食卓についた私の手元へと運ばれてきたのは一般的な朝食。
ご飯とお味噌汁、そして鮭焼きとだし巻き卵。
正直彼は洋風の方が好きだと思ってたから、こうして和風のものが出てくるのはちょっと意外。
「珍しいね?いつもはパンなのに」
「まぁエリカが来てるしな。ちゃんと作ろうかなと」
あ。やっぱり洋食なんだ。
「取り敢えず食べようか。冷めるのも嫌だろ?」
「うん」
いただきますと3人で手を合わせて、私が最初に箸をつけたのはだし巻き卵。口に入れるとフワッとした食感の中で濃厚な味が広がるが、それはちょっとだけ甘味の方が強い。
きっとこれは、ミカさんが好きな味なんだろうな...。
「いや?この味は私も初めて食べた味だよ?」
「え?そうなんですか?」
じゃあ、なんで?
そう疑問に思いながらも彼の方を向けば、何故か少し申し訳なさそうに頭をかいていた。
「昔お前に作った時にな?嬉しそうに食べてたから、少し甘めの方が好きなんかなと思って作ったんだが」
「えっ?...あっ!」
た、確かに...昔言った気がする。けどあの時は子供舌だったし、それに味よりも彼が料理を作ってくれた事に対しての意味だったはず。
そんな朧げな昔の話なのに
「ほんと、よく覚えてるわよね。あんたも」
まぁ、正直すごい嬉しいけど。
「ははっ。覚えてるのはお前たちに対してだけだよ」
「...ッ!」
「あんなヤンチャだったのは、お前らぐらいしかいなかったからな」
最後の一言は余計よ。全くもう...。
「じゃあ次からは、ちょっと濃いめでいいから。あんたが好きな味と同じくらいの」
「そうか?なら、明日からはそれで作るわ」
「うん...。けど、ありがと」
「おう」
恥ずかしさから少し顔を背けて言った感謝の言葉はちゃんと届き、彼からも笑みが溢れた。
...えへへ。言ってよかった。
「あぁそれと、今日は俺らが先に出るから。ミカ、頼むな」
「ふふっ。構わないよ?けど、毎朝の日課は大切にしないとね?」
「はいはい、ちゃんとやってやるから」
「ならいいさ」
そう満足げに返したミカさんは、昨日私たちが帰ってきた時と同じ雰囲気。だからこそ私も毎日の日課...という言葉を理解してしまった。
だってあの時も私が止めてなかったらその...き、キスまでいってたし、朝もそれぐらいはしてそうと思ったから。
だから、私も覚悟を決めた。今日はミカさんにだって負けない。そんな覚悟を、ね。
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朝食も終わり、そろそろ家を出る時間だ。
軽い身支度を整えて玄関を開けると、朝特有の涼しい風が肌に当たり身体を震わせる。
言い忘れていたけど、制服の着替えは結局ミカさんに借りた。サイズは思った以上にぴったりで申し分無い感じ。でも彼の中着で圧迫されてるとはいえ、胸の辺りが少し緩いのはやっぱり悔しい。
「弁当は台所に置いてあるからな。ちゃんと持っていくんだぞ?」
「わかってるって」
後ろでは見送りに来たミカさんと靴を履いている彼が話をしている。
昨日お弁当抜きとは言っていたけど、結局作っているのはやっぱり甘いわよねほんと。...まぁ冗談だったってことはわかってたけど。
「ほれエリカ」
「え?」
そう言って彼に渡されたのは小さめな手提げ袋。中を覗くと何故か男性用のお弁当箱が見える。
「折角だからお前の分も作ったんだ。たまには学食じゃなくてお弁当ってのもありだろ?」
「い、いいの?」
「おう。でも弁当箱はちゃんと持って帰ってこいよ?明日の分作れないから」
「うん...」
まさか私の分まで作ってくれてるとは思ってなかった。
わざわざ朝早くから2人分のお弁当作るなんて...相変わらず出来た人というか何というか。
けど、彼のおかげで今日の昼ごはんが楽しみになったのは間違いない。
「あ、あとこれも頼む」
「...」
「...」
「...いや、私そんなに食べるように見える?」
何故か二つ目の手提げ袋を渡され、中には案の定お弁当箱が。
成長期でも流石にお弁当二つもは食べないでしょ普通は。出来た人というのは訂正して、デリカシーのない人に降格もあり得るわよこれ。
そんな思いを込めてジト目を向ければ、彼は首を横に振って否定の姿勢をとった。
「それはまほの分だ。お前だけ弁当食べてたらあいつ拗ねるだろ?」
「まぁ...確かに」
みほに制止を頼まなければこの1週間、間違いなく隊長は私と一緒に泊まりに来てた。だってあれだけ駄々こねる隊長初めて見たし。
だからきっとお弁当にも反応する。エリカだけずるい!...と。
それをいうなら毎日作ってもらっているミカさんが1番ずるいと思うのだが、とりあえずそこは置いておこう。
実はもう一つ気になっていることがあるのだ。
それはお弁当“箱”の種類。
私のは男性用の...多分彼のお弁当箱なのに、隊長のは女性用の...きっとミカさんのお弁当箱。
全然いいのよ?だってお弁当箱だってそんなに余りあるわけでもないでしょうし。
でもやっぱり、たくさん食べる女って思われてる気がして...ちょっと心外なんだけど。
「いやいや、それに関しては深い意味はないんだ。ミカからそうした方がいいって言われてな?今週はエリカが特別なんだからってさ」
「あっ...」
「ふふっ。もしあれなら、私がそっちを貰ってもいいんだよ?」
「いえ、有り難くいただきます!」
ミカさんなりの優しさだった。疑ってごめんなさい。そして色んな意味でありがとうございます!
「───ん?...あれ?...すまん。忘れ物あったから取ってくるわ」
心の中で謝罪とお礼を織り交ぜていると、彼はそう言ってまた家の奥へと入っていく。
「...じゃあ私、先に外出ときます」
「いいのかい?エリカはしてもらわなくて」
「はい。私は...その...あ、後でしてもらうつもりなんで...」
何を...とは言わなかったが私の心意は伝わったのであろう、ミカさんは少しだけ驚いた後微笑み掛けてくれた。
「そうだね。そうしてもらうといい」
「...はいっ!」
後ろ手に扉を閉めれば、戻ってくる彼の足音が聞こえる。
微かな話し声の後、数秒の沈黙...そして扉が開く。
何をしていたのか...なんて野暮なことは聞かない。だってそれは分かりきっている事だし、私も後からやってもらう事だから。
出てきた彼の後ろでは私の決意を応援するように、ミカさんが優しく手を振ってくれている。
それを見た私も彼と一緒に手を振りかえす。
「「じゃあ、ミカ(さん)。行ってきます」」
「ふふっ。いってらっしゃい」
横目に見えた彼の唇は、玄関の中から手を振るミカさんと同じく、ほのかに濡れていた。