時刻はすでに23時。
流石にこれ以上起きてるのは明日に響くということで、残念ではあったけど彼の膝上から降りて寝室へと向かう。
ちなみにミカさんとも何度か交代しており、その都度満足そうに笑みを浮かべていた。人をダメにするソファーならぬ、婚約者をダメにする彼の膝上...といったところね。
...まぁ、もれなく私もダメにされたんだけど。
「んじゃ今日は俺が来客用ので寝るから、そっちは2人で使いな」
彼にそう言われて見れば普通のシングルサイズのベッドと───...うん。予想はしてた。予想はしてたのよ。
ここまでの話でそんな気はしてたし。お風呂だって一緒に入ってるんでしょ?ならそうであってもおかしくないかも...とは思ってた。
だから驚きはしない。しないけど、確認のために言わせてほしい。
「なんでセミダブルがあるのよ?」
いや、シングルを来客用と言った時点で大体わかってるわよ?
けど、もしかしたら彼はリビングで布団広げてるだけかもしれないし?ミカさんの寝相が悪くてセミダブル使ってるだけかもしれないし?
だから一応...一応聞いてるだけよ?
しかしそんな思いとは裏腹に、目の前ではキョトンとした表情を浮かべている2人。
「「だってシングルサイズじゃ狭い(だろ)(だろう)?」」
え?何?私が間違ってるの?そんな当たり前みたいに返されるとこっちが困惑しちゃうんだけど。
というか狭いならベッド二つ買えばよかったのでは!?シングル2つでよかったのでは!?
いやまぁ二人で寝るには狭いって理由なことはわかってますけど!?
「...はー。そもそも、いつから一緒に寝てるのよ」
昂まりすぎた感情を冷ますために、ため息を一つつきながら私は再度彼に向き直る。
「んー。俺の尊厳のために先に言っとくけど、俺の意志じゃないからな?」
「はいはい。わかってるから」
またミカさんの押しに負けたんでしょ。もう驚かないわよ。今日半日で前例ありすぎたせいで、言われなくても理解したから。
「まぁそうだな...一年は経ってないな」
「じゃあミカさんと再会したのは?」
「...一年は経ってないな」
いや、それ再会してから毎日ってことよね。正直すぎでしょ。というか初日から潜り込むって...戦車道でのミカさんの話聞く限りだと考えれないんだけど。
「あんたもよくそれを許したわよね」
「それ以上は何も言うな...」
そんな軽い気持ちで言った私の言葉に対して、彼は遠い目をしてどこかを見つめ始めてしまった。
「ふふっ。人という生き物はね?孤独に生きているようだけど、みんな心のどこかで拠り所を求めているものなのさ」
「それっぽいこと言ってますけど、結局のところミカさんが一緒に寝たかっただけですよね...?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」
いや、絶対そうでしょ。というかそれ以外に何があるんですか。
「けど...きみたちだって大学選抜との戦いの後、彼の部屋に忍び込もうとしてたよね?」
「うぐっ」
「再会してすぐにっていう意味では、私と同じじゃないかな?」
「うぐぐっ...」
未遂に終わったとはいえ、流石ミカさん...あの日のことをちゃんと覚えているとは...。
「え?何?その話俺知らないんだけど」
「ふふっ。知りたいかい?」
「わっ...!わーっ!!知らなくていい!知らなくていいから!」
焦る私とは裏腹に悪い笑みを浮かべ始めたミカさん。
いやあれは未遂たったんですから許してくださいよ!というか部屋の前で帰ったんだから、やましいことなんて何もないんですけど!?
そもそもミカさんこそ追求されるべきですよね?だって同じ部屋に泊まってましたよね?なのになんで私が詰められてるのよ!
「ちなみにだけど、彼と一緒に寝てるって話。まほは知ってるよ?ちょっと前に彼女も倣ってセミダブルのベッド買ったらしいしね」
た、隊長!?私初耳なんですけど!
「聞いた話だと留学先の下宿に誰かさんが来た時用らしいけど、同じベッドで寝るなんて...一体誰なんだろうね?」
「おうふ。まほ...何故バラしたし」
私が泊まるって話した時あれだけ駄々こねてたのに...ぐぬぬっ。だ、だったら...だったら私だって───
「私だって新しいベッド買う!セミダブルで2人寝れるやつ買う!」
「待て待て、お前まだ寮暮らしだろ」
「なら実家に置くもん!」
「それはそれであかんわ...」
別にいいじゃない。お母さんたちだってもう知ってるんだから。
「ふふっ。まぁいいじゃないかエリカ。彼も“まだ寮暮らし”って言ってるんだし。───裏を返せば...わかるだろう?」
「むぅ...」
「はい、この話はもう終わり!もう遅いんだし寝るぞー」
後ろを向きながらヒラヒラと手を振って強引に話を切る彼。だが、その耳が赤くなっているのに私たちは気付いている。
「ミカさん。あれは?」
「間違いなく照れてるね」
「うるせぇ」
もういっそのこと下宿でも借りようかな?とも思ったけど、まぁもう少し辛抱。
ちゃんと言質もとったし、それに...これからの休日は、ここに泊まりにくればいい話だしね。
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「で?なんでこうなってるんだ」
「「?」」
何を今更?という言葉を飲み込んで、彼からの一言に揃って疑問を浮かべる私たち。
「俺言ったよな?お前らがセミダブル。俺が来客用のシングルって」
「言ったわね」
「じゃあ何でお前らがこっち入ってきてんねん」
そう。今はこのシングルサイズのベッドに3人。どう考えても定員オーバー状態である。
「ちょ、ちょっと!狭いんだからあまり動かないでよ!」
「いや、狭いんだったらお前ら2人でセミダブル使えよ」
「そういうことじゃないのよ!」
「はいはい。なら向こう行こうねー」
「おい!俺を引っ張るんじゃない!お前ら2人で───って!だーっ!わかった、わかったから!シャツ伸びちゃうから!」
ミカさんに引っ張られていく彼。最初は抵抗していたが、結局は諦めた表情を浮かべてセミダブルのベッドに入った。───もちろん私たち2人も続いて...ね?
「はぁ...エリカも今日1日でだいぶ変わったな」
「まぁ、変わらないと1週間心臓が耐えれる気がしなかったから...」
表現としては、開き直ったって方が正しいのかもしれないけど。
だって一緒に寝るって話もミカさんが「今日はエリカはお客さんだからね。だからそっちのベッドはきみに譲ろう」───なんて言ったから、私も引くに引けなくなったし。
「でも、悪くないだろう?」
「そうですね...えへへ」
そう返しながら彼の腕にぎゅっと抱きつけば、少しだけ彼の身体が強張るのを感じた。
「こちらミカ。耳がまた赤くなってるようだけど、そっちはどうかな?」
「こちらエリカです。こっちの耳も...ふふっ。もれなく赤くなってます」
「なってねぇよ。ほら、電気消すぞ」
恥ずかしさを隠す為だろう彼からの一言で、遂に部屋から明かりが消えた。
暗闇の中不安は一切ない。だって、絡ませた腕の先には彼がいるから。
───だから、また明日。
「「おやすみ、なおき」」
「あぁ。おやすみ、2人とも」
こうして私にとって濃い1日が終わった。
今日だけで何歩も前へと進んだ私は、先程開き直ったとは言ったものの、二人と比べて夢の中に入るまで少し時間が掛かってしまったことは言うまでもない。