと言い家元といい何故こうも背後への意識が薄いのだろう。島田流は全員が島田!後ろ!をやらないといけないのだろうか。
いやっ!ミカと愛里寿はそんな育ち方しないで!
というか家元は俺の実家付近に来てる時点で、声掛けてくる人が誰かなんてある程度わかんだろ...。
「そうねぇ。まず何から聞こうかしら。あっ。あなたたちは席を外してもらっていいわよー。ここからは大人の話し合いだから」
「ん。ならお言葉に甘えて」
家元から涙目で助けを求められるが、まぁ自業自得と思え。
「お義母さん。夕食の準備はどうしましょうか」
「ならミカちゃんにお願いしようかしら?私も後から行くから」
「はい!」
「ふふっ。お願いね」
「で、でしたら私も」
「...千代ちゃん?」
「すみません!」
「それじゃあ、まず何から聞こうかしら。愛里寿ちゃんがうちに住むことになった経緯からかしら?」
いや、それ話変わってんだろ。
「住みます!」
住むんかい!
「やったぜ!」
兄貴嬉しそう!てか実家暮らしじゃないけど俺も嬉しい!
◇
あの後、場所を家の中に移したが家元への説教は終わらず、客間で父と母の目の前でずーっと正座させられてた。まぁ純粋にうちの親の方が大分歳上というのもあるのだが、上下関係は目の前の光景を見れば一目瞭然である。
ちなみに今は兄貴、俺の男二人衆が居間でボケーっとしている。
料理の手伝いしに行ったら
「今日はお義母さんと私と愛里寿で作る予定だから。居間で待っていて欲しい」
と優しく閉め出されたのである。
まぁ俺たちは大人しく待つしかないなー。
「しっかしお前もようやく結婚か」
「まだ早いけどな」
それに大人になった時の彼女たち次第ではあるし。
「それよりも兄貴は最近どうなんよ」
「ん?俺か?俺はまぁ...あれだ。1人でいる方が楽なんだよ」
「あー、はいはい。彼女居ないのね」
そんなんだからいつまでも独身なんだよ
「うるせー。いい人が見つからないんだから仕方ねぇだろ」
「いや、身近にいるじゃねぇか」
「身近?」
「愛里寿だよ」
「ブフォッ!」
汚ねぇ。お茶吹き出すな。
「何で愛里寿なんだよ。歳違いすぎんだろ」
「じゃああれか?みほの方がいいのか?」
「ブフォッ!」
だから汚ねぇ。
「なんでそこでみほちゃんの名前が出てくんだよ」
「いや、愛里寿と同じでお前にも懐いてただろ」
「そうじゃねぇ。歳の差考えろって言ってんの」
「兄貴。それ俺に言っても意味ないぞ」
「あっ」
あっじゃねぇ。歳の差なんて関係なくってミカのこと祝福してただろうが。
「それに愛里寿だって兄貴と会った時嬉しそうだったじゃん」
愛里寿が兄貴に向けてる好意は俺に対するそれと少し違う。言うなれば、ミカが再会した時に俺に向けてた好意みたいな、そんな感じがするんだよなぁ。
「まぁでも、俺に久々に会った時の方が嬉しそうではあったけどな」
「はあ!んなわけねぇだろ!俺の方が嬉しそうだったわ!」
「兄貴は俺が久々にあった時の知らねぇだろ」
「知らん!」
知らんなら対抗するなよ。全く世話のかかる兄貴だな。