「あのー、ミカ...?」
「何かな?」
「いや...歩きづらいんだけど」
「それは、私の前から“何も”言わずにいなくなった人が使っていい言葉かな」
「」
偶然の再会?を果たしてしまった俺は今、ミカに腕を絡まれた状態で歩いている。まぁどちらかというと捕まえられてる、といった方が正しいかもしれないが。
落ち度しかない俺に対して当然の対応なのかもしれないが、一つ言わせて欲しい。
───いや、めっちゃ目立ってるんよ。
はたから見たらアラサーのおっさんと女子高生が腕を組んで歩いてるんよ。目立たない方がおかしいだろ。もう事案発生してるよこれ?
そもそも俺は立場上目立ってはいけないのだ。だからなんとか腕だけでも離してもらわないといけないのだが、それをする決断は俺には下せない。
だって───ミカ泣かせたくないし。
隣にはまだ目を赤くしているミカがいる。空いている手の方でまた頭を撫でてやれば、その顔がふにゃりと緩む。
背丈は大分変わったのに、ホントこういうところは変わってないな。
昔から大人ぶってはいるが、中身も変わってないようで正直安心した。
と、いうか。今日に限ってなんでここに来てるのか。
隊の結成記念日なんて、極一部の関係者しか知らないはずだ。隊員達とは接点がないからそこから情報が漏れる事はないとしてあとは───...居たわ。
───ミカの母が。
うん。絶対あの人だわ。なんか“してやったり!”って扇子広げてるのが簡単に目に浮かぶ。
まぁ、あの人にも何も言わずにいなくなってしまったから仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。
「ミカ。もう逃げないから、取り敢えず離してくれ...」
「それはそのネックレスに誓って言えるかな」
「...誓って言うよ」
少しの身動きでもぎゅっと離さなかったミカだったが、俺の言葉によぬやく考えるそぶりを見せた後、残念そうにしながら解放する。
───と思ったら、今度は手を握られていた。
まだ目立つとはいえ、正直な所、俺もミカに会えて嬉しい。それが今の自分の立場上いけない事であってたとしても。だからこれぐらいなら...な。
それにもう見つかってしまったのだ。口止めはするとしても、今は開き直って再会を喜ぶべきだろう。そう、ポジティブにいくしかない。
「んで、ミカは何しにここに?」
「ふふっ。風が教えてくれたのさ。今日ここにいれば待ち人に会えるってね」
「ようは俺に会いにきてくれたと?」
「まぁそんなところかな」
「...」
「...」
当然だとキョトンとしたミカの視線と、驚きを隠せない俺の視線とが交差。
「...取り敢えずどっか店入るか」
「そう...だね」
恥ずかしそうに歯切れが悪くなっているミカ。その姿を見て俺もまた頬をかくのだった。
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「それで、今まできみはどこに行ってたのかな」
「んー、詳しくは言えないな。仕事上の機密ってやつよ」
「そうかい。それは残念だ」
「ん?珍しくすぐ引き下がるな」
「まぁきみが今、どういう仕事で学園艦とかかわっているのか。大まかには理解しているつもりだからね」
「えー。一応国家機密だと思うんだが?」
そう鼻を高くするミカに俺は呆れ混じりに返す。
まぁミカのことだ。そのうちバレるだろうとは思っていた。こいつ昔から戦車道であれなんであれ、色んなことに対して執念深かったし。
けど今回のことに関しては、正直申し訳なく思ってしまう。なんせ俺のためにと嬉しくはあるが、高校生としてミカの一番大切な時間を削ってしまった。
わざわざこんな俺を探す為に。その時間は返ってこないんだ。
だからこそ、もしミカに何かあれば埋め合わせしてやるつもりだ。
まぁミカに限ってそんな叶えづらい困りごとなんてないとは思うが。
「まぁ...その...そうだな。言える程度で言うと数ヶ月前まではプラウダの学園艦にいたんだ。今はここに滞在中ってとこだけど」
「じゃあきみは今はここに住んでるってことかい?」
「基本は“ふね”の上で過ごしてるけどな。一応の住まいはここににあるぞ?」
「ふーん...。住まい、ね。普段は使わない部屋と暖かい寝床を余らせている、と」
...なんか流れ変わったな。
そもそもお金にはそんなに困ってないはずだろ?だって実家があれだし。でも、そんな子が暖かい寝床とかいうか?
───否、言わない。
「え?ありえないと思うけど...ミカ、今野宿とかしてんの?」
冗談混じりにそう聞いた俺の言葉にさっとミカが目を逸らす。
おいまじかよ。この数年間でお前に何があったのかと盛大に聞きたい。
「私のお金は全部戦車道の運営に充てているのさ。だから...ね?」
少し困った表情を浮かべながら、ミカは変な弦楽器を鳴らす。
───いや真面目か。
確かに継続高校は貧乏高よ?俺も在籍してたからわかる。戦闘機の部品買うのだって稟議下りなかったから自分たちで自作したり...あ、思い出したら泣きそう。
でもだからといって自分の生活費まで充てんでもいいだろうに。
乗る人が倒れたら本末転倒だろ...。まぁストイックな性格はあの家系だからなのかもしれんが。
ミカの妹も戦車道になるとほんとストイックだったし。
「あー、まぁいいぞ。そもそも今の家には平日はなかなか帰れないしな。それなら使ってもらった方がマシだ」
見られて困るようなものは別にないし、そもそも目の前にミカがいる時点ですぐに家もバレるだろうからな。
まぁ口止めはしておくつもりではある。
流石に俺の存在は隠してもらわないといけないし。それに滅多に帰らないとはいえ男住まいの家に女子高生が居候ってこともまずいだろ?
だから俺に関しては必要以上に口外しない。その事が条件だ。
それでいいなら家でも貸してやるよ。こんなんで俺の罪滅ぼしができるのならな。
「なら折角だしここに来る時に乗せてくれた君の車も欲しいかな?」
「待て待て待て。もしかしなくても俺のAudiのこと言ってるよな。少しは遠慮しろ」
なんでもは嘘。あの車持ってかれたら俺の足なくなる。
「ダメ...かな?」
「うぐ...。まぁ車も別にそんなに乗ってるわけじゃないから。乗らない時に貸してやってもいいけど、あくまでも“貸す”、だけだからな」
「ふふっ。分かってるさ」
「いや、それ絶対分かってないやつ。まじで大事な車だからな!間違っても壊すなよ」
最終的には折れる俺であったのだ。
まぁミカもちゃんと戦車道を続けているようだから、基本は戦車に乗ってるはずだ。一応念押しもしといたしそんなに使われることもないだろ。
と、そんな淡い期待は安易に裏切られることになるのだが、それはまた後の話。