艦隊にお邪魔して数時間。彼のいう通り最新鋭の車輌から得られるものはあった。
偏差射撃時における仰角・俯角のとり方。機動力を生かした有利な位置取り。データリンクによる敵情報の共有などなど。
...まぁ人間工学的に不可能な部分もありましたが。
今は少しの休憩時間。一緒にいるのは彼の言っていた3人組と私の計4人。
休日だというのに彼女たちは何故かここでお茶をしている。という事は、やはり彼と“特別な関係”という話は本当なのでしょう。
折角だったのでその話題を3人に出すと
ミカさんは、当然だと自信満々に
まほさんは、あの鉄の表情を崩して微笑み
エリカさんは、頬を赤らめて俯きながらも“そうです”と肯定した。
はぁ...。羨ましい(?)
3人の醸し出すその幸せそうな雰囲気は私からはとても眩しくて、そして私胸がまたきゅっと締め付けられる。
「ねぇノンナ」
「...なんでしょうか?」
「帰ってきてから彼が少しぎこちないんだけど何か知ってるかい?」
「いえ、なにも」
ミカさんからの質問。心当たりがないと言えば嘘になる。でもあれはポツりと呟いた私の独り言。もし彼に聞こえていたとしてもロシア語だから───
「はぁー。大方きみことだ。暴君相手の時みたいにロシア語で彼に何か言ったんじゃないか?」
「なぜ今その話を?」
...図星です。どうやら、彼のことになるとミカさんの勘はよく当たるという話は本当だったようです。けど、大丈夫。何度も言うけどあれは間違いなくロシア語で言いました。彼には伝わっていません。
「言っとくけど彼はロシア語も話せると思うよ」
「───え?」
「秘匿艦隊だったんだ。それぐらいできて当然だろう。兄さんはドイツ語だってしゃべれるぞ。前に私がドイツ語で抱きしめてと言った時なんてな───「隊長!ずるいです!私だって───「ふふっ。それなら私も───
話の発端から何故そうなったのかは分からないが、まほさんの一言から目の前で痴話談義が始まった。
彼の良いところ、直してほしいところ。出会った頃の話から自慢話まで。私がいることなんてお構いなく。
ここに彼がいればきっと恥ずかしがって止めているでしょう。
でも私が止めることはありませんでした。
それは私がロシア語で言ったあの一言。それが彼に伝わっていたのかもしれないから。
───“私も愛して欲しい”
そんな恥ずかしいセリフを聞かれていたかもしれないなんて...。
まずいですね...。これから彼にどんな顔をして会えばいいのか...。
なんとか答えを出そうと思考を回すが、ぐるぐると堂々巡り。結局帰る時間が来るまでその答えは得られなかった。
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「今日はすまんな。視察って言っておきながら、結局大半はノンナと喋ってただけだったし」
「い、いえ。カチューシャからも今回は息抜きしてきなさいと言われておりましたし、大丈夫ですよ」
結局あの後から色々と考えはしたが答えは出なかった。今の自分がどんな顔をしているのか。それすらもわからない。
「そうか。なら、ありがとう...かな?今日1日俺の話し相手になってくれて」
「こちらこそありがとうございました。こんな最新の戦車に触れる機会なんてそうそうありませんでしたから」
実際のところ、得られるものは多かったから。それに、彼女たち3人と話せたこともよかったと思う。あの話以外は。
「装備とか内容に関しては、あまり言いふらさないでくれよ。一応国家機密だから」
「では何故私に見せてくれたのですか?」
「ん?そりゃお前だからだろ?」
「?...答えになってないように思うのですが」
───“私だから”
彼の中にある私の人物像が気になります。
きっと嫌われてはいないと思う。私の勘違いでなければ。
なら...彼は私のことをどう見ているのでしょうか...。
今まで聞くことのなかったその答えが、今になって気になってしまう。
それはきっとまた、あの一言のせい。
胸の鼓動が早くなっているのがわかる。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼は間を置かずに口を開いた。
「そりゃ、お前を信頼してるからだよ。いつもお前がそうしてくれているように、な」
彼は屈託のない瞳で私を見ながらそう言い切った。
───...あぁ。
“いつも”私が彼を見ていたように、彼もまた私を見てくれていたのだ。
その一言で私はようやく自分の気持ちに気付いた。今まで気付かなかった私の想いに。
これが恋心なのかは私にはわからない。いや、きっと恋心なのだろう。
───そうか。私は、彼の事が好きなんだ。
きっかけはいつだったのか...。
初めて出会った時?仲良くなり始めた時?交流会で再会した時?
もしかしたら全てなのかもしれない。
そして、無意識に出たあの言葉もそう。意識していないところで彼に惹かれていたんだ、私は。
ふふっ。全く、おかしな話ですね。10歳以上も離れている男性に恋をするなんて。
...いや、年齢なんて関係ないのでした。
あの3人を見ているとそれが理解出来る。
結局、どう思うかは自分次第なのだ。
だから私も───
そう口を開こうとした瞬間、帰宅時間を告げる時計の音が鳴る。
「おっと、そろそろ時間か。すまんな、帰る時まで長々と。がきんちょとクラーラにもよろしく伝えといて───ってどした?何かあったか?」
「い、いえ。全然、大丈夫...です...」
「そうか?まぁ、何かあればまた言ってくれや」
「...はい」
..なんてタイミングが悪いんだ。私の想いが、初めて言葉となって彼へと伝わると思ったのに。
...でも、伝えるなら今しかない。そんな気がする。
そうしないと、私はこの想いを有耶無耶にしてしまいそうだから。
「あ、あの。同志っ!」
「ん?どうした?」
「そ、その...。あっ...。いえ、何でも、ありません...」
...好きと伝えることはこんなにも難しいことだったなんて。
再度振り絞った勇気は無情にも虚空の彼方へと消えていく。
今の私にはこれ以上のことは出来なさそうですね...。
「...同志。
「おう。またな」
はぁ。結局こんな事しか言えないなんて。
次会う時。私はこの想いを伝える事が出来るでしょうか。
きっと私のことです。色んなことを考えた挙句、この気持ちを胸の奥へと押し込むのでしょう。
我ながら情けないですね...。
「ノンナ」
目尻に涙を浮かべた私は背中越しに聞こえた彼の声に、それを零すまいとゆっくりと振り返る。
「
「...え?」
「昼間の答えだ。ノンナ、こんな俺でよければこれからもよろしく頼むよ」
「...!!」
昼間呟いた私の言葉はやはり彼に伝わっていたのだ。
あぁ...。3人の言う通りでしたね...。
零すまいとしていた涙は嬉し涙となって頬を伝う。
「なになに?嬉し泣きか?」
「同志。ここは茶化すところではないです。蹴りますよ」
「いきなり辛辣っ!」
これから彼にどう接すればいいのか分からない。けど...よかった。そう思える。
「やはり、とんだ女垂らしだったようですね」
「ひどっ」
「そもそも、あなたがロシア語を話せるなんて聞いてもいませんでしたが」
「いや、お前が気付いてなかっただけで、さっきもまたなって返したやん」
「それはそれ。これはこれです」
「えぇ...」
未来は真っ白いキャンバスそのもの。不安はある。けど、今の私にはもっと大きな希望に満ち溢れている。
「それで?結局俺でいいのか?こんな女垂らしの俺でも?」
少し戯けた表情で、先程の揚げ足をとる彼。
「ふふっ。私は、あなたがいいんです」
そう決めたから。
私の未来にはあなたの色が必要なんです。
最後に発したその言葉は、
「あ、でもカチューシャは別枠ですよ?」
「はいはい、分かってるよ。お前からしたらアイドルみたいなもんだからなー」
「ふふっ。理解が早くて助かります。まぁ、アイドルとは少し違いますけどね」