みほに再度の連絡を終えた(気のせいじゃなく名前呼んでくれてた。ちょっと嬉しすぎて泣きそう)ちょうどその時、執務室にようやく彼が戻ってくる。
だか、その彼が見たものは───
「いや、この短時間で何があった」
少し上の空な雰囲気を醸しながらニヤニヤと笑みを浮かべる私の姿。
その内情はみほからの呼び方が昔に戻ったことに対する嬉しさ。そして、隊長に背いたこと、そしてその事をみほに告げ口したことに対する罪悪感と背徳感。その3つの感情が混ざった結果がこれである。
「エリカ?おーい、エリカー?」
「えへっ、えへへ」
「あぁ...エリカは壊れてしまったようだ。やっぱり1人で帰ることにしよう」
「───へ?...あっ!ちょっ、ちょっと待ちなさいよ!私も行くって言ったでしょー!!」
間一髪のところで彼の袖を掴んだ私は内心ホッとするも、振り返った彼の表情から先程の一言が冗談だったという事を悟る。
全く。笑えない冗談は心臓に悪いからやめてほしいわ...。
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先日も来た玄関。気配を察したのか、呼び鈴を鳴らす前に家の奥からパタパタと足音が聞こえてくる。
ガチャりと音がして開いた扉から出てきたのは、制服の上からエプロンを着けたミカさんの姿。
何故制服の上からなのか。普通に普段着に着替えてからエプロンでよかったのでは?と疑問に思ったが、隣の彼を見れば理由はなんとなく分かった。
───なるほど。こいつがそういうの好きなのね。
決してそういうつもりではないのだとは思うけど、出てきたミカさんを見るなり彼の表情は固まってしまったが、目だけはミカさんを捉えていた。
そして当のミカさんは計画通りだったのか嬉しそうにスカート揺らしている。
前のココスの衣装着た時もそうだったけど、男ってやっぱりこういうのが好きなのかしら...。
私も...もしやったら...喜んでくれるかな。
まだやるとも決めていないのに、その光景を想像すれば途端に顔が赤くなってしまう。
───ま、まぁ...一応覚えておくわ。い、一応...。一応だからね!
心の中の言い訳に1人はぁはぁと肩で息をする私は、側から見れば確実におかしかっただろう。けど、幸か不幸かこの場にいるツッコミ役は私だけ。
ほんと、よくミカさんはこんなこと恥ずかしがらずに出来るわよね...。ちょっと尊敬しちゃう。
と、い、う、か!こいつも!いつまでも魂飛ばしてんじゃないわよ!
肘で強く小突けば、ゴフッという空気の漏れた声と共にいつもの彼の表情に戻る。
「エリカ...もうちょっと加減してくれ」
「ふん!」
まだ赤みが消えない顔を見られまいと彼から顔を背けた私に、肩をすくませながらも、彼は空気を変えるために一つ咳払いをしてからミカさんに向き直る。
「ただいま、ミカ」
「ふふっ、お帰り。エリカも」
「お、お邪魔します」
悔しいけどなんかすごい慣れた雰囲気を感じる...。
ま、まぁ当然よね?ミカさんは同棲してるんだもの。婚約者だしそういう雰囲気になるのは仕方ないことね。
かく言う私も!“婚約者”なんだからそんな事全然気にしないわよ。ふふんっ!
───と、自己顕示欲を高めることで気持ちを紛らわせていたのだが、目の前の光景にはまだ続きがあった。
彼から荷物を受け取るミカさん。
うん、大丈夫。
彼が持っていた荷物をミカさんが慣れた手つきで受け取るぐらいは先程同様許しましょう。ただ、受け取ってから何故かこちらにドヤ顔をするのはやめてほしい。
スリッパを2つ出すミカさん。
むしろありがとうございます。
靴を脱いだ私と彼の為にスリッパを出してくれた。有り難く使わせてもらいます。でも、もうドヤ顔はいいです。
目の前でハグする2人。
???
メリハリを付けるためにも、家に帰ったらスイッチをオフにするためには必要な行為。ハグは安心感に包まれるともいうし───...ってあれ?何かおかしいような...。
目の前でおかえりなさいのキスをする2人。
うんうん。当然のことよね。婚約者であるなら当然のこと───「な訳ないでしょ!」
何平然とやってのけてんのよ!私!私の気持ちは!?目の前でキスしてるのを見るだけの私の気持ちは!
「なら、きみもやって貰えばいいじゃないか」
先程とは違いキョトンとした表情を浮かべて言ったミカさんの一言は確かに的を射ている。私だって婚約者だし、言えばきっと彼は受け入れてくれる。
けど...
「自分から行けるなら苦労しないですよ...」
そりゃあ私だって、こういう時どうすればいいなんて分かってる。けど、こういう時なかなか足が動かない。
きっとミカさんや隊長なら迷わずやってもらうんだろうなぁ。そう思うとほんと2人の積極性が羨ましい。
「なるほどね」
少し考えるような一言を残してから、何かを閃いたかのような表情を浮かべたミカさんが、おもむろに私の後ろに回った。
な、なんだか急激に嫌な予感が───「って、きゃあ!」
案の定背中からきた衝撃。それに耐えきれずにバランスを崩してしまった。そして気が付けば───
「ふぇ!?」
彼の腕の中に包まれていた。
「おい、危ないだろミカ」
「ふふっ。ごめんごめん。エリカが抱きしめてほしいって顔してたからつい、ね?」
いや、してましたよ?してましたけど!
「心の準備というものが...」
ほんと心臓が飛び出るかと思った。というか今も飛び出そうなんですけど。
彼の腕の中で、彼の鼓動が聞こえる。それだけ密着してる距離。おそらくは私の鼓動がとてつもない早さで動いているということは気付かれているだろう。
意を決して視線を上に向ければ、彼の瞳には恥ずかしそうに頬を赤らめる私が映っている。
「まぁ、今じゃなくてもいいぞ。お前らの要望には出来る限り応えるつもりだし。だからエリカの決心がついたらまた言いな」
そう言ってぽんぽんと私の頭に手を置く彼。
「じゃ...じゃあ───...
と、取り敢えずぎゅっとしてほしい...です」
恥ずかしさを堪えて一度視線を落とすが、再度視線を上げると彼は微笑みながらも、少しだけ腕に力が入るのが感じられた。
「ほら、これでいいか?」
「...うん。えへへ...」
最近周りから、昔と比べてよく笑うようになったと言われることが多くなった。それは...きっと彼のおかげ。
もちろん、隊長やミカさんそしてノンナさんのおかげもある。けど1番いい笑顔をしているのは、やっぱりこの人と一緒にいる時だと思う。...それがきっと私が変わったと言われる要因になったんだろうな。
珍しいミカのアシストポイント1