2℃目の隊長命令 1/?
洋上に鳴り響く甲高いエンジン音の群れ。操縦桿を引けば身体に猛烈なGがかかる。
「エリカ、遅れてるぞ」
「っ!?分かってるわよ!」
編隊を組み、一糸乱れぬように飛ぶそれらは、平時とは違い“魅せる”ための訓練。
いつもであれば、簡単にこなせる事ですらも今の私には難しく感じ...いや、まぁ今の私にはってのは語弊があったわね。毎日飛んでる時は緊張してるし、ましてや編隊飛行する時なんてそれ以上。
だからこそ、私は今猛烈に言いたいことがある。
「こういうのってブルーインパルスの人達の役目でしょ!!?」
「ん?仕方ないだろ?あっちの機体じゃ実弾演習出来ないんだから。だから俺たちが出るのがちょうどいいんだとよ」
いや、確かにその話は前に聞いた。聞いたけど、そういう事じゃなくって
「私なんかが出るのはまだ早いって言いたいの!」
がむしゃらについてきた私はそもそも人に魅せれるような操縦なんてした事ないのに、こんな大舞台に出るのは荷が重すぎるっての!
「ははっ。喋れる余裕があるなら大丈夫だよ」
『隊長。そろそろです』
「了解。エリカ、よく見とけよ?」
「あぁもう!分かったわよ!」
ったく!なんでこんな事になったのかしら。
というか前にもこんなことあったわよね!無理矢理話進められて戦闘機とヘリの訓練させられたの記憶に新しいんだけど!
「気のせいだろ。気のせい」
「気のせいなら今操縦桿握ってないわよ!」
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それは数日前のこと───
「はぁ!?え、ちょっと聞いてないんだけど!?」
「まぁ今初めて言ったからな」
執務室に呼ばれた私が突然聞かされたのは、今年の観艦式の話。
戦車道履修生として、名前ぐらいは知ってるし、機会が有れば参加してみたいなーとも思っていた。もちろん観客として。
だが聞かされたのは私が想像していた側ではなく、演者側としての参加。それもラーズグリーズ隊としての。
───いや、唐突過ぎるでしょ!
確かにそんな季節だなーって気持ちはあったわよ?でもうちって、公にされたといっても一応秘匿艦隊だし?役割的に学園艦の側を離れるわけにはいかないじゃない。
だから私たちには関係のない話だと思って本当に他人事で見てた。
それがなに?学園艦も一緒にくれば艦隊も参加出来るから?ラーズグリーズ隊にも飛んでほしい?私も一緒に?
「ううっ...情報量が多すぎて処理できない...」
昨日会った時はそんな雰囲気一切感じさせなかったのに...。ほんと昨日の今日で何があったってのよ。
「...というか...あれ?観艦式っていつだっけ?」
時期的にもうそろそろだっていうのは分かってるんだけど...えーっと...
「1週間後だな」
あー。そうそう、1週間後ね。1週間後...1週間後...
1週間後!!?
「ちょ、ちょっと!どういうことよ!」
そんな大舞台、1週間で準備なんて出来るわけないでしょ!?1週間って7日よ?分かって言ってる?せめて1か月はもらわないと...いや、1か月でも少ないわ。
「しょうがないだろ。俺だってさっき聞いたんだから」
あー。なるほど。さっき聞いたのなら仕方ないのかもしれないわね。どうせまた某防衛大臣に『スマソ。忙しくて急な連絡になったけど、1週間あれば大丈夫やろ?よろよろ』的な感じで頼まれたんでしょうね。なら仕方ないわね───「...ってなるわけないでしょ!」
「...エリカ、あんまり叫ぶと血圧上がるぞ?」
「誰がそうさせてんのよ!」
はーッ、はーッ。と肩で息をする私を見た彼からの一言に対して、私はまた声を荒らげてそう返す。
「そもそもなんで私も出る事になってんの!」
「なんで私も、ってかお前6番機なんだから当然だろ」
いや嬉しい!!嬉しいけどそうじゃないのよ。
「そんな大舞台。私には荷が重過ぎるって言いたいのよ」
他の人たちなら問題ないと思うけど、私なんて最近までは(今もだけど)地に足つけた戦車乗りよ?空の経験値なんてまだペラッペラなんだけど!
「大丈夫大丈夫。飛んで、撃って、勝つ。それだけだろ」
「勝つって何に勝つのよ...ほんと不安しか無いわ...」
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通信の合図を受けて、彼の機体が急降下して行く。その先に見えるのはぷかぷかと洋上に浮かぶ
「こちら01 Attack Point 到達
ヴーーーン!!!という連続的な発砲音と共に海面に水飛沫が上がる。白煙の纏う彼の機体はA-10...のようにはいかないけど、確実に
『こちら02。01に続きます』
コックピットから左手を見れば、2番機がバンクを振った後に
『02 FOX3!』
通信越しに聞こえるコールでまたしても標的が粉砕されていく。
...まぁ確かにこれありきの演習ってことなら、ブルーインパルスじゃ物理的にも難しいか。大臣がラーズグリーズ隊を引っ張り出してきたってのも納得ね。
「まぁこんなもんだな。エリカ、やってみな」
「やってみなって...」
もう原型残ってないんだけど...。
いつの間にか5番機までの射撃が終わり、目の前にある
もう当てても分かんないでしょこれ。やる必要ある?
『エリカ嬢。いつも通りやれば問題ないですよ!』
『そうですよ!頑張って!』
ううっ...。皆さんからの期待が痛い。やっぱり、やらないといけないわよね...。
───よしっ!
「06 ブレイクします!」
覚悟を決めて向かうのは先程まで業火に曝され続けていた可哀想な標的。操縦桿を倒せば目の前一面に濃紺の世界が広がる。
いくら高度計という見える数値があるといっても、海面に突っ込むようにして急降下するこの瞬間はいつやっても慣れない。
だって、あんなの壁よ?壁。戦闘機というとてつもなく速い乗り物でただ青い壁に突っ込んでるだけなのよ?
操縦桿を引き起こすタイミングを間違えればそれこそおしまい。こんなのをジェットコースターより怖くない言ってる人達がいるということが信じられないわ。
...でも、いつもの訓練で少しずつ慣れてきてしまっているのも事実。あぁ、私もそのうち彼らのように言う日がくるんだろうなぁ。
まぁそれが彼らに近付いている、という点に関しては嬉しいんだけど。
遠い目でそんな事を感じている間に、HUD上でターゲットボックスが標的に重なっていた。
「こちら06 掃射開始します」
レティクルの中心に捉えて発射ボタンを押すと、機体が小刻みに揺れるのが分かる。
撃ち出された弾丸は一直線に標的へと向かう。
飛び去る際に辛うじて見えたのは沈み行く標的の最後の姿。私がトドメを刺してしまったようだ。
「やるな。エリカ」
「ふん。これぐらい当然よ」
こんなのいつもの訓練よりは幾分もマシだもの。標的は動かないし。あの鬼畜な無人機や、彼らを相手にするよりもよっぽど楽だ。
だから。今の私なら、これぐらいは外さない。
日々彼らに鍛えられている私からしたら、当たり前のことなのだ。
(...まぁ当てた私が1番安心しているのは内緒だけど)
「射撃演習に関しては安心した。問題は編隊飛行だな」
「うっ...」
「取り敢えず、射撃訓練に充てる時間を全部飛行訓練に注ぎ込めば何とかなりそうではあるな。よし、それでいこう」
「え?...いや...それは、ちょっと...。射撃訓練もしといた方がいいかなーって。万一にでも本番に外しちゃまずいし...」
というか、この1週間で唯一の癒しとなるであろう射撃訓練を抜かれるのはちょっと...。
「なら、隊長命令ということにしよう」
「またそれ?ひどくない!?」
「ははっ。1週間の辛抱だ。ただ、観艦式が終わったら通常の訓練に戻るからな。どのみち覚悟しとけよ?」
「うううっ...鬼!悪魔!ラーズグリーズ!!」
「お前もラーズグリーズだろ...」
結局私の意見が聞き入れられることはなかったのである。